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間章1【瘴脈討伐】

勇者様御一行のお仕事(11)

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 3日前と違って、渓谷はすっかり静まり返って生き物の気配がなくなっていた。否、気配があるにはあるのだが、レギーナたちの気配を敏感に感じ取ってはザアッと潮が引くように逃げていく。
 完全にアンタッチャブルな扱いである。
 魔物に化け物扱いされる人外系勇者様爆誕だ。

「なーんか、あんまり嬉しくない」
「自業自得やん。諦めり」

 ただ、そうやって逃げていくのは明らかに格下の弱い魔物や魔獣ばかりだ。渓谷を半ばも進んだあたりから逃げ出さないような強力な魔獣や魔物が出始め、ポツポツと戦闘が始まるようになっていった。
 だが無論、彼女たちの敵ではない。



 は確かに、渓谷の最奥部に鎮座していた。
 座り込む、というか蹲るというか。
 四肢を折りたたみ、背を丸め、首を曲げて地に這わし、その首を自らの尻尾で抱え込むようにして。

「うわー。“巨竜”がいるじゃない…」
「あいたぁ~。しかもこら結構な大物やん」

 そこに居たのは“巨竜”だ。脚竜や翼竜、河竜などと同じ『亜竜』に分類されてはいるものの、その中で唯一魔獣認定されている、巨大な竜である。若竜のうちは巨体に物を言わせて暴れ回る厄介者であり、長じて老成すれば魔術すら操るようになるという。
 そうした老獪な個体は魔物として扱われた記録もあった。中でも実際に魔王にまで成長を遂げた個体が歴史上一体だけ記録されていて、その個体は『竜王』として歴史に名を残している。
 そして目の前にいる巨竜それは見るからに通常よりも一回り以上は大型の個体だ。比較的歳を経た成竜だろう。

「りゅうおう、ふたたび…?」
「そういう訳にはいかないわね」
「なら、今日ここでウチらが倒さんならんないとね」

 だがその前に。

「ねえ、私の見間違いじゃなければアレって百手巨人ヘカトンケイルじゃない?」
「見間違いやなかねえ。百手巨人センチマニやねえ」
「それ、わざわざ南部ラティン語に言い直す意味あった?」

 わざわざ軽口を叩くしかない。だって巨竜の隣そこに座っていたのは10本の腕と5つの頭を持ち、武器や鎧を装備した、単眼巨人キュクロプスと比べても倍以上の巨体の巨人種魔族なのだから。
 とはいえ、神話で語られるそれと比べれば明らかに矮小版である。神話の通りなら百本の腕と50の頭を持っていなくてはならないのだから。

 百手巨人ヘカトンケイルに限らず、神話に登場する魔物モンスターの名を与えられた魔物や魔獣たちはみな、それに似た姿ということで命名されただけで『本物』ではない。だからも名前こそ百手巨人ヘカトンケイルだが腕は10本しかない。
 だが、それでも充分過ぎるほどの脅威だ。とてもではないが“熟練者エキスパート”どころではなく、“凄腕アデプト”でさえなく“達人マスター”クラスの大物である。こんなもの長い年月を経た迷宮ダンジョンの最深部ぐらいでしかお目にかかれるものではない。

「あとは、ティターンがいれば…揃う?」
「「いやいや、それ巨神かみだからやし」」

 そんなのが出てきてしまったら、人の身では対抗することさえ難しいはずだ。

 ちなみにこれらの神や魔物が登場するのはどこにもない楽園イェルゲイルの神話ではなく、現在のイリシャがある地域に古くから伝わる土着の神話である。これに限らず世界各地に様々な神話や伝承が残っていて、人々の心に、地域に深く根付いている。
 イェルゲイル神教はそのあたり非常に寛容で、各地の神話を否定せず受け入れて残している。元々イェルゲイルの神々が特定地域の土着神だったためだろうと言われているが、定かではない。


 レギーナたちの霊力に反応したのか、まず百手巨人が動き出した。緩慢な動作で立ち上がると、威嚇のつもりか咆哮を上げて彼女たちの方へと一歩踏み出す。一歩と言っても身長が彼女たちの約10倍、つまり歩幅も10倍あるから一気に距離を詰められる。
 それに対してクレアとミカエラがそれぞれ詠唱を開始する。

「姫ちゃん、百手巨人こっちはやっとくけん巨竜アレ任せていいかいな?」
「分かったわ。早いとこ終わらせましょ」



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