【R18】カラダの関係は、お試し期間後に。

栗尾音色

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カラダの関係は、これからもずっと♡

(※♡)それぞれの絆

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──もう、これで何度目のキスだろうか。

まだ薄く日の光が届くベッドの上。

シーツの波間で重なり合う、生まれたままの2つのカラダ。
言葉も交わさず、視線を交換し合っては繰り返されるキス。

抱き合う肌の上で擦れ合う彼の絹のような素肌の感触が、その体温を通して甘い心地よさを与えてくれる。
嗅ぎ慣れた柑橘系のシャンプーの香りもまた、この時はより一層甘美な香りとなって鼻を突くのだ。
そして、キスの合間に薄目を開いて何度も確認してしまう彼の顔。
輪郭から鼻筋まで全体的にバランス良く整った顔は凛とした色気が溢れ、毎日見ているにもかかわらず見惚れてしまうほどだ。
そんな彼の瞳の中には確かに自分しか映っていない…それでも、綾乃は確かめずにはいられない。

「葵…私のこと…見て…っ」

「見てるよ」
「お前のことしか…見てない」

そう言って何度頬を撫でられて口付けられても、足りないぐらいだ。
自分じゃない、他の誰かのカラダをその目で見つめ、キスをして、この手で触れたかと思うと…。

“嫉妬”などという、漢字二文字で簡単に表せるようなものではないこの感情は、一直線に彼の心とカラダを求めては悲鳴を上げていた。

「私のこと…好き?」

「…好きだよ」
「何もかも投げ捨てて、ずっとこうしてたいぐらい…っ」

手のひらで包み込むように胸を下から揉み上げられただけで、やんわりと立てられる指の動きにいちいち反応してしまい、吐息混じりの声が漏れる。

「んぅ……っん」

まるで意識ごと性感帯に塗り替えられたようなカラダは、そのプックリと自己主張している乳首を口に含まれた刺激を敏感に感じ取った。

「…あ、ん…!」

柔らかくて温かい舌先に乳輪ごとゆっくり舐め回され、また口に含んだ後、唇に挟まれて軽く吸い上げられる。

「…気持ちいい?」
「すっごく硬くなってる…」

「うん…きもち、い」

それを左右交互に不規則に繰り返され、もう一方の乳首を指に弾かれているうちに脚が落ち着きなく動き出し、やがて秘部が擦れることで濡れているのが自覚できた。

──早く、触って欲しい。

「んあ…あっ…!だめ、葵…もう…!」

「…ん、もうして欲しくなっちゃったの?」

「うん…もう我慢、できないの…!」
「お願い……葵っ…」

ちゅぷん、と乳首を吸い上げながら離れた唇が、時に舌先を這わせながら胸元からお腹へと移っていく。

「そんな可愛い顔でお願いなんてされたら…もう焦らすのもバカらしくなっちゃうじゃん…っ」

我慢できないのは彼も同じだったらしく、両脚を広げようとするその最中に秘部の溝に押しつけた舌が、卑猥な音を立てて攻め始めた。

ヌルッ…ぴちゃぴちゃ、ちゅぷぷ

「ふあ…っあああん…っ!!」

グイ、と太ももから広げられた秘部はクリトリスまで剥き出しにされ、彼の熱い舌がその下でひたすら溢れる愛液の上で音を立てている。
そしてまた、そんな行為の最中に彼が途切れ途切れに発する言葉が一層興奮へと堕としにかかるのだ。

「…っん…やっぱ好きだな」
「この、甘くて…いやらしい味…」
「お前が俺に感じてる…味」

口元を| うずめられた膣口から湧き出る愛液を、小刻みに動き回る舌と唇にジュルジュルと舐め啜られていく。

「やらしくておいしいオマンコ、もっと舐めさせて♡」

じゅるるる、ピチャピチャピチャピチャピチャ…

「ああ…あんん…っ!」
「やだ、あ…っ、そんなに…しちゃっ…!」

自分の一番恥ずかしい所を余すことなく味わい尽くされている感覚がこの上なく恥ずかしいはずなのに、カラダはますますゾクゾクと興奮と快楽を昂らせ、秘部は愛液を増す一方なのだ。

