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第四章【騒乱のアナトリア】

4-17.突然の訪問者(1)

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 晩餐を終えて部屋まで戻ってきたレギーナたちは、当初の予想以上に疲れきっていた。

「じょ、情報量の多かぁ………」
「だからって言ったのよ」
「ごめん姫ちゃん、あんたの言うたとおりやったばい」
「まあ、公開情報以上のものはほぼ出てないのだけれどね?」

「あの皇子がウザかった…」

 我関せずで料理を堪能していたように見えたクレアまで、心なしかげんなりしている。

「そう言えばクレア、あなたあのナントカって皇子にやたら絡まれてたわね」
「カーシムな、姫ちゃん」
「なんだか彼、クレアのこと意識しているみたいだったわね」
「え、やだ」

 クレアの珍しい即答に、姉役三人が揃って苦笑する。

「どうなんクレア?歳も近かし、ちょっとぐらい意識したりせんとしないの?」
「わたしにだって選ぶ権利くらいあるよ。あいつキライ」

 普段からおっとりしているクレアがここまでバッサリ斬り捨てるあたり、本当に嫌だったのだろう。本人が聞いたら顔を真っ赤にして「こっちだってなあ、お前なんか好きでも何でもねーよバーカ!」とか何とか言いそうである。

「まあそれはそれとして」

 ヴィオレの一言に、クレアまで含めて全員がソファにだれていたのがスッと居住まいを正す。

「こらどうも、一筋縄ではいかんごたるね」
「今夜の晩餐は皇族しかいなかったわ」
「そうね。おそらく明日は政府高官との晩餐になるでしょうね」
「その次は軍部か、貴族たちか」
「うええ…まだ続くの…」
「晩餐だけじゃなく、夜会の催しも組まれるでしょうね」

 おそらくはそうやって連日連夜の歓待が続くことだろう。最悪の場合、そうやって国内のめぼしい有力者たちとの顔合わせが済んだら、また皇族からのお誘いが来るかも知れない。
 いや、最悪というか、おそらくは高い確率でそうやって勇者パーティを国内に留め置くつもりであるのだろう。今はまだ初日を終えたばかりで推測の域を出ないが、それくらいするつもりでもなければ皇都入りからこのかたの過剰すぎる歓待の説明がつかない。
 その推測が的を射ているならば、考えられるのはだ。

「まあまだ今の段階で、仮定に仮定ば重ねたっちゃしゃあない仕方ないとばってんのだけど
「でも多分間違ってないと思うわ」
「まあそのあたりも、おいおい調べるわね」

 裏の裏を推測して動くことは必要なことだが、仮定を“前提”にすり替えることは避けなければならない。でなければ誤った予測を元に動くことになりかねないし、それが積み重なってしまえば取り返しのつかない所まで間違えてしまう。
 とはいえ今はまだ1日目、情報を集めるにしても限度がある。何しろ城内に味方がいない、というかだと思っておくべき状態で、作りもこれからなのだ。

「彼に頼んだ件はどうなの?」
「そちらもすぐには結果が出ないわ。2、3日は必要かしらね」

 その時、部屋付きの侍女が来客を告げた。

「来客?先触れではないの?」

 本来、王侯貴族であればいきなり先方には押しかけたりしないものだ。まず先触れを遣わして訪問したい旨を知らせ、日時や会合の場所などを折り合わせたのち、その定められた日時で訪問するのがマナーである。魔術などの遠隔通信の技術や手段はあるが、それを先触れの代わりにしたりそれで会合を行ったりするのは礼を失する行為だとされるのが一般的だ。
 そしてそれは、例えば同じ皇城内で先方の居室を訪れる場合なども同様である。特に蒼薔薇騎士団はアナトリア皇城においては客分なのだから尚更だ。

 その蒼薔薇騎士団への訪問で、先触れも立てずに訪問者が直接やって来ているという。侍女に誰が来たのか聞いても「やんごとない御方ですので、申し上げるのは憚られます」の一点張りである。

 やんごとない御方。
 それはつまり、皇族の誰かということだ。

(どうする?)
(思惑の読めんねえ)
(だけど追い返すのは失礼かしら)

 魔術の[念話]を使うまでもなく、アイコンタクトで彼女たちは意思疎通を図る。ややあってクレア以外の3人で頷き合うと、「良いわ。お通しして」とレギーナが侍女に告げた。
 クレアは特に反応しないが、反対の時はちゃんと声を上げるので無反応は即ち肯定と同義である。というか彼女は彼女で各種の探知魔術をすでに展開しているし、それで異常を感じないから反応しないのだ。


 レギーナたちに充てがわれている部屋は、外交使節などが皇城を訪れた際に案内される大人数用の一等客室である。つまり入口扉をくぐれば中はいくつかの部屋に分かれていて、複数の寝室や水回り、簡易的な応接室にもなるリビングと密談にも使える控室、さらには部屋付き侍女たちの控室や護衛用の詰所もある。
 護衛詰所は使用者が蒼薔薇騎士団ということもあって、ここに詰めるのは部屋の入口で歩哨に立つ騎士2名だけだ。その2名にはレギーナがアルタンとスレヤを指名したので、彼らは引き続き蒼薔薇騎士団に付いていた。とはいえ彼らは男性と女性なので、就寝の際にはスレヤだけを室内に入れて空いた寝室を使わせることになっている。アルタンには護衛詰所の仮眠室を使わせる予定だ。
 アルタンは「俺も部屋に入れて下さいよ~」と情けない声を上げていたが、基本的にアルベルトでさえ同室を許可しないのに彼を招き入れるわけがない。皇国騎士団の副団長に対する扱いではなかったが、勇者の意向なのだから彼には諦めてもらう他はない。

 で、その応接室代わりのリビングの扉がノックされる。

「入って頂戴」

 レギーナの許可に従い、リビング内に控えていた侍女が扉を開けた。

 案内の侍女に先導されて入ってきた人物を見て、蒼薔薇騎士団全員が驚きに固まる。
 入ってきたのは、第六妃のララ妃だったのだ。




 ー ー ー ー ー ー ー ー ー


【お知らせ】
ストックが書き溜まってきたので、更新ペースを早めます。9月と同じく5の倍数日、20時更新です。
ということで次回は11月5日です。よろしくお願いします。




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