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序章【運命の出会い】
0-15.まさかの“先輩”
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「で、くさ。聞きたか話っちゅうとは“蛇王”に関する話なんたいね」
気を取り直して、ミカエラが切り出した。
蛇王。
それは世界の終末の時に世を滅ぼすと言われている、数ある魔王級の中でも最悪に近い魔王である。その脅威は西方世界に留まらず、東方世界にまで及ぶ。
それほどの恐るべき存在でありながら、その身を滅ぼすことができないとされる不死身の魔王であり、だから人類の対抗手段としては戦い弱らせて封印するしかないという。
その蛇王の封印が、近年になって綻んでいるのが観測されたというのだ。
「そやけんくさ、誰かが封印ば修正しげ行かないかんとばってん、西方世界には蛇王に関する文献の少ないとよね」
説明しながらミカエラが腕を組んで困った顔をする。
蛇王が封じられている地は東方世界にあって、西方世界ではなかなか信憑性の高い情報が得られないのだという。そのため、具体的な作戦も封印修正プランも決められないのだという。
「んで、色々調べよるうちに『ラグのアルベルトっちゅう冒険者が詳しく知っとる』っていう話ば聞いてくさ。それでおいちゃんに話ば聞きに来たとよ」
聞きたい話というのはそれだったのか、とアルベルトは納得する。
納得はするが、アルベルトだって世間に流布している話以上に詳しいわけではない。確かに昔一度調べたことがあるが、ただそれだけだ。
「情報源が信頼できるから一応来てみたんだけど、どうも腑に落ちないのよね。来てみたら来てみたでなんか殺されそうになってるし、本人はのほほんと笑ってる低ランク冒険者だし。
あなた、本当に詳しいの?」
レギーナは森でも懐疑的だった。
まあアルベルトの風体を考えれば無理もない。一介の低ランク冒険者が、勇者の関わるような魔王に詳しいと言われても、普通は信じられるものではないだろう。
ちなみに冒険者のランクは、一人前までは依頼をこなしてさえいれば規定によってほぼ自動で上がれる。ギルド側の審査や面接などが入るのは腕利きからだ。だから一般的に一人前までは低ランク、それ以上は中ランクに分類される。なお高ランクとして扱われるのは凄腕以上で、だから高ランク冒険者というのはほんの一握りしかいない。
「確かに、蛇王に関しては昔調べたことがあるんだけど、俺だってそんなに詳しいわけじゃないよ。世間で知られている話以上のことは話せないと思うんだけどなあ」
頭を掻きながら、申し訳なさそうにアルベルトが言う。言いながら『信頼できる情報源』とは誰のことだろうと考えを巡らせる。自分が蛇王を調べたことがあると知っている人間なんて限られているのだが。
「俺が知ってるのは、蛇王っていうのは不死の魔王で、両肩から二匹の大蛇を生やしていて、恐るべき怪力と魔術の力を持っていて、巨人みたいな巨体なのに風のように素早くて、封印で力を制限されていても普通じゃ歯が立たないくらい強い、ってことくらいで…」
アルベルトが語り始めると、何故かレギーナやミカエラたちの顔色が驚きに染まってゆく。
「東方世界にある、今のリ・カルン公国のある“大河”沿岸一帯をかつて千年にわたって暴力と恐怖で支配した古代の王で、英雄王ファリドゥーンに封印された後は歴代の勇者たちが繰り返し封印することで現在まで抑え込んできた、っていうことぐらいしか知らないんだけど。
あ、世界の終末の時には【悪竜アジ・ダハーカ】に変じて世界を滅ぼす存在になると言われていて、その悪竜になってからでないと倒せない、っていうのも聞いたかな。だから今はまだ封印することしかできないって話だったよ」
ふと気付けば、蒼薔薇騎士団の面々がポカンと口を開けて、呆然とアルベルトを見ている。
「…あれ、なんかおかしな事を言ったかな?」
「い、いやいやいや!おいちゃんちかっぱ詳しいやん!何それどこで調べたと!?巨体の話やら英雄王やらアジ・ダハーカやら、全部初耳っちゃけど!?」