「ここ、舐めたらもっと…出ちゃう?」

さっきからもう触れられたくてジンジンしていたクリトリスをヌルリと舌先で舐め上げられ、その強い刺激にカラダがのけぞってしまう。

「ひ、ああっ、あん…!!だめ、それだめぇ…!!」

強すぎず弱すぎない絶妙な力加減で下からクリトリスを舌先に叩かれ続け、そこはまた溢れ出す愛液に満たされていった。

「なぁ…垂れてってるの自分でもわかる?」

つーっと、お尻の穴の方まで愛液が伝っていく感覚がした瞬間に訊かれ、それに答えようとするも剥かれたクリトリスを唇に吸われて言葉を失う。

ぢゅ、ぢゅ、じゅるっ

「ひあん!いや、いや、吸わないでぇ!」

足のつま先がじん、と痺れ始めた頃、絶頂の寸前で離された舌がまた膣口を攻め始める。
もう愛液で水浸しになったそこは、舐められているだけで過剰なほど激しい水音を立てるのだった。

ぷちゅ、チュプチュプチュプ

「いやあ…あぁぁあ…っ!!そんなに舐めちゃやだぁあ…!!」

「だめ、まだ許してやんない」

もう頭がおかしくなってしまいそうな快楽と、いやらしい水音に対する自分の羞恥心が限界に達してしまいそうになった時、膣内へは彼が硬く尖らせた舌が挿入された。

ぐちゅ、ぬちゅっ

「…あっ!あぁあ…!!」

中をウネウネと動き回る舌に舐め回されて脚がビクビクと震え出すが、その上のクリトリスを親指でこねくり回された瞬間にはとうとう、まともな声すら出なくなってしまうのだ。

「ひぐっ、あ、ら、らめ…!!」

ついさっき口で刺激されたばかりのクリトリスは指による刺激にも敏感すぎるほど反応し、同時責めによる絶頂は1分もしないうちに襲ってきた。

「い、きもちい…イクッ!イクイク…!!」
「あ、あ……ああ〰︎〰︎〰︎っ!!」

跳ね上がりそうになる腰を押さえつけた彼が、まだイッている最中のクリトリスを舌先でレロレロ弄び続ける。

「こんな生き物みたいにピクピク動いちゃって……いやらしいクリちゃん♡」

「ばっ…ばかぁ…!!」

「だめだ…もう我慢の限界」
「一緒にもっと気持ちよくなろ?綾乃っ…」

そして、涙目になって脱力した綾乃の脚をさらに広げた葵は、まだ絶頂を迎えて間もないそこへと下半身を押し付けた。

もう、そり返ってしまうほど硬く大きくそそり立った彼の象徴。

すでに快楽の絶頂を与えられたばかりのそこへとそんなものを挿入れられるかと思えば、期待と興奮よりも少しの不安がよぎった。

“自分が変になってしまうんじゃないか”…という不安が…。

「あ!だめ!まだイッたばっかなのに…!」

「だからいいんじゃん…」

ずぷぷ…

「っあぁあ!」

彼が見下ろす下で、膣口へと頭から入ってきた硬い棒が愛液を潜りながらゆっくりと奥まで到達する。

「すっご……奥までトロットロで吸い付いてくる…っ」
「そんなにクンニが気持ちよかった?」

──もう、いやらしい女だと思われてもいい。

それが、愛する男のためだけの自分ならば。
愛する男に愛されながらそんな女になってしまったのならば、これほど幸せで満たされることなどないのだ。
そんな想いは、あるがままの答えをその口からこぼれさせていく。

「…うん…気持ちよかったの…っ」
「もっと欲しいよ…葵が…!」

そんな素直な感情は、中で動かさずに焦らしていただけの彼を突き動かすのだった。
ゆっくりと引き抜かれそうになった途端にまた一気に奥まで沈められ、彼のもので自分の中がいっぱいになるたびに悦びの声が漏れ出す。

「…あっ、あああ…ん!きもち、い…っ」

ぬぶ、ずぶぶ……ズプッ!

「っん……えろいな、綾乃…!」
「その顔、もっと見せて…」

ゆっくり出し入れされているだけでも水音を立てていた結合部は、彼に激しく打ち込まれ始めたことで軋むベッドの音とともに一層卑猥な音へと変わっていった。

にゅちっ、グチッぷちゅっぷちゅっぱちゅっ…

「あ……っあ、い、いいよぉ葵ぃ…!!」
「きもち…いいっ…!!」

「うん…!俺も長持ちさせられる自信…あんまりないかも…っ!」

パンパンパンパンパンパンパンパン!!

