21 / 57
【レティシア5歳】
017.ではまた明日……明日!?
しおりを挟む「まあいいや。それで、叙爵式はいつがいいかな?」
「………は?」
「だから、叙爵式だよ。男爵位の」
そうだった。あの目録にしっかりと「男爵位の推薦状」って書いてあったんだった。
「いやそれは、謹んで辞た」
「あ、認められたからね叙爵」
「………は?」
「だから、陛下に正式に叙爵を許可されたんだよ。正式に名乗れるのは叙爵式後だけど、事実上君はもう“男爵”だ」
いやなにこの公爵仕事めっちゃ早いんですけど!?
「何を驚いてるのかだいたい分かるけど、この程度は“仕事”のうちにも入らないからね?僕はこの国に3人しかいない公爵のひとりで、国の要職に就いていて、陛下の弟なんだから」
そうでした。この人より地位の高い人を探すほうが難しいんでした。
「ていうか陛下も姪っ子の命を救ってもらったことを大層お喜びでね。早く叙爵させろ叙爵式で君に会わせろってうるさくてねえ」
「え゛っ!?」
「なんなら子爵でも伯爵でもいいぞとか言ってきてさ」
「いやいやいや!?」
「でもさすがに実家以上にしたら色々とまずいでしょ、って止めておいたから」
「うぁ………あ、ありがとう、ございます?」
何だろう、ありがた迷惑のはずなのに何故お礼を言う羽目になっているのか。
いくら考えてもアンドレにはさっぱり分からない。平穏な田舎町でののんびりスローライフ騎士生活は一体どこへ?
「で?もう一度聞くけれど叙爵式はいつがいい?」
「え、ええと…………お任せします……?」
「分かった。じゃあ明日ね」
「あ、明日!?」
「だってそのほうがルテティアとセーとの往復とか手間を考えたら都合がいいでしょ?会場は王宮でいいし準備も人員の手配も済んでるから」
「準備万端!?」
「というわけで今夜は公爵家に泊まって行きなさい。今日はもう遅いから」
「決定!?」
いや確かに首都に入ったのはもう陽が傾き始める時間帯だったけど!さっきの庭園だってもう空が茜色だったけど!だからって公爵家のお邸に泊まるとか、まともに寝られる気がしないんですが!!
「ではブザンソン卿、ボードレール卿、お部屋までご案内致します」
「いやもう貴族扱いですかセバスチャン殿!?」
「これは異なことを仰いますな。貴方様は元よりブザンソン子爵家のご子息で士爵でございましょう?」
士爵はアンドレが小隊長に昇進した際に叙爵された。とは言っても正規騎士の慣例みたいなものだったし、叙爵賞状を授与してくれたのも騎士団長だし場所はロアゾンの西方騎士団本部だった。だから爵位を受けたというよりは何か表彰された感が強く、今の今まですっかり忘れていたくらいだ。
ちなみに、ガリオンの地方騎士団では小隊長以上が役付きで士爵である。小隊長以下の騎士は見習いだろうと正規騎士だろうと貴族とは認められない。貴族の子息は多いが、扱いは全員が平民と一緒である。騎士団の中では、貴族家の当主でもなければ士爵位を受けて初めて貴族扱いをしてもらえるのだ。
そしてついでに言えば、平民出身であっても士爵に叙されれば貴族扱いしてもらえる。まあ当然のことではあるが。
ともかく、こうしてアンドレの男爵位の叙爵式と公爵家での一泊はなし崩しに決定してしまった。案内された部屋は客間だが案の定贅を極めたとしか思えないなんかすごい造りで、ベッドも天蓋付きのアンドレが見たこともない巨大なやつだった。一応、恐る恐る端っこに座ってみたもののアンドレの体重でもビクともしなさそうで、さすが金かけたベッドは違うなあ、と明後日の感心をしたものである。
そして肝心の寝心地だが、シーツをサラリと触っただけで『あ、これ寝そべっただけで爆睡するやつだ』と理解できるほどふっかふかだった。あの応接室の人をダメにするソファのベッド版、と言えば伝わるだろうか。
そしてこの後は公爵家の晩食に相伴するよう言いつけられているので、アンドレはうっかり寝落ちしてしまわないようにベッドから離れるしかなかった。
11
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる