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間章2【マリア様は今日も呑気】

【幕裏2】18.巫女マリアの幸せな結婚

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 侍祭司徒ジェルマンは、結局破門された。男性機能を保ったままそれを隠して巫女神殿付きに上がったこと以外にも、マリアに言い寄る姿を多くの人に見られていたこと、元侍徒ケイトを騙して妻としていたこと、さらにケイトやマリアのみならず他の女性神徒にも密かに婚姻を持ちかけていたことなどが発覚したため、破門されただけでなく罪人とされ背教者の烙印を押された。
 要するに彼は、年若い嫁候補のとして巫女神殿に目を付けていたのである。

 諸々のことが明るみになり、ジェルマンは魔術で去勢処理を施された上で獄に繋がれた。大神殿地下の罪人牢の住人となったのである。
 年齢を考えても、彼が生きて出てくることはおそらく無いだろう。妻たちも全員が離縁となり、貯め込んでいた彼の財産は全て教団に没収されて彼女たちへの慰謝料として充てられる事になった。


「マリア様、本当にありがとうございました!」
「いいのよケイト様。まだお若いのだから、新しい方を早く見つけて今度こそ幸せにならなくてはね」
「はい!」

 元侍徒ケイトは今日もマリアに面会を求めて、巫女神殿のテラスでお茶会を開いている。普段は話す内容のこともありふたりきりだったが、今日はケイトの神殿での友人たちも同席している。

「ごめんなさいねケイト。私たち、本当に何も力になれなくて」
「ジェルマンさまを嫌がっていたのは知っていたのだけれど、まさかそんな酷い目に遭っていたなんて……」
「いいのよみんな、もう過ぎたことだから。⸺それよりも、誰かいい人いないかしら?」
「「…………。」」

 いい人を紹介してくれと言われても、彼女たちだって普段は巫女神殿からそうそう出歩くことはないので、男性の交友関係など広かろうはずがない。

「……そう言えば、御用の商人にカッコいい殿方がいらしたわよね」
「あー、ヨロズヤ商会のあの方?」
「そうそう。お若いのにスラッと背が高くてお優しそうなお顔立ちで。他の司徒や侍徒の皆様にも気になっている方がいらっしゃるみたいだけど」

「あー、私は好みじゃないかな」
「あら、ケイトはお気に召しませんの?」
「私、きっと男らしい方のほうが好みなんだと思うわ」

 初婚の相手が老いたジェルマンだったのだから、その反動があっても何ら不思議なことではない。

「男らしいと言えば……タイラン侍祭……」
「やめてよ、嫌よあんな方」

 だがいくら男らしくとも、男尊女卑思想の男など願い下げである。

「そのヨロズヤ商会の方って、そんなにカッコいいの?」
「あっ!マリア様でしたらお似合いではないかしら!」
「お歳も確か、ちょうど釣り合うはずですわ!」

 そう言われて、ちょっとだけマリアは興味を引かれた。30歳前後なら確かに結婚相手としては申し分ないし、ちょっと顔だけでも確認してみようかな。


 そして後日、巫女神殿への定期納入にマリアは立ち会ってみた。一応巫女は巫女神殿の総責任者でもあるのだから、神殿への納入品を確認するとでも名目をつければ誰もダメだとは言わなかった。

「「…………えっ!?」」

 だがそうして顔を合わせたふたりは、驚きの声を綺麗にハモらせてふたりして固まってしまった。

 マリアが驚いたのも無理はない。ヨロズヤ商会の会頭の息子だと聞いていた彼、リンジロー・ヨロズヤが、前世の知り合いにそっくりだったのだ。顔の作りや声色は違えども、全体の柔和な雰囲気や仕草、言い回しなどがを強く想起させる。しかもなんの偶然か、である。
 だが何故か、当のリンジローまでマリアを見て固まってしまったではないか。

「え、鱗次郎くん……?」
「その呼び方、もしかしてマリアちゃん……?」

「「えっウソ、マジで!?」」

 ふたりして絶句したまま見つめ合い、商会の従業員たちや女性神徒たちも、ふたりの雰囲気に呑まれて何となく黙り込んでしまう。

「…………猫に」

 不意にリンジローが声を出した。周囲が(猫に……なに?)と不思議そうな顔をする中、今度はマリアが口を開く。

「小判」
「豚に」
「真珠」
「犬も歩けば?」
「棒に当たる!」
「馬の耳に?」
「念仏!」

 もう間違いようがなかった。彼は確かに、前世で仲の良かった⸺

「萬屋鱗次郎くん!」
「マリアンヌ・ブランシャール・綾ちゃん!」

 ふたりは互いに駆け寄り、手を取り合って再会を喜びあった。一体どれほどの奇跡が重なれば、前世の知り合いと互いに前世の記憶を保ったまま、異世界転生してまで会えるというのか。
 そしてそんなふたりを目の当たりにした女性神徒たちは、ふたりのを夢想して、そっと心の中で祝福するのであった。


「それにしても、巫女マリア様があのマリアちゃんだったなんて……」
「聞いて!私今度結婚できる事になったとって!」
「マジで!?」
「正式発表はまだやけど、もう決まったけん!」

「なんて……なんて棚ぼた……」
「棚からぼた餅!」
「マリアちゃん俺、求婚していい?」
「いいよ!鱗次郎くんやったら全然OK!」


 それからおよそ1ヶ月後、巫女に婚姻を認めると教団から公式に発表がなされた。リンジローとマリアの婚約も、それと同時に発表されたのだった。

 ちなみに、蒼薔薇騎士団名義でエトルリア王宮から山のように謝礼の品々が送られてきて、アグネスが困惑したのもそれとほぼ同時のことであったという。



 ー ー ー ー ー ー ー ー ー

※20時30分に補足情報その3をアップします。小説本編ではありませんが、併せてご一読下さいませ。

ずいぶん長くなりましたが、マリアの【幕裏】はこれでようやく完結です。次回からはいよいよ第五章【蛇王討伐】の公開開始となります。お楽しみに!



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