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【7年前】
019.仲直りとその後の話
しおりを挟む「………………なにやってんの?」
玄関ドアを開いたのは有弥だった。
双子の部屋の扉に向かって土下座したまま顔だけ玄関のほうに向けている真人の姿に、彼女は首を傾げる。
「いや……あの子たち、全然返事もしてくれなくて……」
「…………あー。GREENのメッセに既読も付かないし、多分寝てるんじゃない?昨日はほら、あの子たちあんま眠れなかっただろうし」
「…………へ?」
真人は改めて双子の部屋の扉に目を向けた。扉の向こうからは、相変わらずなんの音も聞こえなかった。
結局、本当にただ眠っていただけだったふたりは有弥のコールで問題なく起きて、部屋を出てきた。ちなみに何故有弥がコールしたかと言えば、家についたことを分かりやすく示すためと、真人のスマホからの着信では緊張させてしまうからである。
「……で?ちゃんと教えたとおりにコンビニで買ったのよね?」
「はい。これです」
「うん、それでいいよ。付け方も分かったね?」
「はい。あと先生にも話して体育の授業は見学させてもらうことになってます」
「おっ、そこまでは言わなかったのによく気付いたね。えらいえらい」
「だってお姉ちゃんお腹痛いんだから、体育は無理じゃない?ってわたしが言ったんだよ!」
「そうなんだ。陽紅ちゃんも多分近いうちになると思うから、今のうちにお勉強しとこうね」
今双子と有弥がいるのは双子の部屋で、真人はリビングで待たせている。先に私が話するからと言って、有弥が追い払ったのだ。そのおかげで、双子も安心して全部話すことができていた。
「⸺じゃあ、まだ犀川くんは何も聞かされてないんだ?」
「はい。……その、恥ずかしくて」
「一応、女の子のそういうことは彼も知識としては知ってるはずだから、それとなくの説明だけで察してくれるとは思うけど。まあそれは私から説明しようかな」
「……お願いしていいですか」
「まあそのために来たんだしね」
「あっそうだ、お姉ちゃん有給は?」
「取れた取れた。だから今日は泊まるわ」
そう言って、有弥は傍らに置いたバッグを持ち上げて微笑った。その中に着替えなどを詰めているのだろう。
今夜一緒にいてくれると分かって、蒼月も陽紅もホッとした表情になる。
「というわけで。そろそろいい加減焦れてると思うからさ、彼のとこへ行こうか」
「「…………はい」」
ということで双子は、有弥に連れられてようやく真人と話すことになったのである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「え……っと、じゃあもしかして……………そういうこと?」
「そういうこと」
有弥からかいつまんで説明を受けた真人は一瞬ポカンとしたあと、分かりやすく真っ赤になる。双子が女の子で、女の子は成長すればこうなるということを改めて気付かされたことが丸分かりである。
「じゃあ……その、俺に見られて怒ってるとかじゃなくて……」
「怒ってるっていうか、恥ずかしくて……」
「怒ってるのは怒ってるけど、それは次から気をつけてくれればいいし、それよりもなんて説明していいか分かんなかったんだもん」
「そっか……その、なんかゴメン」
「まあこればっかりは、この子たちも君には相談できなかったでしょうしね。その意味で君たちが私にヘルプしてきたのは正解かな」
「えっ、お兄さんも?」
「うん。10時過ぎだったかなー。死にそうな声で電話かけてきたんだよね」
まあその時はまだ、彼はそういうことだとは分かってなかったけど、と有弥に言われて真人がますます縮こまる。
「というわけでさ。私今日泊まるからね」
「……えっ」
「それで明日、この子たち連れて買い物行くから」
「……はあ」
「君とは一緒に買えないものを色々買ってくるからさ、お財布出して」
「……は?」
「『は?』じゃなくて。それなりに予算が必要なんだから、出しなさいよ」
「あの、お姉さん……私お小遣い持ってますけど」
「それは蒼月ちゃんの私用に使う分でしょ。明日のお買い物はあなたたちの生活に必要な予算なんだから、後見人の管理する資産状況報告書に記載するレベルの支出よ。⸺だから出して」
「え、あ、うん。分かりました……」
ということで真人は、コンビニまで走らされて双子の資産口座から現金を引き出す羽目になった。この場合、必要なのは蒼月のほうだが陽紅の分も買うと言われたので、両方の口座から均等に引き出すことになった。
戻ってきたら蒼月が有弥とキッチンに立っていて、陽紅はリビングでTVを見つつ笑い転げていた。いつもと何も変わらない、穏やかで暖かな空気感で、真人は心の底から安堵したものである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
有弥は双子の部屋に布団を持ち込んでそこに泊まった。真人の部屋だった部屋が空いていてベッドもそのまま残っているが、真人も有弥も何故かその部屋を使うとは言わなかった。
翌朝、やはり蒼月と有弥が手早く朝食を仕上げ、それを食べたあと準備して、有弥と双子は出かけて行った。学校は欠席である。
真人は小学校に欠席の連絡を入れさせられた上で彼女たちが出かけるのを見送って、それから自分も支度して大学へ向かった。もう四年生なので卒論も仕上げなければならないし、そうそう休んではいられないのだ。
「…………なーんだかなあ」
ただなんとなく除け者にされた感が拭えず、ひとり釈然としない真人である。
でもまあ、それは仕方ないことだ。だって彼だけが男の子なのだから。
夕方になって戻ってきた有弥と双子は、いくつもの大きめの袋を抱えていた。おそらく下着と、新しい服と、今後必要になる女性用品を色々と買ってきたのだろう。
というか双子の服装が出かけた時と違っていて、おそらく店先で気に入ったものを購入して、そのまま着替えてきたのだろうと察せられた。蒼月も陽紅も嬉しそうな笑顔で、これはもしや女子特有の買い物の楽しさに目覚めたのかも知れない。
「あら?犀川くん帰ってたんだ?」
「え、うん。今日はバイト休んだから」
「ふーん。そう」
「ていうか就活もぼちぼち本格化してくるし、もうそろそろバイトも辞めないとと思って」
「あー、もうそんな時期かぁ」
自分は父親の事務所に就職するつもりで実際そうなったものだから、有弥はいまいち就活に対する実感が足りない。友人たちが焦ったり慌てたり青い顔をしていたのは見て知っているが。
「ま、せいぜい頑張んなさい。この子たち食べさせていかないといけないんだから、ちゃんとしたとこに就職して生活の不安をなくすこと。これは絶対条件だからね!」
「…………分かってますよ」
とはいえ就活の厳しさは教授からもくどいほど言われているし、友人たちも一様に四苦八苦している。みんなセミナーや相談会などに積極的に顔を出していて、双子の世話をしなければならない真人は正直言って出遅れていた。
特になりたい職業もやりたい仕事もない真人は、どちらかと言えばのんびりしている方だという自覚がある。とはいえいつまでもこのままでは居られないと分かっているし、そろそろ本腰を入れなくてはならないだろう。
「……よし、目指すは公務員だな」
福博区役所に就職できれば最高だろう。固定給で定時上がり、よほどのことがなければ首にはならないし異動も区役所内だけだ。しかも区役所は家から歩いて通える位置にある。なんなら自転車を買ったっていい。
そうと決まれば、早速明日から動かねばならないだろう。拳を握りつつ意気込む真人は、それを見ている有弥が「今頃から公務員て……そういやこの子バカだったわ」と呆れたように呟いたのに気付かなかった。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
【お断り】
恥ずかしながら作者は大学行かずに専門学校を選んだ人で、就活もロクにやってないので、そこのところのリアリティが壊滅的です。なのでその点に関するツッコミはお手柔らかにお願いします(懇願)。
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