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「いや、知らん。だいたい晴れなんじゃないか?」

俺の一つ目の質問。魔の山の天候についてのゲイルさんからの回答がこれであった。

俺は「いきなりかよ!」と内心でつっこむ。

が、何とか表情には出さないようにしながら質問を続けた。

「じゃ、じゃあ、二つ目です。魔の山の地図はありますか?」

「ん? いや、ないぞ」

「え・・・。えーっと、手持ちがないってことですよね。じゃあ、購入予定なんかは?」

「いや、それもないぞ。なんせ地図はかなり高くて数も少なくてな、なかなか手が伸びないんだ。まあ、頂上はひとつだ。上へ上へと向かえばたどり着くだろう」

なるほど、なるほど・・・。これはかなり頭が痛くなってきたぞ~。

「ええっと、では三つ目の質問です。どんな格好で行くつもりか教えてもらって良いですか?」

「格好っていうと、どういう服装かってことでいいのか? 冒険者時代の服があるから、それを使う予定だ」

「ちなみに具体的にはどういった服になりますか?」

「おかしなことを聞くんだな。俺はファイタータイプなんで、比較的軽装だ。厚めの布製の服にプレートメイルなんかの防具を付ける感じだ」

うわあ、それってだと多分、体中が傷だらけになって、途中で絶対装備品を捨てることになるぞ? あと、防寒性という概念はこの異世界には存在しないのか?

「で、では最後の質問になります」

「おう! どんとこいや!」

なんでそんなに自信満々なんですか?

「靴はどんなものを使用されますか?」

「ん? 今履いてるやつだが」

「は?」

今履いているのって、その足首が出てる革靴のことですか?

「ちなみに防水性はどれくらいありますか? 何だか普通の靴に見えるんですが・・・」

「ああ、別に普通の靴だが? 防水性はあんまりないな。雨の日なんかは中が湿ってかなわん」

「山舐めんな!」

俺はバン! と机を叩いて立ち上がる。しまった、思わず絶叫してしまった。

けれど、これぐらいのリアクションは許して欲しい。

なぜなら目の前のスキンヘッドのおっさんは、遠まわしに自殺しに行くと言っているようなものなのだから。

凍傷になるわ! あとアイスフォールでクレバスに落ちて死んでしまうわ!!

だが、そうした俺の思いはもちろん通じていないらしく、いきなり大声を出した俺をゲイルさん、並びに周囲のおっさんたちはただポカンと見ている。

くそ、全然伝わってないな。しょうがない、ちゃんと説明しよう・・・。

「ゲイルさん、落ち着いて聞いて、よ~く聞いてくださいよ?」

俺のただならぬ様子にスキンヘッドのおっさんは素直に頷く。

「死にます」

「え?」

「そのまま行ったら間違いなく死にます」

俺の言葉におっさん達はぎょっとした表情で固まる。だが、実際に死んでからは遅いのだ。山の怖さ、自然の恐ろしさをちゃんと理解してもらわないといけない。

「いいですか、ゲイルさん。山を舐めちゃいけません。しかも雪山ですよ。ヘタをすれば命を落とす恐ろしい場所なんです。平原を行くのとは、まったく訳が違うんです」

「そ、そうなのか・・・? だが、冒険者時代に山のモンスターの討伐依頼もこなしたこともあるが大丈夫だったぞ?」

「それはたまたま難易度が低かったのと運が良かっただけです。良いですか? 山では天候が崩れれば前に進むことはできませんし、雪が降るたびに地形を変える雪山に地図無しで挑むなんて遭難しに行くようなものです。それから、服装は寒暖を調整できる様な物で行くべきで、重ね着レイヤリングをすることで防寒性、防水性をコントロールするべきです。あと、ゴツゴツした防具で登山なんてしたらその部分がすぐに傷だらけになりますよ? それからそれから、靴も防水性の高い物にしないと、足が冷えて動けなくなります。凍傷になって、たちまち皮膚が壊死してしまいます。それに、その普通の靴では、山のガレ場とか雪の上、それに急勾配では滑って登る事すらできません。ちゃんとスパイクアイゼンを装着できるものにしないと・・・」

早口でまくしたてる俺にゲイルさんは一回り小さくなったようにシュンとしている。いや、いい歳のおっさんにシュンとされてもな・・・。

「そうか・・・。なるほど、コウイチロウは相当、山に詳しいみたいだな。その若さで大したもんだ。俺が知らない装備品アイゼンのことも良く知っているみたいだしな。だがな、コウイチロウ、どちらにしても俺は行くぞ? 例え死ぬとしてもな。さっき説明した通り、冒険者への依頼では失敗しているし、嫁の病状から言ってものんびりしている暇はないんだ」

「おやっさん、やっぱりやめたほうがいいんじゃないですかい?」

と、そこへ俺たちのやりとりを見守っていた3人のおっさんたちから声が上がった。

「な、何だと! てめえらまで何を言い出しやがる!!」

怒りだすゲイルさんに、3人のおっさんたちはビビりながらも諭し続ける。

「そもそも、何でゲイルさんが冒険者を辞めるはめになったか忘れた訳じゃねーでしょう? そりゃ、結婚したのもあるんでしょうが、その直前に利き腕にひどい傷を負ったせいで二度と剣が振れないようになったからじゃないです。魔の山には強力なモンスターも出ます。むざむざ死にに行くようなもんですよ?」

「てっ、てめえ! 」

そうか、腕に大怪我を負っていたのか。それならますますゲイルさんを行かす訳にはいかないな。だが、奥さんの病状も良くないらしいから、出来るだけ早くエルク草を採取してこないといけない。けれど、依頼は一度失敗している。

一体どうすれば良いのいか・・・?

と、その時、俺の服の裾をモルテがクイクイと引っ張った。なぜか眉根を寄せて困ったような表情をしている。一体どうしたんだ?

「のう、コーイチロー、こやつらは何を悩んでおるのじゃ?」

ってオイ! ずっとこの状況を見ててその質問かよ。

「奥さんを助けるためにエルク草が必要なんだけど、それを取りに行ける人がいない、ってことだよ」

俺は彼女に小さい声で答える。だが、銀髪幼女はポカンとした表情をした後、大きな声で言った。

「なんじゃ、そんなことか!」

彼女はいきなりそう叫ぶと椅子の上に仁王立ちになる。ど、どうしたんだいきなり?

だが、俺が驚くのにはお構いなしに、おっさんたち4人へ堂々と宣言したのである。

「わしのコーイチローに任せればよいじゃろうが!」

・・・え?

「おいおいモルテ、一体何を・・・」

言い出すんだよ、あと、わしのって何だよ?

そう俺は声を上げようとしたのだが、

「「「「それだ!!」」」」

おっさん4人の声がきれいにハモったのであった。
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