7 / 13
07.パーティ崩壊
しおりを挟む「…………で?どういう事なのか説明してもらいましょうか」
数日後。神殿から戻ってきた法術師セーナが一連の経緯を聞いて、眦を吊り上げてソティンとイオスに詰め寄っていた。
「い、いや……だからな?レイクのやつはクビに」
「彼に何の落ち度があったっていうんですか!?」
魔力なしの役立たずだから。……とは、ソティンは言えなかった。だってそうした不当な差別をパーティでもっとも嫌うのがセーナという娘だったから。
「あ、あいつ、パーティの資金を横領してたんだ。事前調査費って名目でよ」
「…………はぁ?」
だから横領疑惑を提示してやれば、それにもセーナは呆れたように三白眼になる。何故だ。
「……レイクさんが事前に情報収集や行程調査で毎回あれだけ動いてたのに、貴方気付いてなかったんですか!?」
「…………は?」
「毎回、その手の裏方仕事に結構な費用がかかってるのに、レイクさんたら一定額以上は決して計上しようとしなくて。超過分は自腹切ってたんですよ!?」
「…………はぁ!?う、嘘だろ……!」
内容が毎回異なるはずの事前調査が、何故か毎回同じ金額で計上されてるもんだから、絶対これは名目上だけでヤツが懐に入れていると思ったのに。
それなのに横領どころか自腹切ってた……だと!?
「貴方、彼と幼馴染なんでしょう!?その貴方が一番に彼を信じてあげなくてどうするんですか!」
そう、全くの赤の他人ではないのだ。ソティンとレイクは物心ついた頃から兄弟同然に集落全体で育てられた、いわば乳兄弟みたいな間柄なのだ。
なのだが、ソティンはレイクよりひとつ歳上ということもあって、幼い頃から歳下のレイクを無意識に下に見ていた。加えて、レイクは魔力なしで自分は同世代の子供たちのなかでも群を抜いた霊力量を誇っていた。そうしたことも相まって、いつしかソティンはレイクを侮り見下すようになっていたのだ。
それどころか彼と行動を共にする以上は、いつまで経ってもソティンが夢見るハーレムパーティは達成できない。そんな身勝手な考えから、最終的に彼を邪魔者扱いして、とうとう追放するに至ったのだった。
「いや……その、だな。幼馴染だからこそ俺はアイツが仲間を裏切るのが許せなくてだな」
「……証拠はあるんですか」
「そ、そんな事以前に、そもそも疑われるような事をしたレイクのやつが悪いと思わねえか?」
「………………そうですか。あくまでもレイクさんを信用しないと、彼に追放されるべき罪があると、そういう態度なわけですか」
それまで声を荒げてソティンに詰め寄っていたセーナが、急に声も態度も引っ込めて、普段の物静かな彼女に戻ってしまった。その急激な変化にソティンが何か言う前に、「では私もこれで失礼します」とそう言い捨てて、セーナは自室に戻ってしまった。
だがそんな彼女はすぐに出てきて、そして再びソティンに詰め寄ったではないか。
「…………つかぬことをお聞きしますが、私の留守中、誰かが無断で私の部屋に侵入しましたか?」
「…………い、いや?知らんなあ?」
知らんも何も、レイクが出て行ったあの時に彼が隠れているかもと言い訳しながら、全員の部屋の鍵をこじ開けて入り込んだのはソティン自身である。その後で、リーダー特権と称して作らせた各部屋の合鍵の存在を思い出して施錠し直しておいたのだが、どうやらセーナにはバレてしまったようだ。
「…………おかしいですねえ。部屋に隠していた私の予備の財布から、現金だけが抜き取られているんですけどね?」
「はぁ!?」
まさか、こっちが窃盗疑惑をかけられるとは思いもよらなかったソティンである。
「まさかソティンさん、貴方……!」
「ち、違う!⸺そうだ!きっとそれもレイクの仕業だ!アイツは探索者だからな!」
世の中には探索者を、盗賊まがいだと悪しざまに非難し見下す者もいる。ソティンもまたそのひとりだった。
まあそんな見下される職業に、幼馴染を無理やり就けたのもまたソティンなのだが。
「そう、ですか」
だが、またしてもセーナはスンとしてしまった。
「まあ、もうどうでもいいです。今までお世話になりました」
「……は?」
「今まで生死を共にしてきた仲間をそんな簡単に疑い、よく調べもせず追い出し、あまつさえ仲間のプライバシーを侵して金品を盗むような人とはもうやっていけません。今日限りでこのパーティを抜けさせてもらいます」
「え、⸺ちょ、ちょっと待てよセー」
「待ちません!」
そうしてセーナは再び自室に戻り、しばらく経って出てきた時には旅行用のキャスター付きトランクをふたつ、両手に引いている。
実はソティンは法術師セーナにも色々とちょっかいをかけていた。セーナは普段は物静かで穏やかな娘で、ソティンにも節度をもって接していたから彼も御しやすいと思ったのか、フェイルに対する以上に馴れ馴れしく、ボディタッチも含めたソティンなりの落としのテクニックを駆使していたのだ。
実のところセーナはそれが相当に不快だった。本来ならとっくに我慢の限界を超えて出奔しているところだったが、それを毎回それとなく邪魔してセーナを助けてくれていたのがレイクだったのだ。
だが、そのレイクはもう追放されてしまった。だからセーナには、これ以上このセクハラリーダーの元に留まる理由など微塵も残っていなかった。
「では、お達者で。⸺そちらの探索者の女の子と、どうぞ仲良くなさってて下さい」
言うだけ言い捨てて、セーナはアパートを出て行ってしまう。
「いや、あの、おーい?」
バタン。
「いやいや待て待て!」
「あらあら。やっぱりセーナは出て行っちゃったわねえ」
部屋で様子を窺っていたフェイルが、その時になってようやく出てきた。だがその背中には背嚢があり、手にはやはりキャスター付きトランクがある。
「貴男たちの話を部屋で聞いていて、私も室内を調べたわ。そうしたら魔道書が何冊か失くなっているじゃない。⸺そこの彼女の仕業よね?」
冷めきった目でフェイルがイオスを睨み、イオスはあからさまに視線を逸らした。
「え、なん…………マジで?」
「アタシ、知りませぇん」
「よく考えてみれば、彼女に最初に会った時、この部屋に彼女ひとりだけが居たものねぇ?」
「よく分かんないですぅ」
「え…………ウソだろ?」
信じたくない。だがあの時、『すぐに帰らないと後悔する』と言い切ったルーチェの声が耳に蘇る。
「あの魔道書は私にとっては大して価値もないものだから別に構わないけれど、売れば結構な金額になったでしょうね」
「だからぁ、アタシを犯人みたいに決めつけるのやめて下さぁい!」
「まあもうどっちでもいいわ。私も抜けさせてもらうから」
「おおおい!?」
「じゃ、仲良くね、おふたりさん」
そうして法術師セーナに続いて、魔術師フェイルまでもが出て行ってしまった。ソティンは縋るように手を伸ばして、だが虚しく空を掴むことしかできなかった。
こうして、売り出し中の注目株パーティ“雷竜の咆哮”は、いともアッサリと崩壊してしまったのだった。
181
お気に入りに追加
937
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる