33 / 42
33合目
しおりを挟む
「完全に死んでるみたいです!」
シエルハちゃんがモンスターの死亡を確認してくれた。なお、既に俺の打ち上げていた魔力弾はなくなっていて周囲は真っ暗である。
「よし、オッケーだな。・・・で君はこの後どうするんだ? 替えのテントは持って来てるのか?」
シエルハちゃんの報告に頷いてから、俺は少年へと問いかける。先ほどの戦闘で彼のテントはムチャクチャになっていたはずだ。
現在の気温は氷点下20度で、おまけに風も比較的強い。先ほどの戦闘で疲労もしているだろうし、このままでは少年が夜を凌ぐことはできないだろう。
「替えはありません。申し訳ないのですが、予備のテントはありませんか?」
「いや、申し訳ないが持って来ていない。出来るだけ荷物は軽くするのが登山の基本だからな」
「ですよね・・・あの、無理を承知でお願いするんですが・・・」
「ああ、待った。言いたい事は分かったから、続きは俺たちのテントへ移動してからにしよう。ここで話していると、無駄に体温を奪われてしまう」
「あっ、その通りですね・・・。けど、これだけは言わせてください。お礼が遅くなってしまいましたが、本当にありがとうございました。あなたが来てくれなかったら、無傷では済まなかったでしょう」
「気にするな。困ったときはお互い様だ」
「は、はい。あ、あの、お名前をお伺いしたいのですが」
「コウイチロウだ。こっちはモルテにシエルハちゃん。さ、移動するぞ」
「コ、コーイチロウ様ですか。何だか白馬の王子様みたいなお名前ですね!」
どこがだよ! それに男に王子様とか言われても嬉しくとも何ともねえ・・・。
「ふむ、シエルハよ、何だか嫌な予感がせんか?」
「モルテさんもですか? 実は私も野生の勘がそう告げてるんですよねえ」
一方の二人は小さな声で、よく分からないやり取りを繰り広げていた。
「ほら、ともかく行くぞ」
俺は強引に会話を打ち切ると、率先してテントまで戻る。到着して中に入り込むとランプに火を灯す。小さな光源がぼんやりと中を照らし出した。
3人とも俺に続いてゾロゾロと入って来る。俺は後ろを向いた姿勢のまま少年に告げる。
「4人なら、まあ、何とか入れるだろう。手狭だがな。今日はうちに泊まれ。明日からの行動は・・・まあ自分で決めれば良いさ」
「ありがとうございます! コーイチロウ様!」
「“様”付けはやめて欲しいんだが・・・。まあ、好きにしてくれ。それに恐縮する必要はないぞ? 俺たちは一方的に手を貸したんじゃない。あくまで共闘したんだからな。それに何より、山で人が死ぬところを見たくなかっただけなんだ」
俺はそう言って振り向いた。そして少年の顔を初めてしっかりと見たのである。
先ほどまでは暗がりの下での戦闘であったため、俺もモルテもしっかりと相手の容姿を確認することが出来なかったのだ。それは相手も同じだったろう。
俺たちは目を合わせた瞬間、同時に「あっ」と声をハモらせたのだった。
「勇者ティム!」
「あっ、あなたは冒険者ギルドで私の邪魔をした人!?」
くそ、俺と同じ獲物・・・エルク草を狙う商売敵じゃないか! 冒険者ギルドでの出来事を思い出す。
ああ、これは厄介なことになるぞ、と頭を抱えた。
相手の様子を見てみれば顔を真っ赤にしている。やはり思った通り、腹を立ててコチラに対して難癖をつけて来るつもりなのだ。
俺は何を言われるのかと、思わず身構える。
・・・が、いくら待っても勇者はチラチラと俺の方を見るだけで、何も言ってこない。
なぜか顔だけが、どんどん赤くなって行くのだが。
「おい、俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」
「え!? えっと、その・・・あの・・・白馬の王子様がコーイチロウ様で・・・今日の戦闘もすごくかっこよくて・・・実は冒険者ギルドの時から気になってたし・・・つまり、そのう・・・」
おいおい、さっきもそうだったが俺は男にそんな風に褒められても嬉しくないぞ? 特に目の前の少年は幼い顔立ちながらもパッチリとした大きな瞳をしていて、それになぜか良い匂いもするもんだから、色々と危険なのだ。俺をそっちの道に引き込むんじゃない!
うむ、ここはガツンと言っておこう。
「悪いが俺はノーマルなんでな。君みたいな美少年に褒められても困るだけだ。むしろ、君もそんな言動をしていたら、そのうち本当にソッチ方面に誘われかねないぞ?」
俺が老婆心を込めてそう言うと、最初、勇者はキョトンとした表情をしていたが、その内プルプルと震え始めた。
そして、何事かをブツブツとつぶやき始めたのである。
「ボク・・・だ・・・」
うん? なんだって?
