247 / 326
間章2【マリア様は今日も呑気】
【幕裏2】18.巫女マリアの幸せな結婚
しおりを挟む侍祭司徒ジェルマンは、結局破門された。男性機能を保ったままそれを隠して巫女神殿付きに上がったこと以外にも、マリアに言い寄る姿を多くの人に見られていたこと、元侍徒ケイトを騙して妻としていたこと、さらにケイトやマリアのみならず他の女性神徒にも密かに婚姻を持ちかけていたことなどが発覚したため、破門されただけでなく罪人とされ背教者の烙印を押された。
要するに彼は、年若い嫁候補の狩り場として巫女神殿に目を付けていたのである。
諸々のことが明るみになり、ジェルマンは魔術で去勢処理を施された上で獄に繋がれた。大神殿地下の罪人牢の住人となったのである。
年齢を考えても、彼が生きて出てくることはおそらく無いだろう。妻たちも全員が離縁となり、貯め込んでいた彼の財産は全て教団に没収されて彼女たちへの慰謝料として充てられる事になった。
「マリア様、本当にありがとうございました!」
「いいのよケイト様。まだお若いのだから、新しい方を早く見つけて今度こそ幸せにならなくてはね」
「はい!」
元侍徒ケイトは今日もマリアに面会を求めて、巫女神殿のテラスでお茶会を開いている。普段は話す内容のこともありふたりきりだったが、今日はケイトの神殿での友人たちも同席している。
「ごめんなさいねケイト。私たち、本当に何も力になれなくて」
「ジェルマンさまを嫌がっていたのは知っていたのだけれど、まさかそんな酷い目に遭っていたなんて……」
「いいのよみんな、もう過ぎたことだから。⸺それよりも、誰かいい人いないかしら?」
「「…………。」」
いい人を紹介してくれと言われても、彼女たちだって普段は巫女神殿からそうそう出歩くことはないので、男性の交友関係など広かろうはずがない。
「……そう言えば、御用の商人にカッコいい殿方がいらしたわよね」
「あー、ヨロズヤ商会のあの方?」
「そうそう。お若いのにスラッと背が高くてお優しそうなお顔立ちで。他の司徒や侍徒の皆様にも気になっている方がいらっしゃるみたいだけど」
「あー、私は好みじゃないかな」
「あら、ケイトはお気に召しませんの?」
「私、きっと男らしい方のほうが好みなんだと思うわ」
初婚の相手が老いたジェルマンだったのだから、その反動があっても何ら不思議なことではない。
「男らしいと言えば……タイラン侍祭……」
「やめてよ、嫌よあんな方」
だがいくら男らしくとも、男尊女卑思想の男など願い下げである。
「そのヨロズヤ商会の方って、そんなにカッコいいの?」
「あっ!マリア様でしたらお似合いではないかしら!」
「お歳も確か、ちょうど釣り合うはずですわ!」
そう言われて、ちょっとだけマリアは興味を引かれた。30歳前後なら確かに結婚相手としては申し分ないし、ちょっと顔だけでも確認してみようかな。
そして後日、巫女神殿への定期納入にマリアは立ち会ってみた。一応巫女は巫女神殿の総責任者でもあるのだから、神殿への納入品を確認するとでも名目をつければ誰もダメだとは言わなかった。
「「…………えっ!?」」
だがそうして顔を合わせたふたりは、驚きの声を綺麗にハモらせてふたりして固まってしまった。
マリアが驚いたのも無理はない。ヨロズヤ商会の会頭の息子だと聞いていた彼、リンジロー・ヨロズヤが、前世の知り合いにそっくりだったのだ。顔の作りや声色は違えども、全体の柔和な雰囲気や仕草、言い回しなどが彼を強く想起させる。しかもなんの偶然か、名前まで同じである。
だが何故か、当のリンジローまでマリアを見て固まってしまったではないか。
「え、鱗次郎くん……?」
「その呼び方、もしかしてマリアちゃん……?」
「「えっウソ、マジで!?」」
ふたりして絶句したまま見つめ合い、商会の従業員たちや女性神徒たちも、ふたりの雰囲気に呑まれて何となく黙り込んでしまう。
「…………猫に」
不意にリンジローが声を出した。周囲が(猫に……なに?)と不思議そうな顔をする中、今度はマリアが口を開く。
「小判」
「豚に」
「真珠」
「犬も歩けば?」
「棒に当たる!」
「馬の耳に?」
「念仏!」
もう間違いようがなかった。彼は確かに、前世で仲の良かった⸺
「萬屋鱗次郎くん!」
「マリアンヌ・ブランシャール・綾ちゃん!」
ふたりは互いに駆け寄り、手を取り合って再会を喜びあった。一体どれほどの奇跡が重なれば、前世の知り合いと互いに前世の記憶を保ったまま、異世界転生してまで会えるというのか。
そしてそんなふたりを目の当たりにした女性神徒たちは、ふたりのこの先を夢想して、そっと心の中で祝福するのであった。
「それにしても、巫女マリア様があのマリアちゃんだったなんて……」
「聞いて!私今度結婚できる事になったとって!」
「マジで!?」
「正式発表はまだやけど、もう決まったけん!」
「なんて……なんて棚ぼた……」
「棚からぼた餅!」
「マリアちゃん俺、求婚していい?」
「いいよ!鱗次郎くんやったら全然OK!」
それからおよそ1ヶ月後、巫女に婚姻を認めると教団から公式に発表がなされた。リンジローとマリアの婚約も、それと同時に発表されたのだった。
ちなみに、蒼薔薇騎士団名義でエトルリア王宮から山のように謝礼の品々が送られてきて、アグネスが困惑したのもそれとほぼ同時のことであったという。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
※20時30分に補足情報その3をアップします。小説本編ではありませんが、併せてご一読下さいませ。
ずいぶん長くなりましたが、マリアの【幕裏】はこれでようやく完結です。次回からはいよいよ第五章【蛇王討伐】の公開開始となります。お楽しみに!
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる