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「ふうん、じゃあおっさんは、やっぱり盗賊ってことか。パーティーを魔の山とやらで失ってから落伍者一直線ってわけだ。そんで、ここら・・・確かテグの街だったか、の周りに広がるグライヤ平原を縄張りにして追い剥ぎに精を出していたと」
岩に腰掛けた俺は、目の前の地べたに座らせたおっさんを見下ろしながら言った。
薄汚れた身なりの男で、髪はボサボサで無精ひげが生えている。この辺りを縄張りにしているつまらない犯罪者のようだ。
随分怯えているようで先ほどからコチラと目を合わさないように視線を逸らしている。
確かに刺したはずのナイフが効かず、その上パンチ一発で気絶させられたわけだから、おっさんにしてみれば恐怖以外の何者でもないだろう。
うーん、前世ではこわーいお兄さんたちに金品を巻き上げられそうになってペコペコとしていた立場だったのになあ。
それが今や丸で逆だ。いや、別に俺がオヤジ狩りをしてるわけじゃないんだけどね。ただ、何だか感慨深いなあと。
「へえ、その通りです。それでその・・・俺はどうなりますでしょうか。どうか命だけはご勘弁を」
そう言って恥も外聞もなく土下座する。
人の命を狙っておいて虫のいい話だが、別にこの男の命を奪ったからと言って俺に何か得があるわけじゃない。殺すのも良いが生殺与奪の権利があるうちに情報収集と行こう。そのあとに官憲にでも突き出せばいい。
「よし、そこまで言うなら俺の質問に答えてもらおう。そうすれば命は助けてやる」
「ほっ、本当か!? しゃべる、いえ、なんでも喋らせていただきます!!」
興奮して唾を飛ばしながらいう。汚いので俺はおっさんを一歩下がらせた。
ちなみにモルテは先程から、岩に座った俺の後ろから負ぶさるようにしていて、体重を掛けて来たり、頭をぐりぐりと押し付けたりして来たりしている。多分、退屈しているのだろう。
さて、俺はまずテグの街とやらの場所を聞く。ここから西に進めば1時間ほどで到着する距離にあるらしい。おっさんに案内させれば問題なく到着できそうだ。
あとは、これは個人的な趣味の話になってしまうが・・・。
「ちなみに、おっさんがパーティーを全滅させちまったっていう魔の山だが、それはどこにある? あと高さは何メートルくらいだ?」
どうにも登山好きの血が騒いでしまい、つい聞いてしまう。
「ああ、そんなことですかい。魔の山っていうのはテグの街から徒歩で1日くらい北にある凶悪なモンスターが住まう山です。高さは、そうだな・・・そうですね、4000メートルってところでしょうか。奇妙な山でしてね、なぜかあの山には年中雪が降っていて気温が低いんです」
へ~、さすが異世界だな。前世の常識でかかったらえらいことになっていただろう。聞いておいて良かった。
「モンスターか! そこをもう少し教えてくれないか?」
「へえ。上にゆくほど凶悪なモンスターが出てきやす。最初の方はゴブリンやオークどもですが、2000メートルあたりを越え始めますと、怪力自慢のホワイトトロルや集団戦法が得意なハーピーといった凶悪なモンスターも多数出現するらしいです」
なるほど、かなり厳しい環境のようだな。
そもそも登山というのは、それ自体が過酷な活動なのだ。ふとしたことで命を落としたり、遭難したりするものなのである。そうした元々の困難さに加えてモンスターが出現するとなれば危険度は著しく上昇する。登頂がいかに難しいか、推して知るべしといったところだな。いや、それどころか、生還自体もかなり難しいものになるに違いない。
だが、なぜだろう。そうした困難な状況なのにも関わらず、俺の胸中には魔の山への興味がうずき出し始めていた。
「なるほどなあ。じゃあ、おっさんもそのモンスターたちに、パーティーを全滅させられたってわけだな?」
「あ、いや、その・・・」
俺の質問におっさんは奥歯に物が挟まったような返事をする。あまり問答をしていても時間の無駄だ。少し脅しつけてやるか。まあ、俺みたいな奴がしてもあまり効力はないだろうが。
「おい、はっきりと言え!」
俺がそんな風に凄んでやると、おっさんはたちまち青くなって素直に話し始めた。あれ? 結構威力があったな。
「すっ、すみません、いえ、隠している訳じゃ無いんです。じつは理由が分からないんですよ」
はい? 俺はおっさんの言葉に思わず首を傾げる。
「それは一体どういうことじゃ?」
俺の耳にモルテの甘い吐息がかかった。いちおう、ちゃんと話を聞いていたのか。それにしても良い匂いがするな、この銀髪幼女。
「はい。パーティーは俺も含めて3人でした。俺たちは魔の山の頂(いただき)にあるという“エルク草”を取りに向かったんです。万病に効くという伝説の薬草です。本当にあるのかどうかは、誰もまだ確かめられていやせん。俺たちは山歩きって事で、できるだけ軽装にして出発しましました。およそ3日程度で帰ってくる計画でしたね」
ん?
