上 下
283 / 321
第五章【蛇王討伐】

5-35.アルドシールの股肱の十臣(2)

しおりを挟む


「んで、話ば戻すばってん、その他の“十臣”はどげな人のおるとやろか」
「副王殿下とロスタム卿以外で王宮に出仕しているのは3人ね。他に隠棲したのがふたり、拝炎教の神官がひとり、遊んでいるのがひとり、あと行方不明がひとりいるそうよ」
「……なんなのよそのとかとか」
「遊んでいる、というと聞こえは悪いけれど、定まった官職を貰わずに身軽な立場を保っているのだと聞いたわね。元は旅の楽士ゴーサーンで、リヤーフという名の殿方よ」
「うわ、なんか聞くだけで遊び人っぽかあっぽいなあ

 偏見でものを言ってはダメですよミカエラさん。

「まあ、私は別に関係ないからいいけど。出仕してるのは?」
「まず新王陛下がジャジーラトの地に落ち延びた際に援助してくれたという崇偶教の指導者のひとりで、ムサーイドという長老がいるそうよ」
「あー、崇偶教ば国教化したんはそん人への見返りっちゅう事やろね」
「それに、そのムサーイド老とともにかの地で軍を組織するのに功績があった、バースィラという女性騎士がいるわ」
「おー、女騎士ねえ」
「なかなか腕も立つそうだし、王宮内では新王陛下の側室候補とも噂されているわね。まあ本人にはあまりその気はなさそうだって話だけれど」

「私、多分手合わせしてないわ」
「そうでしょうね。今は近衛騎士ではなくて国軍の将を務めているそうだから」

 つまり女騎士バースィラは、今は同じ十臣のひとりであるロスタムの配下の将軍のひとりということになるのだろう。

「あともうひとりは?」
「ラフシャーンという名の将軍ね。元は辺境サカスターンの辺境伯だったそうだけど、出奔してアリア王子の一行に加わって、今は北方面クシュティ・アバラグ・元帥スパーフベドを務めているそうよ」
アバラグ、っていうと……」
「そう。事実上、蛇封山の監視と警戒が主任務らしいわね。今依頼している蛇封山の登山道整備もラフシャーン元帥の麾下が対応してくれているそうよ」

 それは、顔を合わせた時にでも謝礼を述べておかねばなるまい。

「隠遁ふたり、ってのは何なん」
「ひとりは“賢人”ファルザーンという殿方ね。ロスタム卿の幼馴染で腐れ縁だそうだけれど、宮仕えしたくないと以前から隠れ住んでいたらしいわね」
「あー、るねえそげなそういう人」
「新王陛下の即位まではメフルナーズ殿下やロスタム卿と並ぶ功績があったそうだけれど、再統一が成ってからは褒美も全部断って、もとの棲家へ戻っていったそうよ」
「なんか、随分偏屈なお爺さん、って感じね」
「それがねえ、ロスタム卿と同い年って言うから今年33歳なのですって」
「「わっか!」……くもない、か」

 思わずミカエラとハモりつつ、でもアルベルトと2歳しか違わないのならそこまで若くもないわね、と思ってしまったレギーナである。もちろん、今年40歳になるユーリのことを考え合せても、老いたというには早すぎる年齢だが。
 老いたとも若いとも言えない微妙な年齢層。そう、つまりおっさんである。

「姫ちゃん今、おいちゃんのことば頭に浮かべたやろ?」
「えっな、そんな事ないわよ!?」
「姫ちゃん相変わらず分かりやすかあ」
「も、もうひとりはどうなの!?」

「アリア王子の護衛を務めた女性騎士で、ルシーダという名の西方人だそうよ。“輝剣”の先代継承者の娘だという話」
「「先代継承者がいるのおると!?」」
「レギーナには残念なお知らせだけれど、その先代継承者は先の内戦で廃人同様になってしまったそうなのよ。だからそのルシーダという騎士が引き取って介護しているのですって」

