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第四章【騒乱のアナトリア】

4-20.皇后のお誘い

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 翌日。早速朝からヴィオレが動き出す。4人配された侍女たちのうちヴィオレに付いたひとりに何事か指示をして、自分も部屋を出て行った。
 レギーナたちは待機だが、それぞれに付いた侍女たちに情報収集を任せている。侍女たちは本来の仕事であるレギーナたちの世話をしたがり、女性である自分たちでは大して役には立たないと恐縮していたが、女性だから、侍女だからこそできることもあると説得し、それで彼女らも渋々ながらも従ってくれた。

 だがすぐに侍女がひとり戻ってきた。見知らぬ侍女をひとり伴っている。

「皇后陛下の先触れで参りました」

 その見知らぬ侍女は皇后付きの侍女だと名乗った。主の威を借っているのか、心なしか態度が大きい気がする。

「そう。なら用件を聞きましょうか」
「皇后陛下におかれましては、勇者様を是非とも茶会にご招待差し上げたいとのこと。ご参加をお待ち致しております」

 お誘いでもお願いでもなかった。丁寧な物腰と物言いではあったが、要は「参加しろ」である。
 とはいえこの程度は噛み付くほどの事でもない。どこの国でも王妃や皇后はその国の最上位の女性であり、自分が目下の立場に立つことに慣れていないから得てして尊大な態度を取りがちである。この国のハリーデ皇后も、昨夜の晩餐の態度を見ればそうであるのは明らかだ。
 まあ兎にも角にも、今はまだ情報が少なすぎる。わざわざ皇后の方から接触を図ってきたのなら、ありがたく利用させてもらうまでだ。

「お受けするわ。場所を教えてもらえるかしら」
「皇宮一階のサロンにて、本日昼の茶時にお越し下さいませ。案内はその侍女が致しましょう」

 皇后付きの侍女はレギーナの後ろで控えている侍女をチラリと見て、そしてかすかに嘲るように笑みを浮かべた。そんな雑用はそこのがやるのが当然とでも思っているのか、さも皇后付きと第六妃付きとでは格が違うとでも言わんばかりだ。
 その滲み出る尊大さにレギーナもミカエラも内心でイラッとするが、この侍女に当たったところで皇后の心証を悪くするだけにしかならない。おそらく仕える主に似ただけなのだろうし、余計な波風は立てるべきではないだろう。

「分かったわ。では蒼薔薇騎士団全員でお伺いするとお伝えしてくれるかしら」
「あ、いえ」

 レギーナが招待を受ける旨返答したというのに、皇后付きの侍女は首を左右に振ったではないか。

「皇后陛下がご招待なされるのは、勇者レギーナ様おひとりでございます」

 そして想定外の一言を、さも当然のように言い放ったのだった。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「姫ちゃんひとりで、ねえ」

 立ち去ってゆく皇后付き侍女の気配が完全に消えるのを待ってから、ミカエラが口を開いた。

「早速仕掛けてきたわねえ、それも直接」

 入れ替わるように戻ってきて話を聞いたヴィオレも呆れ顔である。

「皇后陛下って政略のできない人なのかしら?それとも私が侮られてるだけ?」
「「「多分、両方やね」」」
         だよ
 盛大にため息をつきつつこぼしたレギーナの呟きに、彼女以外の三人の声が、クレアまで含めて語尾を除いて綺麗にハモった。

「まあなんかなしとにかく、お誘いば受けたんやけん行かなならん行かなきゃいけないやろねえ」
「まあいいけどね、私をどうこうできるとも思えないし」
「逆に考えると今後の動き方がこれで決まるわね」
「めんどくさいから、もうこのまま出発しようよ…」
「そういうわけにもいかないわよ、私は勇者なんだから」

 そうして彼女たちは互いに顔を見合わせ、盛大に一斉にため息をついた。
 勇者は人類の守護者として、各国で尊重され特別待遇を受ける権利を持つ。だがそれに驕ってはならず、特権を享受する代わりに礼節を弁え、各国政府や人民の願いを無碍むげにしてはならない。つまるところ、もてなしてくれるというものを理由もなく拒否できないのだ。





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