「ですが思ったよりも山行(さんこう)が難航しやしてね。食料はあっけなく底をつきやした」
んん?
「その上、天候が荒れに荒れました。これはまったく予想外でしたね。半分も行かねえうちに俺たちは下山を決めたんです」
んんん?
「ですが視界の悪い中での移動でしたからね。なかなか足場も安定しやせん。おかげで一人は運悪くクレバスで足を滑らせちまい・・・それっきりです」
んんんん?
「もう一人も途中から訳の分からないうわごとを言い始め、急に上着を脱ぎだしやがったんです。なんかの病気を持っていやがったのかもしれません。俺が止めても裸になるのをやめやがらねえ。そのうち雪の中に寝っ転がって眠り始めやした。麓まで引きずって行くこともできず、そいつもそれっきりでさ」
んんんんん?
「えっと、旦那。さっきからどうかしやしたか?」
誰が旦那だ。だが、そんなことはどうでも良い。こいつ、本当に・・・本当に・・・。
「お前は登山リーダー失格だ!!」
俺はビシッとおっさんに指を突きつけた。だが、当のおっさんはポカンとするばかりである。
うーん、歯がゆいな。なにが全滅した理由がわからないだ。原因は明らかじゃないか! どうやらこの世界の登山レベルは相当低いようだ。
明らかに・・・明らかに! 登山をするための準備と計画が不十分なのだから。
山を舐めすぎだよ冒険者(元)のくせに・・・。その肩書は見せかけかよ。本当に脳筋って奴だな。多分、転生前の俺ですらもう少しマシな登山をしたと思うぞ?
俺は声にこそ出さないものの、心中で盛大に呆れるのであった。
岩に腰掛けた俺は、目の前の地べたに座らせたおっさんを見下ろしながら言った。
薄汚れた身なりの男で、髪はボサボサで無精ひげが生えている。この辺りを縄張りにしているつまらない犯罪者のようだ。
随分怯えているようで先ほどからコチラと目を合わさないように視線を逸らしている。
確かに刺したはずのナイフが効かず、その上パンチ一発で気絶させられたわけだから、おっさんにしてみれば恐怖以外の何者でもないだろう。
うーん、前世ではこわーいお兄さんたちに金品を巻き上げられそうになってペコペコとしていた立場だったのになあ。
それが今や丸で逆だ。いや、別に俺がオヤジ狩りをしてるわけじゃないんだけどね。ただ、何だか感慨深いなあと。
「へえ、その通りです。それでその・・・俺はどうなりますでしょうか。どうか命だけはご勘弁を」
そう言って恥も外聞もなく土下座する。
人の命を狙っておいて虫のいい話だが、別にこの男の命を奪ったからと言って俺に何か得があるわけじゃない。殺すのも良いが生殺与奪の権利があるうちに情報収集と行こう。そのあとに官憲にでも突き出せばいい。
「よし、そこまで言うなら俺の質問に答えてもらおう。そうすれば命は助けてやる」
「ほっ、本当か!? しゃべる、いえ、なんでも喋らせていただきます!!」
興奮して唾を飛ばしながらいう。汚いので俺はおっさんを一歩下がらせた。
ちなみにモルテは先程から、岩に座った俺の後ろから負ぶさるようにしていて、体重を掛けて来たり、頭をぐりぐりと押し付けたりして来たりしている。多分、退屈しているのだろう。
さて、俺はまずテグの街とやらの場所を聞く。ここから西に進めば1時間ほどで到着する距離にあるらしい。おっさんに案内させれば問題なく到着できそうだ。
あとは、これは個人的な趣味の話になってしまうが・・・。
「ちなみに、おっさんがパーティーを全滅させちまったっていう魔の山だが、それはどこにある? あと高さは何メートルくらいだ?」
どうにも登山好きの血が騒いでしまい、つい聞いてしまう。
「ああ、そんなことですかい。魔の山っていうのはテグの街から徒歩で1日くらい北にある凶悪なモンスターが住まう山です。高さは、そうだな・・・そうですね、4000メートルってところでしょうか。奇妙な山でしてね、なぜかあの山には年中雪が降っていて気温が低いんです」
