11 / 11
11.ふたりは永遠にバカップル
しおりを挟むそうして婚約者として順調に交際を深めつつ、ふたりで主導したクーデターまで成功させた今となってはすっかりと、レジーナのほうがルキウスを気に入ってしまって手放せなくなってしまっている。
それもそのはずで、元日本人として平成時代とほぼ重なる年月を生きていたルキウスは生まれ変わってすでに14年が経過している。つまり精神年齢的には実質40代の大人であり、15歳の彼女にとってはとても包容力のある、魅力的な男性に感じられたのだ。
「なんだか、時々とっても腑に落ちないのよね」
「何が腑に落ちないのです?」
「だってわたくしのほうが歳上のはずなのに、貴方といると親に甘える子供みたいになってしまうのだもの」
「……甘えられるのは嬉しいですが、親代わりはちょっと……」
「わたくしだって嫌よ!でもそう感じてしまうのだもの仕方ないじゃない!」
「まあでもそれは、私の前でだけはひとりの女の子に戻れているって事ですからね。そう捉えると喜ばしいことです」
「喜んでもらえたならわたくしも嬉しいわ。でもねルキウス」
「はい、何でしょう?」
「だからって、後ろから抱きついて良いなんて一言も許してなくてよ!」
「嫌がる素振りもないのに、説得力が全然ありませんね」
「だっ……!だって、それは……」
「このままキス、しましょうか?」
「…………もう!これ以上わたくしを喜ばせるのはやめて頂戴!」
傍から見ればイチャイチャラブラブのバカップルでしかないが、公邸のテラスには他に誰もいないので、誰に憚ることもなくスキンシップを重ねるふたりである。
(おふたり、王都では相変わらず『仲の悪い婚約者』で通しているのですって)
(……あれで仲悪いとか言われても、ねえ……)
(王都の皆様にこのおふたりのご様子、見せて差し上げたいわぁ……)
少し離れた、テラスの壁際には侍女たちが並んで控えているのだが、高位貴族としては使用人など壁紙扱いなので余人など存在しないのだ。
(くっ……!ヤロウ、俺のレジーナたんにベタベタしやがって……!)
(お前それ、お嬢様の前では絶対に口にするなよ……)
(あ゛?これでも外面は完璧に繕ってる方だぞ心配すんな!)
(余計に不安になってきたな……)
(それに俺だけ排除しようともムダだ。レジーナたん親衛隊は他にも大勢いるからな!)
(なん……だと……!?)
そして天井裏や扉の前、隣の控え室などに護衛騎士たちも詰めているのだが、姿が見えない以上は居ないも同然である。
ちなみにルキウスは侍女には気付いているがイチャつき出すと忘れてしまうし、護衛にはそもそも気付いていない。そしてレジーナの方はどちらも分かっているものの、幼い頃からそれらが控えているのが当たり前だったせいで微塵も気にしていなかったりする。
「…………っぷは、もう!キスはまだダメとあれほど!」
「あんなに欲しそうに見つめてきたくせに」
(それにしても、どうしてお嬢様は王都ではルキウス様と仲良くなさらないのでしょう?)
(ねー。せっかく一緒に居られるのだから、もっと仲良くなさればいいのに)
(あー、わたし、多分分かるかも)
(えっ、貴女分かるの?)
(多分だけど、王都でも同じようにしてたら、すぐに我慢できなくなるんじゃないかしら?)
「……っ!だ、だって!普段接触を減らしている間にわたくしがどれだけ寂しい思いをしていると思っているの!?それなのにふたりきりの時にまで我慢なんて無理よ!」
(((あー、確かに)))
「ええ。ですから、今夜はたっぷりと満足させて差し上げますとも」
「本当に!?約束よ!絶対ですからね!」
「二言はありませんよ、私の愛しきレジーナ」
「わたしくしも!わたくしも愛しているわルキウス!」
(……くっ、ヤロウ!殺してやりたい……!)
(やめんかバカ者。お嬢様が幸せそうなんだからいいじゃないか)
(くうう……!俺が幸せにしてやりたかったのに……!)
(落選したんだから諦めろって)
ここ最近のレジーナは、本邸でルキウスと会うたびにグズグズに甘やかされ蕩かされて、普段の冷徹な雰囲気など微塵も残っていない。もしも王都で同じ状況になってしまえば、あっという間にその偶像など崩れさってしまうに違いない。
そして高位貴族とは何よりも体面を気にする生き物である。自らの作り上げた冷徹で理知的な姿を壊して普段の姿をさらけ出すのは、レジーナの矜持が許さないだろう。
事実彼女は、婚約期間中も婚姻してからも、女公爵とその配となってからも、そして女王と王配になってからも、人前では彼とは一切目も合わさなかったという。会話は政治的もしくは事務的な連絡事項のみ、ふたりで並ぶのは夜会や謁見など公的な場でのみという状態を終生貫いたと伝わっている。
そんな仲悪そうなふたりだったのに、何故か四男二女の子沢山に恵まれ生涯添い遂げたことで、当時の世間でも後世でも、ひどく不思議がられたそうである。
315
お気に入りに追加
348
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。
古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。
「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」
彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。
(なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語)
そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。
(……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの)
悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?

【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。
ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」
オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。
「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」
ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。
「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」
「……婚約を解消? なにを言っているの?」
「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」
オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。
「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」
ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想ありがとうございます。
そう!ならば戦争だ!(爆)
新年明けましておめでとうございます。元日から感想をありがとうございます!
女性への暴行事件ってホントに最低最悪ですよね!女性にしてみれば一生もののトラウマですもんね!
ルキウスにしてみれば、転生者なのでそういった女性の心理状態にも心を配って心配してやれるわけで、そういうところもレジーナには好感だったんだろうなと思います。
あ、ところで私の作品世界では「魔法」ではなく「魔術」なので、そこのところお間違えなきよう(笑)。魔法は神々の使うような、人間には扱えない大きな力という設定なので、私の作品世界でも「おとぎ話の中の存在」です(^_^;
今年もちまちま作品を書いていきますので、また読んで頂ければありがたいです。よろしくお願いします。