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間章1【瘴脈討伐】
勇者様御一行のお仕事(10)
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「ご、ごめんなさい…………」
砦小屋の、蒼薔薇騎士団が根城にしている食堂と間続きになっているリビングで。
ようやく目覚めた勇者様が正座して小さくなって謝っていた。
正座、とは西方十王国のひとつガリオン王国から西方世界各地に広まった独特の座り方で、椅子などの家具を何も使わず床に直接座るのが特徴だ。通常はそんな座り方はしないが、なんでも反省の意を示す意味合いがあるらしく、親が子供を叱る時などによく用いられる。
「まあ、結果的に大事ならんで済んだけん良かったばってんが、まぁちぃと堪えて貰わなつまらんねえ」
「本当にスイマセンでした………」
いつもの快活で、少しだけ傍若無人なお姫様はどこへやら。平謝りで反省しきりのレギーナである。
それというのも、彼女はあれから丸1日以上眠り続けたのだ。そして目覚めてからも霊力が戻りきっていなかったため、食っては寝てを繰り返すことさらに1日。
ということで、今は渓谷に乗り込んだ日から数えて5日目の朝である。
なのになぜ今さら彼女がミカエラに説教されているのか。それは彼女がうっかり「でも結果的にあの時いたのは全部殲滅できたんだからいいじゃない」と本音を述べてしまったからである。
その殲滅にミカエラとクレアまで巻き込みかねなかったこと、下手すると自分自身の命さえ危うくする状況だったこと、さらには少なくともあの時まだ渓谷の最奥部に敵が残っていて「殲滅」になっていなかったことなど、くどくどくどくどミカエラに言われて、それで何も言い返せない状況に追い込まれているレギーナであった。
そう、あの時あの状況でミカエラは見えない彼女の位置を探るために[感知]を発動させていたのだ。そして渓谷の最奥部、瘴脈の噴出口近辺に大型の魔力反応がいくつか残ったままなのをしっかり感知していたのだ。
それなのにレギーナが暴走したせいで撤退せざるを得なくなり、しかも丸2日以上無駄な休息を取らされているのだ。ミカエラが小言を言いたくなるなるのも無理はない。というか同い年で地位関係なしの親友である彼女だからこそ言えるのだ。
「だいたい、ほんなこつ分っとうとかね?ホントなら今頃もう街さい帰り着いてロイ様に報告も終えられとうっちゃけどね!?」
「ハイ、ワタシノセイデス………」
いつもなら、もうそろそろ「もう分かったから!いいでしょ!」と逆ギレする頃合いだが、今回ばかりはそれが絶対逆効果と分かっているのでレギーナは大人しい。大人しいが、そろそろ耐えるのも限界そうである。
「まあ、その話はもう何度もしたからさすがにもういいのではなくて?それよりも、そろそろ『これから』の話をしましょう?」
「これからっちゅうか、最奥部のアレば片付けんとこの仕事終わりにならんとよね」
レギーナの様子をしっかり察知しているヴィオレが助け舟を出して、ミカエラも素直にそれに乗る。お説教タイムは一応終了である。
「ロイ様は『凄腕まではおらん』て言いよんしゃったばってん、残念ながら見立て違いやったごたるっちゃんね」
「え、そんな強いのいた?」
「魔力だけしか分からんやったばってん、こんまま放置しとったら多分魔王になるっちゃないとかいな」
「あら。それは由々しき事態ねえ」
「それにくさ。多分アレ瘴脈の噴出口にどっかり座っとるとよね。出てくる瘴気ばほぼ独り占めしとっけん、成長も早かろうて思うばい」
定期巡回間近なのに周辺の被害報告は軽微でそう強い魔物も観測できなかったのは、おそらくそれが瘴気を独占しているのが原因だろうとミカエラは言う。だが確認しようにもパーティの主戦力がダウンしていて動くに動けなかったのだ。
そりゃミカエラでなくとも怒るというものだ。もっと反省して下さい勇者様。
ただそうして苦情を言いつつも、ミカエラはちゃっかり渓谷へ降りて河竜を一匹仕留めてきているので、何というかあんまり偉そうな事は言えない気がするのだが。しかもできるだけ革を傷つけないように[氷刃]で作った氷の剣でミカエラ自身がわざわざ白兵戦してまで仕留め、しかも丁寧に革を剝がしていたのをしっかりヴィオレに見られている。
まあその代わり、山ほど焼いたその肉はレギーナの胃袋に収まって霊力回復に役立てたから、一応の言い訳も立つのだが。
「まあとにかく、じゃあ少なくとも“凄腕”は居るってことね?」
「“凄腕”か、下手したらもう“達人”かも知らんばってん」
「分かった。とにかく油断できないって事ね」
話しているうちにレギーナの顔も引き締まってくる。この2日の完全休養で彼女の霊力もようやく全快してきたところだ。だからやっと、最奥部の探索に向かえる。