「ぁあああぁぁあぁあっ♡!!」

腰をガッチリ掴んでホールドされ、愛液を垂れ流す膣内の奥まで激しく突かれるたびに快感が脳天まで上り詰める。

「んっ……あ!やば…たまんない…!」

激しい交わり合いの最中さなか、見上げたそこには、前髪を汗で濡らした彼のとろけた顔があった。
“自分とのセックスでこんなにも彼が感じてくれている”…そう思うと、愛おしさと女としての悦びが同時に込み上げてくるのだ。
そして、“もっと彼に気持ちよくなってもらいたい”と思った時に、ひたすら思いのままに腰を振っていた彼の動きが急に緩やかになっていった。

「…俺がイク前に、お前のことイかせてやらなきゃな」
「指でも舌でもない……で♡」

「えっ…?」

ヌプン、と膣内を動く彼の肉棒の硬い先端が、上壁の辺りを探るように刺激し始める。
そこは、女性が持つ性感帯の中でも極めて強い快感を得られる場所のひとつ。
そして、ゆっくりとその上壁に先端の凹凸を引っ掛けるようにして引かれているうちに、尿意と一緒にとてつもない快楽の波が押し寄せてくるのだ。

ぐぷ、ぐぷっ…

「あ…!だめ、来ちゃう来ちゃう!!」

「これ、気持ちいい?いいよ…イッても」

Gスポットへの摩擦による刺激は、彼の指に外からクリトリスを刺激されると同時に強烈なものへと変わっていくのだった。

「はああ…あっ!だめ…だめだめ!!」
「だめこれ!イク……イッちゃうぅ…!!」

激しくされたわけでもないというのに脳内はオーガズムに乗っ取られ、彼の肉棒が挿入されたままの状態でビクンビクンと腰が浮かぶ。
いわゆる“中イキ”のその真っ最中、まるで頃合いを見計らったかのように中をピストンし始めた彼の激しさに頭の中が真っ白となった。

ぬぶっ、じゅぷっ!ズチュッ!ズチュッ!

「あぁあああ〰︎〰︎〰︎っ♡!」

オーガズムの収縮運動が持続しているヌメヌメの膣の中を激しく突かれ、中から掻き出された愛液がシーツを濡らしていく。
そして、そんな具合はとうとう葵を絶頂に至らしめるのだった。

「っはぁ、あ…!グチョグチョで…締まるっ…!」
射精していいっ?綾乃…!」

「うん…うんっ…!」
「私の中っ、葵の精液で満たしてぇ…!!」

「いいよ…じゃあいっぱい中に射精してあげる…!」

膣奥まで突き続ける彼の欲望の塊は、より一層激しく、速くなる。

パンパンパンパンパンパンパンパン!!

「ああっ…!イク、イクッ!」
「……っあ!」

彼の硬い二の腕を掴む指に力が入った瞬間、お腹が大量の熱いものに満たされていく感覚が下半身を駆け巡った。
そして、尿意とはまた違う、何かが漏れ出してしまいそうな感覚。
絶頂の余韻が残るカラダも脳内も、愛しい男とのセックスの心地よさと満足感でいっぱいで…

いつの間にか、心まで彼に満たされていた。


──抱き枕がいらなくなったベッドの上。

少しの疲労と名残惜しさが、お互いに離すことをまだ許さない。

「ねぇ…葵」

「んー?」

「…そんなにホールドしなくても…いいんじゃないかなぁ…?(笑)」

ガッチリと抱きしめられているその腕の強さは、一週間以上も離れて過ごしていた間に募っていたものの強さなのだ。

「…そんなに私がいなくて寂しかったの?」

「……うん」
「仕事に集中して紛らわせてた部分もあるけど、一人でベッドに入る瞬間なんか特に…」
「……寝心地が良すぎて、よく眠れて最高だった…」

「……え」

「バカ、冗談だよ」
「……半分はなっ(笑)」

「ああーっ!じゃあ、半分は私がいなくて快適だったんだ?!」

ついついムキになる綾乃の額に、葵はチュッとキスをしてからまた強く抱きしめた。

「ううん…俺、改めてよくわかったんだ」
「お前がいない部屋も、ベッドも広すぎて快適すぎて……それがどうしようもなく虚しくって寂しくて…」
「だから……帰ってきてくれてありがとうな」

自分の存在が彼の中でどれだけ居場所を占めていたのだろうか。
それを実感できた今、目の前で優しく微笑む彼の存在もまた、自分の中でかけがえのない存在であることを一層思い知った。

