20 / 38
3色:蒼天の露草色
4.夏の海の色
しおりを挟むじっと見つめる透明な溶液の中に、涼しげな青の線が現れる。ゆらりと立ち上る煙のように、柔らかな曲線を描きながら溶け込んでいく様子を眺めながら、小さく安堵の息を吐いた。
「うまくいったみたいだな」
穏やかな声がして、顔を上げると恭介が嬉しそうに表情を崩してこちらを見ていた。つられておれも笑い返す。
「うん。恭介のアドバイスのおかげだよ。溶液の濃度と分離器にかける時間を調整したら、かなり鮮やかに出せるようになった」
ここ最近ではかなりうまくいった実験の成果に、おれの頬は緩んだ。やはり、一度基本に返って見直してみてよかったのだと思う。
この間、蘇芳が女の子に絵を教えていたあの藤棚の近くに咲いていた露草の花。青色の植物の色素は染料としても活用しやすく、日本でも古くから親しまれてきた。原点に返りつつ、この青色に合わせて細かな部分を丁寧に見直してみたら、他の数種類の植物でも満足のいく結果が出せるようになったのだ。
「アドバイスっていうほどのもんじゃないけどな。むしろ彩が自分で考えるって聞かないから、一般的な指針しか出してやれなかった」
恭介はおれの手元の、青色が溶け込んだ美しい色合いの溶液を眺めながら肩をすくめる。それでも、恭介のアドバイスはいつだって有益だ。なにより、こうして一緒に成功を喜んでくれることが嬉しい。
「充分だよ。なぁ、この色、夏の海の色みたいだな」
露草の色が溶け込んだ溶液は光の加減でとても明るく、鮮やかなブルーに見える。実際はもうかなり長いこと青空を見ていない、鉛色の景色の中に咲いていたというのに、その花の色は太陽の下できらきらと光る夏の海そのもののようだった。
海の水に色はない。あの青は、光の屈折がそう見せるだけのものだ。それでも、真夏の海辺に立てば、海の青さを掬えるような気がしてくる。頭上の青空の色に手をかざせば、掌を染められそうな気がしてくる。科学者のはしくれとしては馬鹿げた思考なのだろうけど、そういう感覚を味わわせてくれる色の力を、おれはやっぱり大切に思う。
「そうだなぁ。快晴の空の色にも似てる。早く梅雨が明けて、こんな色の空が見たいよな」
恭介はおれの幼稚とも言える発想に呆れることもなく、楽しそうに笑いながらそう言った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
意味のないスピンオフな話
韋虹姫 響華
キャラ文芸
本作は同列で連載中作品「意味が分かったとしても意味のない話」のスピンオフ作品に当たるため、一部本編の内容を含むものがございます。
ですが、スピンオフ内オリジナルキャラクターと、pixivで投稿していた自作品とのクロスオーバーも含んでいるため、本作から読み始めてもお楽しみいただけます。
────────────────
意味が分かったとしても意味のない話────。
噂観測課極地第2課、工作偵察担当 燈火。
彼女が挑む数々の怪異──、怪奇現象──、情報操作──、その素性を知る者はいない。
これは、そんな彼女の身に起きた奇跡と冒険の物語り...ではない!?
燈火と旦那の家小路を中心に繰り広げられる、非日常的な日常を描いた物語なのである。
・メインストーリーな話
突如現れた、不死身の集団アンディレフリード。
尋常ではない再生力を持ちながら、怪異の撲滅を掲げる存在として造られた彼らが、噂観測課と人怪調和監査局に牙を剥く。
その目的とは一体────。
・ハズレな話
メインストーリーとは関係のない。
燈火を中心に描いた、日常系(?)ほのぼのなお話。
・世にも無意味な物語
サングラスをかけた《トモシビ》さんがストーリーテラーを勤める、大人気番組!?読めば読む程、その意味のなさに引き込まれていくストーリーをお楽しみください。
・クロスオーバーな話
韋虹姫 響華ワールドが崩壊してしまったのか、
他作品のキャラクターが現れてしまうワームホールの怪異が出現!?
何やら、あの人やあのキャラのそっくりさんまで居るみたいです。
ワームホールを開けた張本人は、自称天才錬金術師を名乗り妙な言葉遣いで話すAI搭載アシストアンドロイドを引き連れて現れた少女。彼女の目的は一体────。
※表紙イラストは、依頼して作成いただいた画像を使用しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる