上 下
278 / 326
第五章【蛇王討伐】

5-30.昼食休憩

しおりを挟む


 極星宮からシアーマクがやって来て、昼食の用意ができたと告げてきたので、レギーナたちは一旦極星宮に戻ることにした。

「で、どうっすか調査のほう順調っすか?」
「あなたやけに馴れ馴れしくない?」
「あっすいません。自分こんななんで、いつもジャワドさんに怒られるんすよ~」

 見た目で軽薄そうなシアーマクは、言動もやっぱり軽薄であった。だが何となく憎めない雰囲気なのは、顔立ちの良さと態度がアッサリしていてドライな雰囲気のせいだろうか。
 要するに、言い換えれば「人懐っこい」のだ。だがそれでいて案外深入りしてこないため、レギーナもそこまで邪険には扱わない。

「別に構わないけど、王宮で働くのならせめて他国からの客人にくらいは礼儀を覚えなさい?」
「分かってるんすけどね。でも勇者様、なんか気安くて話しやすいんすよね」

 気安かろうが話しやすかろうが、ダメなものはダメである。だが目尻を下げてへらりと微笑われてしまうと、なんだか怒るに怒れない。そもそもレギーナ自身が普段から礼儀にうるさくないのもあって、呆れつつも流してしまえたりする。
 まあもうすでに一度は食卓の同席を許してしまっているのだし、今更な感じがしなくもなかった。
 そしてそんなレギーナはテーブルマナーにもとやかく言わないので、そのあたりもシアーマクが親しみやすいのかも知れない。


 専属料理人ヒーラードが用意した昼食は、濃い茶色のペースト状になったスープに何やら肉のようなものがゴロゴロと入っている、見るからに食欲を唆られない逸品であった。

ザクロナルクルミゲルドゥ鴨肉煮込みシチューエスパンデガーンでございます」

 [翻言]のおかげでどんな料理なのかは分かったものの、味が全く想像できない。というか黒に近いほど濃い茶色で、シチューとも呼べぬほどドロドロで、微塵も美味しそうに見えない。

「あ、これ美味しいんだよね」
「「「「美味しい!? 」」」」

「見た目はこんなだけど、カリーも似たようなものだしね」

 確かにそう言われれば、カリーも茶色っぽい色味ではある。ただカリーは中の具材の色も見分けられるので、これよりは随分カラフルである。

「ひと口食べた瞬間はまあ……なんていうか強烈だけどね。慣れたらいくらでも食べられるよ」

「ま……まあ、あなたがそう言うなら……」
「そやねえ、食に関しては間違いなかろうし」
「それに、『旅先では現地の風俗に従え』とも言うものね」

 ひとり喜んでいるアルベルトを見て、半信半疑ながらも信じることにした食いしん坊乙女たち。

「いや……いきなり信用し過ぎじゃないかな?」
「だって世界最高峰の料理人のお弟子さんなんでしょ?そりゃあ信用するわよ」
「いや、そんな料理の真髄まで教わったわけじゃないんだけどなあ……。あ、でも、食べるときはそこの白飯チェロウと一緒に食べた方がいいよ」

 そう言われて見ると、エスパンデガーンの隣に皿に盛られた白飯が置いてある。白飯のはずだが、何だかやたらと粒が細長くて見慣れない。

「そうなんだ?」
「……これ、白飯リゾなん?」
「我が国で一般的に栽培されるベレンジュはこのような長粒種が多いのですよ。香りが良いので、クルミゲルドゥの風味ともよく合いますな」

 すでに[翻言]を覚えたことも伝えてあるので、ヒーラードもすっかりアリヤーン語で喋っている。聞けば彼はあまり語学が得意でないらしい。王宮勤めの人間として最低限は喋れるものの、許可さえ得られればすぐに[翻言]での会話に切り替えるのだそうだ。

 まあそれはさておき、食前の祈りを捧げたあとにめいめいがスプーンを手に取ってシチューを一掬い、口に含んだ。

「あっっっま!」
「なんこれちかっぱめっちゃ甘いやん!」
「……辛いのかと勝手に想像していたから、ダメージ大きいわねぇ……」
「おいしい」

「そこで白飯チェロウを食べるんだよ」

 言われて次々と白飯に手を伸ばし、掬って食べるレギーナたち。

「……あ、ちょっとはマシになったかしら」
「ていうか、白飯抜きじゃ食われんばいこれ」
「……あら、何だか爽やかな香味が鼻に抜けるわね」

「……ホントだわ」
「甘みばっか目立つばってん、なんかこれ色々と深い味のするごたるね」
「このご飯もおいしい」

 なんだかんだ言いながら、あっという間に食べ進めて完食してしまった彼女たちであった。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 昼食と食後のチャーイを楽しんだ後は再び書殿に戻って、文献調査の続きに取り組む。とはいえやってることはただ読み進めているだけだが。蛇王に関しては基礎知識すらないので、彼女たちはまず『知ること』から始めねばならないのだ。
 司書官ケターブ・ダビールのダーナによれば、蛇王に関してもっとも詳細なのは彼女たちが今読んでいる『王の書シャー・ナーメ』と『炎の書アータシュ・ナーメ』であるという。なのでレギーナとミカエラは引き続き、ふたつの書物を読み進める。
 ちなみに[翻言]は切れてしまったので唱え直した。ダーナからも立ち合いの宮廷魔術師マグーシュからも「完全に身に付くまでは[延長]や[固定]をかけずに都度唱え直した方がいい」と言われたので、しばらくは効果時間が切れるたびに唱え直す事になる。なおその[翻言]は、ニカとアルミタの立ち合いの元で詠唱文言を現代ロマーノ語に修正してある。アルミタは拝炎教の炎官、つまり神官でもあるので、宮廷魔術師と同様に立ち合いの資格があるのだそうだ。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

処理中です...