【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

文字の大きさ
上 下
123 / 341
第三章【イリュリア事変】

3-13.犯行グループ(2)

しおりを挟む


「んぅ…」

 その時、クレアがかすかに呻いた。
 その声に一斉に男たちが反応する。

 クレアは額にかすかに汗を浮かべて、青ざめた顔に苦しげな表情を浮かべている。その顎がわずかに動いて、荒い息を吐く。少しだけ顔を左右に揺らしたところを見ると、どうやらうなされているようにも見えた。

「やはりステラリア錠剤を飲ませるべきだ」
「だが意識がないのに飲み込めるか?」
「水に溶かそう。少しずつ口に含ませればいい」
「そんな事をしていて、起きたらどうする?」
「ではあらかじめ縛って──」
「顔を見られるのはマズイぞ」
「なら目隠しも追加で」

「…いや、それはそれで絵面がヤバくならんか?」

 意識のないまま苦しむ少女を縛り上げ、目隠しをした上で無理やり液体を飲ませる。それもむさ苦しい、大の大人の男たちがよってたかって。

「……………。」
「……………。」
「……………。」

「いや考えたらダメだろう」
「いや考えないとダメだろう?」

 そして、男たちは少女を見下ろす。

「それにしても…………」

 デカイな。

 誰ひとり言葉にこそしなかったが、脳裏でキレイにハモっていた。そして縛ったら余計に強調されること請け合いだ。

「やっぱダメだ」
「目隠しだけにしよう」

「んん…」

 またしてもクレアが呻いて、男たちはビクリと身を震わせて押し黙る。
 騒いだつもりはなかったが、やはりうるさかっただろうか。今意識を取り戻されてしまったら、少々手荒なこともしなければならなくなってしまう。絵面がどうとか言っている場合ではなかった。

「おとうさん…」

 だが次にクレアの口から零れてきたのは、その場の誰も予想し得なかった一言だった。

「おとうさん…いやぁ…」

 どうやら夢でも見ているようだった。先ほどよりも苦悶の色合いが濃くなった顔を見れば、それが心地よい夢ではないとひと目で分かった。

「いやぁ…行かないで…」

 そこまで聞いて、男たちは顔を見合わせる。

 男たちがクレアに関して知っていることと言えば、勇者パーティの魔術師として一般的に公開されている程度の情報でしかない。
 大地の賢者の孫娘で、祖父とともに世界を旅していた少女。その祖父の推挙で勇者パーティに加入して、幼いながらも祖父譲りの高い能力と溢れんばかりの才能で将来を嘱望されている未完の大器、未来の大魔導師。

 だがそういえば、両親に関する話は聞いたことがなかった。今のうわ言からすれば、少なくとも父親に関してはあまり良い思い出を持っていなさそうだ。
 そして、この娘はそれを嫌がっている。

「ひとつ、思いついたことがある。試してもいいか」

 ひとりの男がそう切り出した。

「上手く行けば縛ることも目隠しも必要なくなる。それどころかこの娘を仲間にできる」

「なに?」
「そんな事が可能なわけないだろう?」
「寝言は寝ている時にだけ言うもんだぞ?」
「お前、いくら女好きだからって──」

 当然ながら誰からも賛同はなく、それどころか正気を疑われる始末だ。だが男は意に介さず「まあそう言わず聞け」と仲間たちを呼び集め、額を突き合わせて先ほどまでよりもいっそう声を小さくして、ゴニョゴニョと思いついた計画を披瀝した。

「…………本当にそんな事が可能なのか?」
「相手は幼いとはいえ魔術師だぞ?」
「そう、魔術師、それも天才だ。だが今なら魔力欠乏症で魔力抵抗レジストは無いに等しい。だからこそ目があると踏んだわけだが」

「…なるほど、そういうことか」

 ようやく男たちは意図を察した。

「よし分かった、やってみろ」

 そしてリーダーの男が最終的にGOサインを出した。

「どうせダメ元だ。失敗したらしたで、それから拘束したって遅くはないだろう」

 魔力が尽きている今なら、少女ひとり制圧するなど造作もないことだ。絵面にさえ目を背ければ、だが。

 そうして言い出しっぺの男ひとりを置いて、残りの仲間たちは別室に移っていった。の成功率を上げるためにはをひとつに絞った方がいい、という彼の言葉にリーダー以下全員が従ったわけだ。

「…………あいつ、ふたりっきりになって良からぬ事を企んだりしないだろうな?」

 ひとりがポツリと呟く。
 それにほぼ全員が驚愕の表情で応えた。

(しまった!)
(奴め、それが狙いか!)
(女癖の悪い奴だとは思っていたが、よもや人の道にまで外れようとは──!)
(だが、気持ちは分かる。あれほどのサイズを見せつけられてはな…)
(クッ…俺も触りたかっ)

「いや、さすがにそこは信じてやれ」

 だが、ただひとりリーダーだけは顔色ひとつ動かさず、彼の擁護をしてみせた。
 さすが人の上に立つ男、信じるべき時にはきちんと部下を信じられる出来た男であ──

「だがもし本当にそんな事をしでかしたりすれば、この誘拐は奴の単独犯ということにして勇者パーティに差し出してくれる」

 全っ然、信じてあげてなかったー!!





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ええ。私もあなたの事が嫌いです。 それではさようなら。

月華
ファンタジー
皆さんはじめまして。月華です。はじめてなので至らない点もありますが良い点も悪い点も教えてくだされば光栄です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「エレンベール・オーラリー!貴様との婚約を破棄する!」…皆さんこんにちは。オーラリー公爵令嬢のエレンベールです。今日は王立学園の卒業パーティーなのですが、ここロンド王国の第二王子のラスク王子殿下が見たこともない女の人をエスコートしてパーティー会場に来られたらこんな事になりました。

処理中です...