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2.怠惰ポイント
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「う、うーん」
起き上がるとそこは平原であった。
俺の倒れている場所は1メートル程度の岩場の陰らしく、周囲を見れば平原が広がっているようだ。近くには森も見える。
「知らない風景だな。転生したってことか。えっと夢・・・ではないんだよなあコレが」
俺は自分の体をぺたぺたと触り、頬を軽くつねったりしてみる。
ついているものはちゃんと付いているし、痛みもちゃんとある。
服装は・・・
「何だこの服? 見たことない服だけどサービスみたいなもんかな?」
この世界の平均的な服装なのだろうか? 白を基調とした割とヒラヒラとした感じの服で、裾が少し余裕をもたせて作られている。
「お金はなさそうだな。まずいぞ、怠惰に過ごすと言ってもお金がないと厳しい」
そう、やはり先立つものはお金だ。あの木っ端神様はそこまではしてくれなかったらしい。
「くそ、どうにかしないと・・・あ、そう言えばあの神様、何か怠惰に過ごすための能力をくれるって・・・」
そう俺がブツブツと独り言を言っていた時である。
「くそ! この馬車では振り切れない!!」
「きゃああああああああ!!」
「盗賊どもめ、げっ、剣が折れちまった・・・ぎゃああああああ!!!」
「高い金を払った傭兵が!」
突然の悲鳴が俺の耳に届いた。それはドラマなどで聞く悲鳴とは全く違う、まさしく真に迫ったものだ。
俺は岩場からこっそりと頭だけ出して様子を窺う。するとそこには衝撃的な光景が広がっていた。
汚らしい身なりに凶悪な人相をした男たちが幌馬車へと襲い掛かっていたのだ。おそらく10人程度だろうか。
そして、馬車の周囲には護衛のための傭兵が3人が必死の形相で剣を振るっている。地面には先ほど倒されたのだろう1名が転がっていた。どす黒い血で平原を染めながら。
「映画か何か・・・」
などである訳がなかった。盗み見ている俺の目の前で残りの3人も次々と倒されていったのだから。
「おい! 自慢の傭兵どもは全員死んだぞ! いい加減、観念して出て来ねえか!!」
「わ、分かった! だから殺さないでくれ!!」
そういって御者台から恰幅の良い中年の商人風の男が、手を頭の後ろに組んだ状態で下りて来た。
「奴隷商人だな?」
「そ、そうだ。ど、どうしてこんな場所に盗賊が・・・。この辺りに賊が出没するなんていう情報はなかったのに・・・」
「へへ、隣国からの帰りかい? 情報がおせーな。最近、俺たちの縄張りの方にゃ、凶悪なモンスターが出るようになっちまってよ。狩場の変更だ。ま、じきにこっちに来るかもしれねーがな。ま、そん時は別の場所に行くだけだ」
「お、俺をどうする気だ? 俺は公国御用達の奴隷商だ。金なら幾らでもやる! 商人の女たちも持って行くがいい!!」
商人は叫ぶように言ったが、盗賊はせせら笑うだけだった。そして、凄むようにして得物であるナイフを商人の頬にぴたぴたとかざす。
「馬鹿が!! 勘違いしなさんなよ。おめえらをどうするかの選択権は俺たちにあるんだからよ。おい、てめーら、荷をあらためろ!!」
へい!!! という掛け声とともに、幌の中に数名の盗賊が飛び込んで行った。
「きゃあああ」
「いやっ、触らないでよ。連れてくならこの娘にしてよ!!」
「そうよ。どうして高級奴隷の私が・・・」
「けほけほ、は、はい、私でよろしいのでしたら・・・」
「馬鹿が!! 全員下りるんだよ!!」
「いやああああああ」
たちまち幌で隠された荷台から5名の女性が追い立てられるように外に出て来た。
恐怖で震える者、目立たないように人影に隠れようとする者、青顔をしている者など様々だ。
だが、一様に絶望の表情で染まっている。
平和な日本で育った俺とて、この後彼女たち女性がどのように扱われるかは想像できる。できれば助けてあげたいところだ。
「けどなー、ちょっと現実的じゃないよなぁ・・・」
俺とて人並みの良心は持っているので(たまに怠惰な心に負ける程度ではあるが)、人が目の前で酷い状況にあっているようなら、助けてあげたいとは思う。
ただ、今回の場合、俺一人が出て行っても何の助けにもならないだろう。何せ相手の盗賊は10人もいるのだ。しかも俺は何の武器も持っていない。
わざわざ正義感を貫いて命を落とすような良心は持っていない。
むしろ、この状況をうまく遣り過ごさなくてはならないだろう。これは言わば殺人現場というやつだ。とすれば、犯人がすることは一つ、目撃者の排除、なのだから。
俺はそこまで思考すると、音を立てないように出来るだけゆっくりと、岩場から頭をひっこめて行った。
そして、岩場からゆっくりと離れようとする。
だが、あろうことか服が岩場の上にあった小さな石に引っかかり、その拍子にそれが転げ落ちたのである。
コツン。
それは本当に小さな音であった。普通であれば目立たず、生活音の中にかき消されるような本当に無視できるほどのものだ。
だが、今は状況が状況だった。
女性たち、そして商人は盗賊たちに手際よく縄でぐるぐる巻きにされていた。
今後の運命を悲観して女性たちは口を噤むかすすり泣きを始めており、盗賊たちは品定めをしている。奴隷商人は悔し気な表情をしつつも佇むことしか出来ない、そんな状況だ。
つまり、俺が誤って落としてしまった小石が立てた音は、そんな静かな環境の中ではこの上なく目立ったのであった。
「誰だ!!」
しまったあああああああああああああ!!
