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 毒矢で痺れさせられ、倒れ伏したまま動けない身体を無理やり引き起こされる。身体を押さえつけられ、無防備に胸をさらけ出すしかない。
 目の前に立つ男が、残忍な笑みを浮かべながら手にした曲刀カットラスを振り上げた。

 その周りには10人を超える男たち。
 みな一様に酷薄な笑みを浮かべて、今まさに自分の命を奪おうとしているのだ。
 人の命を何とも思わない、殺し奪って平然と嗤っていられる悪党ども。


 振り上げられる曲刀を見ながら混濁する頭で、ここまでか、とぼんやりと考える。
 あれを振り下ろされれば、それで何もかもが終わりだ。こんな奴らに屈し奪われるのは正直許しがたいが、どのみち今までだって生きながら死んでいたような人生だった。
 ならばもうこれ以上、醜く生き足掻くこともない。ひと思いにやってくれた方がスッキリするというものだ。
 そう考えて、覚悟を決めた。

(これで、俺もナーシャの所に──)

 そう。やっと、彼女の元へ行ける。
 長かった。ようやくだ。



 曲刀が振り下ろされる。
 あれで袈裟斬りに斬り落とされてそのまま放置されれば間違いなく死ねるだろう。

 ああ、本当にここまでだ。

 そう観念して彼は目を閉じた。



 だが、その時だった。

 風を切り裂く音がして、次いで金属が断たれる音が続く。

「なっ…!?」

 誰かの驚く声がした。

 目を開けると、目の前には半ばから断ち切られた曲刀を手にして呆然とした男が立っている。その周りの男達も驚いて、辺りをキョロキョロ見回している。


「大勢でひとりをよってたかって、なんて感心しないわね」

 澄んだ声が森の中の広場に響く。

 緩慢な動きで声のした方を見ると、そこにひとりの女剣士が立っていた。

 それは目の覚めるような美しい娘だった。見たところ、まだかなり若い。
 今まさに振り抜いたのだろう、見るからに業物と分かる宝剣を手に、彼女はそこに佇んでいた。
 その輝きを含んだ黄色い瞳が、彼とその周りを取り囲んだ男たちを真っ直ぐ見据えている。

 邪魔だてされたのだと理解して次々と襲いかかって来る荒くれ男どもを、彼女はただひとり、一瞬であしらい斬り伏せ退けてゆく。そのさまは舞踏でも見るかのごとく、優美に華麗で一分の無駄もない。
 そうして汗もかかずに全員を打ち倒したあと、彼女は彼に言ったのだ。

「あなた!はるか東方世界まで、私たちの蛇王封印の旅について来なさい!」

 と。


 それが、彼と彼女との運命の出会いだった。
 今思えば、出会ったことそのものは運命でも、そこまでに至る経緯は必然だったのだと分かる。きっとこれは、だったのだと。


 こうして、数奇な運命のもと出会った彼と彼女たち。
 その先に何が待っているのかは、今はまだ、陽神たいようのみが知っている────。


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