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間章1【瘴脈討伐】
勇者様御一行のお仕事(12)
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「湧き上がれ、[強化]!」
「[炎砲]──」
まず動いたのはミカエラ・クレアの魔術師組。ミカエラがクレアに[強化]をかけ、その状態でクレアが炎の大砲を放つ。数日前放ったものより太く大きく強い炎の帯が百手巨人の頭部に伸びていき、そのまま丸ごと呑み込んだ。
手応えありかと思われたが、炎の帯が消えたあとに見えたのは顔をしっかりガードする四本の腕。腕にはダメージを与えられたが、頭部はほぼ無傷だ。
「うわぁこれ[魔術防御]使われとるばい」
「じゃあこれ。[光線]──」
すぐさまクレアが貫通力の高い術式に切り替え放つと、今度は左腕の一本が持っている盾の角度を上手く調整され弾かれてしまった。
「むう」
思うようにダメージを与えられずむくれるクレア。
だが巨人が手近にあった大岩を抱え上げたのを見て、すかさず[光線]でそれを撃ち砕いた。巨人は一瞬で砕かれ足元に散らばってしまった岩の破片を見下ろしていたが、片足を上げて地面ごとミカエラたちの方に蹴り飛ばした。
「そげなんとが効くか![水膜]!」
だが所詮はただの石礫、いや岩礫だ。多少大きかろうとも、なんの術式の付与もない無機物は問題なく水の膜に防がれる。
と、その時だ。レギーナと巨竜の方から膨大な魔力の余波が流れてきた。ミカエラが思わず彼女の向かった方を仰ぎ見ると、どうやら巨竜が[息吹]を放ったようだった。
彼女は大丈夫なのか。心に不安がもたげかけるが、すぐに首を振ってそれを振り払う。彼女の強さは誰よりも自分がよく知っている。
「ばってん、こらあんま長引かせるとようないたいな。
──クレア、大技行くばい!」
「分かった」
クレアに一言声をかけてミカエラは詠唱を始める。クレアもレギーナのことは信頼しているのだろう、不安げな様子も見せずにミカエラに応える。
いつもより少しだけ長く複雑な詠唱、それが進むにつれてミカエラの足元に光り輝く魔方陣が浮かび上がり、拡がってゆく。同じように詠唱を始めたクレアの足元にも似たものが展開されてゆく。
魔方陣、とは魔術の術式を描き込んで紋章化した図形のことである。術の威力を強化する目的で使われることが多く、現代の魔方陣は術式に展開図を組み込むことで詠唱とともに発動・展開するようになっている。
方陣とは言うが方形をしているわけではなく、むしろ形状は決まっておらず組んだ術式によって変わる。術者の好みやこだわりが反映されることもある。
この時ミカエラの展開した魔方陣は青く光る六芒星、クレアのそれは赤く輝く真円型だった。ミカエラはこだわるタイプ、クレアはこだわらないタイプだ。
簡単な術式を展開する場合には大掛かりな魔方陣は用いない。霊炉内で発動用に展開するだけでいいので外に見せる必要はないのだ。というか魔方陣の紋様には術式が反映されるので、見る人が見ればそれだけでなんの術かバレてしまう。
だから体外に展開する時はバレるのを覚悟の上で大掛かりな強力な術式を組む時か、威嚇のためにわざわざ見せつける時くらいだ。
大股に近付いてくる巨人が、ミカエラの魔方陣に阻まれたように動きが止まる。それとほぼ同時に彼女の詠唱が完了し、六芒星の魔方陣がひときわ光を発して空へ向かって伸びてゆくと、それはたちまち青い光の壁のようになる。
最後にミカエラは、並行起動した[水膜]を離れて巨竜と交戦しているレギーナの霊力を探して、その周りにも展開した。
「呑み込め、[海嘯]!」
ミカエラを包む青い光の壁が、ぐにゃりと形を失って彼女の前方、巨人に向かってなだれ落ちて行く。壁はいつの間にか巨人よりも遥か高くまでそそり立っていて、それがあたかも大波のように波打ち拡がり、周りの全てを飲み込んで行く。
飲み込まれないのは魔方陣の中心にいるミカエラと、彼女が[水膜]で保護したレギーナとクレアだけだ。
それはさながら全てを呑み込み押し流す大津波──海嘯のようだった。近くに水源があることが発動条件のこの術式は、水源つまりレファ川の水を汲み上げ際限のない波の塊となって巨人に襲いかかる。
巨人はだが、押し流されはしなかった。ただ懸命に抗ってはいるものの、さすがにその場から一歩も動けなくなった。少しでもバランスを崩せばあっという間に押し流され呑まれて全身を砕かれて絶命するだろうが、腿まで波に呑まれながらもかろうじて耐えている。
「[鏖獄]──」
だがそこに今度はクレアの組み上げた大技が襲いかかった。彼女の足元に展開した魔方陣が一際赤く輝いて天に向かって迸り、それが消えた辺りから炎の塊が身動きの取れない巨人めがけて落ちてくる。
それはひとつだけではなかった。10か20か、あるいはもっと。そのどれもが直径50デジ前後の巨大な塊で、それが巨人の全身に次々に降りかかる。
炎塊はあっという間に巨人を丸ごと包み込み、ミカエラの海嘯をも蒸発させてゆく。
炎塊が降り注ぐのがようやく止まった時、そこにあるのは巨人の形をした炎だった。腕をふるい身をよじり、何とか炎から逃れようとしているのだろうが、魔術の炎はそんな事では消えやしない。喉はすでに灼かれているのか、巨人の咆哮は聞こえなかった。
