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第二章後半【いざ東方へ】
2-32.無自覚人外系勇者パーティ(2)
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身体能力を示す“能力値”という指標がある。1から10までの10段階に分けられ、数値が高いほど能力が高いということになる。平均は4で、それ以上あれば優秀と言える。
霊力値6というのは本職の魔術師としても比較的高い方で、少なくとも前衛を務める勇者や騎士としてはかなり高レベルと言える。というのも魔術を使う際に霊力の値だけ同時起動が可能になるため、レギーナは同時に6つの魔術を行使することが可能なのだ。
とはいえ、霊力の全てを魔術の起動に回してしまうと自己の生命力を維持する分がなくなってしまうため、通常は霊力を最低でも1残さなくてはならず、だからレギーナの最大同時起動数は5ということになる。つまり彼女は防御魔術3種を当たり前のように並立起動でき、さらに2つ発動させる余力があるという事になる。
例えばこれが魔術を全く使えない者だと霊力値が1で、自己の生命維持に使う分しかないため魔術に回せないわけだ。
これを通称“魔力なし”という。この世界において魔力なしの人間はおよそ10人にひとりの割合で存在する。特段珍しいわけではないため、魔力なしだからといって特に差別されることはない。
ちなみにアルベルトの霊力は3である。前衛を受け持つ戦士としては可もなく不可もなくといったところで、ただし防御魔術3種全ては並立起動できない。
「ちなみにウチは8あるばい」
「クレアも、8あるよ…」
クレアは本職だから分からなくもないが、ミカエラの霊力8というのも驚きである。何しろ彼女も法術師が本業であって職業魔術師ではないのだ。
スキルの説明でも触れたが数値10というのは“神の領域”であり、9も世界最高レベルの頂点に位置する伝説の人物のレベルである。だから霊力8というのはもうその時点で人類最高クラスに片手が届いていると言える。
それをミカエラはともかくクレアがまだ未成年の身でそこに到達しているという。これからさらに成長すると考えると、どこまで伸びるものか空恐ろしくなる。
改めて、彼女たちの能力の高さに目眩がする思いのアルベルトである。勇者パーティともなればこうまで能力が高いものなのか。
「なに?青い顔してどうしたのよ?」
「いや…」
「レギーナ。貴女少しは自分がどれほど人間離れしているか自覚した方がいいわよ?」
「人間離れ、って失礼ね。私は至って普通ですけど!?」
いや普通じゃないから言われているのだが。
ちなみにツッコんでいるヴィオレの霊力は4で、こちらは常識的な範囲である。ただし彼女は彼女で敏捷と器用がどちらも8で、これも人外に片手をかけていたりする。つまり人のことは言えない。
「あ、あと、もうひとつ気になったんだけど」
どうにもならなくなってアルベルトが話題を変えにかかる。
「レギーナさん、あの水竜に斬りつけた時、わざと外したよね?」
「あら、気付いてたの?」
なんだそんな事か、とでも言いたげなレギーナである。むしろアルベルトがきちんと気付いていたことの方に驚いているようだ。
「だってあの子はただ単に餌を狩ろうと寄ってきただけだもの。野生動物の当たり前の習性なんだから、追い払えばそれで終わりよ」
事もなげに言っているが、それを言えば黒狼や灰熊などの野生の獣はみな同じである。というか魔獣の大半さえそうなのであって、ただの習性であってもそれは一般的に人間たちへの脅威として認識されるものだ。
相手にとっては単なる習性でしかなくとも、そこに命のやり取りが含まれる以上、殺るか殺られるかの真剣勝負であって、「追い払えば終わり」とはとてもいかないのだ。
なのに彼女はそれを習性だからと殺すことなく追い払うだけで済ませて見せたのだ。しかも水中では最強を誇る水竜を相手に。もしもあのまま海中に引きずり込まれていたら、さすがの彼女でさえ少しばかりピンチに陥ったかも知れなかったのに。
「無益な殺生はなるべくしない主義なの。これは私が勇者として立った時に誓ったことよ」
「さっすが姫ちゃん。カッコ良かあ」
「あんたね!あんただって一緒に誓ったじゃない!」
胸を張って誇らしげにレギーナが高らかに宣言して、それをすかさずミカエラが茶化す。
どうもこのふたりは上下関係が全く感じられないというか、気のおけない親友同士といった雰囲気だ。レギーナは言わずと知れたエトルリアの姫であり、ミカエラの方は神教主祭司徒の孫娘とはいえ公的な関係性としては君臣関係に当たるはずなのだが。
それもそのはずで、ふたりは蒼薔薇騎士団を結成するよりずっと以前、〈賢者の学院〉に入学する直前の13歳の頃から、もう6年もの付き合いである。すでに人生の3分の1を一緒に過ごしており、ともに成長し互いに切磋琢磨してきた、同い年の親友であり仲間でありライバルなのだ。
だからふたりには身分の差など些細なことである。特にレギーナは父王が崩御した時から自分に王位継承権はないものと思い定めていて、実は姫様扱いされるのを嫌がるのもそれが理由なのだ。ミカエラに「姫ちゃん」と呼ばれるのを許しているのは、彼女がレギーナが本当に姫様だった頃からそう呼んでいたからであり、自分でも馴染んでしまって今さら変更できないだけなのだった。
「さ、もう遅いし寝ましょ!明日のことはまた朝になって考えればそれでいいわ!」
「ひめの、その無計画なのも…どうにかしたふぉぅわぁ…」