「ボクはオ・・・コだ・・・」
やはりよく聞こえない。喋る時はハキハキとしゃべって欲しいものだ。男の子なのだから。
「聞こえないぞ? ちゃんと言ってくれないと・・・」
「ボクは女の子だあああああああああああああああああ!!」
そんな絶叫が魔の山に木霊(こだま)したのであった。
シエルハちゃんがモンスターの死亡を確認してくれた。なお、既に俺の打ち上げていた魔力弾はなくなっていて周囲は真っ暗である。
「よし、オッケーだな。・・・で君はこの後どうするんだ? 替えのテントは持って来てるのか?」
シエルハちゃんの報告に頷いてから、俺は少年へと問いかける。先ほどの戦闘で彼のテントはムチャクチャになっていたはずだ。
現在の気温は氷点下20度で、おまけに風も比較的強い。先ほどの戦闘で疲労もしているだろうし、このままでは少年が夜を凌ぐことはできないだろう。
「替えはありません。申し訳ないのですが、予備のテントはありませんか?」
「いや、申し訳ないが持って来ていない。出来るだけ荷物は軽くするのが登山の基本だからな」
「ですよね・・・あの、無理を承知でお願いするんですが・・・」
「ああ、待った。言いたい事は分かったから、続きは俺たちのテントへ移動してからにしよう。ここで話していると、無駄に体温を奪われてしまう」
「あっ、その通りですね・・・。けど、これだけは言わせてください。お礼が遅くなってしまいましたが、本当にありがとうございました。あなたが来てくれなかったら、無傷では済まなかったでしょう」
「気にするな。困ったときはお互い様だ」
「は、はい。あ、あの、お名前をお伺いしたいのですが」
「コウイチロウだ。こっちはモルテにシエルハちゃん。さ、移動するぞ」
「コ、コーイチロウ様ですか。何だか白馬の王子様みたいなお名前ですね!」
どこがだよ! それに男に王子様とか言われても嬉しくとも何ともねえ・・・。
「ふむ、シエルハよ、何だか嫌な予感がせんか?」
「モルテさんもですか? 実は私も野生の勘がそう告げてるんですよねえ」
一方の二人は小さな声で、よく分からないやり取りを繰り広げていた。
「ほら、ともかく行くぞ」
俺は強引に会話を打ち切ると、率先してテントまで戻る。到着して中に入り込むとランプに火を灯す。小さな光源がぼんやりと中を照らし出した。
3人とも俺に続いてゾロゾロと入って来る。俺は後ろを向いた姿勢のまま少年に告げる。
「4人なら、まあ、何とか入れるだろう。手狭だがな。今日はうちに泊まれ。明日からの行動は・・・まあ自分で決めれば良いさ」
「ありがとうございます! コーイチロウ様!」
「“様”付けはやめて欲しいんだが・・・。まあ、好きにしてくれ。それに恐縮する必要はないぞ? 俺たちは一方的に手を貸したんじゃない。あくまで共闘したんだからな。それに何より、山で人が死ぬところを見たくなかっただけなんだ」
俺はそう言って振り向いた。そして少年の顔を初めてしっかりと見たのである。
先ほどまでは暗がりの下での戦闘であったため、俺もモルテもしっかりと相手の容姿を確認することが出来なかったのだ。それは相手も同じだったろう。
俺たちは目を合わせた瞬間、同時に「あっ」と声をハモらせたのだった。
「勇者ティム!」
「あっ、あなたは冒険者ギルドで私の邪魔をした人!?」
くそ、俺と同じ獲物・・・エルク草を狙う商売敵じゃないか! 冒険者ギルドでの出来事を思い出す。
ああ、これは厄介なことになるぞ、と頭を抱えた。
相手の様子を見てみれば顔を真っ赤にしている。やはり思った通り、腹を立ててコチラに対して難癖をつけて来るつもりなのだ。
俺は何を言われるのかと、思わず身構える。
・・・が、いくら待っても勇者はチラチラと俺の方を見るだけで、何も言ってこない。
なぜか顔だけが、どんどん赤くなって行くのだが。
「おい、俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」
「え!? えっと、その・・・あの・・・白馬の王子様がコーイチロウ様で・・・今日の戦闘もすごくかっこよくて・・・実は冒険者ギルドの時から気になってたし・・・つまり、そのう・・・」
おいおい、さっきもそうだったが俺は男にそんな風に褒められても嬉しくないぞ? 特に目の前の少年は幼い顔立ちながらもパッチリとした大きな瞳をしていて、それになぜか良い匂いもするもんだから、色々と危険なのだ。俺をそっちの道に引き込むんじゃない!
うむ、ここはガツンと言っておこう。
「悪いが俺はノーマルなんでな。君みたいな美少年に褒められても困るだけだ。むしろ、君もそんな言動をしていたら、そのうち本当にソッチ方面に誘われかねないぞ?」
俺が老婆心を込めてそう言うと、最初、勇者はキョトンとした表情をしていたが、その内プルプルと震え始めた。
そして、何事かをブツブツとつぶやき始めたのである。
「ボク・・・だ・・・」
うん? なんだって?
「ボクはオ・・・コだ・・・」
やはりよく聞こえない。喋る時はハキハキとしゃべって欲しいものだ。男の子なのだから。
「聞こえないぞ? ちゃんと言ってくれないと・・・」
「ボクは女の子だあああああああああああああああああ!!」
そんな絶叫が魔の山に木霊(こだま)したのであった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる