承応二年のドラゴン殺し

くらぽ

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 ザーーーーーーーー……ッ
(あれからもうひと月になるか……)
「すごい雨だな」
「ふむ、今は梅雨という時期でな。一年でもっとも雨が降る」
「……そうか」
「引っかかったな、エイさんよ。今はまだ弥生じゃ」
「……っ?!」
「ほっほ、おまえさんが異国の者であることはとっくに気がついておるよ。それよりも、この雨で玉川が荒れておるかどうかのが心配じゃ」
(この、狸ジジイ……)
 カラッ
「皆さん、夕食の支度ができました」
「おお、みおか」
「……」
「二人とも仲が良いのは結構ですが、おつゆが冷めてしまいますよ」
「わかった、俺も手伝おう」
「エイさん……。まだ怪我が治ってないんだからいいですよ」
「かまわない、もうほとんど治ったんだ」
「じゃあ……、お願いします」
 じーっ
「……」
「何だよ、和尚」
「いや別に」
「言いたいことがあるなら言えよ」
「わしの寺なのに、わしが客みたいな気がしてのう。初々しい夫婦の家に来たみたいじゃ」
「お、おじ上ったら……っ」
 かああああ……っ
「何言ってるんだ和尚、からかうのはよせっ」
「ほっほ……」
「それに、俺にはやらなくちゃいけないことが……」
 ダダダダッ。
「和尚さん! 大変だ、雪解け水とこの雨で、玉川が……っ」
「喜助?」
 すっく。
「わかった。岸辺の家にはもう伝えたか」
「他のやつが行ってる」
「よし、皆、東の丘の方に逃げるぞ」
「な……っ、これからか?!」
「エイさん、ぼさっとしてねえで、早く行くぞ!」

 ザーーーーーーーー……ッ

「……なあ、これは川が静まるまで、丘に避難するしか策がないのか?」
「何言ってるんだエイさん、この玉川は『暴れ竜』と呼ばれる厄介な川なんだ。毎年大雨の季節には田畑がやられちまう、ここ羽村だけじゃなくて、もっと下の方の村はさらにひどいことになったりするんだ」
「『暴れ竜』だと……?」
「これ、エイさん、どこに行くんじゃ」
「その暴れ竜を、俺が退治してやる」
「待って、エイさん!」
「みお、あんたは和尚と一緒に丘に避難するんだ」
「でも……」
「みおちゃん、危ないからオラたちと一緒に!」
「エイさん‼︎」
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