「葵は…今でも子供が欲しいって思ってるの?」

一件のことで有耶無耶になっていたことをどうしても確かめたくなった。

「そうだなぁ……」
「もし子供ができるなら、男の子も可愛いけど……やっぱ女の子、かな?」

「そうなの?私はどっちかと言えば、葵にそっくりな男の子がいいなー…なんてっ!♡」

「いーや、絶対女の子がいいっ!」
「世話好きで、天真爛漫で、目がキラキラしててっ、プリンセスが大好きなお姫様みたいな女の子がいいんだってば!」

「……妙にリアルな娘像だね…」

──お互いに、必要不可欠な存在。

恋人として、これから一生添い遂げる伴侶として、かけがえのない人。
甘い甘~い二人きりの時間には限りがあるかもしれないけれど、今…この時の1分1秒を何よりも大切にしたい。

喜びも、悲しみも、何もかも二人で分かち合いながら───。


──それから、数週間後のこと。

株式会社“fineフィーネ”の応接室の室内には、女性の怒号が響き渡っていた。

「理恵子…あなた、どういうつもり?!」
「代表取締役の辞任を表明したって……正気の沙汰じゃないわ!!」

憤怒する初老の婦人の前で、理恵子は立ったまま腕を組んでフン、と鼻で笑ってみせる。

「もう正式に決まったことなんです、お母様」
「それに、私はその正気とやらに戻っただけでございますわ」

「なっ…!」
「あ、あなたねぇ、ここは田舎の町工場じゃないのよ?!」
「何百人という社員を抱えた“企業の顔”のあなたが社長の椅子を空けるなんてことっ…この私が許しません!!」

母の憤りは、娘のその笑みを嘲笑へと変えるのだった。

「“企業の顔”……そうね、私は所詮この大きな鳥籠の中ではそれだけの存在だった」
「そう、母親のあなたに操られているだけの木偶でく人形に過ぎなかったんだから」

「お黙りなさい!!」
「理恵子っ…!!あなた、私への恩というものがないの?!」
「しがない高校教師なんてしていたあなたの軌道を修正して、何不自由ない地位と財産を与えてあげた私に対する恩は?!」

母親に対する恩。
それは、ただ1つだけ。

「あなたへの恩といえば…私を産み、育ててくれたこと…ただそれだけです」

「……は?!」

「でもね、……私は同じ母親の立場として、あなたを心底軽蔑するわ」

言葉も出ない母の目をまっすぐに睨みつけ、理恵子は言い放った。

「だからね…あなたには私の気持ちなんて、きっと一生かけても理解できないの」
「…そうでしょう?会長」

「り、理恵子…!」

今まで自分の意思に従ってきた娘が翻した反旗。
そして今、失望と怒りを露わにしようとする母とその娘の間に扉をノックする音が割って入るのだ。

コンコンッ
ガチャ

「お話中の所、失礼致します」
「社長、空港までのタクシーの手配が完了致しました」

入室するなり頭を下げる中年の男性社員の姿に、理恵子はホッと一息つくのだった。

「そう、ありがとう」

「空港までのタクシーって……あなたどこ行く気?!」

訳もわからずヒステリックな声を上げる母を無視し、理恵子は淡々と話し始めた。

「そうそう、私の後釜に座るのはこの大坪義雄おおつぼよしお専務ですから、そのつもりでお願いします」

突然紹介されてあたふたする専務を、母は目を丸くしながら震える手で指を差した。

「こ、こ、こんなっ、身内でも何でもない赤の他人がっ、我が社の社長ですって?!」
「ふ、ふざけるのもいい加減にしてちょうだい!!」

「…あらあら、あなたの代から長い間この会社に身を捧げて経営のサポートに貢献してくれた彼に向かって…ずいぶんな言い草ねぇ?」
「彼が気に入らないのなら…唯一の身内にあたる娘婿にその石みたいな頭でも下げたらどうかしら?」
「…ま、女一人幸せにしてやれないような男に“女性を美しく生まれ変わらせる”企業の顔なんて、到底務まるとは思えませんけど?」

