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序章【運命の出会い】
0-16.ということで依頼されました
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彼女たち蒼薔薇騎士団は蛇王に関する調査にあたって、ひとつ重要なことを調べ損ねていた。先代勇者である勇者ユーリの率いたパーティ、すなわち“輝ける五色の風”が改名していたことに気付かなかったのだ。だから彼女たちは、改名前に何度かメンバーの入れ替えがあった事にも気付いていなかった。
もしもそれを調べられていれば、虹の風時代にアルベルトが在籍していたこともきっと気付いたはずだった。
(そりゃそうなるわよねえ。先代勇者パーティの元メンバーが、ランクも上げずに未だに毎日薬草採ってるなんて、普通は思わないもの…)
頭を抱えながら内心でため息を吐くのはアヴリーだ。きっと蒼薔薇騎士団の面々だってアルベルトが熟練者や凄腕ぐらいになっていれば素直に信じられるのだろうが、よりにもよってただの一人前のままで、聞いた限りだと森で殺されかけても剣さえ抜かなかったというのだから、信じろという方がどうかしている。
だが彼が先々代の勇者パーティ“竜を捜す者たち”の一員にして“最後の歌姫”と称される伝説の吟遊詩人、バーブラ・スート・ライサウンドの名と“輝ける五色の風”の名を出したことで、ある程度の信憑性は担保されてしまっている。
そして、蒼薔薇騎士団の面々がそれを信じていいものやら迷っているのも見て取れた。
だから彼女は口を開く。
「彼が“輝ける五色の風”の元メンバーなのは事実です。彼自身は一介の冒険者に過ぎませんが、脱退してからは亡くなった元の仲間の墓を守る傍ら、ラグの冒険者や人々のために神殿から依頼されて薬草の採取と群生地の管理を行っています。
そのことは辺境伯もご存知で、彼が望まない限りはランク昇格試験も行わなくてよい、とご許可頂いております」
そう、だからアヴリーはアルベルトを何とか翻意させようと、しきりに昇格試験を受けるよう奨めていたのだ。もうそろそろ薬草採取も後任に譲って、その経歴に相応しい地位と名声を得てほしいと、そう願っていた。
だがアルベルトが望まない限り昇格試験が行えないのだから、まず彼にその気になってもらわなければならなかったのだ。
「今のラグ辺境伯って言ったら…」
「ロイ様…」
「先々代の勇者様よねえ」
「どうやら、こらぁ信じるしかなかごたんね」
ミカエラのその一言が、蒼薔薇騎士団の総意になった。
「よし、分かったわ!あなた、私達について来なさい!」
突然レギーナが立ち上がり、アルベルトに向かって指を突き付ける。
「えっ?」
「私達を案内して東方世界へ、蛇王の封じられている蛇封山まで案内しなさいって言ってるの!」
「いや姫ちゃん?話だけ聞いとったらよかっちゃない?」
「なんでよ?東方世界なんて行ったこともないんだし、道案内は必要でしょ?」
「そらそうかも知らんばってん、同行さしたら新加入かて間違われろうもん…」
可愛らしい女の子だけのパーティ、それが蒼薔薇騎士団のパーティコンセプトである。その中にアルベルトのような中年のおっさんが交じるのは違和感も甚だしい。
若干一名、すでにコンセプトを外れている気がしないでもないが、それはツッコむだけ野暮というものだ。
「誰も加入させるなんて言ってないじゃない。それにどのみち『道先案内人』は必要でしょ?大丈夫よそんなの見れば分かるんだから!」
何故か自信満々なレギーナの姿に、ミカエラはひとつため息を吐いて抵抗を諦める。
「道先案内人としてアルベルトをお雇いになる、ということでよろしいですね?」
アヴリーが確認する。
「…そやね。それがウチらからの正式な依頼っちゅうことで処理してもろうて構わんですよ」
「では契約の詳細ですが…」
「そうねえ、依頼内容は封印現地までの案内とそれに伴う雑事の処理、東方世界に至ってからの現地との折衝、ってところかしら?」
「期間は目的ば達成して封印ば修正し終えるまで、でどげんかいな」
「報酬は…その都度現物あるいは金銭で本人に直接支給、でいいかしらね?」
「もちろん仲介料はギルドの規定通り即金でお支払いしますけん」
「いや勝手に話を進めないでもらえるかな?」
急な話の展開に、慌てたアルベルトが抗議の声を上げた。
「あらなに?世界を滅ぼすような恐ろしい魔王を相手に、か弱い女の子だけで立ち向かえって言うわけ?」
「いやか弱いって言われても…。君は勇者なんだし、どう考えたって君たちの方が強いじゃないか…」
それに今の話だとアルベルトは単なる案内人でしかないのに、そんな助っ人扱いされても困る。
「あなただって元とはいえ勇者パーティの一員でしょ!?可愛い後輩を助けようとか思わないの!?」
「いや、ユーリが勇者になったのって俺が抜けて随分経ってからだし」
ユーリが正式に勇者と認定されたのはアルベルトの脱退後。新たに人員を補充してパーティが“輝ける五色の風”と改名してからのことである。より具体的には改名後さらに1年ほど実績を積んでからの話なので、アルベルトには自分が勇者パーティの元メンバーだという自覚は全くなかった。
彼の感覚では所属していたのはあくまでも“輝ける虹の風”であって、勇者パーティである“輝ける五色の風”に所属していたつもりなどなかった。例えて言うなら「元同僚が出世して偉くなった」という感覚に近く、勇者パーティの一員として扱われるのは違和感しかなかったのだ。
「どっちにしたってもう決めたことよ。四の五の言ってないで覚悟決めなさいよ!」
レギーナが傲然と胸を張る。
これはどうも、言い出したら聞かないタイプのようだ。
アヴリーがチラリとアルベルトを見る。
アルベルトはしばらく逡巡していたが、やがてひとつ小さく息を吐く。
あまりに突然の話で困惑しかなく、自分には身に余る大役だとも思う。だが彼女たちには命を救ってもらった恩があり、それは返さなければならない。そしてどうやら自分の知識と経験は彼女たちの求めるものに合致している。
何よりも、二度とないと思っていた蛇王への再挑戦の機会を与えられたのだ。そう考えれば、自分にとっては願ってもないことだ。
やがて彼は顔を真っ直ぐ上げると、しっかりとレギーナの顔を見た。
「思ってもみない話だったけど、確かに俺がやれることはあると思う。それに命を助けてもらったお礼もしないとだし。
だからこの依頼、喜んで受けさせて頂きます」
彼はキッパリと言い切った。
その顔には揺るぎない決意が浮かんでいた。
「よし、じゃあ決まりね!」
「ほんならよろしゅうな、アルベルトさん」
「よろしく。いい旅にしましょう?」
「…。」
蒼薔薇騎士団の面々が次々とアルベルトに握手を求める。クレアだけは無言でやや恥ずかしそうだったが、それでも最後はしっかりと彼の手を取った。
こうして、ラグのしがない低ランク冒険者だったはずのアルベルトの運命は大きく変わり始めた。一度は「落第」した男がこの先どういう活躍を見せるのか、それは本人にもまだ分からない。
ただこの時はまだ、これが丸1年にも及ぶ長い長い旅になろうとは、この場の誰もが知る由もなかったのだった。
もしもそれを調べられていれば、虹の風時代にアルベルトが在籍していたこともきっと気付いたはずだった。
(そりゃそうなるわよねえ。先代勇者パーティの元メンバーが、ランクも上げずに未だに毎日薬草採ってるなんて、普通は思わないもの…)
頭を抱えながら内心でため息を吐くのはアヴリーだ。きっと蒼薔薇騎士団の面々だってアルベルトが熟練者や凄腕ぐらいになっていれば素直に信じられるのだろうが、よりにもよってただの一人前のままで、聞いた限りだと森で殺されかけても剣さえ抜かなかったというのだから、信じろという方がどうかしている。
だが彼が先々代の勇者パーティ“竜を捜す者たち”の一員にして“最後の歌姫”と称される伝説の吟遊詩人、バーブラ・スート・ライサウンドの名と“輝ける五色の風”の名を出したことで、ある程度の信憑性は担保されてしまっている。
そして、蒼薔薇騎士団の面々がそれを信じていいものやら迷っているのも見て取れた。
だから彼女は口を開く。
「彼が“輝ける五色の風”の元メンバーなのは事実です。彼自身は一介の冒険者に過ぎませんが、脱退してからは亡くなった元の仲間の墓を守る傍ら、ラグの冒険者や人々のために神殿から依頼されて薬草の採取と群生地の管理を行っています。
そのことは辺境伯もご存知で、彼が望まない限りはランク昇格試験も行わなくてよい、とご許可頂いております」
そう、だからアヴリーはアルベルトを何とか翻意させようと、しきりに昇格試験を受けるよう奨めていたのだ。もうそろそろ薬草採取も後任に譲って、その経歴に相応しい地位と名声を得てほしいと、そう願っていた。
だがアルベルトが望まない限り昇格試験が行えないのだから、まず彼にその気になってもらわなければならなかったのだ。
「今のラグ辺境伯って言ったら…」
「ロイ様…」
「先々代の勇者様よねえ」
「どうやら、こらぁ信じるしかなかごたんね」
ミカエラのその一言が、蒼薔薇騎士団の総意になった。
「よし、分かったわ!あなた、私達について来なさい!」