くそ、着慣れない服だったから裾が広がっているというのを忘れていた! いつも学生服だったからなあ。
「そこだ!! 取り押さえろ!! 目撃者だ!! 殺してもかまわねえ!!」
ひええええええええええええええええええ!!
俺は急いで岩場から離れようとするが、盗賊たちも人を襲うことにかけてはプロ。
俺がもたついている間にも一瞬で間合いを詰め、逃げ道に蓋をするようにぐるりと回り込んでしまった。
「し、しまった」
「へへへ、まだガキじゃねえか。何でこんな所にいるのか知らねえが運が悪かったなあ」
くそ!!
俺は焦って岩場の上に登る。と言っても小さな岩場だ。周囲は盗賊たち全員に取り囲まれてしまう。
追い詰められた!! 逃げ場がない!!
「ど、どうか命だけはご勘弁いただけ・・・」
「馬鹿が、死ねえ!!」
俺の命乞いを最後まで聞くことなく、盗賊たちが一斉に躍りかかって来た。
10人のナイフが俺の体を切り刻むように振るわれた。
ああ、転生したってのに短い人生だった。まだ全然のんびり過ごせてないぞ。
俺がそんなやるせない気持ちで、次に来るであろう痛みを覚悟した、その時である!
『絶対防御が発動しました。怠惰ポイントから100ポイントが差し引かれます』
そんなアナウンスが俺の頭に響き渡ったのである。
起き上がるとそこは平原であった。
俺の倒れている場所は1メートル程度の岩場の陰らしく、周囲を見れば平原が広がっているようだ。近くには森も見える。
「知らない風景だな。転生したってことか。えっと夢・・・ではないんだよなあコレが」
俺は自分の体をぺたぺたと触り、頬を軽くつねったりしてみる。
ついているものはちゃんと付いているし、痛みもちゃんとある。
服装は・・・
「何だこの服? 見たことない服だけどサービスみたいなもんかな?」
この世界の平均的な服装なのだろうか? 白を基調とした割とヒラヒラとした感じの服で、裾が少し余裕をもたせて作られている。
「お金はなさそうだな。まずいぞ、怠惰に過ごすと言ってもお金がないと厳しい」
そう、やはり先立つものはお金だ。あの木っ端神様はそこまではしてくれなかったらしい。
「くそ、どうにかしないと・・・あ、そう言えばあの神様、何か怠惰に過ごすための能力をくれるって・・・」
そう俺がブツブツと独り言を言っていた時である。
「くそ! この馬車では振り切れない!!」
「きゃああああああああ!!」
「盗賊どもめ、げっ、剣が折れちまった・・・ぎゃああああああ!!!」
「高い金を払った傭兵が!」
突然の悲鳴が俺の耳に届いた。それはドラマなどで聞く悲鳴とは全く違う、まさしく真に迫ったものだ。
俺は岩場からこっそりと頭だけ出して様子を窺う。するとそこには衝撃的な光景が広がっていた。
汚らしい身なりに凶悪な人相をした男たちが幌馬車へと襲い掛かっていたのだ。おそらく10人程度だろうか。
そして、馬車の周囲には護衛のための傭兵が3人が必死の形相で剣を振るっている。地面には先ほど倒されたのだろう1名が転がっていた。どす黒い血で平原を染めながら。
「映画か何か・・・」
などである訳がなかった。盗み見ている俺の目の前で残りの3人も次々と倒されていったのだから。
「おい! 自慢の傭兵どもは全員死んだぞ! いい加減、観念して出て来ねえか!!」
「わ、分かった! だから殺さないでくれ!!」
そういって御者台から恰幅の良い中年の商人風の男が、手を頭の後ろに組んだ状態で下りて来た。
「奴隷商人だな?」
「そ、そうだ。ど、どうしてこんな場所に盗賊が・・・。この辺りに賊が出没するなんていう情報はなかったのに・・・」
「へへ、隣国からの帰りかい? 情報がおせーな。最近、俺たちの縄張りの方にゃ、凶悪なモンスターが出るようになっちまってよ。狩場の変更だ。ま、じきにこっちに来るかもしれねーがな。ま、そん時は別の場所に行くだけだ」
「お、俺をどうする気だ? 俺は公国御用達の奴隷商だ。金なら幾らでもやる! 商人の女たちも持って行くがいい!!」
商人は叫ぶように言ったが、盗賊はせせら笑うだけだった。そして、凄むようにして得物であるナイフを商人の頬にぴたぴたとかざす。
「馬鹿が!! 勘違いしなさんなよ。おめえらをどうするかの選択権は俺たちにあるんだからよ。おい、てめーら、荷をあらためろ!!」
へい!!! という掛け声とともに、幌の中に数名の盗賊が飛び込んで行った。
「きゃあああ」
「いやっ、触らないでよ。連れてくならこの娘にしてよ!!」
「そうよ。どうして高級奴隷の私が・・・」
「けほけほ、は、はい、私でよろしいのでしたら・・・」
「馬鹿が!! 全員下りるんだよ!!」
「いやああああああ」
たちまち幌で隠された荷台から5名の女性が追い立てられるように外に出て来た。
恐怖で震える者、目立たないように人影に隠れようとする者、青顔をしている者など様々だ。
だが、一様に絶望の表情で染まっている。
平和な日本で育った俺とて、この後彼女たち女性がどのように扱われるかは想像できる。できれば助けてあげたいところだ。
「けどなー、ちょっと現実的じゃないよなぁ・・・」
俺とて人並みの良心は持っているので(たまに怠惰な心に負ける程度ではあるが)、人が目の前で酷い状況にあっているようなら、助けてあげたいとは思う。
ただ、今回の場合、俺一人が出て行っても何の助けにもならないだろう。何せ相手の盗賊は10人もいるのだ。しかも俺は何の武器も持っていない。
わざわざ正義感を貫いて命を落とすような良心は持っていない。
むしろ、この状況をうまく遣り過ごさなくてはならないだろう。これは言わば殺人現場というやつだ。とすれば、犯人がすることは一つ、目撃者の排除、なのだから。
俺はそこまで思考すると、音を立てないように出来るだけゆっくりと、岩場から頭をひっこめて行った。
そして、岩場からゆっくりと離れようとする。
だが、あろうことか服が岩場の上にあった小さな石に引っかかり、その拍子にそれが転げ落ちたのである。
コツン。
それは本当に小さな音であった。普通であれば目立たず、生活音の中にかき消されるような本当に無視できるほどのものだ。
だが、今は状況が状況だった。
女性たち、そして商人は盗賊たちに手際よく縄でぐるぐる巻きにされていた。
今後の運命を悲観して女性たちは口を噤むかすすり泣きを始めており、盗賊たちは品定めをしている。奴隷商人は悔し気な表情をしつつも佇むことしか出来ない、そんな状況だ。
つまり、俺が誤って落としてしまった小石が立てた音は、そんな静かな環境の中ではこの上なく目立ったのであった。
「誰だ!!」
しまったあああああああああああああ!!
くそ、着慣れない服だったから裾が広がっているというのを忘れていた! いつも学生服だったからなあ。
「そこだ!! 取り押さえろ!! 目撃者だ!! 殺してもかまわねえ!!」
ひええええええええええええええええええ!!
俺は急いで岩場から離れようとするが、盗賊たちも人を襲うことにかけてはプロ。
俺がもたついている間にも一瞬で間合いを詰め、逃げ道に蓋をするようにぐるりと回り込んでしまった。
「し、しまった」
「へへへ、まだガキじゃねえか。何でこんな所にいるのか知らねえが運が悪かったなあ」
くそ!!
俺は焦って岩場の上に登る。と言っても小さな岩場だ。周囲は盗賊たち全員に取り囲まれてしまう。
追い詰められた!! 逃げ場がない!!
「ど、どうか命だけはご勘弁いただけ・・・」
「馬鹿が、死ねえ!!」
俺の命乞いを最後まで聞くことなく、盗賊たちが一斉に躍りかかって来た。
10人のナイフが俺の体を切り刻むように振るわれた。
ああ、転生したってのに短い人生だった。まだ全然のんびり過ごせてないぞ。
俺がそんなやるせない気持ちで、次に来るであろう痛みを覚悟した、その時である!
『絶対防御が発動しました。怠惰ポイントから100ポイントが差し引かれます』
そんなアナウンスが俺の頭に響き渡ったのである。
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