そうしていよいよ彼女たちは、3日ぶりに討伐を再開する。
砦小屋の、蒼薔薇騎士団が根城にしている食堂と間続きになっているリビングで。
ようやく目覚めた勇者様が正座して小さくなって謝っていた。
正座、とは西方十王国のひとつガリオン王国から西方世界各地に広まった独特の座り方で、椅子などの家具を何も使わず床に直接座るのが特徴だ。通常はそんな座り方はしないが、なんでも反省の意を示す意味合いがあるらしく、親が子供を叱る時などによく用いられる。
「まあ、結果的に大事ならんで済んだけん良かったばってんが、まぁちぃと堪えて貰わなつまらんねえ」
「本当にスイマセンでした………」
いつもの快活で、少しだけ傍若無人なお姫様はどこへやら。平謝りで反省しきりのレギーナである。
それというのも、彼女はあれから丸1日以上眠り続けたのだ。そして目覚めてからも霊力が戻りきっていなかったため、食っては寝てを繰り返すことさらに1日。
ということで、今は渓谷に乗り込んだ日から数えて5日目の朝である。
なのになぜ今さら彼女がミカエラに説教されているのか。それは彼女がうっかり「でも結果的にあの時いたのは全部殲滅できたんだからいいじゃない」と本音を述べてしまったからである。
その殲滅にミカエラとクレアまで巻き込みかねなかったこと、下手すると自分自身の命さえ危うくする状況だったこと、さらには少なくともあの時まだ渓谷の最奥部に敵が残っていて「殲滅」になっていなかったことなど、くどくどくどくどミカエラに言われて、それで何も言い返せない状況に追い込まれているレギーナであった。
そう、あの時あの状況でミカエラは見えない彼女の位置を探るために[感知]を発動させていたのだ。そして渓谷の最奥部、瘴脈の噴出口近辺に大型の魔力反応がいくつか残ったままなのをしっかり感知していたのだ。
それなのにレギーナが暴走したせいで撤退せざるを得なくなり、しかも丸2日以上無駄な休息を取らされているのだ。ミカエラが小言を言いたくなるなるのも無理はない。というか同い年で地位関係なしの親友である彼女だからこそ言えるのだ。
「だいたい、ほんなこつ分っとうとかね?ホントなら今頃もう街さい帰り着いてロイ様に報告も終えられとうっちゃけどね!?」
「ハイ、ワタシノセイデス………」
いつもなら、もうそろそろ「もう分かったから!いいでしょ!」と逆ギレする頃合いだが、今回ばかりはそれが絶対逆効果と分かっているのでレギーナは大人しい。大人しいが、そろそろ耐えるのも限界そうである。
「まあ、その話はもう何度もしたからさすがにもういいのではなくて?それよりも、そろそろ『これから』の話をしましょう?」
「これからっちゅうか、最奥部のアレば片付けんとこの仕事終わりにならんとよね」
レギーナの様子をしっかり察知しているヴィオレが助け舟を出して、ミカエラも素直にそれに乗る。お説教タイムは一応終了である。
「ロイ様は『凄腕まではおらん』て言いよんしゃったばってん、残念ながら見立て違いやったごたるっちゃんね」
「え、そんな強いのいた?」
「魔力だけしか分からんやったばってん、こんまま放置しとったら多分魔王になるっちゃないとかいな」
「あら。それは由々しき事態ねえ」
「それにくさ。多分アレ瘴脈の噴出口にどっかり座っとるとよね。出てくる瘴気ばほぼ独り占めしとっけん、成長も早かろうて思うばい」
定期巡回間近なのに周辺の被害報告は軽微でそう強い魔物も観測できなかったのは、おそらくそれが瘴気を独占しているのが原因だろうとミカエラは言う。だが確認しようにもパーティの主戦力がダウンしていて動くに動けなかったのだ。
そりゃミカエラでなくとも怒るというものだ。もっと反省して下さい勇者様。
ただそうして苦情を言いつつも、ミカエラはちゃっかり渓谷へ降りて河竜を一匹仕留めてきているので、何というかあんまり偉そうな事は言えない気がするのだが。しかもできるだけ革を傷つけないように[氷刃]で作った氷の剣でミカエラ自身がわざわざ白兵戦してまで仕留め、しかも丁寧に革を剝がしていたのをしっかりヴィオレに見られている。
まあその代わり、山ほど焼いたその肉はレギーナの胃袋に収まって霊力回復に役立てたから、一応の言い訳も立つのだが。
「まあとにかく、じゃあ少なくとも“凄腕”は居るってことね?」
「“凄腕”か、下手したらもう“達人”かも知らんばってん」
「分かった。とにかく油断できないって事ね」
話しているうちにレギーナの顔も引き締まってくる。この2日の完全休養で彼女の霊力もようやく全快してきたところだ。だからやっと、最奥部の探索に向かえる。
そうしていよいよ彼女たちは、3日ぶりに討伐を再開する。
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