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第二章後半【いざ東方へ】
2-34.蒼薔薇騎士団の“敗北”
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昼前にアルベルトとミカエラがフロントからバーベキューのセットを借りて食材を抱えて戻ってきて、アルベルトはバーベキューの準備に入る。炉を据えてその横にテーブルを並べて食材や食器類などを置いておき、炉の中に炭を置き着火剤代わりの干草を敷いて、そしてクレアに[点火]してもらう。
火はすぐに炭に燃え移り、燃料の薪を追加しつつじっくり燃やしていく。じわじわと火勢が強くなっていき、薪全体に火が移ったところで順次炉の中全体に広げるように並べていって炉の全体で具材が均一に焼けるように整える。
そうしていると何故か全員が火に寄ってきた。
いやあの、皆さん?まだ何も焼いてませんけど?
「意外とこれあったかいわね」
「ちょっと風がきつうなってきたけんね」
「もうここから離れたくないわね」
「クレアも…」
そんなに寒いんなら上衣着てくればいいのに。
そんな彼女たちの様子に苦笑しつつ、アルベルトは火勢が安定してきた頃合いを見て、炉に網をかけて食材を並べてゆく。
最初は脂身の多い里猪や斑牛の肉を置いて脂を落とさせ、次に脂の少ない朝鳴鳥や河竜などの肉を焼き始め、その周りに火の通りにくい野菜類を並べてゆく。肉と野菜の間には魚や貝類などの海鮮を置いて全体に塩を振り、頃合いをみてひっくり返すついでに肉類を次第に外に並べ換えていく。
「これ、なんかまたテクニック使ってるでしょ?」
「テクニックってほどじゃないけどね。最初は肉の脂を落として火を強めて、その脂で味の薄い食材から順に焼いて食べると美味いんだよ。
ということで、はい。そろそろ食べ頃のはずだよ」
レギーナの疑問に答えて、そのまま焼け頃の食材を木皿に取り分けてアルベルトが手渡す。皿の中身は魚介と野菜ばかりで肉は入っていない。
「え、お肉入れてくれないわけ?」
「肉は味が濃いから最後に食べるんだよ」
「へぇ、順番やらあるったい」
「最初に肉みたいなガッツリしたもの食べちゃうとね、あとの野菜とかが味しなくなっちゃうんだ」
「ああ、それは何となく分かるわねえ」
「それに肉はしっかり火を通して、焼きすぎる寸前まで焼いたのが一番旨いと思うんだよね」
まあ、そればっかりは人の好みもあるけれど。しっかり焼くのはあくまでアルベルトの好みです。
ということで順次皿に取り分けてやって、全員が言われたとおりに野菜と海鮮から食べ始める。
「ああ~こら塩の利いて旨かあ!」
「ホントだ、美味しい!」
「さすが、焼き加減が絶妙ね」
「おさかなも、お野菜も…美味しい…」
舌鼓を打つ4人娘の横でアルベルトは次の食材を並べつつ、一番外で香ばしい匂いを漂わせている肉たちに専用のソースをかけてゆく。すると一気に匂いが強まり、全員が喉を鳴らしてそちらを見て、そして手に持った木皿を差し出してきた。
その様子に笑いつつアルベルトが肉をよそってやり、そして彼女たちは次々と肉にフォークを突き刺してかぶりつき始めた。
「やっっば!何これうっっま!」
「なんなこら堪らんばい!」
「焼き方ひとつでここまで変わるのね!」
「あつい…けど美味しい…!」
だが中までしっかり焼かれて固くなった肉はなかなか噛みごたえがあって千切れない。それに悪戦苦闘する4人娘を尻目に、アルベルトは自分で今焼いた野菜や魚介を皿に取って食べ進める。
何とか食べ終えた子から順番にグラスに果実酒を注いでやって飲むように言う。そうすることでソースをかけた濃い肉の味を中和して、また野菜などの味の薄い食材を美味しく食べられるようになるのだ。ただしクレアだけは未成年でアルコールを飲ませられないので、彼女だけは冷やしたミルクだ。
「あ、やっぱりお野菜美味しいわね!」
「こらぁなんぼでちゃ食われろうごたあ!」
「この果実酒自体も美味しいわね」
「でも、食べ過ぎたら…太るよね…」
そのクレアの一言に全員が凍りついた。
そう、危うくまたアルベルトの手管にかかって食べ過ぎるところだったのだ。
まあアルベルトとしては美味しく食べてもらえるだけで幸せだし、喜ぶ顔が見たいのでどんどん勧めてくるだけなのだが。彼としては他意は何もないし、彼女たちも美味しい食事を用意してもらってるだけなので怒るに怒れない。
「そ、そろそろ…私お腹いっぱい…かなあ」
「そ、そうやね、ウチももう入らんばい…」
「えっ、でも材料残ってるよ?まだ足らないんじゃない?」
残念ながら、ここ数日の昼食で彼女たちの胃袋の容量までほぼ把握しているアルベルトの目は誤魔化せなかった。何しろ彼は自分を含めた5人全員が満腹になるように計算して食材を揃えていたので、食材が残っているなら『まだ食べられる』のだ。
そう、彼女たちは気付くのが遅すぎた。腹八分目で収めたいのなら最初から、食材を用意する前の時点で彼に言っておかなければならなかったのだ。
「え、ええと……。そ、そうね!残しちゃダメよね!」
「そっ、そやね!勿体なかもんね!」
「というかもう次を焼いてるわね貴方…」
「おかわり」
青ざめる乙女たち。
ひとり旺盛に食べる育ち盛り。
ぐうの音も出ないほどの敗北である。本当に何か対策しないと、東方世界に辿り着く頃にはおデブパーティになっていそうである。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
【注記】
焼き方の拘りはあくまでもアルベルトの好みです。他の焼き方を否定する意図は作者にはありません。
火はすぐに炭に燃え移り、燃料の薪を追加しつつじっくり燃やしていく。じわじわと火勢が強くなっていき、薪全体に火が移ったところで順次炉の中全体に広げるように並べていって炉の全体で具材が均一に焼けるように整える。
そうしていると何故か全員が火に寄ってきた。
いやあの、皆さん?まだ何も焼いてませんけど?
