101 / 321
第二章後半【いざ東方へ】
2-38.蒼薔薇騎士団、完全敗北(2)
しおりを挟む
彼が持ってきたのは、そう。
ケーキだったのだ。
それもたっぷりの生クリームを使った、上に旬の果物である苺を並べた、堂々たるサイズ感の純白のホールケーキだ。
作りかけのボウルの中身を見せられた時に何となく予想はしていたが、まさかここまで美味しそうなモノが出てくるとは!
「ちょっとあなた、なんてものを…!」
「おいちゃんまさか持ってきた食材て…!?」
「えっ?卵とクリームと苺だけど?」
「では、放っておいてもいつかコレがデザートで出てきたっていうの!?」
「えっ、まあ…そうだね。ていうか今までデザートのひとつも出してなかったから、ちょっと申し訳なくてさ」
そう、今までは普通に昼食としての料理しかアルベルトは出していない。だがデザートを作れないなんて一言も言ってないのだ。
というか考えればすぐ分かることである。[調理]と[下拵え]をともにレベル5で持っていて、デザートを作れないわけがないのだ。
「えーっと、もしかして要らなかったかな?要らないのならお礼も兼ねて宿の従業員さんたちに食べてもらうけど…」
「「「「食べるわよ!! 」」」」
天下無敵の勇者パーティが一介のおっさん冒険者に完全敗北した瞬間であった。
しかもこのケーキ、切ってみてからがまた凶悪であった。一見するとなんの飾りもないただの苺のショートケーキだったのに、切り分けてみるとスポンジケーキと生クリーム+カット苺の詰まった層が交互に折り重なる重層仕立てである。
そして食べてみて初めて分かったことだが、中のカット苺はあらかじめ砂糖水で煮込んであって、スポンジケーキの生地にはチーズが練りこめられている。それが2層×3層の5層にも及ぶ手の込んだ作りで、こんなんもう美味しくないわけがない。
「「「「美味しいけど!! 」」」」
心なしか全員が泣いてる気がする。
いやもちろんアルベルトは泣いてないが。
「「「「太る!! 」」」」
蒼薔薇騎士団、ダイエット開始決定。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くっ…食べ尽くしてしまったわ…」
悔しそうにレギーナが唸る。
「デザートまで込みで満腹になる計算なんて、なんて憎らしい…」
ヴィオレも白旗を上げている。
「美味しかった…また食べたい…」
育ち盛りの食べ盛りはまだまだ満足できないようだ。
普段は少食、のはずなのだが。
「東方の料理にエトルリア料理、このケーキに至っちゃアルヴァイオンの伝統的デザートやし。
こらぁまだまだ隠し玉のあるごたるばい」
底知れぬ実力にミカエラが戦慄する。
「まさか…まだこれからも色々出てくるっていうの!?」
「だってこの分やとイヴェリアスやらブロイスやらの料理まで知っとってもおかしくなかろ?」
「それは…確かに…」
「そのうち出てくると思っておいた方がいいわね…」
実際、彼はそれらの国の料理も知っているし作れる。まだこの旅では作ってないだけなので、ほぼ確実に出てくるだろう。
ちなみにイヴェリアス王国は西方十王国のひとつ、竜頭半島の過半を占める海洋国家で、同じ西方十王国のアルヴァイオン大公国と並ぶ精強な海軍戦力を誇る国である。北海と南海のふたつの外海に面しており、海の幸の伝統料理が多い。
ブロイス帝国は北方にある軍事大国で質実剛健かつ勤勉な国民性で知られる。好まれる料理は肉料理がメインで、合理的かつしっかりと加工調理されたものが好まれる傾向にある。ただそれはそれとしてブロイス国民は酒好きが多く、黒麦の変種である金麦を原料にした発酵酒を大量に飲むことでも知られている。
「楽しみ…」
「楽しんどる場合やなかろうもんて!」
「いやいや、レパートリー自体はそんなに多くはないよ?」
などと犯人は供述しているが、もちろん誰ひとりとして信じない。まあ冷静になって考えればピッツァのレパートリーが無かった時点で分かりそうなものではあるのだが。
実際問題、アルベルトは各国料理を一通り覚えてはいる。種類をたくさん覚えていないだけで、あとは覚えた料理を中心にアレンジを加えてバリエーションを増やしているだけなのだった。
「とっとにかく!チェックアウトして宿替えよ!みんな荷物をまとめなさい!」
これ以上犯人と料理の話をしても食べたくなるだけだ。そうと気付いて被害者Rことレギーナが振り切るように強引に立ち上がる。食後の休憩など挟むつもりはなさそうだ。
いや被害者っていうか、この状況を作り出したのは雇い主の貴女なんですがね。
被害者Rに続いて、被害者Mも被害者Vも被害者Cも立ち上がってそそくさと寝室に戻ってしまい、それを苦笑しつつ見送ったアルベルトはチェックアウト手続きのためにフロントへと歩いて行ったのだった。
ケーキだったのだ。
それもたっぷりの生クリームを使った、上に旬の果物である苺を並べた、堂々たるサイズ感の純白のホールケーキだ。
作りかけのボウルの中身を見せられた時に何となく予想はしていたが、まさかここまで美味しそうなモノが出てくるとは!
