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第二章後半【いざ東方へ】
2-25.そしていよいよ遊覧船へ
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「ちゅーか、時間のかかりすぎてもう昼っちゃけど」
「お腹空いたわ。どこかお店入りましょ」
「クレアも、お腹すいた…」
「あそこに海産物専門店があるわね」
「クルーザーの出港時間っていつなの?」
「昼三ちょうど、ラグシウム港の一番桟橋から出るそうよ」
「じゃあまだ余裕あるわね」
というわけで手近な店に入った一行である。さすがに水着ではなく着てきた私服に戻っていたが(アルベルトを除く)、それでも目を引く美女4人組は店員や客の注目を集めている。というか彼女たちが店に入ったのを目撃した通行人たちまで次々と入店して、たちまち店は大混雑になってしまった。
ただし、レギーナが腰に提げている二本の長剣のおかげでナンパ男が声をかけてくる事はない。
その代わり。
「おい、あんなスゲェ美女たちを侍らせてるあのおっさん、ナニモンだ?」
「分かんねえ…どこぞの金持ちってわけでもなさそうだし、なんか分不相応っつうか…」
美女の中でひとりだけ浮いているアルベルトの方がかえって目立ってしまっている始末である。
「いや待て?侍らせてるっつうか…むしろ連れ回されてるの男のほうじゃね?」
「でもよ、なんか従者って感じでもねえし、関係性がよく分かんねえな?」
「ちょっと、早く決めなさいよ。まだ決まってないのあなただけよ?」
「ちょっと待ってレギーナさん。どれが一番簡単に作れて覚えやすいか迷っちゃって…」
「レパートリー増やすのやら考えんと、食べたいモンば選んだらいいやん」
(待て、今あいつ「レギーナ」って呼んだぞ?)
(えっじゃあ、もしかしてあれって“蒼薔薇騎士団”か!?)
(なるほど、そりゃ美女揃いのはずだ…)
(だがしかし、そうなるとなおさらあの男の正体が判らんぞ!?)
(確かに…ていうか全人類男子の夢を独占しやがって羨ま、いやけしからん奴だ!)
彼女たちの会話の内容を盗み聞きしている連中の間にざわめきが広がってゆく。そのざわめきは店の外に、そしてラグシウム全体にとあっという間に広まっていく。
この世界にSNSとかあったらとんでもない事になっていたはずだが、幸か不幸かそんなものはなかった。
「よし、じゃあこのシーフードのピッツァにしよう」
「ようやく決まったかしら?じゃあ店員を呼ぶわよ?」
「てんいんさーん…」
そしてさらにしばらく待って注文した料理が届き、それぞれ舌鼓を打ちつつ堪能する。ただアルベルトだけは周りが気になって落ち着かない。
「どうしたのよキョロキョロして。落ち着きなさいよ」
「いやそう言われても…みんなすごい見てるし」
「いつものことよ。慣れなさい」
「えぇ…慣れろって言われても…」
「ウチらどこさい行ったっちゃこげな感じばい?」
「そうね。まあ少ししたら貴方も慣れるわよ」
「そ、そうかな…」
というか、こうやって注目の的になるからレギーナたちはアルベルトに服を買わせたのだ。彼女たちは行く先々で常に衆目を集めて回るため、同行するのなら当然アルベルトも身なりに気を使わなければならない。でなければどんな噂が立てられるか分かったものではないのだ。
これがラグ市内ならばまだアルベルトも顔が知られていたし、彼が蒼薔薇騎士団に助けられて雇われたというのも周知されていたので普段通りでも構わなかったのだが、よその街となるとそうもいかない。
そのことにようやく気付いたアルベルトである。だが、注目に晒されるのだけは慣れそうもなかった。
食べ終わり、店を出たところで陽射しに思わず空を見上げると、雲が切れてようやく晴れ間が広がってきた所であった。
