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第四章【騒乱のアナトリア】
4-11.作戦会議(1)
しおりを挟むその後、旅はひとまず順調に進んだ。危惧していた皇国の他の宰相(大臣)たちの横槍もなく、レギーナたちを勇者パーティだと知らぬまま襲ってきた山賊の類こそあったものの、描写するのも面倒なほど一瞬で蹴散らされて何事もなかった。
一行はコンスタンティノスを抜けたあと、次のニコメディアの手前で野営し、翌日はニコメディアを素通りしてキオスへ。キオスで一泊し久々の入浴と宿の食事を楽しんだあと、ドルラエウムへと進む。ここでも一泊し次はゴルディオン。ゴルディオンで一泊すれば、その次はいよいよ皇都アンキューラだ。
実を言えばゴルディオンとアンキューラはほとんど離れておらず、朝に出発しても昼にはたどり着く。なのでスルーする手もあるにはあるのだが。
「ねえ、やっぱり寄らないとダメかな?」
「ダメやろねえ。ウチも『寄らせてもらう』て宣言してしもうたし」
「なんでそういうこと、勝手に言っちゃうのよ」
「しゃあないやん。さすがに皇帝には挨拶ぐらいしとかなやもん」
皇都に寄りたくないレギーナが駄々をこねて、やはり寄りたくないミカエラになだめられている。
「お昼前に皇城へ上がって、挨拶だけしてそのまま発ってしまってはどうかしら?」
そしてやはり寄りたくないヴィオレもそんな事を言う。
「いやぁ、やっぱりそれは無理なんじゃないかなあ。諦めてお城に上がるしかないと思うんだけど」
「そうね………」
「やろねぇ………」
「でしょうね………」
アルベルトの苦笑交じりのその一言に、この世の終わりみたいな声で美女3人が渋々と、本当に渋々と呟き返してきたのだった。
まあいずれにせよ、皇都アンキューラはもう目の前だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そろそろ皇都の市街地が見えてくると思うんだけど、レギーナさんどうする?」
アプローズ号を街道の脇へ寄せて、休憩の準備のためにアルベルトは車内へと入る。そこでどんよりとソファに沈んでいる美少女勇者に、敢えて声をかけた。
「え、──ああ、もう着いちゃったの」
「いやまだ街まではまだ少しあるよ。乗り込む前に作戦会議しなきゃ、でしょ?」
「作戦、会議………」
その言葉に、レギーナもミカエラも俯かせていた顔を上げる。
「そうね、もうこうなったら打てる手は全て尽くして、一刻も早い皇都脱出を図るだけだわ」
ひとりだけ歳上で、ひとりだけ俯いていなかったヴィオレが、いち早く彼の言葉に同意する。
「………いいわ。ここまで来たらもう覚悟を決めるしかない、って事ね!」
「まあそうやね。無策で突っ込むやらバカたれのする事やもんな」
レギーナもミカエラも、目に光が戻ってくる。
ようやくいつもの調子が戻ってきたなと、それを見てアルベルトも内心で安堵した。
「とりあえず皇帝の思惑なんだけど───」
「皇太子の動向は逐一チェックするわね」
「アレ以外の宰相の情報も欲しかねえ」
「皇城の内部見取り図は……手に入らないわよね」
「それはさすがに無理ね。まあ登城してから調べておくわ」
「お願い。あと───」
「そのあたりの情報はさ」
口を挟んだアルベルトを、クレアも含めて4人全員が一斉に見やる。
「あのふたりに聞いてみたらどうかな?」
そう言って、アルベルトは窓から車外に目をやった。
その視線の先には、アプローズ号の前後に別れて律儀に周囲の歩哨に立っているふたりの騎士の姿があった。
コンスタンティノスから随行してきている騎士ふたりは、アプローズ号からやや離れた後方で二騎連なってついてきている。勇者パーティのプライベートに干渉するつもりはないようで、野営のときも自分たちで準備した、というか騎士団の配下にコンスタンティノスの詰所から持ってこさせたであろうテントを設営して夜を過ごしていたし、宿に泊った際も勇者パーティとは別に部屋を借りていた。
その一線を引いた弁えた態度は満足のいくもので、だからレギーナたちも彼らに対して食事の同席を許可していたし、世間話くらいは話しかけるようになっていた。
「どうやろ?さすがにそこまでこっちの立場には立たんっちゃない?」
「まあでも、当たり障りのない情報なら提供してくれそうではあるわね」
「とりあえず、聞くだけ聞いてみましょ」
ということで、騎士アルタンとスレヤは初めてアプローズ号の車内に呼ばれた。
「いやあ、ぶっちゃけた話、皇都は素通りをオススメしますわ」
開口一番、皇国騎士にあるまじきことを言い出したアルタンである。
「いやいやいいんかいなそげん事言うて?あんた副団長とかやなかったかいね?」
「いやだって、俺が行きたくないっすからね」
「あなたぶっちゃけ過ぎじゃない?」
「いいんです。所詮私たちは“異端”なので」
スレヤまでが同意のようだ。
何でも話を聞いてみると、アナトリアは伝統的に男尊女卑が激しい社会で、女性勇者はおそらく歓迎されないとのこと。それでも勇者であるからには表向きには蔑ろにはされないだろうが、裏では何を言われるか分かったものではないらしい。
スレヤのような女性騎士がほとんどいないのもそれが原因で、騎士を志す女性はそこそこ存在するらしいが、ほとんどは理不尽に落とされるのだとか。
「私は出が軍閥貴族ですので、家門の力で採用されたようなものです」
それも家格が高かったからこそだ、とスレヤは言う。
「そして私が騎士を続けていられるのは」
彼女はそこで言葉を切って、アルタンに目をやった。
「…………大変不本意ながら、第七副団長がいるおかげです」
そして表情どころか全身で不本意さを滲ませながら、彼女はそう言ったのだった。
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