「ウソでしょ、ホントにこんなただのおっさんが詳しいなんて…」
「これは、わざわざ来た甲斐があったわねえ…」
「もっと色々聞きたい…多分まだ知ってる…」
「いや、もっとって言われてもなあ。リ・カルンの最高峰の霊山に封印されていて、その山が蛇王を封印してるから“蛇封山”って呼ばれてることとか、肩から生えてる蛇もまた不死で斬ってもすぐ生えてくるとか、その蛇には毎日人間の脳を食べさせないといけなくて、それで毎日二人の生贄を要求されるとか、そのくらいだよ?」
「蛇の不死も生贄の話も知らんっちゃけど!?」
「ちょっと待ちなさいよ、あなたどうしてそんなに詳しいのよ!?どんな文献にも『肩から二匹の蛇を生やした魔王』ってだけしか載ってなかったのに!」
どうやら世間で流布されている情報は、アルベルトが思っていたよりもずっと少なそうである。
「どうして、って言われてもね…。昔一度戦った事があるっていうだけで、あとはリ・カルンの文献で調べたくらいかな…」
何故か責められてるような気分になって、それで少しだけ小さくなってしまうアルベルトであった。
だがその一言に、またもや驚愕する蒼薔薇騎士団。
「はぁ!?昔戦ったですってえ!?」
「いやいや待ちんしゃいて!戦ったやら気安う言うばってん、普通は戦うどころか遭遇したら生きて帰れんっちゃけど!?」
「ていうか戦ったのっていつなのよ!?基本的に封印から出てこれないはずなんだけど!?」
「うん、まあ、その封印が緩んでるから直してこいってバーブラ先生に言われて、それで直しに行ったんだよね。もう18年も前の話だよ。
いやあ、あの時も絶対死んだと思ったものだけどね」
事もなげに言うアルベルトの姿にまたしても絶句するレギーナたち。
「待っておいちゃん?バーブラ先生て今言うた?先生のこと知っとうと?」
「ていうか18年前に封印を修正したのって…」
「うん、“輝ける虹の風”だね」
「“輝ける虹の風”…?」
「…あ、そうか、俺が脱退した後に“輝ける五色の風”に改名したんだっけ。何でもマスタングさんが入って加護が五色揃ったから、って」
「「それ先代勇者パーティじゃない!! 」」
レギーナとミカエラの声が語尾を除いて綺麗にハモった。
気を取り直して、ミカエラが切り出した。
蛇王。
それは世界の終末の時に世を滅ぼすと言われている、数ある魔王級の中でも最悪に近い魔王である。その脅威は西方世界に留まらず、東方世界にまで及ぶ。
それほどの恐るべき存在でありながら、その身を滅ぼすことができないとされる不死身の魔王であり、だから人類の対抗手段としては戦い弱らせて封印するしかないという。
その蛇王の封印が、近年になって綻んでいるのが観測されたというのだ。
「そやけんくさ、誰かが封印ば修正しげ行かないかんとばってん、西方世界には蛇王に関する文献の少ないとよね」
説明しながらミカエラが腕を組んで困った顔をする。
蛇王が封じられている地は東方世界にあって、西方世界ではなかなか信憑性の高い情報が得られないのだという。そのため、具体的な作戦も封印修正プランも決められないのだという。
「んで、色々調べよるうちに『ラグのアルベルトっちゅう冒険者が詳しく知っとる』っていう話ば聞いてくさ。それでおいちゃんに話ば聞きに来たとよ」
聞きたい話というのはそれだったのか、とアルベルトは納得する。
納得はするが、アルベルトだって世間に流布している話以上に詳しいわけではない。確かに昔一度調べたことがあるが、ただそれだけだ。
「情報源が信頼できるから一応来てみたんだけど、どうも腑に落ちないのよね。来てみたら来てみたでなんか殺されそうになってるし、本人はのほほんと笑ってる低ランク冒険者だし。
あなた、本当に詳しいの?」
レギーナは森でも懐疑的だった。
まあアルベルトの風体を考えれば無理もない。一介の低ランク冒険者が、勇者の関わるような魔王に詳しいと言われても、普通は信じられるものではないだろう。
ちなみに冒険者のランクは、一人前までは依頼をこなしてさえいれば規定によってほぼ自動で上がれる。ギルド側の審査や面接などが入るのは腕利きからだ。だから一般的に一人前までは低ランク、それ以上は中ランクに分類される。なお高ランクとして扱われるのは凄腕以上で、だから高ランク冒険者というのはほんの一握りしかいない。
