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第五章【蛇王討伐】
5-30.昼食休憩
しおりを挟む極星宮からシアーマクがやって来て、昼食の用意ができたと告げてきたので、レギーナたちは一旦極星宮に戻ることにした。
「で、どうっすか調査のほう順調っすか?」
「あなたやけに馴れ馴れしくない?」
「あっすいません。自分こんななんで、いつもジャワドさんに怒られるんすよ~」
見た目で軽薄そうなシアーマクは、言動もやっぱり軽薄であった。だが何となく憎めない雰囲気なのは、顔立ちの良さと態度がアッサリしていてドライな雰囲気のせいだろうか。
要するに、言い換えれば「人懐っこい」のだ。だがそれでいて案外深入りしてこないため、レギーナもそこまで邪険には扱わない。
「別に構わないけど、王宮で働くのならせめて他国からの客人にくらいは礼儀を覚えなさい?」
「分かってるんすけどね。でも勇者様、なんか気安くて話しやすいんすよね」
気安かろうが話しやすかろうが、ダメなものはダメである。だが目尻を下げてへらりと微笑われてしまうと、なんだか怒るに怒れない。そもそもレギーナ自身が普段から礼儀にうるさくないのもあって、呆れつつも流してしまえたりする。
まあもうすでに一度は食卓の同席を許してしまっているのだし、今更な感じがしなくもなかった。
そしてそんなレギーナはテーブルマナーにもとやかく言わないので、そのあたりもシアーマクが親しみやすいのかも知れない。
専属料理人ヒーラードが用意した昼食は、濃い茶色のペースト状になったスープに何やら肉のようなものがゴロゴロと入っている、見るからに食欲を唆られない逸品であった。
「ザクロとクルミの鴨肉煮込みシチューでございます」
[翻言]のおかげでどんな料理なのかは分かったものの、味が全く想像できない。というか黒に近いほど濃い茶色で、シチューとも呼べぬほどドロドロで、微塵も美味しそうに見えない。
「あ、これ美味しいんだよね」
「「「「美味しいの!? 」」」」
「見た目はこんなだけど、カリーも似たようなものだしね」
確かにそう言われれば、カリーも茶色っぽい色味ではある。ただカリーは中の具材の色も見分けられるので、これよりは随分カラフルである。
「ひと口食べた瞬間はまあ……なんていうか強烈だけどね。慣れたらいくらでも食べられるよ」
「ま……まあ、あなたがそう言うなら……」
「そやねえ、食に関しては間違いなかろうし」
「それに、『旅先では現地の風俗に従え』とも言うものね」
ひとり喜んでいるアルベルトを見て、半信半疑ながらも信じることにした食いしん坊乙女たち。
「いや……いきなり信用し過ぎじゃないかな?」
「だって世界最高峰の料理人のお弟子さんなんでしょ?そりゃあ信用するわよ」
「いや、そんな料理の真髄まで教わったわけじゃないんだけどなあ……。あ、でも、食べるときはそこの白飯と一緒に食べた方がいいよ」
そう言われて見ると、エスパンデガーンの隣に皿に盛られた白飯が置いてある。白飯のはずだが、何だかやたらと粒が細長くて見慣れない。
「そうなんだ?」
「……これ、白飯なん?」
「我が国で一般的に栽培される米はこのような長粒種が多いのですよ。香りが良いので、クルミの風味ともよく合いますな」
すでに[翻言]を覚えたことも伝えてあるので、ヒーラードもすっかりアリヤーン語で喋っている。聞けば彼はあまり語学が得意でないらしい。王宮勤めの人間として最低限は喋れるものの、許可さえ得られればすぐに[翻言]での会話に切り替えるのだそうだ。
まあそれはさておき、食前の祈りを捧げたあとにめいめいがスプーンを手に取ってシチューを一掬い、口に含んだ。
「あっっっま!」
「なんこれちかっぱ甘いやん!」
「……辛いのかと勝手に想像していたから、ダメージ大きいわねぇ……」
「おいしい」
「そこで白飯を食べるんだよ」
言われて次々と白飯に手を伸ばし、掬って食べるレギーナたち。
「……あ、ちょっとはマシになったかしら」
「ていうか、白飯抜きじゃ食われんばいこれ」
「……あら、何だか爽やかな香味が鼻に抜けるわね」
「……ホントだわ」
「甘みばっか目立つばってん、なんかこれ色々と深い味のするごたるね」
「このご飯もおいしい」
なんだかんだ言いながら、あっという間に食べ進めて完食してしまった彼女たちであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼食と食後の茶を楽しんだ後は再び書殿に戻って、文献調査の続きに取り組む。とはいえやってることはただ読み進めているだけだが。蛇王に関しては基礎知識すらないので、彼女たちはまず『知ること』から始めねばならないのだ。
司書官のダーナによれば、蛇王に関してもっとも詳細なのは彼女たちが今読んでいる『王の書』と『炎の書』であるという。なのでレギーナとミカエラは引き続き、ふたつの書物を読み進める。
ちなみに[翻言]は切れてしまったので唱え直した。ダーナからも立ち合いの宮廷魔術師からも「完全に身に付くまでは[延長]や[固定]をかけずに都度唱え直した方がいい」と言われたので、しばらくは効果時間が切れるたびに唱え直す事になる。なおその[翻言]は、ニカとアルミタの立ち合いの元で詠唱文言を現代ロマーノ語に修正してある。アルミタは拝炎教の炎官、つまり神官でもあるので、宮廷魔術師と同様に立ち合いの資格があるのだそうだ。
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