時刻は昼二を過ぎたところで、今から一番桟橋に向かえば充分間に合う計算である。クルージングツアーは出港してから特大三ほどかけて、ゆったりと周辺の島嶼の間を縫うように周遊して港に戻ってくるのだそうだ。
「やっと晴れてきたわね!」
「こらよかクルージング日和ばいね♪」
和気あいあいとはしゃぎながらアルベルトを連れて、ラグシウムの街をのんびりと散策しつつ桟橋へと向かう蒼薔薇騎士団。その後を野次馬のギャラリーがゾロゾロついて行く。
「…よかけど、ちょっと集まりすぎたばいね」
「んーでも、クルーザーの中までは来ないでしょ」
「でも、そういえばまだシーズンには少し早いのに、ずいぶん観光客がいるのね」
「あ、多分今ついて来てるのはほとんどラグシウム市民だと思うよ」
「…は?」
「え、こんなに住んでるの?」
「俺の記憶に間違いがなければ、ここはスラヴィアでも結構大きな街で5万人ぐらい住んでるはずだけど」
「5万て…ファガータとあんま変わらんやないね!?」
そういえばザムリフェで『魔道具職人を探すならラグシウムの方がいい』と言ったのはアルベルトである。その言葉通りにザムリフェは人口約3万、ラグシウムが約5万で人口規模も商規模もラグシウムの方が明らかに上であった。
ちなみにラグは約1万人である。交易都市と観光都市の差こそあれ、それを差し引いてもラグシウムは人口の多い都市だと言えた。
一番桟橋が見えてきて、そこに真っ白で雄大な船体が横付けされているのが見て取れる。おそらく、というかほぼ間違いなくあれがパールシークルージング用の遊覧船だろう。思ったよりも大きく、これは乗客3桁くらいは収容できそうだ。
とはいえヴィオレの集めてきた情報によれば、今年のクルージングは雨季に入って始まったばかりだという話だったので、乗客はそこまで多くもないだろう。
「あれが遊覧船ね!今から楽しみだわ♪」
「あれだけ大きいなら揺れることもないでしょうし、きっと楽しめるわ」
「海で船遊びやらなかなか無いけんね、しっかり楽しまな損ばい♪」
「おふね…おっきい…」
そして4人と1人は、乗船案内所で料金を支払うと次々と船へ乗り込んでいくのであった。
「お腹空いたわ。どこかお店入りましょ」
「クレアも、お腹すいた…」
「あそこに海産物専門店があるわね」
「クルーザーの出港時間っていつなの?」
「昼三ちょうど、ラグシウム港の一番桟橋から出るそうよ」
「じゃあまだ余裕あるわね」
というわけで手近な店に入った一行である。さすがに水着ではなく着てきた私服に戻っていたが(アルベルトを除く)、それでも目を引く美女4人組は店員や客の注目を集めている。というか彼女たちが店に入ったのを目撃した通行人たちまで次々と入店して、たちまち店は大混雑になってしまった。
ただし、レギーナが腰に提げている二本の長剣のおかげでナンパ男が声をかけてくる事はない。
その代わり。
「おい、あんなスゲェ美女たちを侍らせてるあのおっさん、ナニモンだ?」
「分かんねえ…どこぞの金持ちってわけでもなさそうだし、なんか分不相応っつうか…」
美女の中でひとりだけ浮いているアルベルトの方がかえって目立ってしまっている始末である。
「いや待て?侍らせてるっつうか…むしろ連れ回されてるの男のほうじゃね?」
「でもよ、なんか従者って感じでもねえし、関係性がよく分かんねえな?」
「ちょっと、早く決めなさいよ。まだ決まってないのあなただけよ?」
「ちょっと待ってレギーナさん。どれが一番簡単に作れて覚えやすいか迷っちゃって…」
「レパートリー増やすのやら考えんと、食べたいモンば選んだらいいやん」
(待て、今あいつ「レギーナ」って呼んだぞ?)
(えっじゃあ、もしかしてあれって“蒼薔薇騎士団”か!?)
(なるほど、そりゃ美女揃いのはずだ…)
(だがしかし、そうなるとなおさらあの男の正体が判らんぞ!?)
(確かに…ていうか全人類男子の夢を独占しやがって羨ま、いやけしからん奴だ!)