「ちょっとあなた、なんてものを…!」
「おいちゃんまさか持ってきた食材て…!?」
「えっ?卵とクリームと苺だけど?」
「では、放っておいてもいつかコレがデザートで出てきたっていうの!?」
「えっ、まあ…そうだね。ていうか今までデザートのひとつも出してなかったから、ちょっと申し訳なくてさ」
そう、今までは普通に昼食としての料理しかアルベルトは出していない。だがデザートを作れないなんて一言も言ってないのだ。
というか考えればすぐ分かることである。[調理]と[下拵え]をともにレベル5で持っていて、デザートを作れないわけがないのだ。
「えーっと、もしかして要らなかったかな?要らないのならお礼も兼ねて宿の従業員さんたちに食べてもらうけど…」
「「「「食べるわよ!! 」」」」
天下無敵の勇者パーティが一介のおっさん冒険者に完全敗北した瞬間であった。
しかもこのケーキ、切ってみてからがまた凶悪であった。一見するとなんの飾りもないただの苺のショートケーキだったのに、切り分けてみるとスポンジケーキと生クリーム+カット苺の詰まった層が交互に折り重なる重層仕立てである。
そして食べてみて初めて分かったことだが、中のカット苺はあらかじめ砂糖水で煮込んであって、スポンジケーキの生地にはチーズが練りこめられている。それが2層×3層の5層にも及ぶ手の込んだ作りで、こんなんもう美味しくないわけがない。
「「「「美味しいけど!! 」」」」
心なしか全員が泣いてる気がする。
いやもちろんアルベルトは泣いてないが。
「「「「太る!! 」」」」
蒼薔薇騎士団、ダイエット開始決定。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くっ…食べ尽くしてしまったわ…」
悔しそうにレギーナが唸る。
「デザートまで込みで満腹になる計算なんて、なんて憎らしい…」
ヴィオレも白旗を上げている。
「美味しかった…また食べたい…」
育ち盛りの食べ盛りはまだまだ満足できないようだ。
普段は少食、のはずなのだが。
「東方の料理にエトルリア料理、このケーキに至っちゃアルヴァイオンの伝統的デザートやし。
こらぁまだまだ隠し玉のあるごたるばい」
底知れぬ実力にミカエラが戦慄する。
「まさか…まだこれからも色々出てくるっていうの!?」
「だってこの分やとイヴェリアスやらブロイスやらの料理まで知っとってもおかしくなかろ?」
「それは…確かに…」
「そのうち出てくると思っておいた方がいいわね…」
実際、彼はそれらの国の料理も知っているし作れる。まだこの旅では作ってないだけなので、ほぼ確実に出てくるだろう。
ちなみにイヴェリアス王国は西方十王国のひとつ、竜頭半島の過半を占める海洋国家で、同じ西方十王国のアルヴァイオン大公国と並ぶ精強な海軍戦力を誇る国である。北海と南海のふたつの外海に面しており、海の幸の伝統料理が多い。
ブロイス帝国は北方にある軍事大国で質実剛健かつ勤勉な国民性で知られる。好まれる料理は肉料理がメインで、合理的かつしっかりと加工調理されたものが好まれる傾向にある。ただそれはそれとしてブロイス国民は酒好きが多く、黒麦の変種である金麦を原料にした発酵酒を大量に飲むことでも知られている。
「楽しみ…」
「楽しんどる場合やなかろうもんて!」
「いやいや、レパートリー自体はそんなに多くはないよ?」
などと犯人は供述しているが、もちろん誰ひとりとして信じない。まあ冷静になって考えればピッツァのレパートリーが無かった時点で分かりそうなものではあるのだが。
実際問題、アルベルトは各国料理を一通り覚えてはいる。種類をたくさん覚えていないだけで、あとは覚えた料理を中心にアレンジを加えてバリエーションを増やしているだけなのだった。
「とっとにかく!チェックアウトして宿替えよ!みんな荷物をまとめなさい!」
これ以上犯人と料理の話をしても食べたくなるだけだ。そうと気付いて被害者Rことレギーナが振り切るように強引に立ち上がる。食後の休憩など挟むつもりはなさそうだ。
いや被害者っていうか、この状況を作り出したのは雇い主の貴女なんですがね。
被害者Rに続いて、被害者Mも被害者Vも被害者Cも立ち上がってそそくさと寝室に戻ってしまい、それを苦笑しつつ見送ったアルベルトはチェックアウト手続きのためにフロントへと歩いて行ったのだった。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる