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ブンッ ブンッ
「はっ! はっ!」
(結局あれからみおに避けられているような気がする……。やはり思い違いだったのか……)
「朝から精が出るな、エイキチどの」
「っ、ヤスマツか……。アンタ、俺をだしにしてうまくこの計画に混ざってきたな」
「ふっ、それがしはここではよそ者にて、同じ立場のエイキチどのが一緒ならば心強いと思ったまでのこと」
(こいつ……あの兄弟とは違った意味で算盤ずくだな。そこまで陰険でもなさそうだが……)
「いや、今は算術にばかり感けていても性根は武士。実際エイキチどのにはただならぬ風格を感じる。箒をまるで大業物のように扱うさま、もしや、どこぞの剣士ではないのかと……」
(やはり、わかるやつにはわかってしまうのか)
「……俺は確かに、『ドラゴンスレイヤー』の異名を持っていた」
「何でござろうか、その、どらごんすれいやーとは?」
「端的に言えば竜殺し、ってことだ」
「おお……なるほど。それで玉川の暴れ竜も相手に戦ったということであるかな。その竜殺しのエイキチどのに、ちと相談がござる」
「一体何だ」
「この玉川から水を引く場所の見当をつけに、一緒に来てもらいたい」
「えっ、なぜ俺に……」
(いや、しかしここは祠のことを確かめるチャンスかもしれんな)
「……わかった」
ゴー……ッ
「相変わらずすごい水の量だな」
「江戸の城下も、この玉川の水があれば干上がらずに済むだろう」
「そのエドってまちには水源地がそんなにないのか」
「ああ、江戸の城は海沿いにあってな。はじめは人も少なかったので池から水を引いていたのだが、今はもうそれでは賄いきれなくなってしまった。それがしには老中伊豆守様から直々に命を下された。江戸の発展に関わる急ぎのお役なのでござる」
(なるほど、なんとなく朧げにだが状況がわかってきた……)
「つまり、あの金ピカ兄弟に任せていたら工事の完成がいつになるかわからないから、お偉いさんたちも焦ってるってことなんだな」
「おお、わかってもらえたか!」
「民の平和はいつも俺の望むところだ」
「しかし、今のところ水路をどこに掘るかいくつか指図を引いてみたのだが、どう思うか聞かせてもらいたい」
がさがさ
「ふむ……。三つの案があるんだな」
「それくらい用意しておかねば、あの兄弟の二の轍を踏んでしまう」
「確か、水の吸い込んでしまう土や、工具を通さない岩盤があったりするんだったな」
(これは、大地魔法で土の具合を調べた方が良さそうだ)
「エイキチどの、突然何を……?」
「しっ、静かに……」
(大地の精霊がこの世界にもいるとしたら、きっと教えてくれるはずだ……)
「じかに大地に触れて何をさぐっているのか、まるで仙人のようだな……」
(……よし、視えた!)
「いくつかの箇所は行ってみた方が確実にわかるが、おそらくこの三つ目の案が良さそうだ」
「三つ目……この丸山の裾から水を反して、水神の社の所に堰を入れるのか……! これは村の者から文句が出るかと思ったのだが」
「ああ、そういえば水神の祠が今は川底に沈んでしまってると聞いた。それをすくい上げて、別の場所に祀ったらいいんじゃないか」
「なるほど……、エイキチどのはこちらの思う以上の答を出すな。頭に算盤でも入っておるのか?」
「いや、むしろ、背中の紋章といったところかな」
「む? それは刺青なのか?」
「俺たちのところでは勇者はみんな体のどこかに紋章を持っているんだ」
「そうか……異国の風習ならば何も言うまい」
「ああ、では早速行こう。……ああヤスマツ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「何かな」
「桜は、この国の者たちにどういう意味があるんだ」
「ん? 桜か……。われわれは桜が咲くと、春の喜びを花見として皆で楽しむのだ。花の命は早くて三日、その儚さにわれわれは自身の命の儚さをもみているのだ。つまり、すべてはひとときの宴に過ぎないと」
「運命に抗おうとは思わないのか?」
「さだめ? さだめは受け入れるもの。それでも、守る者のために手を尽くさないというわけではない」
(ああ、こいつにも……)
「もうじき桜も咲く、その頃には普請に取りかかるようにしよう。きっとお役の間の慰めになる」
