1 / 13
01.魔力なしだからとパーティ追放されました
しおりを挟む「おいレイク、話がある」
リーダーの戦士ソティンに呼び出されて、何事かとついて行ってみれば。
「役立たずのオメェはもう用済みだ。さっさと荷物まとめて出て行きやがれ」
探索者のレイクは、所属する冒険者パーティ“雷竜の咆哮”がパーティとして借りているルームシェア用賃貸アパートのリビングで、追放を言い渡されてしまったのだった。
「いや役立たずて」
「役立たずだろうが。この“魔力なし”が」
レイクやソティンたちが生きているこの世界は、森羅万象の全てが魔力で構成されている、と言われている。それは自然も自然現象も動植物も、エルフやドワーフや人間を含めた人類も、さらには神々でさえも例外ではない。だから人類は当然に、誰しもが魔力を持って生まれてくる。
けれど人類の中で人間だけは、総人口のおよそ1割ほどの割合で、その身を構成する最低限の霊力しか持たず、魔術に回せる余分な霊力を持たない者が存在する。そうした者たちを俗に“魔力なし”と呼ぶ。レイクはそんな“魔力なし”のひとりだ。
ちなみに霊力というのは、人体を構成する魔力を特別視してそう呼び分けているだけだ。人類は他の動植物とは違い、神々が自分たちに似せて作った特別な生き物なのだから選ばれし存在である……という一種の選民思想的な考え方だが、かつて世界の過半を支配していた古代帝国時代からある思想で、それが現代にまで受け継がれている。
なお一般的には、“魔力なし”だからといって差別されることはない。十人にひとり程度いるものだから特段珍しいわけでもないし、魔術が使えないだけで肉体的、精神的には他の大多数の人々と何ら変わらないので、特に問題視されないのだ。
ただ、中にはこのソティンのように、魔力なしの人間を見下すような連中もいる。ソティンは特にプライドが高く、山間の辺鄙な集落で生まれ育ったにしては人より霊力量が多かったものだから、それを鼻にかける面があった。
「お前、まだ魔力なし差別言ってんのか」
「お前、じゃねえ!リーダーと呼べといつも言ってるだろうが!だいたいお前、俺様の子分のくせして生意気な⸺」
「その子分で魔力なしの俺の手を引いて田舎から連れ出して、一緒に“雷竜の咆哮”を立ち上げてここまで名を売ってきたくせに、今更何言ってんだ」
「うるせえ黙れ!せっかくあんな田舎から連れ出してやったのに、感謝もしないわ文句は言うわ」
「当たり前だろ。俺はあの集落で暮らすつもりだったんだから」
「おまけになんだ、この使途不明金は」
ソティンが放り出した書類に、さすがにレイクも眉を寄せる。
「……これはお前、使途不明金じゃなくて事前調査費だ」
「なんの事前調査だ!そういう名目でお前がくすねてるんだろうが!」
「バカ言うな。受けたクエストの行路の確認とか事前の情報収集とか危険排除とか色々」
「そんなの信用できるか!」
頭ごなしにそう言われて、さすがにレイクが鼻白む。黙ってしまった彼を見て、ソティンがニヤリと嗤う。
「言い訳もできねえってことは、やっぱりそうなんだな」
「いや、待て、違⸺」
「もういい!ただでさえ“魔力なし”の役立たずのくせに、パーティの資金まで横領していたお前をリーダーとして許すことはできない!よってレイク、お前を“雷竜の咆哮”から追放する!」
どうやらもう、レイクが何を言おうと追放は決定事項のようだ。そうと悟って、レイクは内心でため息をつくしかない。
「それにだ、新たに優秀な探索者の加入が決まったんでな!戦闘はからっきし、魔術も使えず荷物持ちとしても役に立たないヒョロガリのお前をここまで無理して使ってやってきたが、もう我慢ならん!とっとと荷物をまとめて出ていけ!」
小さな集落で物心ついた頃からずっと一緒に育ってきて、村を出てからもふたりで頑張ってきたレイクとソティン。一緒に頑張ってきた、はずだった。
だがひとつ歳上で、いつでも兄貴風を吹かせてきた彼にそこまで言われて、レイクはキレた。
ソティンはそれまで黙って傍らに控えていたピンクの髪の可憐な少女の腰を抱き寄せて、得意げな顔をする。
「最後に紹介だけしてやる。新たに加入する探索者のイオスだ。お前と違って魔術も使えるし、戦闘の補助も得意だそうだ。ちょうど、前に加わっていたパーティが解散することになって⸺」
「ああ、そうかよ」
ソティンが鼻の下を伸ばしつつ少女探索者の紹介を続けていたが、レイクはもう聞いていなかった。
「分かった、んじゃ出ていくわ。今まで世話になったな」
「⸺まあ、だが、お前だってそんな急に行く宛もないだろう⸺」
「私物は持っていくけど、パーティの共有財産は置いてってやる。それでいいだろ?」
「⸺今ここでドゲザして泣いて詫びるなら、特別に残留を認めてやらんでも⸺」
「じゃ、今まで世話になった。あとは達者で頑張れよ。じゃあな!」
ソティンが何か長々と喋っていたが、レイクは構わずに部屋を出て扉を閉めた。バタン。
そしてその音で、ようやくソティンが気付く。
「まあ俺様は優しいからな⸺ってあれ?」
「リーダー?あの人ならもう出て行っちゃいましたよぉ?」
「…………は?」
そして抱き寄せるままに自分にしなだれかかってくる、冒険者とも思えない可憐な少女イオスの言葉で、ようやくソティンは目の前からレイクが居なくなっていることに気付いたのだった。
184
お気に入りに追加
937
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜
妄想屋さん
ファンタジー
最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。
彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、
「このパーティを抜けたい」
と、申し出る。
しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。
なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる