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第一章【出立まで】

【幕裏1】勇者様御一行の裏話(3)

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 訥々と話し始める目の前の中年冒険者の説明に、レギーナもミカエラも驚きを禁じ得ない。もちろんそれはヴィオレもクレアも同様だっただろう。
 何しろ、いくら調べても全く見つからなかった蛇王の情報を、彼はペラペラと喋りだしたのだから。それも具体的に、詳細に。

「いやいや、おいちゃんちかっぱものすごく詳しいやん!なんなそれどこで調べたと!?」
「ちょっと待ちなさいよ、あなたどうしてそんなに詳しいのよ!?どんな文献にも『肩から二匹の蛇を生やした魔王』ってだけしか載ってなかったのに!」

 しかも彼は一度戦ったことがあるとまで言う。

「ハァ!?昔戦ったですってえ!?」
「いやいや待ちんしゃいなさいて!普通は戦うどころか遭遇したら生きて帰れんっちゃけど!?」
「ていうか戦ったのっていつなのよ!?基本的に封印から出てこれないはずなんだけど!?」

「「それ先代勇者パーティじゃないやんか!! 」」

 まさか勇者ユーリの言うことが、それを受けて自分たちで調べた結果が逐一全部本当だったなんて思いもよらなかった。あまりにも荒唐無稽が過ぎると、頭から決め付けて否定してかかっていたことを反省するしかないレギーナである。
 というか、知らず知らずのうちに自分の頭が固定観念に凝り固まってしまっていたのかも知れない。自分だけでなくミカエラも、ヴィオレもクレアも。

 であれば、自分たちとは思考回路の全く異なる人間を側に置いて、思考をブラッシュアップすることが必要なのではないだろうか。
 …よし、決めた。

「あなた、私達について来なさい!
私達を案内して東方世界へ、蛇王の封じられている蛇封山まで案内しなさい!」


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 そしてそうと決めたはいいものの、本当に大丈夫なのか、自分たちの都合で振り回してやいないか、何より彼の意思を無視して無理やり連れ回す事態になってやしないか。
 そう考えると急に不安になるレギーナである。
 基本的に人は好いのだ彼女は。自分のワガママを押し付けて、他人の嫌がることを無理強いさせたくはないのだ。
 だから。

「彼の普段の1日が見てみたいわ」
「…は?」
「だって彼のこと、まだ何も知らないのよ?そんなんで長旅を共にできるわけないじゃない!
だから今日は1日、彼に付いて彼の仕事ぶりを見ることにするわ!仕事ぶりを見れば人となりも分かるし、そうすれば私たちに同行させるに相応しいかどうかも分かるもの!」
「あ~、まあ良かばってんいいけど…」


 そうして一日中彼に付きまとい、森の中を歩き回り、彼と別れたその日の帰路。

「…で、どげんやったね姫ちゃん?」
「ん…まあ、悪い人ではないわね。真面目だし、無欲だし、私たちに色目や欲目も使わないし」
「私たちが勇者パーティだと知ってなお、普段通りだったわねえ、あれは」
「あの人は…良い人…」

「なんね、全員一致やないね」

 そう言ってミカエラが笑った。
 それが総意であることに、誰一人異存はなかった。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「というわけで、彼は信用に値すると判断致しました」

 アルベルトの元に押しかけて彼の仕事ぶりを1日かけて観察した翌日。
 領主公邸にて、改めて事の経過を報告しているレギーナである。

「彼のことを気に入ってもらえたようで、我々としても安堵するばかりだよ」

 穏やかに微笑むラグ辺境伯、勇者ロイ。
 そしてその隣には“魔剣士”ザラック。

アルベルトあの子は、仲間と折り合いが付かずに挫折しかかっていたユーリを立ち直らせてくれた子でね」

 ザラックが昔を懐かしむような目をして言った。

「それが今やすっかり希望を失って、ああしてずっと自分の殻に閉じ込もっておってな。あの子の気持ちを思えば、今まではそれを黙って見ているしかなかったんじゃが…」

 つまり勇者ロイも魔剣士ザラックも彼のことを知っていて、ずっと気にかけつつ見守っていたということになる。
 そしてもちろん、勇者ユーリも。

「彼に手を差し伸べてくれて感謝しているよ、勇者レギーナ。正直な話、彼に話を聞くだけ聞いてそのまま発ってしまうとばかり思っていた」

「あ…いえ、その…」

 ザラックとロイに口々に謝意を述べられてレギーナは口ごもる。まさか彼の都合も考えず、自分の思惑だけであとは特に深くは考えてなかったなどと言える雰囲気ではなかった。

「君の見立て通り、彼はこの先の道中、のみならず東方世界に至ってからも君たちの役に立つだろう。どうか共に力を合わせて、立派に役目を果たしてきてほしい」

「…分かりました。ご期待に沿うよう精進致します」

 ロイのその激励に、彼女はただ頭を下げて応えるしかなかった。

「ところで、君のところは女性ばかりだと聞いておるんじゃが、本当に彼を同行させて大丈夫かね?」

「えっ、……………………あ。」

 ザラックにそう言われて、今更ながら気付いたレギーナであった。


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