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間章1【瘴脈討伐】

勇者様御一行のお仕事(8)

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 結局のところ昼食は持参した食材で作るしかなく、例によってミカエラが適当オリジナルに合わせたスープとパン、それに斑牛ウシ里猪ブタの肉を焼いて味付けして食べた。レギーナとヴィオレは斑牛、ミカエラとクレアは里猪を選んだ。
 そしてひと眠りして、4人は日暮れ時にもぞもぞと起き出す。

「ふぁあ…もう時間かいね…」
「空が茜色だし、ぼちぼちかしらね…」

 硬い床に寝袋だけで寝ていたせいか、ミカエラもレギーナもまだ眠そうに目を擦っている。まあ朝っぱらから派手に暴れまわったせいもあるのだろう。現にクレアなどまだ眠ったままだ。まあそれはミカエラが起こすので問題ないだろう。

「夜は夜で結構いそうよ」

 物見台に上がっていたヴィオレが戻って来てそう言った。彼女だけは戦闘していないので元気なものだが、誰もそれを詰ったりはしない。なにせ彼女は戦闘以外に役割が多くあり、しかも他の3人が苦手な分野をまとめて受け持ってくれているので、彼女抜きではパーティが回らないと全員が理解しているからだ。
 ゆえに、最近流行りの物語のようなことは蒼薔薇騎士団には起こらない。パーティメンバーの役割を仲間が理解してないなんてことも、間違った判断のもとに縁の下の力持ちを追放することもあり得ないのだ。レギーナに言わせれば「メンバーの役割を理解してないとかホントにリーダーなのかしら?バカじゃないのソイツこそが追放されるべきよ!」である。
 まあ、物語の主題的にはそういう正論をぶっても意味がないのだが。


 閑話休題それはともかく
 昼の残りのスープとパンで軽く腹ごしらえして、準備を済ませるとレギーナたちは砦小屋を出た。陽の沈みかかった空は早くも茜色から宵闇の色に染まりかけていて、山に囲まれた渓谷は薄暮に支配されつつある。その闇の帳の中、蠢くものたちの影がいくつも見える。
 まず向かってきたのは近くにいた爪刃熊サーベルベア。次いで鎧熊と、二本の角を持つ馬“二角馬バイコーン”も駆けてくる。二角馬は馬のくせに獣や人を襲って食らうし、動きが素早いので開放なしのレギーナの動きにも対応してきて面倒だ。

「[光線]──」

 クレアの魔術が先頭にいた爪刃熊の顔面を撃ち抜き、爪刃熊は前のめりに崩れ落ちて動かなくなった。

「あっ、私の爪刃熊が!」
「はやいもの勝ち」

 “私の”ではないし、早い者勝ちでもないのだが。

「はいはい姫ちゃんには二角馬やるけん」
「ウソでしょ面倒なの押し付けないで!」

 とか何とか言いながらミカエラは[氷棺]で鎧熊を氷漬けにしているし、レギーナは二角馬の首をあっさり斬り飛ばしている。
 と、そこへ飛び込んだ影がある。小さな姿で目立たず、しかも異様に早いスピードで意識の外から飛んできたそれは、完全に奇襲の形になってレギーナの胸に飛び込んできた。
 それは彼女の真銀ミスリル製の鎧の胸当ての部分に直撃し、体当たりされた格好の彼女は思わず「きゃ!」と乙女らしい声を上げてバランスを崩す。

「姫ちゃん!?」
「あ、うさぎ」

 そう、それは小さく可愛らしい兎だった。
 ただし、その額から体長と変わらぬほど長く真っ直ぐな鋭く尖った角が生えていることを除けば、だが。
 “一角兎ホーンドヘア”と呼ばれる魔獣である。

 一角兎はその強靭な後肢で数十歩の距離でもひとっ跳びに距離を詰めてくる魔獣で、意識の外から目にも止まらぬ速さで跳んでくるから厄介だ。しかもその額には長く鋭い角があるため、意表を突かれると熟練の冒険者でさえ心臓をひと突きにされて即死する。
 つまり本当ならば今の一撃で、レギーナは心臓を貫かれて死んでいたはずだった。それがバランスを崩しただけで済んだのは真銀製の魔術防御バリアの付与された特別な鎧を着ていたことと、あらかじめ彼女自身が我が身に[物理防御ブロック]をかけていたためである。
 彼女の物理防御はかなり高いレベルでかけられているため、ちょっとやそっとの物理ダメージなら跳ね返してしまえる。ただでさえ攻撃が当たらない上に当たったとしても硬いとか軽く反則だと思う。

 とはいえ現況の問題はそこではない。戦いのさなかに彼女がよろめかされた事が問題なのだ。

 小さな影が薄闇の中を跳んでくる。
 それも3つ、4つ、5つ、6つと。
 そう、一角兎は群れる魔獣なのだ。そして困ったことに、こいつらは肉食だ。

 バランスを崩してよろめいたレギーナに一角兎が次々と体当たりしていく。体当たりとは言うが、兎たちが向けているのは鋭く尖った角なので、要は巨大な針を立て続けに何本も突き立てられているに等しかった。
 そして彼女が倒れ込んでもそれは止まらない。心臓めがけてだけでなく、背中にも腰にも手足にも、もちろん顔にも鋭い角が迫る。



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