へ~、さすが異世界だな。前世の常識でかかったらえらいことになっていただろう。聞いておいて良かった。
「モンスターか! そこをもう少し教えてくれないか?」
「へえ。上にゆくほど凶悪なモンスターが出てきやす。最初の方はゴブリンやオークどもですが、2000メートルあたりを越え始めますと、怪力自慢のホワイトトロルや集団戦法が得意なハーピーといった凶悪なモンスターも多数出現するらしいです」
なるほど、かなり厳しい環境のようだな。
そもそも登山というのは、それ自体が過酷な活動なのだ。ふとしたことで命を落としたり、遭難したりするものなのである。そうした元々の困難さに加えてモンスターが出現するとなれば危険度は著しく上昇する。登頂がいかに難しいか、推して知るべしといったところだな。いや、それどころか、生還自体もかなり難しいものになるに違いない。
だが、なぜだろう。そうした困難な状況なのにも関わらず、俺の胸中には魔の山への興味がうずき出し始めていた。
「なるほどなあ。じゃあ、おっさんもそのモンスターたちに、パーティーを全滅させられたってわけだな?」
「あ、いや、その・・・」
俺の質問におっさんは奥歯に物が挟まったような返事をする。あまり問答をしていても時間の無駄だ。少し脅しつけてやるか。まあ、俺みたいな奴がしてもあまり効力はないだろうが。
「おい、はっきりと言え!」
俺がそんな風に凄んでやると、おっさんはたちまち青くなって素直に話し始めた。あれ? 結構威力があったな。
「すっ、すみません、いえ、隠している訳じゃ無いんです。じつは理由が分からないんですよ」
はい? 俺はおっさんの言葉に思わず首を傾げる。
「それは一体どういうことじゃ?」
俺の耳にモルテの甘い吐息がかかった。いちおう、ちゃんと話を聞いていたのか。それにしても良い匂いがするな、この銀髪幼女。
「はい。パーティーは俺も含めて3人でした。俺たちは魔の山の頂(いただき)にあるという“エルク草”を取りに向かったんです。万病に効くという伝説の薬草です。本当にあるのかどうかは、誰もまだ確かめられていやせん。俺たちは山歩きって事で、できるだけ軽装にして出発しましました。およそ3日程度で帰ってくる計画でしたね」
ん?
「ですが思ったよりも山行(さんこう)が難航しやしてね。食料はあっけなく底をつきやした」
んん?
「その上、天候が荒れに荒れました。これはまったく予想外でしたね。半分も行かねえうちに俺たちは下山を決めたんです」
んんん?
「ですが視界の悪い中での移動でしたからね。なかなか足場も安定しやせん。おかげで一人は運悪くクレバスで足を滑らせちまい・・・それっきりです」
んんんん?
「もう一人も途中から訳の分からないうわごとを言い始め、急に上着を脱ぎだしやがったんです。なんかの病気を持っていやがったのかもしれません。俺が止めても裸になるのをやめやがらねえ。そのうち雪の中に寝っ転がって眠り始めやした。麓まで引きずって行くこともできず、そいつもそれっきりでさ」
んんんんん?
「えっと、旦那。さっきからどうかしやしたか?」
誰が旦那だ。だが、そんなことはどうでも良い。こいつ、本当に・・・本当に・・・。
「お前は登山リーダー失格だ!!」
俺はビシッとおっさんに指を突きつけた。だが、当のおっさんはポカンとするばかりである。
うーん、歯がゆいな。なにが全滅した理由がわからないだ。原因は明らかじゃないか! どうやらこの世界の登山レベルは相当低いようだ。
明らかに・・・明らかに! 登山をするための準備と計画が不十分なのだから。
山を舐めすぎだよ冒険者(元)のくせに・・・。その肩書は見せかけかよ。本当に脳筋って奴だな。多分、転生前の俺ですらもう少しマシな登山をしたと思うぞ?
俺は声にこそ出さないものの、心中で盛大に呆れるのであった。
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