「はっ! はっ!」
(結局あれからみおに避けられているような気がする……。やはり思い違いだったのか……)
「朝から精が出るな、エイキチどの」
「っ、ヤスマツか……。アンタ、俺をだしにしてうまくこの計画に混ざってきたな」
「ふっ、それがしはここではよそ者にて、同じ立場のエイキチどのが一緒ならば心強いと思ったまでのこと」
(こいつ……あの兄弟とは違った意味で算盤ずくだな。そこまで陰険でもなさそうだが……)
「いや、今は算術にばかり感けていても性根は武士。実際エイキチどのにはただならぬ風格を感じる。箒をまるで大業物のように扱うさま、もしや、どこぞの剣士ではないのかと……」
(やはり、わかるやつにはわかってしまうのか)
「……俺は確かに、『ドラゴンスレイヤー』の異名を持っていた」
「何でござろうか、その、どらごんすれいやーとは?」
「端的に言えば竜殺し、ってことだ」
「おお……なるほど。それで玉川の暴れ竜も相手に戦ったということであるかな。その竜殺しのエイキチどのに、ちと相談がござる」
「一体何だ」
「この玉川から水を引く場所の見当をつけに、一緒に来てもらいたい」
「えっ、なぜ俺に……」
(いや、しかしここは祠のことを確かめるチャンスかもしれんな)
「……わかった」
ゴー……ッ
「相変わらずすごい水の量だな」
「江戸の城下も、この玉川の水があれば干上がらずに済むだろう」
「そのエドってまちには水源地がそんなにないのか」
「ああ、江戸の城は海沿いにあってな。はじめは人も少なかったので池から水を引いていたのだが、今はもうそれでは賄いきれなくなってしまった。それがしには老中伊豆守様から直々に命を下された。江戸の発展に関わる急ぎのお役なのでござる」
(なるほど、なんとなく朧げにだが状況がわかってきた……)
「つまり、あの金ピカ兄弟に任せていたら工事の完成がいつになるかわからないから、お偉いさんたちも焦ってるってことなんだな」
「おお、わかってもらえたか!」
「民の平和はいつも俺の望むところだ」
「しかし、今のところ水路をどこに掘るかいくつか指図を引いてみたのだが、どう思うか聞かせてもらいたい」
がさがさ
「ふむ……。三つの案があるんだな」
「それくらい用意しておかねば、あの兄弟の二の轍を踏んでしまう」
「確か、水の吸い込んでしまう土や、工具を通さない岩盤があったりするんだったな」
(これは、大地魔法で土の具合を調べた方が良さそうだ)
「エイキチどの、突然何を……?」
「しっ、静かに……」
(大地の精霊がこの世界にもいるとしたら、きっと教えてくれるはずだ……)
「じかに大地に触れて何をさぐっているのか、まるで仙人のようだな……」
(……よし、視えた!)
「いくつかの箇所は行ってみた方が確実にわかるが、おそらくこの三つ目の案が良さそうだ」
「三つ目……この丸山の裾から水を反して、水神の社の所に堰を入れるのか……! これは村の者から文句が出るかと思ったのだが」
「ああ、そういえば水神の祠が今は川底に沈んでしまってると聞いた。それをすくい上げて、別の場所に祀ったらいいんじゃないか」
「なるほど……、エイキチどのはこちらの思う以上の答を出すな。頭に算盤でも入っておるのか?」
「いや、むしろ、背中の紋章といったところかな」
「む? それは刺青なのか?」
「俺たちのところでは勇者はみんな体のどこかに紋章を持っているんだ」
「そうか……異国の風習ならば何も言うまい」
「ああ、では早速行こう。……ああヤスマツ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「何かな」
「桜は、この国の者たちにどういう意味があるんだ」
「ん? 桜か……。われわれは桜が咲くと、春の喜びを花見として皆で楽しむのだ。花の命は早くて三日、その儚さにわれわれは自身の命の儚さをもみているのだ。つまり、すべてはひとときの宴に過ぎないと」
「運命に抗おうとは思わないのか?」
「さだめ? さだめは受け入れるもの。それでも、守る者のために手を尽くさないというわけではない」
(ああ、こいつにも……)
「もうじき桜も咲く、その頃には普請に取りかかるようにしよう。きっとお役の間の慰めになる」
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