上 下
19 / 23
第3章

19.勇者へのロングパス

しおりを挟む
「待たせたな」

「待ちました」

カノユキが宿に帰ると、女神アルテノが迎える。

「そっちは何かわかったか?」

「うん。そっちは?」

「こっちも色々だ」

椅子に腰掛けてカノユキは口を開く。

「最近の王様はちょっと人が変わったような様子らしい」

「ほうほう」

「有名な話らしいな。ここ1年くらい、賢王と言われ、親しまれたサラザール国王の面影はない。暴政と言ってよい政治をしているとのことだ」

「暴政って?」

アルテノはハテナマークを頭に浮かべる。

「軍事力をいたずらに強化して隣国との関係を緊迫化している。そのために急な増税をすることで国民の生活を疲弊させている。自分に逆らう者を犯罪者として逮捕、処刑なんていうこともしているらしい。汚職やら何やら」

「難しくて、お姉ちゃんにはよっくわっかんないなあ!」

ぱー、っと明るい顔をしてアルテノは言った。

いばるな、とカノユキは答えた。

嘆息してから、

「ま、ともかく、どうやら今までとは別人みたいだ。というのが住民どもの印象らしい」

「ふーん……って、あっ!」

アルテノがピンときた、という顔をした。

「お姉ちゃんわかっちゃったー‼」

得意げなドヤ顔でポージングを決めた女神がそこにいた。

「うっふっふーん」

とほくそ笑み、

「聞きたーい? ねえ、かーくん、聞きた―い? 聞きたいよねえ、お姉ちゃんと名推理! どうかな? どうかな? お願いします、綺麗なアルテノ様、俺の女神様、って言ってくれたら教えてあげちゃうぞー、ハグハグもしてあげちゃうよー」

「ふむ、王様が何者かが成り代わっている、という以上の推理が聞けるならぜひ聞かせてもらおうか」

「な、なんでわかったの!?」

女神は驚愕に目を見開いた。

カノユキは嘆息してから、

「誰でも分かる。むしろ定番だ。が……」

首を横にふる。

「定番だと気づけるのは俺たちが別の世界から来たからだ。ゲームやアニメで色々知ってるおかげでな。異世界人ゆえのメタ推理というべきか。でなくては今回の事態の真相にこれほど早くたどり着くことは不可能だ」

「ゲームは教養!」

アルテノが強調するように言った。

何を言ってるんだ、とカノユキは呆れていた。

「でも、それなら、なんでかーくんはここにいるの? 犯人が分かったのなら、解決しにいかなくちゃ!」

「それは主人公の役目だろうが」

え?

え?じゃない。

「脇役の出る幕じゃないさ。それは……、そうだな」

カノユキは窓から外を見下ろしながら、

「それこそ、勇者の仕事だ」

シュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!

ブオン!

スキルが発動し、カノユキたちの前に、未来の映像が立ち現れた。

そこには……。





はぁ、はぁ、はぁ。

壁際に追い詰められる少女。

3人の大柄な男たちが少女に迫る。

「くくく、さすがにもう逃げられんぞ? さあ、その鏡を渡してもらおうか?」

少女の手には、手鏡が握られていた。

だが、見るものが見れば分かったはずだ。その鏡面にただよう禍々しい魔力の渦と奔流が。

「いやです!」

そう言って少女……いや、サラザール王国の王女アリアは叫んだ。

「この鏡があれば、あなたたちの企みを打ち破ることができるのです!」

絶対に渡さないとばかりに胸にかかえこんだ。

「……」

男たちはその健気な様子にまず沈黙し……。

「ぷっ」

吹き出すと、

「ぐわーはっはっはっはっはっははははは」

とこらえきれず笑いだした。

「これはこれは、気の強いお嬢さんだ」

「まさか、まだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないだろうなあ?」

「それはとんだ勘違いだ」

にたり、と一人の男が迫るようにして言った。

「もう必要ない。そう王はおっしゃられた」

「な……」

王女アリアは震えたあと、

「なにが王であるものですか‼」

そう気丈に言い返した。

「わたしのお優しいお父様は、あなたたちがとっくに……!」

「おっと、それ以上はいけませんね、王女様」

ついにズラリと剣を抜いた。

(お父様ッ……)

「では、おさらばです」

びゅっ、と軽快な音をあげて、剣は容赦なく振るわれた。

「ふ、ふへ、ふへへっへ」

血しぶきを見ながら男は奇妙な表情を浮かべた。

顔を真赤にしながら男は口を開く。

「ど、どうして俺の腕がなくなってんだ?」

「おっと、その質問は的外れだね」

そう言って、ツインテールの少女が頭の後ろで手を組みながら登場した。

突然現れた少女に男たちはぎょっとした表情を浮かべる。

「だって、なくなってるのは腕だけじゃあないからね」

にぱっ、とした表情を浮かべる。

だが、彼女の手のひらの上にのっているものを見て、男は目をむく。だが、それが何なのか理解できたかは怪しい。自分の心臓を見てそれをそうだと認識できる者が果たしているものだろうか?

「大丈夫ですか?」

「あ、あなたは……やっと、やっと会えた!」

アリアは涙ぐみながらその名を呼んだ。

「勇者様!!!!!!!!」

そこにはこの世界の主人公である勇者パーティーがいたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

充電式勇者。サボればサボるほど俺TUEEEE

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』
ファンタジー
無気力系の高校生、殻田幹彦《からたみきひこ》は授業中に神様の手違いで事故死してしまう。お詫びとして何でも願いを叶えようと言う神に対して、ミキヒコが頼んだのは、「そんなのいらないから怠惰に過ごすスキルを下さい」であった。 これはサボり、怠け者、無気力系の主人公、ミキヒコが、たまたま助けたお姉さん奴隷と四六時中イチャつきながらも、与えられた怠惰ポイントを駆使して、成り「上がらず」、ただただ最強になりながら、日常を怠惰に過ごす普通の物語である。あ、悪徳貴族とかモンスターは普通に殺ります。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しています

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

処理中です...