「意外とこれあったかいわね」
「ちょっと風がきつうなってきたけんね」
「もうここから離れたくないわね」
「クレアも…」
そんなに寒いんなら上衣着てくればいいのに。
そんな彼女たちの様子に苦笑しつつ、アルベルトは火勢が安定してきた頃合いを見て、炉に網をかけて食材を並べてゆく。
最初は脂身の多い里猪や斑牛の肉を置いて脂を落とさせ、次に脂の少ない朝鳴鳥や河竜などの肉を焼き始め、その周りに火の通りにくい野菜類を並べてゆく。肉と野菜の間には魚や貝類などの海鮮を置いて全体に塩を振り、頃合いをみてひっくり返すついでに肉類を次第に外に並べ換えていく。
「これ、なんかまたテクニック使ってるでしょ?」
「テクニックってほどじゃないけどね。最初は肉の脂を落として火を強めて、その脂で味の薄い食材から順に焼いて食べると美味いんだよ。
ということで、はい。そろそろ食べ頃のはずだよ」
レギーナの疑問に答えて、そのまま焼け頃の食材を木皿に取り分けてアルベルトが手渡す。皿の中身は魚介と野菜ばかりで肉は入っていない。
「え、お肉入れてくれないわけ?」
「肉は味が濃いから最後に食べるんだよ」
「へぇ、順番やらあるったい」
「最初に肉みたいなガッツリしたもの食べちゃうとね、あとの野菜とかが味しなくなっちゃうんだ」
「ああ、それは何となく分かるわねえ」
「それに肉はしっかり火を通して、焼きすぎる寸前まで焼いたのが一番旨いと思うんだよね」
まあ、そればっかりは人の好みもあるけれど。しっかり焼くのはあくまでアルベルトの好みです。
ということで順次皿に取り分けてやって、全員が言われたとおりに野菜と海鮮から食べ始める。
「ああ~こら塩の利いて旨かあ!」
「ホントだ、美味しい!」
「さすが、焼き加減が絶妙ね」
「おさかなも、お野菜も…美味しい…」
舌鼓を打つ4人娘の横でアルベルトは次の食材を並べつつ、一番外で香ばしい匂いを漂わせている肉たちに専用のソースをかけてゆく。すると一気に匂いが強まり、全員が喉を鳴らしてそちらを見て、そして手に持った木皿を差し出してきた。
その様子に笑いつつアルベルトが肉をよそってやり、そして彼女たちは次々と肉にフォークを突き刺してかぶりつき始めた。
「やっっば!何これうっっま!」
「なんなこら堪らんばい!」
「焼き方ひとつでここまで変わるのね!」
「あつい…けど美味しい…!」
だが中までしっかり焼かれて固くなった肉はなかなか噛みごたえがあって千切れない。それに悪戦苦闘する4人娘を尻目に、アルベルトは自分で今焼いた野菜や魚介を皿に取って食べ進める。
何とか食べ終えた子から順番にグラスに果実酒を注いでやって飲むように言う。そうすることでソースをかけた濃い肉の味を中和して、また野菜などの味の薄い食材を美味しく食べられるようになるのだ。ただしクレアだけは未成年でアルコールを飲ませられないので、彼女だけは冷やしたミルクだ。
「あ、やっぱりお野菜美味しいわね!」
「こらぁなんぼでちゃ食われろうごたあ!」
「この果実酒自体も美味しいわね」
「でも、食べ過ぎたら…太るよね…」
そのクレアの一言に全員が凍りついた。
そう、危うくまたアルベルトの手管にかかって食べ過ぎるところだったのだ。
まあアルベルトとしては美味しく食べてもらえるだけで幸せだし、喜ぶ顔が見たいのでどんどん勧めてくるだけなのだが。彼としては他意は何もないし、彼女たちも美味しい食事を用意してもらってるだけなので怒るに怒れない。
「そ、そろそろ…私お腹いっぱい…かなあ」
「そ、そうやね、ウチももう入らんばい…」
「えっ、でも材料残ってるよ?まだ足らないんじゃない?」
残念ながら、ここ数日の昼食で彼女たちの胃袋の容量までほぼ把握しているアルベルトの目は誤魔化せなかった。何しろ彼は自分を含めた5人全員が満腹になるように計算して食材を揃えていたので、食材が残っているなら『まだ食べられる』のだ。
そう、彼女たちは気付くのが遅すぎた。腹八分目で収めたいのなら最初から、食材を用意する前の時点で彼に言っておかなければならなかったのだ。
「え、ええと……。そ、そうね!残しちゃダメよね!」
「そっ、そやね!勿体なかもんね!」
「というかもう次を焼いてるわね貴方…」
「おかわり」
青ざめる乙女たち。
ひとり旺盛に食べる育ち盛り。
ぐうの音も出ないほどの敗北である。本当に何か対策しないと、東方世界に辿り着く頃にはおデブパーティになっていそうである。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
【注記】
焼き方の拘りはあくまでもアルベルトの好みです。他の焼き方を否定する意図は作者にはありません。
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