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【7年前】

008.手料理

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 真人まことの荷造りは結局昼前までかかった。とりあえず約1週間分の着替え一式とバスタオルや自分用のコップや箸などの日用品、歯ブラシや枕など身の回り品、それからスマホの充電器や携帯バッテリー、さらには換えの靴や傘なども持って行くことにした。
 その結果、旅行用のキャリーケースひとつでは収まらなくなり、大きめのボストンバッグの他にバックパックにまで物を詰め込むことになった。

「……お兄さん、もしかしてタイプですか……?」
「う、うるさいな。『備えあれば憂いなし』って言うだろ」

 大荷物を持ってリビングに戻ってきた姿を蒼月さつきにツッコまれて、不貞腐れたように返すしかない真人である。
 だってしょうがないじゃんか。小学生とはいえ女の子のものを気軽に共用なんてできないし!でも風呂を使うのだけは許して欲しい。自分だけ銭湯とかちょっと悲しすぎる。

 リビングの時計を見ると12時半を過ぎている。2時間以上荷造りしていた計算だ。

「お腹すいたろ?なんか作るよ」

 真人はそう言って荷物を置いて、キッチンに入る。

「え、お兄ちゃんご飯作れるの!?」
「そりゃ多少はね。俺こう見えてももう1年くらいひとり暮らししてるからね」

 陽紅はるかにそう返してから、真人は付け加えた。

「炒飯とかでいい?手軽にすぐ作れるのって言えば炒飯だけど」
「食べる!」
「頂きます」

 食い気味に元気よく返事する陽紅と、少し目を伏せながらもはっきりと即答する蒼月。見た目はソックリだが性格や仕草が全然違うので、ふたりとも見ていて飽きない。
 少なくとも彼女たちからは嫌われてはいないし、自分もそんな彼女たちを好ましいと感じていた。この先3人で暮らすという意味では、幸先は良さそうだ。


 真人は冷蔵庫に入れておいたタッパーを取り出して、その中に詰めていたご飯を大きめの器に盛る。3人分ならだいたいこのくらいか……と量りもせずに目分量で取り分け、ラップしてレンジで温める。その間に玉ねぎを半分ほど切ってみじん切りにし、冷蔵庫の野菜室からレタスを玉ごと取り出して葉を三枚ほど取り分け、芯を除いてざく切りにしておく。
 冷凍庫から冷凍の豚バラ肉を取り出して、必要量をまな板に出して適度に小さく刻んでおく。これは元から冷凍保存用として売られているもので、真人の家では常備品である。他に魚肉ソーセージを半分ほど、四等分した上で輪切りにし、扇形に刻んでおく。
 途中でご飯が温め終わるので取り出して、箸でよくほぐしておく。

 玉子を2個取り出し、炒め鍋に油を引いて、まずは鍋と油だけを温める。クルクル回して油が炒め鍋の底面全体に行き渡ったら一旦火を止め、玉子をふたつとも割る。と言っても、玉子は直接炒め鍋には落とさない。殻が半分になるように慎重に割って、その殻に黄身だけ残すようにして白身のほうはご飯の器に落とすのだ。
 炒飯を作る際、あらかじめ玉子を溶いてご飯粒によくまとわせるように混ぜておくと、炒めた際にご飯がパラパラにほぐれてプロが作ったようになるのだ。もっとも黄身と白身を一緒に溶いてはまとわせたご飯が黄色っぽくなってしまうので、それで真人はをご飯にまとわせるようにしている。残った黄身は今温めた炒め鍋に落として、具を炒める際にそのままスクランブルして具のひとつにする。
 ちなみにご飯にまとわせるのは油でも可である。油をまとわせればご飯を炒める際に追加で油を引く必要もない。ただ量と加減を間違うと出来上がりが油でギトギトになるので注意が必要だ。

 コンロに火を付け、まずは黄身をスクランブル。ある程度固まってきたら刻んだ具材を次々と炒め鍋に投入して、最後に市販の中華調味料を小さじ一杯分入れる。この調味料はいわゆる万能調味料というやつで、和洋中なんにでも使えるため、真人の料理の味付けはだいたいこれである。
 調味料まで投入してから菜箸でサッと炒め鍋の中身をかき混ぜ、調味料が全体に行き渡るように馴染ませる。馴染んだところでご飯も投入し、長ヘラで残ったご飯ダマを切るようにしてほぐし、炒め鍋を煽って混ぜていく。レタスだけは最後に入れて、それに火が通ってしんなりしたら出来上がりだ。

「わ、すごい!」
「お兄さん、結構手慣れてますね」

 炒める音が聞こえたのだろう、双子がキッチンを覗きに来た。

「俺、仕事バイトがさ、居酒屋の厨房なんだよね」
「ああ、それで……」

 真人が大学に入ってすぐ、友達と受けに行ったバイトの面接が駅裏の大衆居酒屋のホールスタッフである。だが指定された日時に面接のために店まで行くと、店長から「ごめん!厨房が人が欲しいっていうんで、君たち厨房係で入ってくれないかな!?」と頭を下げられたのだ。
 仕事は皿洗いとか盛り付けの補助だというので真人は了承したのだが、友達は募集内容が違うならとバイトを断って帰ってしまった。
 それから真人は居酒屋の厨房で働いている。いつの間にか皿洗いだけでなく焼き物、揚げ物をメインに串物まで一部任されはじめていて、料理長から「もうお前ウチに就職せんか」と誘われている。いやいや週に2、3日しか入らないのに、就職しろとか言われてもねえ。ってかまだ大学2年生だし。

「はい、簡単だけどレタス炒飯できあがり」
「わ、すごい、美味しそう!」
「お兄さん、料理上手なんですね」

 …………なんて、昔を思い出しつつ上機嫌にいつものように作って出した炒飯は、一口目で早速双子にダメ出しされた。

「…………ちょっと塩っ辛い、かな」
「少し、油っぽいですね……」

「も、申し訳ない……」

 まあまだ子供で、しかも女の子である双子に、普段自分が作って食べている感覚で味の濃いものを作れば、当然そうなるに決まっていたのだが。

 それでも双子はある程度は食べてくれた。残りは全部真人が平らげたから、結局双子の食べた量の倍くらいは真人が受け持つハメになった。
 うん、俺は旨かったんだけど、今度から油と調味料を半分にしよっかな。





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