「…………そ、そうなんだ……」

 そういうことであれば、仮に会いに行ったとしても“覚醒”のヒントなど得られないだろう。ガックリ項垂れるしかないレギーナである。

「あとは……拝炎教の神官っちゅう人か」
「ナーヒードという女性神官だそうよ。年齢が分からないそうだけれど、新王陛下と出会った頃に20歳前後に見えたそうだから、私と同じくらいの歳かしらね?」
「出仕はしてないわけね?」
「拝炎教の総本山で今も神々に仕えているそうよ」
「おー。法術師の鑑やね」

「……で、あとは行方不明だっけ?」
「その人物が一番怪しいのだけれどね。本名も年齢も不明で、さすらいの男サール・ガルダーンと呼ばれていたそうよ。旧王宮に突入するところまでは居たらしいのだけど、その後誰も姿を見ていないそうなの」
「え、それ戦死したんと違うと?」
「新王陛下ご本人が最後に話したそうなのだけれどね、『そろそろお暇する』と言い残して居なくなったのですって」

「…………それは、行方不明って言われるわけだわ」

 それ以来さすらいの男サール・ガルダーンを見た者は居ない。どこで何をしているのか、そもそも生きているのか、彼に関しては何ひとつ手がかりがないという。だがアルドシール1世は生きていてまた会えると信じているらしく、もしも彼が王宮なり公官庁なりを訪ねてくる事があれば手厚く歓待するように命じているのだそうだ。

「それとは別に、あとふたりいるのだけれどね」
「……え、もう10人出たわよね?」
「平民で身分が低くて、数に加えられなかったそうなのよ。でも新王陛下の覚えはめでたくて、今でも近侍しているそうよ」
「って事は、侍従とか侍女とかかいね?」

「その通りよ。侍従はミールという名で、新王と同い年でずっと苦楽を共にしてきて、互いに親友だと言っているらしいわね。それで臣下たちや民衆も彼のことは王の中の王シャーハンシャー・の友バンダグと呼ぶそうよ」
「なんかそれ、レギーナとミカエラわたしたちにちょっと似てない?」

 ブハッ、とミカエラが飲みかけたチャーイを吹き出して、レギーナに「ちょっと何よもう汚いわね!」とツッコまれた。
 控えていた侍女アルターフが、サッとテーブルを拭いて茶器を取り替えていく。

「ちょ、いや、姫ちゃんさあ、そげな不意打ちマジ止めちゃらんかいなてよね
「なんでよ、思ったことをそのまま言っただけじゃないの」
「照れもせんと、しれっとサラッとそげんこつ言われたらウチだけ大ダメージもらうやんかてじゃないの!」

 と言っているミカエラの顔は照れているのか真っ赤で、それを見てレギーナの顔もみるみる赤く染まってゆく。

「えっ私、そんな恥ずかしいこと言った?」
「その自覚のないとこマジでえずかっちゃけど!」

「はいはい御馳走様」
「私、子供だから分かんないって事にしとくね」
「「ヴィオレとクレアアンタたちのその塩対応っぷりもなんなのなんなん!?」」

 なんなのと言われても、それ普段の蒼薔薇騎士団きみたちだけどね?とアルベルトが居たらツッコみそうである。

 ちなみにヴィオレが語りそびれた侍女の方は、名をニルーファルという。ラフシャーンが拾って育てていた孤児で、いわゆる十臣の中でも最年少である。アリア王子が王都を落ち延びてから10年以上が経った今年でまだ16歳なので、逃亡生活の当時は本当に幼い少女でしかなかった。
 そのため功績と呼べるものは何もないが、荒みがちになる逃亡生活の中で彼女の無邪気な笑顔が何よりも癒やしだった、とアルドシール1世は述懐しているという。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【R-18】敗北した勇者、メス堕ち調教後の一日

巫羅
ファンタジー
魔王軍に敗北した勇者がメス堕ち調教され、奉仕奴隷となった後の一日の話 本編全4話 終了後不定期にパーティーメンバーの話とかも書きたいところです。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...