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16合目

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「なんじゃよお、せっかく二人っきりじゃと思っとったのに!」

モルテがとても残念そうな口調でブツブツとぼやく。

俺たちはあの話し合いの後、再び冒険者ギルドへと向かっていた。シエルハちゃんと一緒に魔の山へ登るとすれば、冒険者ギルドへパーティーメンバーの追加を申請しておかなければならないからである。

なお、シエルハちゃん自体は既に一介の冒険者であるということだ。キツネ族は幼い頃から山に入り、モンスターを狩ったり採取のクエストをこなすので、小さいころに冒険者登録をしてしまうのである。

さて、俺の右隣にはモルテが不機嫌そうな表情をして歩いており、反対側にはシエルハちゃんが困ったような表情で付いて来ていた。どちらも歩幅が小さいので、はぐれないように手をつないでいる。両手に花というべきなのだろうか? 花という割にはキャイキャイと騒がしいのだが。

「ままま、そう言わないで下さいよ、モルテさん。一緒に行くといっても魔の山に登る時くらいですから。その他は製品のアドバイスをもらうときくらいですよ。しかも、付いて行く時は邪魔にならないようにこうやってえ・・・ええい!!」

シエルハちゃんが掛け声を上げて飛び跳ねると、空中で金色のモコモコとしたキツネの姿へ「ポンっ!」と化けた。そうして、ピョン!とモルテの肩へ乗ると、スルリと首に巻きついた。完全にマフラー状態である。

「キュイキュイキューイ?」

「何を言っとるのか分からんわい」

モルテのツッコミにシエルハちゃんは首をかしげた後、首から下げていたポーチから「変化の葉」を器用に取り出すと、

「キュー!」

という鳴き声とともに飛び上がり、また「ポンっ!」という可愛い音とともに人型へと戻った。

「失礼しました。とりあえず、こんな風に魔の山に登る時も邪魔にならないようにしますから」

「お、それは確かに助かるな。先に登る俺クライミングリーダーと、下で安全確保用のロープを操作するモルテビレイヤーで二人一組だから、付いて来るとなるとシエルハちゃんと相方をどうしようかと思ってたんだよ」

俺のコメントにモルテがルンゼ岩場にある鋭い溝のごとき深いため息をついた。

「はあ~~~、何だか論点がズレ始めておるようじゃが・・・まあ、もう何も言うまい。我らのリーダーはコーイチローじゃしな。そのお主がそう言うのなら良いじゃろう。それよりもな、一つ大事な点を忘れておるのではないか?」

モルテが改まって言った。うん? 何か忘れてたか?

「うむ、さらっと流されておるようじゃが、魔の山にはモンスターが出るのじゃろう? それを何とかせねばならんぞ? 普通の登山であればモンスターのことなど考える必要もないが、魔の山にはゴブリンからオーク、頂上付近にはドラゴンこそいないもののハービーが住んでおるというではないか。この討伐も念頭に置いておかねばならん」

「むむむ、確かにな。登山だけなら俺のノウハウが役に立つが、モンスター退治となると素人もいいところだ。身体強化の魔法を使えばそこそこいけるかもしれないが・・・」

「えっと、お二人共何をお悩みなんですか?」

「あ、ああ、実は俺たちにモンスター退治の経験がないもんでな。魔の山を攻略するためにはそこら辺のことも考えとかないといけないと思ってな」

「なるほど、そういうことですか。でしたら名案がありますよ!」

彼女がそう答えたとき、ちょうどギルドの建物へ到着する。

「なんじゃ? その名案というのは?」

「それはですねえ、あ、ここでは何ですから中へ入りましょう」

そう言うとシエルハちゃんは俺の手を握って、ズンズンと中へと入ってゆく。なるほど、冒険者というのは本当だったようだ。とても慣れている。

なお、モルテはなぜか後ろの方で「こ、この小娘、自然に手を・・・」などと、よく分からないことを呟いていた。

だが、俺にその理由を聞く暇はなかった。シエルハちゃんに手を引かれる形で扉をくぐり、フロアを横切って歩く。

それを見た周りの冒険者たちが、こちらを見てヒソヒソと内緒話をするのが見えた。

恐らくこんな可愛い子に手を引かれているのが、俺みたいな男だったから騒いでいるのだろう。・・・まあ、そりゃそうだよな。俺だって怪訝に思うことだろう。前世ならきっと警察を呼ばれていたに違いないが、今世では大丈夫だろうか?

と、その時、周囲の冒険者たちのヒソヒソ話の一部が俺の耳に届いた。

「おい、アレってB級冒険者のシエルハじゃないのか?」

「ああ、本当だ。山に関してはB級どころかA級なんじゃないのかと言われてる、あのキツネ族の・・・」

「だが、最近はめっきり冒険者稼業からは足が遠のいてたって聞いていたんだがな。どういう風の吹き回しだ?」

「隣にいる男、確かゲイルさんの依頼を受けた新人だろう? 何でもあのアーレンを捕まえたんだそうだ」

「やるじゃねえか。なるほど、そういうことなら納得だ」

あれ? 思ったよりもまともなやりとりみたいだな・・・。っていうかシエルハちゃんがB級冒険者!? 

そんな風に驚いているとシエルハちゃんが声を掛けて来た。

「むふふ、バレちゃいましたか~。そうなんです、何を隠そう私ことシエルハはB級冒険者なのでした。まあ、最近は本家で色々ありまして中断していたんですけどね。コウイチローさんとなら、久しぶりにパーティーを組んでみたいなあ、と思って再開することにしました!!」

そう大きな声で言う。すると周りの冒険者たちがまたもやヒソヒソと声をひそめて話し出す。

「聞いたかよ、ゲイルさんの次は、シエルハを落としたみたいだぞ、あのコウイチロウって奴は」

「どっちもパーティーの誘いを全部断ってた奴らばかりじゃねえか!」

「あの後ろの銀髪の子といい羨ましいぜ。一体どうやってシエルハを口説いたんだか」

「長年冒険者たちを見ていたわしにはわかる。あの若者には天性のロ・・・の才能を感じる。大いなる・・・ンの波動じゃ」

最後のやつのセリフは途中が聞き取れなかったが・・・、どうやら盛大に勘違いされているようだ。おいおい、全くそういうことじゃないってのに。落としたとか口説いたとか、俺みたいなやつと噂されてもシエルハちゃんみたいな美人が困るだけだろう。

案の定、シエルハちゃんの方を見ると俯いて顔を隠している。金髪からのぞく綺麗な形をした耳が心なしか赤いのは怒っているからかもしれない。どうやらさっさと受付に行って、パーティーメンバーの追加申請をした方が良さそうだ。

俺は先ほどとは打って変わってシエルハちゃんの手を引く形で先に歩き出す。

「あ~、こうやって手を引かれるのも経験してみると良いものですねえ。前にパーティーを組んでた時は私がリーダーやることが多かったですから。何だかドキドキしますね」

「むう、わしだけのじゃったのになあ」

後ろで二人の少女たちのやりとりが聞こえて来たが、女の子どうしの会話だからだろう。前世で全く女友達のいなかった俺には理解出来ない内容だ。

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