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第二章後半【いざ東方へ】

2-23.パールシークルージング、の前に(2)

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 ラグシウムは市域がこぢんまりとまとまっていて、観光客向けのショッピングエリアも固まっている。その中でもメンズのファッションを取り扱う店の中に、5人の姿はあった。

「いらっしゃいませ。本日はどのような…」
「コイツ!コイツに合う服を見繕ってちょうだい!私達と連れ歩いても見劣りしない程度に仕上げないと、とてもじゃないけど一緒に歩けないわ!」

 とはいえラグシウムはメディオラではなく、品揃えも一通り押さえてあるだけで選択肢はそう多くはなさそうだ。海沿いの街で暖かくなっていく季節でもあり、暑季なつに向けての薄手の物が中心に並んでいる。

「この花柄のシャツとかどげんやろどうかな?」
「ええ!?それはちょっと派手じゃないかな?」
「スーツで上下固めてもいいわね」
「ちょっと堅苦しくないかい?」
「クレアは…軍服もいいと思う…」
「いや俺、軍隊にはあんまりいい思い出がなくてさ…」

「おいちゃん」
「あなたね」

「「「「口答え禁止!! 」」」」

「は…はい…」

「とりあえずくささあ、買うとは一着だけやないっちゃけん、みんなでそれぞれ見繕って着させてみようや」
「そうね、そうしましょ。見繕った服を全部買えば、少しはコイツの見た目もマシになるでしょ」
「でもレギーナ、着回しとかコーディネートのことも考えなくてはダメよ」
「おとうさん…服合わせるの絶望的に下手だった…」
「ま、まあ、まずは選びましょ!」

 ということで即席のファッションショーである。アルベルトを使った着せ替え遊び、と言えなくもない。


 まずは女性店員のコーデ。オーソドックスにベージュのスラックスと綿のシャツ、それに明るい色の麻のジャケットを合わせて、足元は茶色の革靴。パリッとした大人カジュアルの雰囲気。
 アルベルトの容姿や年齢、それに目の前に揃っている勇者パーティの連れだというのも聞いているのでその点も加味されていて、さすがに慣れたものである。

 ミカエラが選んだのは、薄い綿の半袖シャツに草色のゆったりした麻のボトムスを合わせた暑季らしいコーデ。足元はサンダル、靴下はなしで頭には麦わら帽子を合わせている。
 シャツはさっきから気にしている花柄のシャツで、派手だがラグシウムで出歩く分には何の違和感もない。

 ヴィオレが合わせたのは紺のスラックスに麻のシャツと丈の短い黒革のジャケットを合わせた、ややフォーマルなコーデ。足元は黒の革靴をチョイスした。
 ジャケットはヴィオレが着ているような光沢のある素材ではなく艶のないもので、彼女たちの誰よりも背が高い割にやや細身のアルベルトによく合っている。

 クレアは迷彩柄のカーゴパンツにやや厚手の麻の半袖シャツを合わせた、これも暑季らしいコーデ。足元は白い布靴に靴下を合わせ、普段使いもできそうである。
 彼女は色違いも探してきていて、着回しまで考えていたようだ。まだ13歳なのになんとも心配りができている。

 そしてレギーナはというと。

「んー、そうねえ」

 アルベルトを頭から爪先までジロジロ見つめたかと思うと、なんと彼女はいきなり彼の前に寄って両手で首筋に触れたではないか。

「えっと…レギーナさん?」
「ちょ、ちょお姫ちゃん!?」
「いーからいーから」

 ミカエラたちが驚く中、彼女は首筋から肩幅、二の腕、胸板、脇から腹、背中、さらに腰回りと遠慮なくベタベタ触れていく。
 アルベルトが赤面するのもお構いなしに腿から脛まで全身を“触診”したあと、「意外と筋肉質なのね。でもいいわ、ちょっと待ってなさい」と、何故か満足げに言って売り場へと消えていった。

 そして彼女が見繕ったのは。
 七分丈の紺の綿パンツに薄手の白い綿の半袖シャツ、それに浅黄色の薄い麻のベストを合わせたコーデ。足元はミカエラと同じくサンダルをチョイスして、いかにも暑季らしいコーデに仕上がっている。
 しかも全身に触れた甲斐あってどれもサイズがバッチリ合っていて、ややだぶついているクレアのチョイスや少しキツめのヴィオレのチョイスと比べても、アルベルト自身が着やすそうにしている。

「ああ、これはとても着やすいね。色もそんなに派手じゃないし、涼しくていいな」
「でしょ?こう見えても服飾都市メディオラの領主の娘ですからね。服のコーデには自信があるのよ!」

 喜ぶアルベルトを見てレギーナ自身も得意げである。
 エトルリアの国王家であるヴィスコット家は、本来はエトルリアの代表十二都市のひとつメディオラの領主家である。ヴィスコット家の前はフローレンティア領主のメンシッチ家が王家の地位を得ていて、エトルリアは昔からそのように時代時代で力を持っている代表都市領主が国王として君臨しているのだ。

「あんなぁ、姫ちゃん」
「なによ?」
「必要なんは分かるばってん、人前で男のカラダあげんあんなにベタベタ触るんは、ちょっとどげんやろか…」
「…………え?」

 ミカエラにそう指摘され、さっきの自分が何をやらかしたかようやく気付いた様子で、みるみるレギーナの顔が赤くなっていく。

「ちっ違うの!あれは…その、体型が分からないと正確なサイズが…!」
「そら分かるばい。ウチらは分かるばってん、よう知らん他の人が見たら誤解されてもしゃあない仕方ないばい?
現にほら、店員さん見てん?」

 言われてレギーナが付き添いの店員を見ると、彼女は顔を赤らめて俯いている。

「そ、その、失礼しました。勇者さまの良人カレシさまだとは露知らず…」

「えっ?」
「えっ?」
「ほらな?誤解されとうやん?」
「ちっ違うから!違うからね!?この人はただの道案内で…!」
「えっ、違うのですか?」

 まああれだけ親しげに身体を触れば間違われるのも無理はない。西方世界の一般的常識として、人目のある場所での男女間の過度なボディタッチは基本的にNGである。許容されるのは握手、肩や背中を叩くこと、それからダンスの際に腰や背中や腕に触れること、その程度である。夫婦や恋人、婚約者同士であっても人前では控えるのが常識的で、しかし一方で同性ならばとやかく言われることもない。
 つまり、レギーナはここでもアルベルトを異性として意識していなかったということになるわけだ。

「それにくさ、涼しさ重視でゆったり目の服ば選ぶっちゃけん、体型そこあんま拘らんでちゃ良かっちゃない?」
「そ、そうだけど…そうだけど…」

 プシュー、と擬音付きで湯気を吹き出しそうなほど顔を真っ赤にするレギーナ。初心うぶなくせにヘンなところで男女の区別に頓着しない困ったちゃんである。



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