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25.負けない心
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体中が冷たい……。
それもそのはずだ。自分は今、石造りの床に這いつくばるような姿勢で横たえられているのだから。
ピチャン、ピチャンと冷たい雫が天井から床に落ちていた。
猿轡は外されていたけれど、代わりに後ろ手にロープで縛り上げられていた。
反射的に逃げ出そうとするが、それは難しそうだとすぐに理解させられる。
なぜなら、目の前になぜか妹のリンディが、私を嘲るような笑みで見下ろしていたのだから。
「リンディ、これは……」
どういうこと、と聞こうとすると、
「黙りなさい! あなたの声を聞くだけイライラする!!」
そう金切り声を上げた。
「リ、リンディ?」
「気安く呼ばないで。それともなに? 公爵夫人になるから私に勝ったとでも思ったのかしら?」
「勝つ、だなんて。あなたはたった一人の妹じゃない」
そんな言葉に、リンディはゲラゲラとした笑い声をあげた。
「あなたのことなんて家族だと思ったことはないわよ! 伯爵家は私のもので、あんたは公爵家へ私の代わりに差し出された人身御供でしょうが! なのに、どうして居ついちゃってるわけ? あなたみたいなつまらない女をずっと置いておくなんて、ロベルタ公爵様も噂通りどうかしているわ」
「だっ……」
「はぁ? 何か言いたいわけ?」
地面をはいずらされながらも、私ははっきりと頭を上げてリンディに言った。
自分のことはどう言われてもいい。
傷つけられてもいい。
でも、
「旦那様のことはっ……! 悪く言わないでっ……! あの人は本当に優しい人で、みんなに誤解されているだけなのよ」
思わず、旦那様への悪罵だけは許せなくて、言い返してしまった。
それが、リンディの癇に障ることはよく分かっていたけど。
それでも、
「旦那様はっ……。素敵な方よ。噂なんて全部……嘘だった」
はっきりと言ったのだった。
「うるさいわね、この蠅は。本当に、いつまでも、ブンブンと」
妹の顔から表情が消えた。
ああ、こうなると分かっていた。妹は怒りが頂点に達すると表情が消えるのだ。でも覚悟はしていた。
でも間違いなく旦那様のご名誉の方が大事だ。
私の全てよりも。
「おい、入ってきな」
「「「「へい」」」」
「!?」
ぞろぞろと。リンディの声に合わせて何人もの男が入ってきた。
「この痩せぎすの、薄汚い女を犯しなさい。ひひひ、それでロベルタ公爵様の元に帰れなくしてやる。そしてちゃーんと手紙で言うのよ。伯爵家の印章も預かっているから、今日私が届けた手紙みたいに、しっかりと別れを告げるの」
「リ、リンディ!? あなたがまさか謀反を捏造したの!? そんなことをすればどうなるか!? お父様やお母様もただでは済まないのよ。伯爵家だってお取り潰しにっ……! 何より領民がっ」
「うるさいのよ!!」
ガン!
頭部に衝撃が走るのと同時に、乾いた石の地面に顔を叩きつけられた。
「これだけ痛めつけてやってるのに、まだお父様!? お母様!? 家の心配!? それに何より領民ですって!? いい子ぶるんじゃないわよ!」
そう言って激高した様子で、私の頭を地面にぐいぐいと押さえつける。
息が出来ない……。窒息しちゃう……。でも……。
「家族のことを……心配するのは……当たり前でしょう? あなたのことも……リンディ……。それに私たちは貴族なんだから、領民のことをまず考えるのは当たり前で……」
「うるさい! もうしゃべるな!」
更に頭を激しく押さえつけられた。
「はぁ。はぁ。それにね、いいことを教えてあげる。今回の謀略で公爵家に私を嫁がせる計画には、お父様もお母様も大賛成なのよ! その代わりあんたが死ぬこともね。散々ここで辱められた後、手紙を書かせて、そのあとは好きに野垂れ死ぬといいわ」
「!?」
そうか。私はそこまで家族から疎まれていたのか。
でも不思議と彼らを恨む気にはなれない。
むしろ、こんな大変なことをしてしまって、今後どうなってしまうのかという心配の方が先に立った。
その気持ちが表情に出てしまったのだろう。
「その哀れむような視線、むかつくわ。でも、そんな余裕もここまで。この男どもを呼んだ意味をよくその身体に教えてあげる。でも、すぐにやっても面白くないわ。だから、そうね」
リンディは嘲るような表情で私を見下ろしながら、
「あなたがロベルタ公爵様と結婚なんてしたくない。そうはっきり言えば手紙を書くだけで許して上げるわ。ふふふ、あはは、あーっはっはっはっはっは」
妹の哄笑が石造りの部屋にこだまする。
「さあ、早く言いなさいな。身体を辱められるなら、ロベルタ公爵様と結婚なんてしない、と言う方がいいでしょう」
彼女は私が、旦那様を裏切ることを確信しているようだ。
私が情けなく、そう口にすることをまだかまだかと、爛々とした目つきで見下ろしている。
そして。
私は。
言った。
「私はロベルタ公爵様の妻です」
「……」
「あの方を愛しています」
「……」
「たとえこの身が汚されて、受け入れてもらえなくても」
「……」
「この気持ちは本当です」
「……」
「私は……」
息も絶え絶えになりながら、でも、はっきりと言った。
