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2色:困惑の躑躅色
5.花色フレグランス
しおりを挟む「彩人、調子どう?」
躑躅の花弁にシリカゲルを加え、乳鉢ですりつぶすおれに花村が声を掛ける。しっかりと粉末状になったことを確認し、薬さじを探して視線を彷徨わせると、目の前にすっと差し出された。
「ありがと。まぁ……いつもどおりって感じ」
へらりと笑って見せると、花村はじっとおれの表情を見て、安心したように微笑んだ。長く綺麗な髪を手早くまとめていつものバレッタで上げると、手元の実験記録に戻る。花村の字は彼女に似て、涼し気に整っていていつだって丁寧だ。
「その躑躅の花、綺麗ね」
「うん。生協の植え込みのところに咲いてる。ここにあるのはもう落ちちゃった花だけど、他にも白とか、ピンクとか、いろいろあったよ」
「子どもの頃、それの蜜吸ってたな」
「はは、花村もそういうのやったんだ。小さい頃って、けっこうわけわかんないことするよね」
「そうねぇ。でもさ、そういう『わけわかんないこと』が、思わぬ発見の出発点になったりするのよね。私も、息抜きに躑躅の香り成分の抽出でもしようかな」
花村は独り言のようにそう言うと、ぐっと伸びをした。彼女は植物から匂いの成分を抽出するのが得意だ。3年生で、すでに蒸留装置を用いた独自の抽出方法で、数種類の植物の香り成分を水溶液として取り出すことに成功している。現在取り組んでいる研究とは違う内容のものだが、ときどき花の香りを配合した香水なんかをオリジナルで作っているようだ。
「じゃあ、花村の分も拾ってくる。昨日の風で、まだ綺麗な花もずいぶん落ちちゃったみたいだし、せめて可愛い香水にしてあげてよ」
そう言って、手元の作業を中断し立ち上がると、花村は可笑しそうに笑った。
「相変わらず植物想いだこと。いいわよ、この都さんが素敵に蘇らせてあげるから」
我が研究室のエースの、頼もしい一言に見送られておれは再び採取に向かった。
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