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序章【運命の出会い】
0-13.助けてくれてありがとう
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「ああ、クレア?あなた今どこにいるの?
…え、宿?外は暑いからもう出たくない?」
蒼髪の女剣士が腰の道具袋から取り出した小ぶりな手鏡に話しかけている。[通信]の術式が付与されていてあらかじめ決められたペア同士で会話が可能な“通信鏡”だろう。広く普及しているとはいえそこそこの値がする魔道具で、それを個人で使ってるあたり、それなりにリッチなのがよく分かる。
いやまあ金の認識票、つまり到達者なんだから稼ぎもアルベルトなんかには想像もできないほどあるはずなんだが。
「じゃあヴィオレは?
…は?あれから戻ってないの?またぁ!?」
どうやら彼女は別行動の仲間に連絡を取りたいようだが、勝手にどこかに行ってしまっているらしい。
彼女が仲間と連絡を取っているのは、いまだに彼女の足元で呻いている男どもを片付けるためだ。
ひとりも死なせてはいなかったが縛るためのロープなども持っていなさそうだし、そもそも立ち上がれないほど叩きのめしているから移動自体がさせられなくなっている。第一、全員が冒険者の掟に違反した犯罪者で、現行犯で取り押さえたのだからラグの守衛隊に引き渡すと同時にギルドにも通告しなければならない。
そうなると、ここにいるアルベルトと女性2人だけではどうにもならないのだ。
「ああもう、あなたでいいから。ギルドへ行って人を呼んで。そう、ええと…14人いるから。多分市の防衛隊にも連絡した方がいいわね。
…ギルド?〈竜の泉〉亭よ。場所は誰かに聞いて」
「いやいや姫ちゃん〈竜の泉〉亭じゃなかよ?こん人は〈黄金の杯〉亭の方ばい?」
「えっ?……ああごめん、〈黄金の杯〉亭のほうだって。
とにかく!そこに連絡して人を寄こしてよ。じゃないと私達も帰れないわ。
…もう、分かったわよ!今夜のディナーは私がおごるから!それでいいわね?じゃあね!」
最後の方は何だかヤケクソ気味になりながらも、蒼髪の女剣士は通信を終えた。
と、彼女が腰のベルトからナイフを抜いて見もせずに投げる。
「ヒッ!」
息を呑む声のした方を見たら、セルペンスの手下のひとりが身を起こしていて、その足元にナイフが刺さっていた。逃げようとしたところを牽制されたのだ。
「逃げられるとでも思ってるの?いい加減観念しなさいよ」
「しょんなかねえ、面倒くさかばってんこらぁ[拘束]しとこうかね」
緋髪の神徒がいかにも面倒くさそうに魔術の詠唱を始める。すると14人全員の胴と手足に音もなく青色の光が巻き付いた。
一度にこれだけの人数を[拘束]できるとなると、彼女も相当な実力者だ。そう思って驚いていると、そのアルベルトの視線に気付いた彼女が胸元から認識票を取り出して見せ、ニカッと笑う。
彼女もやはり金の認識票だった。
「すごいな、ふたりとも。まだ若いのに強いんだね」
「それほどでもあるけど、まあ普通よ」
思わず賞賛の言葉が漏れるアルベルトに、蒼髪の女剣士は事も無げに肯定する。
「で、ミカエラ。ホントにこれがそうなの?」
そしてその言葉の流れのまま、彼女はアルベルトを「これ」呼ばわりする。
「いやいや“これ”て。ちょっと失礼かばい姫ちゃん。言うたやろ?間違いなかて」
そう言いつつ緋髪の神徒の娘はアルベルトに向き直る。
「おいちゃん、“薬草殺し”のアルベルトさんで間違いなかとよね?」
「そうだけど、その呼び名はあんまり呼んでほしくないかな…」
初対面の、しかもこんな若い娘にまで蔑称で呼ばれるのは、それはそれで忸怩たるものがある。いくら気にしてないとはいえ、気に入っているわけでは決してないのだ。
「ほんなら、“魔女の墓守”て言うた方がよか?」
「いや、まあ、それもちょっと…。まあ間違っちゃいないけど」
アナスタシアが“破壊の魔女”と呼ばれていたのは間違いない事実だ。
事実だが、それも、ちょっと。
「ほらぁ!やっぱ合うとうやん!ウチの調べた通りで間違いなかとって!」
だがアルベルトの困惑などお構いなしに、ミカエラと呼ばれた緋髪の神徒がドヤ顔で胸を張る。
その胸がちょっと薄いのがアルベルトには気になったが、きっと気にしてるだろうし言わないでおこう。
「ふーん。じゃあホントにあなたがそうなのね」
蒼髪の女剣士、さっきから「姫ちゃん」と呼ばれている彼女は、それでもどこか懐疑的だ。
「まあいいわ。こいつらを片付けたら、あなたに聞きたいことがあるから」
「そうなのかい?まあ俺に分かることなら何でも話すけど」
おそらく、聞きたいことというのは転がっている彼らの素性やこうなった経緯などの話だろう。
セルペンスとガンヅ、それにローリンは親玉と実行犯だから擁護できないかも知れないが、その他のメンバーは反省するようなら何とか許してやれないかと、お人好しのアルベルトは考えていた。
「おいちゃんなんかいたらんことば考えとらせんね?こげな奴らに情けやらかけたっちゃ、本人たちのためにならんばい?」
それをミカエラに正確に見抜かれた。
「いや、でもほとんどのメンバーは今回の件には無関係だからね…」
「今回はそやろうばってくさ、色々聞いたばい?強盗、恐喝、詐欺に暴力沙汰やら。なんかもう絵に描いたごたる人間のクズばいこいつら」
ミカエラは容赦ない。
というかどこで聞いてきたのか。
と、蒼髪の女剣士の腰で何かの音が鳴る。
彼女が道具袋から通信鏡を取り出した。
「あ、私。クレアちゃんと行ってくれた?
うん、そう。いい子ね、あとでハグしてあげる♪」
どうやら鏡の向こうの仲間はちゃんとギルドに連絡を取ってくれたようで、女剣士の機嫌がよくなってゆく。
「そういえばお礼がまだだったね。危ないところを助けてくれて本当にありがとう。今回ばかりはさすがにもう駄目かと思ったよ」
「別にお礼を言われるほど何かしたわけじゃないわ。ていうか、今回みたいなことがそんなしょっちゅう起こってるの?」
「いや、こんな事はさすがに初めてなんだけど、今まで冒険でも何度か死にそうな状況には遭ってきたからね」
獣や魔獣や魔物に殺されそうになったことなら何度もある。だがさすがに人に殺されそうになったのは初めて経験したアルベルトであった。
よりによって人に殺されかけたのが一番のピンチだったなんて、世の中世知辛いにも程がある。
「ま、無事に切り抜けられたっちゃけんよかたいね。ウチらもおいちゃん殺されとったらちぃとばかし困ることになっとったけん、後つけてきて正解やった」
「そう言えば、君たちよくここが分かったよね?[感知]でも君たちみたいな大きな魔力は感じなかったのに」
「そらぁ、ウチらは森の外から[感知]しとったけんね。動きがのうなってから寄ってったとよ」
「…いや、森の外からって随分距離があるんだけど…。ああ、でもそうか。到達者だもんな君らは」
「そういう事たいね♪」
アルベルトはさんざん動き回った挙句に森の入り口近くまで戻ってきていた。それで彼女たちも動きが止まってからすぐ駆けつけてこれたのだろう。
そうやってしばらく話しているうちに、複数の人間が駆けてくる気配がしてきた。
「やっと“お迎え”が来たみたいね」
蒼髪の女剣士が気配の方に顔を向ける。
川沿いから上がってくる一団の先頭に、焦りを浮かべたファーナの顔が見えた。
…え、宿?外は暑いからもう出たくない?」
蒼髪の女剣士が腰の道具袋から取り出した小ぶりな手鏡に話しかけている。[通信]の術式が付与されていてあらかじめ決められたペア同士で会話が可能な“通信鏡”だろう。広く普及しているとはいえそこそこの値がする魔道具で、それを個人で使ってるあたり、それなりにリッチなのがよく分かる。
いやまあ金の認識票、つまり到達者なんだから稼ぎもアルベルトなんかには想像もできないほどあるはずなんだが。
「じゃあヴィオレは?
…は?あれから戻ってないの?またぁ!?」
どうやら彼女は別行動の仲間に連絡を取りたいようだが、勝手にどこかに行ってしまっているらしい。
彼女が仲間と連絡を取っているのは、いまだに彼女の足元で呻いている男どもを片付けるためだ。
ひとりも死なせてはいなかったが縛るためのロープなども持っていなさそうだし、そもそも立ち上がれないほど叩きのめしているから移動自体がさせられなくなっている。第一、全員が冒険者の掟に違反した犯罪者で、現行犯で取り押さえたのだからラグの守衛隊に引き渡すと同時にギルドにも通告しなければならない。
そうなると、ここにいるアルベルトと女性2人だけではどうにもならないのだ。
「ああもう、あなたでいいから。ギルドへ行って人を呼んで。そう、ええと…14人いるから。多分市の防衛隊にも連絡した方がいいわね。
…ギルド?〈竜の泉〉亭よ。場所は誰かに聞いて」
「いやいや姫ちゃん〈竜の泉〉亭じゃなかよ?こん人は〈黄金の杯〉亭の方ばい?」
「えっ?……ああごめん、〈黄金の杯〉亭のほうだって。
とにかく!そこに連絡して人を寄こしてよ。じゃないと私達も帰れないわ。
…もう、分かったわよ!今夜のディナーは私がおごるから!それでいいわね?じゃあね!」
最後の方は何だかヤケクソ気味になりながらも、蒼髪の女剣士は通信を終えた。
と、彼女が腰のベルトからナイフを抜いて見もせずに投げる。
「ヒッ!」
息を呑む声のした方を見たら、セルペンスの手下のひとりが身を起こしていて、その足元にナイフが刺さっていた。逃げようとしたところを牽制されたのだ。
「逃げられるとでも思ってるの?いい加減観念しなさいよ」
「しょんなかねえ、面倒くさかばってんこらぁ[拘束]しとこうかね」
緋髪の神徒がいかにも面倒くさそうに魔術の詠唱を始める。すると14人全員の胴と手足に音もなく青色の光が巻き付いた。
一度にこれだけの人数を[拘束]できるとなると、彼女も相当な実力者だ。そう思って驚いていると、そのアルベルトの視線に気付いた彼女が胸元から認識票を取り出して見せ、ニカッと笑う。
