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第二章前半【いざ東方へ】

2-2.まず最初に胃袋を掴め(2)

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 で、アルベルトの作った「五色の炒飯」は白米に黒麦を混ぜたものを炊いた「飯」に、乾燥させた青豆と小さくカットした赤芋、乾燥させていない黄黍の粒を混ぜ、さらに細切れの野菜や肉なども合わせた上で溶いた朝鳴鳥の卵で閉じつつ油で炒めた料理だ。
 それが五人分、木製の深皿に盛り分けられ銀の匙を添えられてテーブルに並んでいる。色とりどりの粒が混じり合って見た目から楽しませてくれ、それだけでなく油の香ばしさと調味料の旨さが湯気とともに匂いとなって立ち上り、食欲をそそる。

「チャーハン、とはまた聞き慣れない料理名ね」
スープ炊きリゾット、とはちょっと違うわね。炊き込みご飯ピラフ…でもないか」
「まあなんかなしとにかく、食べりゃあ分かろうもん」
「ミカの、そういう大雑把なとこ…良くないと思う…」
なしななんで!?」

「まあまあ。とりあえず熱いうちが美味しいからさ、火傷しないよう気を付けて食べてよ」

 そう言われて皆それぞれ銀の匙を手に取る。初めて目にする料理に、一抹の不安と一握りの期待が混じりあって、そこに香ばしい薫りが鼻孔をくすぐった。
 ひと口ぶん、掬って口に運ぶ。

 まず口に広がるのは赤芋のまろやかな甘みと黄黍のほのかな甘み。その二種類の甘みを油の香ばしさと卵の旨味が包み込み、さらに噛むたびに白米の甘みが広がってゆく。
 青豆はあらかじめ炒ってあったのだろう、こちらも香ばしく程よい歯ごたえをもたらし、白米のひと粒ひと粒がパラパラになるまで炒められた中には黒麦の粒もしっかり存在感を発揮する。
 三種の甘みと旨味、香ばしさ、それら全体の味をサールと、おそらく胡椒ピペル、それに擂り潰した胡麻セサムンで調えてある。
 それだけでなく、玉葱ウニオン人参キャロタ岩芋ポタタ大蒜ガリクなどの野菜や香辛料もみじん切りにして合わせられており、トドメに少しだけ入れられた里猪スースの干し肉の細切れが旨味を提供し味を引き締めていた。

 甘く、甘すぎず、脂っこく、それでいてくど過ぎず。極上の料理人の精緻な手腕による絶妙な調和とまではいかないが、個人で作って仲間と食う程度なら絶賛してお釣りが来るレベルに仕上がっている。少なくとも素人が片手間に作ったような出来ではない。

「なにこれ、美味し!」
「甘かぁ!そして旨かぁ!」
「…!?」
「…まさしく『大地の恵み』ね、これは」

 それぞれが一言だけ衝撃を口にして、あとは無言で。
 それを満足そうに見ながら、アルベルトも匙を手に取り食べ始めた。

 四枚の皿が空になるまで、そう時間はかからなかった。
 そしてアルベルトもきちんと完食する。

「ま、まあ、美味しかったわ」
「いや~主食ばっかってどうなん?て思ったばってん、意外と調和の取れるもんばいね」
「五色の主食は大地の恵み。考えてみれば合わないわけはないのよね」
「卵も美味しかった…お肉も…」

「お気に召したようで良かったよ」

 みなの満足そうな顔を見てアルベルトもホッとする。調理役というのも契約内容に含まれているのだから、最初の一品でまずは胃袋を掴むことができてひと安心である。

「おいちゃんこげな料理ばどこで覚えたとね?」
「これは東方世界に行ったときに向こうで習ったやつだね。こっちに帰ってきてからも作ってて、多少はアレンジも加えたから元の料理とは結構別物になってるけど」

 東方世界への旅の最初の食事、だからこそ彼はこれを選んだのだ。自分が知っている中でもっとも作り慣れた東方の料理だからこそ、『最初の一品』としてはこれ以上の適役はなかった。
 そしてアルベルトの調理の腕前を見るために、蒼薔薇騎士団は敢えて出発に昼前の時間帯を選んだのだ。ある程度作れるのはあの森について行った日の経験から分かってはいたが、『ちゃんとした料理』を見せてもらう必要があったのだ。

「ああ、それで。道理で作り慣れてると思ったわ」
「ということは、これは東方あちらの料理ってことね?」
「そうだね。ただこれはリ・カルンの料理ってわけじゃなくて、何でも竜骨回廊の果てにある『華国』って国の料理らしい。俺が習ったのがその国出身の料理人だったんだよね」

「…やっぱおいちゃんば雇うて正解やった」
「ええ、本当に」
「そ、そうね…」

 改めて、アルベルトの知識と経験の豊富さを再確認するミカエラたちであった。レギーナだけ心なしか顔を俯かせて表情を隠しているが、まあ気にしないでおいてあげよう。

「じゃ、俺はスズに餌あげてくるから。少し腹休めして、それから出発しようか」

 空になった食器を調理場に片付けてから、そう言ってアルベルトは車外に出てゆく。

 彼の姿が見えなくなってから、ホッと気を抜いたようにソファにしなだれかかる蒼薔薇騎士団の面々。やはり異性といるのは緊張するのか。

「「「「はぁ…。おかわり欲しい…」」」」

 いやもう無いよ?全部君らが食べちゃったじゃん!


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