彼女たちの会話の内容を盗み聞きしている連中の間にざわめきが広がってゆく。そのざわめきは店の外に、そしてラグシウム全体にとあっという間に広まっていく。
この世界にSNSとかあったらとんでもない事になっていたはずだが、幸か不幸かそんなものはなかった。
「よし、じゃあこのシーフードのピッツァにしよう」
「ようやく決まったかしら?じゃあ店員を呼ぶわよ?」
「てんいんさーん…」
そしてさらにしばらく待って注文した料理が届き、それぞれ舌鼓を打ちつつ堪能する。ただアルベルトだけは周りが気になって落ち着かない。
「どうしたのよキョロキョロして。落ち着きなさいよ」
「いやそう言われても…みんなすごい見てるし」
「いつものことよ。慣れなさい」
「えぇ…慣れろって言われても…」
「ウチらどこさい行ったっちゃこげな感じばい?」
「そうね。まあ少ししたら貴方も慣れるわよ」
「そ、そうかな…」
というか、こうやって注目の的になるからレギーナたちはアルベルトに服を買わせたのだ。彼女たちは行く先々で常に衆目を集めて回るため、同行するのなら当然アルベルトも身なりに気を使わなければならない。でなければどんな噂が立てられるか分かったものではないのだ。
これがラグ市内ならばまだアルベルトも顔が知られていたし、彼が蒼薔薇騎士団に助けられて雇われたというのも周知されていたので普段通りでも構わなかったのだが、よその街となるとそうもいかない。
そのことにようやく気付いたアルベルトである。だが、注目に晒されるのだけは慣れそうもなかった。
食べ終わり、店を出たところで陽射しに思わず空を見上げると、雲が切れてようやく晴れ間が広がってきた所であった。
時刻は昼二を過ぎたところで、今から一番桟橋に向かえば充分間に合う計算である。クルージングツアーは出港してから特大三ほどかけて、ゆったりと周辺の島嶼の間を縫うように周遊して港に戻ってくるのだそうだ。
「やっと晴れてきたわね!」
「こらよかクルージング日和ばいね♪」
和気あいあいとはしゃぎながらアルベルトを連れて、ラグシウムの街をのんびりと散策しつつ桟橋へと向かう蒼薔薇騎士団。その後を野次馬のギャラリーがゾロゾロついて行く。
「…よかけど、ちょっと集まりすぎたばいね」
「んーでも、クルーザーの中までは来ないでしょ」
「でも、そういえばまだシーズンには少し早いのに、ずいぶん観光客がいるのね」
「あ、多分今ついて来てるのはほとんどラグシウム市民だと思うよ」
「…は?」
「え、こんなに住んでるの?」
「俺の記憶に間違いがなければ、ここはスラヴィアでも結構大きな街で5万人ぐらい住んでるはずだけど」
「5万て…ファガータとあんま変わらんやないね!?」
そういえばザムリフェで『魔道具職人を探すならラグシウムの方がいい』と言ったのはアルベルトである。その言葉通りにザムリフェは人口約3万、ラグシウムが約5万で人口規模も商規模もラグシウムの方が明らかに上であった。
ちなみにラグは約1万人である。交易都市と観光都市の差こそあれ、それを差し引いてもラグシウムは人口の多い都市だと言えた。
一番桟橋が見えてきて、そこに真っ白で雄大な船体が横付けされているのが見て取れる。おそらく、というかほぼ間違いなくあれがパールシークルージング用の遊覧船だろう。思ったよりも大きく、これは乗客3桁くらいは収容できそうだ。
とはいえヴィオレの集めてきた情報によれば、今年のクルージングは雨季に入って始まったばかりだという話だったので、乗客はそこまで多くもないだろう。
「あれが遊覧船ね!今から楽しみだわ♪」
「あれだけ大きいなら揺れることもないでしょうし、きっと楽しめるわ」
「海で船遊びやらなかなか無いけんね、しっかり楽しまな損ばい♪」
「おふね…おっきい…」
そして4人と1人は、乗船案内所で料金を支払うと次々と船へ乗り込んでいくのであった。
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