彼女もやはり金の認識票だった。
「すごいな、ふたりとも。まだ若いのに強いんだね」
「それほどでもあるけど、まあ普通よ」
思わず賞賛の言葉が漏れるアルベルトに、蒼髪の女剣士は事も無げに肯定する。
「で、ミカエラ。ホントにこれがそうなの?」
そしてその言葉の流れのまま、彼女はアルベルトを「これ」呼ばわりする。
「いやいや“これ”て。ちょっと失礼かばい姫ちゃん。言うたやろ?間違いなかて」
そう言いつつ緋髪の神徒の娘はアルベルトに向き直る。
「おいちゃん、“薬草殺し”のアルベルトさんで間違いなかとよね?」
「そうだけど、その呼び名はあんまり呼んでほしくないかな…」
初対面の、しかもこんな若い娘にまで蔑称で呼ばれるのは、それはそれで忸怩たるものがある。いくら気にしてないとはいえ、気に入っているわけでは決してないのだ。
「ほんなら、“魔女の墓守”て言うた方がよか?」
「いや、まあ、それもちょっと…。まあ間違っちゃいないけど」
アナスタシアが“破壊の魔女”と呼ばれていたのは間違いない事実だ。
事実だが、それも、ちょっと。
「ほらぁ!やっぱ合うとうやん!ウチの調べた通りで間違いなかとって!」
だがアルベルトの困惑などお構いなしに、ミカエラと呼ばれた緋髪の神徒がドヤ顔で胸を張る。
その胸がちょっと薄いのがアルベルトには気になったが、きっと気にしてるだろうし言わないでおこう。
「ふーん。じゃあホントにあなたがそうなのね」
蒼髪の女剣士、さっきから「姫ちゃん」と呼ばれている彼女は、それでもどこか懐疑的だ。
「まあいいわ。こいつらを片付けたら、あなたに聞きたいことがあるから」
「そうなのかい?まあ俺に分かることなら何でも話すけど」
おそらく、聞きたいことというのは転がっている彼らの素性やこうなった経緯などの話だろう。
セルペンスとガンヅ、それにローリンは親玉と実行犯だから擁護できないかも知れないが、その他のメンバーは反省するようなら何とか許してやれないかと、お人好しのアルベルトは考えていた。
「おいちゃんなんかいたらんことば考えとらせんね?こげな奴らに情けやらかけたっちゃ、本人たちのためにならんばい?」
それをミカエラに正確に見抜かれた。
「いや、でもほとんどのメンバーは今回の件には無関係だからね…」
「今回はそやろうばってくさ、色々聞いたばい?強盗、恐喝、詐欺に暴力沙汰やら。なんかもう絵に描いたごたる人間のクズばいこいつら」
ミカエラは容赦ない。
というかどこで聞いてきたのか。
と、蒼髪の女剣士の腰で何かの音が鳴る。
彼女が道具袋から通信鏡を取り出した。
「あ、私。クレアちゃんと行ってくれた?
うん、そう。いい子ね、あとでハグしてあげる♪」
どうやら鏡の向こうの仲間はちゃんとギルドに連絡を取ってくれたようで、女剣士の機嫌がよくなってゆく。
「そういえばお礼がまだだったね。危ないところを助けてくれて本当にありがとう。今回ばかりはさすがにもう駄目かと思ったよ」
「別にお礼を言われるほど何かしたわけじゃないわ。ていうか、今回みたいなことがそんなしょっちゅう起こってるの?」
「いや、こんな事はさすがに初めてなんだけど、今まで冒険でも何度か死にそうな状況には遭ってきたからね」
獣や魔獣や魔物に殺されそうになったことなら何度もある。だがさすがに人に殺されそうになったのは初めて経験したアルベルトであった。
よりによって人に殺されかけたのが一番のピンチだったなんて、世の中世知辛いにも程がある。
「ま、無事に切り抜けられたっちゃけんよかたいね。ウチらもおいちゃん殺されとったらちぃとばかし困ることになっとったけん、後つけてきて正解やった」
「そう言えば、君たちよくここが分かったよね?[感知]でも君たちみたいな大きな魔力は感じなかったのに」
「そらぁ、ウチらは森の外から[感知]しとったけんね。動きがのうなってから寄ってったとよ」
「…いや、森の外からって随分距離があるんだけど…。ああ、でもそうか。到達者だもんな君らは」
「そういう事たいね♪」
アルベルトはさんざん動き回った挙句に森の入り口近くまで戻ってきていた。それで彼女たちも動きが止まってからすぐ駆けつけてこれたのだろう。
そうやってしばらく話しているうちに、複数の人間が駆けてくる気配がしてきた。
「やっと“お迎え”が来たみたいね」
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