突然レギーナが立ち上がり、アルベルトに向かって指を突き付ける。
「えっ?」
「私達を案内して東方世界へ、蛇王の封じられている蛇封山まで案内しなさいって言ってるの!」
「いや姫ちゃん?話だけ聞いとったらよかっちゃない?」
「なんでよ?東方世界なんて行ったこともないんだし、道案内は必要でしょ?」
「そらそうかも知らんばってん、同行さしたら新加入かて間違われろうもん…」
可愛らしい女の子だけのパーティ、それが蒼薔薇騎士団のパーティコンセプトである。その中にアルベルトのような中年のおっさんが交じるのは違和感も甚だしい。
若干一名、すでにコンセプトを外れている気がしないでもないが、それはツッコむだけ野暮というものだ。
「誰も加入させるなんて言ってないじゃない。それにどのみち『道先案内人』は必要でしょ?大丈夫よそんなの見れば分かるんだから!」
何故か自信満々なレギーナの姿に、ミカエラはひとつため息を吐いて抵抗を諦める。
「道先案内人としてアルベルトをお雇いになる、ということでよろしいですね?」
アヴリーが確認する。
「…そやね。それがウチらからの正式な依頼っちゅうことで処理してもろうて構わんですよ」
「では契約の詳細ですが…」
「そうねえ、依頼内容は封印現地までの案内とそれに伴う雑事の処理、東方世界に至ってからの現地との折衝、ってところかしら?」
「期間は目的ば達成して封印ば修正し終えるまで、でどげんかいな」
「報酬は…その都度現物あるいは金銭で本人に直接支給、でいいかしらね?」
「もちろん仲介料はギルドの規定通り即金でお支払いしますけん」
「いや勝手に話を進めないでもらえるかな?」
急な話の展開に、慌てたアルベルトが抗議の声を上げた。
「あらなに?世界を滅ぼすような恐ろしい魔王を相手に、か弱い女の子だけで立ち向かえって言うわけ?」
「いやか弱いって言われても…。君は勇者なんだし、どう考えたって君たちの方が強いじゃないか…」
それに今の話だとアルベルトは単なる案内人でしかないのに、そんな助っ人扱いされても困る。
「あなただって元とはいえ勇者パーティの一員でしょ!?可愛い後輩を助けようとか思わないの!?」
「いや、ユーリが勇者になったのって俺が抜けて随分経ってからだし」
ユーリが正式に勇者と認定されたのはアルベルトの脱退後。新たに人員を補充してパーティが“輝ける五色の風”と改名してからのことである。より具体的には改名後さらに1年ほど実績を積んでからの話なので、アルベルトには自分が勇者パーティの元メンバーだという自覚は全くなかった。
彼の感覚では所属していたのはあくまでも“輝ける虹の風”であって、勇者パーティである“輝ける五色の風”に所属していたつもりなどなかった。例えて言うなら「元同僚が出世して偉くなった」という感覚に近く、勇者パーティの一員として扱われるのは違和感しかなかったのだ。
「どっちにしたってもう決めたことよ。四の五の言ってないで覚悟決めなさいよ!」
レギーナが傲然と胸を張る。
これはどうも、言い出したら聞かないタイプのようだ。
アヴリーがチラリとアルベルトを見る。
アルベルトはしばらく逡巡していたが、やがてひとつ小さく息を吐く。
あまりに突然の話で困惑しかなく、自分には身に余る大役だとも思う。だが彼女たちには命を救ってもらった恩があり、それは返さなければならない。そしてどうやら自分の知識と経験は彼女たちの求めるものに合致している。
何よりも、二度とないと思っていた蛇王への再挑戦の機会を与えられたのだ。そう考えれば、自分にとっては願ってもないことだ。
やがて彼は顔を真っ直ぐ上げると、しっかりとレギーナの顔を見た。
「思ってもみない話だったけど、確かに俺がやれることはあると思う。それに命を助けてもらったお礼もしないとだし。
だからこの依頼、喜んで受けさせて頂きます」
彼はキッパリと言い切った。
その顔には揺るぎない決意が浮かんでいた。
「よし、じゃあ決まりね!」
「ほんならよろしゅうな、アルベルトさん」
「よろしく。いい旅にしましょう?」
「…。」
蒼薔薇騎士団の面々が次々とアルベルトに握手を求める。クレアだけは無言でやや恥ずかしそうだったが、それでも最後はしっかりと彼の手を取った。
こうして、ラグのしがない低ランク冒険者だったはずのアルベルトの運命は大きく変わり始めた。一度は「落第」した男がこの先どういう活躍を見せるのか、それは本人にもまだ分からない。
ただこの時はまだ、これが丸1年にも及ぶ長い長い旅になろうとは、この場の誰もが知る由もなかったのだった。
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