「誰よりも旦那様を愛しています。あの方と結婚したい」
それもそのはずだ。自分は今、石造りの床に這いつくばるような姿勢で横たえられているのだから。
ピチャン、ピチャンと冷たい雫が天井から床に落ちていた。
猿轡は外されていたけれど、代わりに後ろ手にロープで縛り上げられていた。
反射的に逃げ出そうとするが、それは難しそうだとすぐに理解させられる。
なぜなら、目の前になぜか妹のリンディが、私を嘲るような笑みで見下ろしていたのだから。
「リンディ、これは……」
どういうこと、と聞こうとすると、
「黙りなさい! あなたの声を聞くだけイライラする!!」
そう金切り声を上げた。
「リ、リンディ?」
「気安く呼ばないで。それともなに? 公爵夫人になるから私に勝ったとでも思ったのかしら?」
「勝つ、だなんて。あなたはたった一人の妹じゃない」
そんな言葉に、リンディはゲラゲラとした笑い声をあげた。
「あなたのことなんて家族だと思ったことはないわよ! 伯爵家は私のもので、あんたは公爵家へ私の代わりに差し出された人身御供でしょうが! なのに、どうして居ついちゃってるわけ? あなたみたいなつまらない女をずっと置いておくなんて、ロベルタ公爵様も噂通りどうかしているわ」
「だっ……」
「はぁ? 何か言いたいわけ?」
地面をはいずらされながらも、私ははっきりと頭を上げてリンディに言った。
自分のことはどう言われてもいい。
傷つけられてもいい。
でも、
「旦那様のことはっ……! 悪く言わないでっ……! あの人は本当に優しい人で、みんなに誤解されているだけなのよ」
思わず、旦那様への悪罵だけは許せなくて、言い返してしまった。
それが、リンディの癇に障ることはよく分かっていたけど。
それでも、
「旦那様はっ……。素敵な方よ。噂なんて全部……嘘だった」
はっきりと言ったのだった。
「うるさいわね、この蠅は。本当に、いつまでも、ブンブンと」
妹の顔から表情が消えた。
ああ、こうなると分かっていた。妹は怒りが頂点に達すると表情が消えるのだ。でも覚悟はしていた。
でも間違いなく旦那様のご名誉の方が大事だ。
私の全てよりも。
「おい、入ってきな」
「「「「へい」」」」
「!?」
ぞろぞろと。リンディの声に合わせて何人もの男が入ってきた。
「この痩せぎすの、薄汚い女を犯しなさい。ひひひ、それでロベルタ公爵様の元に帰れなくしてやる。そしてちゃーんと手紙で言うのよ。伯爵家の印章も預かっているから、今日私が届けた手紙みたいに、しっかりと別れを告げるの」
「リ、リンディ!? あなたがまさか謀反を捏造したの!? そんなことをすればどうなるか!? お父様やお母様もただでは済まないのよ。伯爵家だってお取り潰しにっ……! 何より領民がっ」
「うるさいのよ!!」
ガン!
頭部に衝撃が走るのと同時に、乾いた石の地面に顔を叩きつけられた。
「これだけ痛めつけてやってるのに、まだお父様!? お母様!? 家の心配!? それに何より領民ですって!? いい子ぶるんじゃないわよ!」
そう言って激高した様子で、私の頭を地面にぐいぐいと押さえつける。
息が出来ない……。窒息しちゃう……。でも……。
「家族のことを……心配するのは……当たり前でしょう? あなたのことも……リンディ……。それに私たちは貴族なんだから、領民のことをまず考えるのは当たり前で……」
「うるさい! もうしゃべるな!」
更に頭を激しく押さえつけられた。
「はぁ。はぁ。それにね、いいことを教えてあげる。今回の謀略で公爵家に私を嫁がせる計画には、お父様もお母様も大賛成なのよ! その代わりあんたが死ぬこともね。散々ここで辱められた後、手紙を書かせて、そのあとは好きに野垂れ死ぬといいわ」
「!?」
そうか。私はそこまで家族から疎まれていたのか。
でも不思議と彼らを恨む気にはなれない。
むしろ、こんな大変なことをしてしまって、今後どうなってしまうのかという心配の方が先に立った。
その気持ちが表情に出てしまったのだろう。
「その哀れむような視線、むかつくわ。でも、そんな余裕もここまで。この男どもを呼んだ意味をよくその身体に教えてあげる。でも、すぐにやっても面白くないわ。だから、そうね」
リンディは嘲るような表情で私を見下ろしながら、
「あなたがロベルタ公爵様と結婚なんてしたくない。そうはっきり言えば手紙を書くだけで許して上げるわ。ふふふ、あはは、あーっはっはっはっはっは」
妹の哄笑が石造りの部屋にこだまする。
「さあ、早く言いなさいな。身体を辱められるなら、ロベルタ公爵様と結婚なんてしない、と言う方がいいでしょう」
彼女は私が、旦那様を裏切ることを確信しているようだ。
私が情けなく、そう口にすることをまだかまだかと、爛々とした目つきで見下ろしている。
そして。
私は。
言った。
「私はロベルタ公爵様の妻です」
「……」
「あの方を愛しています」
「……」
「たとえこの身が汚されて、受け入れてもらえなくても」
「……」
「この気持ちは本当です」
「……」
「私は……」
息も絶え絶えになりながら、でも、はっきりと言った。
「誰よりも旦那様を愛しています。あの方と結婚したい」
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