「確かに、蛇王に関しては昔調べたことがあるんだけど、俺だってそんなに詳しいわけじゃないよ。世間で知られている話以上のことは話せないと思うんだけどなあ」
頭を掻きながら、申し訳なさそうにアルベルトが言う。言いながら『信頼できる情報源』とは誰のことだろうと考えを巡らせる。自分が蛇王を調べたことがあると知っている人間なんて限られているのだが。
「俺が知ってるのは、蛇王っていうのは不死の魔王で、両肩から二匹の大蛇を生やしていて、恐るべき怪力と魔術の力を持っていて、巨人みたいな巨体なのに風のように素早くて、封印で力を制限されていても普通じゃ歯が立たないくらい強い、ってことくらいで…」
アルベルトが語り始めると、何故かレギーナやミカエラたちの顔色が驚きに染まってゆく。
「東方世界にある、今のリ・カルン公国のある“大河”沿岸一帯をかつて千年にわたって暴力と恐怖で支配した古代の王で、英雄王ファリドゥーンに封印された後は歴代の勇者たちが繰り返し封印することで現在まで抑え込んできた、っていうことぐらいしか知らないんだけど。
あ、世界の終末の時には【悪竜アジ・ダハーカ】に変じて世界を滅ぼす存在になると言われていて、その悪竜になってからでないと倒せない、っていうのも聞いたかな。だから今はまだ封印することしかできないって話だったよ」
ふと気付けば、蒼薔薇騎士団の面々がポカンと口を開けて、呆然とアルベルトを見ている。
「…あれ、なんかおかしな事を言ったかな?」
「い、いやいやいや!おいちゃんちかっぱ詳しいやん!何それどこで調べたと!?巨体の話やら英雄王やらアジ・ダハーカやら、全部初耳っちゃけど!?」
「ウソでしょ、ホントにこんなただのおっさんが詳しいなんて…」
「これは、わざわざ来た甲斐があったわねえ…」
「もっと色々聞きたい…多分まだ知ってる…」
「いや、もっとって言われてもなあ。リ・カルンの最高峰の霊山に封印されていて、その山が蛇王を封印してるから“蛇封山”って呼ばれてることとか、肩から生えてる蛇もまた不死で斬ってもすぐ生えてくるとか、その蛇には毎日人間の脳を食べさせないといけなくて、それで毎日二人の生贄を要求されるとか、そのくらいだよ?」
「蛇の不死も生贄の話も知らんっちゃけど!?」
「ちょっと待ちなさいよ、あなたどうしてそんなに詳しいのよ!?どんな文献にも『肩から二匹の蛇を生やした魔王』ってだけしか載ってなかったのに!」
どうやら世間で流布されている情報は、アルベルトが思っていたよりもずっと少なそうである。
「どうして、って言われてもね…。昔一度戦った事があるっていうだけで、あとはリ・カルンの文献で調べたくらいかな…」
何故か責められてるような気分になって、それで少しだけ小さくなってしまうアルベルトであった。
だがその一言に、またもや驚愕する蒼薔薇騎士団。
「はぁ!?昔戦ったですってえ!?」
「いやいや待ちんしゃいて!戦ったやら気安う言うばってん、普通は戦うどころか遭遇したら生きて帰れんっちゃけど!?」
「ていうか戦ったのっていつなのよ!?基本的に封印から出てこれないはずなんだけど!?」
「うん、まあ、その封印が緩んでるから直してこいってバーブラ先生に言われて、それで直しに行ったんだよね。もう18年も前の話だよ。
いやあ、あの時も絶対死んだと思ったものだけどね」
事もなげに言うアルベルトの姿にまたしても絶句するレギーナたち。
「待っておいちゃん?バーブラ先生て今言うた?先生のこと知っとうと?」
「ていうか18年前に封印を修正したのって…」
「うん、“輝ける虹の風”だね」
「“輝ける虹の風”…?」
「…あ、そうか、俺が脱退した後に“輝ける五色の風”に改名したんだっけ。何でもマスタングさんが入って加護が五色揃ったから、って」
「「それ先代勇者パーティじゃない!! 」」
レギーナとミカエラの声が語尾を除いて綺麗にハモった。
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