「欠伸しながら言ってんじゃないわよクレア!」
「はいはい。じゃあベッドに行きましょうねクレア」
「ふぁい…」
こうして、ラグシウム二日目の長い夜は更けていったのだった。
霊力値6というのは本職の魔術師としても比較的高い方で、少なくとも前衛を務める勇者や騎士としてはかなり高レベルと言える。というのも魔術を使う際に霊力の値だけ同時起動が可能になるため、レギーナは同時に6つの魔術を行使することが可能なのだ。
とはいえ、霊力の全てを魔術の起動に回してしまうと自己の生命力を維持する分がなくなってしまうため、通常は霊力を最低でも1残さなくてはならず、だからレギーナの最大同時起動数は5ということになる。つまり彼女は防御魔術3種を当たり前のように並立起動でき、さらに2つ発動させる余力があるという事になる。
例えばこれが魔術を全く使えない者だと霊力値が1で、自己の生命維持に使う分しかないため魔術に回せないわけだ。
これを通称“魔力なし”という。この世界において魔力なしの人間はおよそ10人にひとりの割合で存在する。特段珍しいわけではないため、魔力なしだからといって特に差別されることはない。
ちなみにアルベルトの霊力は3である。前衛を受け持つ戦士としては可もなく不可もなくといったところで、ただし防御魔術3種全ては並立起動できない。
「ちなみにウチは8あるばい」
「クレアも、8あるよ…」
クレアは本職だから分からなくもないが、ミカエラの霊力8というのも驚きである。何しろ彼女も法術師が本業であって職業魔術師ではないのだ。
スキルの説明でも触れたが数値10というのは“神の領域”であり、9も世界最高レベルの頂点に位置する伝説の人物のレベルである。だから霊力8というのはもうその時点で人類最高クラスに片手が届いていると言える。
それをミカエラはともかくクレアがまだ未成年の身でそこに到達しているという。これからさらに成長すると考えると、どこまで伸びるものか空恐ろしくなる。
改めて、彼女たちの能力の高さに目眩がする思いのアルベルトである。勇者パーティともなればこうまで能力が高いものなのか。
「なに?青い顔してどうしたのよ?」
「いや…」
「レギーナ。貴女少しは自分がどれほど人間離れしているか自覚した方がいいわよ?」
「人間離れ、って失礼ね。私は至って普通ですけど!?」
いや普通じゃないから言われているのだが。
ちなみにツッコんでいるヴィオレの霊力は4で、こちらは常識的な範囲である。ただし彼女は彼女で敏捷と器用がどちらも8で、これも人外に片手をかけていたりする。つまり人のことは言えない。
「あ、あと、もうひとつ気になったんだけど」
どうにもならなくなってアルベルトが話題を変えにかかる。
「レギーナさん、あの水竜に斬りつけた時、わざと外したよね?」
「あら、気付いてたの?」
なんだそんな事か、とでも言いたげなレギーナである。むしろアルベルトがきちんと気付いていたことの方に驚いているようだ。
「だってあの子はただ単に餌を狩ろうと寄ってきただけだもの。野生動物の当たり前の習性なんだから、追い払えばそれで終わりよ」
事もなげに言っているが、それを言えば黒狼や灰熊などの野生の獣はみな同じである。というか魔獣の大半さえそうなのであって、ただの習性であってもそれは一般的に人間たちへの脅威として認識されるものだ。
相手にとっては単なる習性でしかなくとも、そこに命のやり取りが含まれる以上、殺るか殺られるかの真剣勝負であって、「追い払えば終わり」とはとてもいかないのだ。
なのに彼女はそれを習性だからと殺すことなく追い払うだけで済ませて見せたのだ。しかも水中では最強を誇る水竜を相手に。もしもあのまま海中に引きずり込まれていたら、さすがの彼女でさえ少しばかりピンチに陥ったかも知れなかったのに。
「無益な殺生はなるべくしない主義なの。これは私が勇者として立った時に誓ったことよ」
「さっすが姫ちゃん。カッコ良かあ」
「あんたね!あんただって一緒に誓ったじゃない!」
胸を張って誇らしげにレギーナが高らかに宣言して、それをすかさずミカエラが茶化す。
どうもこのふたりは上下関係が全く感じられないというか、気のおけない親友同士といった雰囲気だ。レギーナは言わずと知れたエトルリアの姫であり、ミカエラの方は神教主祭司徒の孫娘とはいえ公的な関係性としては君臣関係に当たるはずなのだが。
それもそのはずで、ふたりは蒼薔薇騎士団を結成するよりずっと以前、〈賢者の学院〉に入学する直前の13歳の頃から、もう6年もの付き合いである。すでに人生の3分の1を一緒に過ごしており、ともに成長し互いに切磋琢磨してきた、同い年の親友であり仲間でありライバルなのだ。
だからふたりには身分の差など些細なことである。特にレギーナは父王が崩御した時から自分に王位継承権はないものと思い定めていて、実は姫様扱いされるのを嫌がるのもそれが理由なのだ。ミカエラに「姫ちゃん」と呼ばれるのを許しているのは、彼女がレギーナが本当に姫様だった頃からそう呼んでいたからであり、自分でも馴染んでしまって今さら変更できないだけなのだった。
「さ、もう遅いし寝ましょ!明日のことはまた朝になって考えればそれでいいわ!」
「ひめの、その無計画なのも…どうにかしたふぉぅわぁ…」
「欠伸しながら言ってんじゃないわよクレア!」
「はいはい。じゃあベッドに行きましょうねクレア」
「ふぁい…」
こうして、ラグシウム二日目の長い夜は更けていったのだった。
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