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第三章【イリュリア事変】
3-16.突入
しおりを挟むレギーナの眼前で、音を立てて石壁が崩れ落ち瓦礫と化してゆく。地下深くの施設だから相応に加減はしているが、それでも二度ほど“ドゥリンダナ”を振るえば、何もない石壁に偽装した拠点の壁はほぼ全て崩れ落ちた。宝剣の力をもってすればこの程度は造作もないことだ。
崩れ落ちた瓦礫の前に立っていたのはレギーナとミカエラだった。蒼薔薇騎士団の主戦力たる二名である。
わざわざ正面から気付かれるように乱入してみせたのは示威行為のためである。敵はおそらくすでに襲撃に気付いてはいるだろうが、それでもいきなり頑丈な石壁を壊して突入されるとは予想していないだろう。それで戦意を喪失してくれれば、その分解決が早くなるというものだ。
レギーナは石壁だった瓦礫を軽い足取りで跳び越えて、その先にあった木扉を軽く撫で斬る。音を立てて崩れ落ちた木扉の向こうには、黒づくめの衣服に身を包んだ男たちの一団と、そのリーダーと思しき人物がいた。
「あら、こんな所で会うなんて、奇遇ね。
それで?ここで一体何をしてるのかしら、騎士団長さん?」
男たちは襲撃者の予想がついていたのだろう、どの顔にも怯えや驚きはない。そして声をかけられたリーダーの男は、ゆっくりと振り返った。
「お戯れを。全て調べがついているのでしょう?勇者殿」
悪びれもせず、リーダーの男こと騎士団長アルティン・エルバサンは言い放った。
「だが、こちらとて大義がある。手出し口出しは無用に願いたい」
「そうはいかないわ。ていうか私達に手を出させたのはそっちでしょう?」
「元はといえばそちらが王子を確保するからですよ。あれさえなければ丸く収まっておったものを」
「言い掛かりも甚だしいわね。私達が来ると分かっていて、それでも計画を取りやめなかったのはそちらの勝手。それを私のせいみたいに言われたって知るもんですか」
レギーナにしてみれば、クーデターだろうが何だろうが勝手にやっていればいいというのが本音だ。勇者とそのパーティは基本的に内政不干渉の原則があるのだから、自分たちの預かり知らぬ所で何が起ころうとも知ったことではないのだ。
だが、もしもその場に居合わせたなら。そして罪なき誰かが危害を加えられようとしていたのなら。それを見過ごすことは勇者として認められないだけである。
だから彼女はアルベルトが連れて来た少年を放り出すことはしなかったし、その少年が王子だと知った時点で「巻き込まれる」ことをも受け入れていたのだ。そして身代わりなのか人違いなのかはさておくとしても、「身内」であるクレアに実害が及んだ時点で、彼ら実行犯グループを明確に蒼薔薇騎士団の「敵」と見做したのだ。
だから第一に、蒼薔薇騎士団がイリュリアに向かっているのに計画を進めたクーデター犯サイドが悪く、第二にクレアに危害を加えたクーデター犯サイドが悪いのだ。
「とにかく、もうこれまでなんだから大人しく投降しなさい。そしてクレアを返すのよ!」
「悪いが勇者サマ。そいつぁ出来ねえ相談だ」
そう言いつつ騎士団長の横に進み出た男にレギーナは眉をひそめた。
「抵抗するっていうならそれでもいいけど。でも、それならあなた達全員、少なくとも日常生活に支障が出る程度には壊すけど、それでもいいのね?」
サラッととんでもない脅し文句を吐いているが、レギーナにしてみれば「命までは取らない」と言っているわけで、これでも随分な譲歩のつもりだった。
だがそれに対して、男はいかにも品性のなさそうな笑みを浮かべるだけだ。そしてその横に立つ騎士団長も、それを咎めたり制止したりといった様子はない。
「だから、そいつぁ出来ねえ相談だと言ってるんですよ。分かんねえですかい?」
男のニヤニヤ顔が止まらない。
一体何を考えているのだか。
もしや恐怖で錯乱してしまっているのか?レギーナとしてはそこまで脅したつもりもなければ、さっさと投降してくれれば実際そこまでするつもりもないのだが。
まあ、それもクレアが無事ならば、というのが前提条件だが。
「四の五の言ってないで、さっさとクレアを返しなさい!さもないと──」
「ああ、そんじゃそろそろ“感動のご対面”といきますか──!」
その言葉が合図になったかのように、奥の部屋に通じる通路の向こうから爆発音が響いてきた。ほぼ同時に、通路を爆発的な速度で赤い壁が迫ってきた。
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