地響きとともに巨人が倒れ込み、手足をばたつかせてもがき回る。だがそれも、しばらく待つと動かなくなっていった──。
「[炎砲]──」
まず動いたのはミカエラ・クレアの魔術師組。ミカエラがクレアに[強化]をかけ、その状態でクレアが炎の大砲を放つ。数日前放ったものより太く大きく強い炎の帯が百手巨人の頭部に伸びていき、そのまま丸ごと呑み込んだ。
手応えありかと思われたが、炎の帯が消えたあとに見えたのは顔をしっかりガードする四本の腕。腕にはダメージを与えられたが、頭部はほぼ無傷だ。
「うわぁこれ[魔術防御]使われとるばい」
「じゃあこれ。[光線]──」
すぐさまクレアが貫通力の高い術式に切り替え放つと、今度は左腕の一本が持っている盾の角度を上手く調整され弾かれてしまった。
「むう」
思うようにダメージを与えられずむくれるクレア。
だが巨人が手近にあった大岩を抱え上げたのを見て、すかさず[光線]でそれを撃ち砕いた。巨人は一瞬で砕かれ足元に散らばってしまった岩の破片を見下ろしていたが、片足を上げて地面ごとミカエラたちの方に蹴り飛ばした。
「そげなんとが効くか![水膜]!」
だが所詮はただの石礫、いや岩礫だ。多少大きかろうとも、なんの術式の付与もない無機物は問題なく水の膜に防がれる。
と、その時だ。レギーナと巨竜の方から膨大な魔力の余波が流れてきた。ミカエラが思わず彼女の向かった方を仰ぎ見ると、どうやら巨竜が[息吹]を放ったようだった。
彼女は大丈夫なのか。心に不安がもたげかけるが、すぐに首を振ってそれを振り払う。彼女の強さは誰よりも自分がよく知っている。
「ばってん、こらあんま長引かせるとようないたいな。
──クレア、大技行くばい!」
「分かった」
クレアに一言声をかけてミカエラは詠唱を始める。クレアもレギーナのことは信頼しているのだろう、不安げな様子も見せずにミカエラに応える。
いつもより少しだけ長く複雑な詠唱、それが進むにつれてミカエラの足元に光り輝く魔方陣が浮かび上がり、拡がってゆく。同じように詠唱を始めたクレアの足元にも似たものが展開されてゆく。
魔方陣、とは魔術の術式を描き込んで紋章化した図形のことである。術の威力を強化する目的で使われることが多く、現代の魔方陣は術式に展開図を組み込むことで詠唱とともに発動・展開するようになっている。
方陣とは言うが方形をしているわけではなく、むしろ形状は決まっておらず組んだ術式によって変わる。術者の好みやこだわりが反映されることもある。
この時ミカエラの展開した魔方陣は青く光る六芒星、クレアのそれは赤く輝く真円型だった。ミカエラはこだわるタイプ、クレアはこだわらないタイプだ。
簡単な術式を展開する場合には大掛かりな魔方陣は用いない。霊炉内で発動用に展開するだけでいいので外に見せる必要はないのだ。というか魔方陣の紋様には術式が反映されるので、見る人が見ればそれだけでなんの術かバレてしまう。
だから体外に展開する時はバレるのを覚悟の上で大掛かりな強力な術式を組む時か、威嚇のためにわざわざ見せつける時くらいだ。
大股に近付いてくる巨人が、ミカエラの魔方陣に阻まれたように動きが止まる。それとほぼ同時に彼女の詠唱が完了し、六芒星の魔方陣がひときわ光を発して空へ向かって伸びてゆくと、それはたちまち青い光の壁のようになる。
最後にミカエラは、並行起動した[水膜]を離れて巨竜と交戦しているレギーナの霊力を探して、その周りにも展開した。
「呑み込め、[海嘯]!」
ミカエラを包む青い光の壁が、ぐにゃりと形を失って彼女の前方、巨人に向かってなだれ落ちて行く。壁はいつの間にか巨人よりも遥か高くまでそそり立っていて、それがあたかも大波のように波打ち拡がり、周りの全てを飲み込んで行く。
飲み込まれないのは魔方陣の中心にいるミカエラと、彼女が[水膜]で保護したレギーナとクレアだけだ。
それはさながら全てを呑み込み押し流す大津波──海嘯のようだった。近くに水源があることが発動条件のこの術式は、水源つまりレファ川の水を汲み上げ際限のない波の塊となって巨人に襲いかかる。
巨人はだが、押し流されはしなかった。ただ懸命に抗ってはいるものの、さすがにその場から一歩も動けなくなった。少しでもバランスを崩せばあっという間に押し流され呑まれて全身を砕かれて絶命するだろうが、腿まで波に呑まれながらもかろうじて耐えている。
「[鏖獄]──」
だがそこに今度はクレアの組み上げた大技が襲いかかった。彼女の足元に展開した魔方陣が一際赤く輝いて天に向かって迸り、それが消えた辺りから炎の塊が身動きの取れない巨人めがけて落ちてくる。
それはひとつだけではなかった。10か20か、あるいはもっと。そのどれもが直径50デジ前後の巨大な塊で、それが巨人の全身に次々に降りかかる。
炎塊はあっという間に巨人を丸ごと包み込み、ミカエラの海嘯をも蒸発させてゆく。
炎塊が降り注ぐのがようやく止まった時、そこにあるのは巨人の形をした炎だった。腕をふるい身をよじり、何とか炎から逃れようとしているのだろうが、魔術の炎はそんな事では消えやしない。喉はすでに灼かれているのか、巨人の咆哮は聞こえなかった。
地響きとともに巨人が倒れ込み、手足をばたつかせてもがき回る。だがそれも、しばらく待つと動かなくなっていった──。
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