その皮肉たっぷりの笑顔は、傲慢でプライドの塊である母の口を塞いでしまった。

「それに、この大坪専務は社長の私が唯一信頼して会社を任せられる方です」
「…それ以上、不当な扱いをしようものならこの私が許さなくてよ!」

ギッと睨みつけてそう吐き捨てると、理恵子は立ち尽くす母を置いて応接室を後にした。

そして…

「…社長っ!」
「お待ち下さい社長!」

エントランスへと向かう理恵子の隣に、大坪専務が並ぶ。

「ほ、本当によろしかったのですか?!お母様であられる会長に背いてまで辞任されるなど…!」

走って追いかけてきた大坪専務がズレたメガネを調整しているところに、理恵子はニコッと微笑みかけた。

「ええ、信じられないぐらい清々しい気分だわっ!」
「自分の意志を貫き通すことがこんなにも活力になるなんて……知らなかったんですもの」

まるで解放されたようなそのスッキリとした笑顔を見つめていた大坪専務は、ホッと安心したように笑った。

「そう…ですか」
「近頃の社長は確かに、私の目から見ていても生き生きと輝いてらっしゃいます」
「女性として……そ、そのっ…さらにお美しくなられたともいうべきでしょうかっ…!ボソボソ…」

顔をほんのり赤らめながら、聞こえるか聞こえないかの声で呟く大坪専務。
その背中を理恵子にバシンッと叩かれることでハッと我に返るのだった。

「そういうわけだから、次期社長の椅子はあなたに任せたわよっ!」
「しっかり頑張ってちょうだい!」

「あっ……は、はい!もちろんです!!」
「ますますの事業拡大に向けて精一杯尽力させて頂きます!」

「事業拡大って…具体案はあるの?」

「ずばり!アンチエイジングでございます!!」
「これまではトータルメニューの一部だった若返りの技術に一層力を入れ、いずれは独自のアンチエイジング技術に特化したサロンの展開を狙います!」

野心と覇気に満ちた大坪専務は、その目をギラギラと輝かせていた。

「す、すごい熱意ね…」

「実は私には2つ下の妹がおりまして…なんでも、妹が事務員として働くIT広告代理会社の社員の中にとんでもなくハンサムで王子様のようなデザイナーがおるそうで…」
「妹はその彼に長年一途な想いを募らせているのですが、女性としての加齢に伴う自身の劣化に大変気を病んでいるんです」
「ですので、そんな妹のため、そして老化に悩むすべての女性の美しさを内側から取り戻すため、この私が立ち上がった次第でございます!!」

隣を歩きながら黙って一部始終を聞いていた理恵子は、ここでふと首をひねるのだった。

「(ん…?“とんでもなくハンサムで王子様のようなデザイナー”って……ま、まさかね…)」

大坪専務の熱意に押されているうちにエントランスにたどり着いた理恵子は、外に停車していたタクシーの後部座席のドアを勢いよく開いた。

「レナ!お待たせっ!」

「あっ、ママ!」
「おばあちゃんとのお話、もう終わったのー?」

“シンデレラ”の絵本を閉じてリュックの中へと仕舞い、座席で嬉しそうに足をバタつかせるレナ。

「ええ、もう何もかも済んだわ」
「さあ、“夢の国”へレッツゴーよっ!」

「わーいっ!!」

レナに笑いかけると、理恵子はパワーウインドウを開けて外に立つ大坪専務に声を掛ける。

「それじゃ、一週間の不在になるけど…後のことはお願いね、大坪さん」

「ええ、お任せ下さい」
「スーツケースは空港に送っておきましたから、娘さんとの二人旅を存分に楽しんできて下さいませ!」

大坪専務のお辞儀に見送られるタクシーが会社の隣にある小さな公園を通り過ぎようとした時、理恵子の隣で窓の外を眺めていたレナが控えめにその口を開いた。

「あっ……あのね、ママ…」

「…ん、なぁに?」

「この間レナが会社に行っちゃった時はママに怒られるのが怖くて言えなかったんだけど…」
「あの公園でママを待ってた時にね、“王子様”が現れたのっ!」

「…“王子様”?」

「うんっ!」
「一緒にお砂場で“シンデレラ城”作ってくれてね、ジュースも買ってくれたしねっ…」
「レナのおかげで“いい仕事ができる”って言ってくれたの!」
「すっごく優しくてかっこよかったの!!」

それが一体誰のことを示しているのかは、理恵子にとってはわかりやすすぎるほど明白だった。

「“王子様”……か」
「…ふふ、そうかもしれないわね」

窓の外を眺めるレナの背中を見つめた後、理恵子はそっとバッグの中からビジネス手帳を取り出した。
そして、そのカバーの内ポケットに畳んで挟んでいた一枚の広告チラシを手の中で広げた。
それは、自社サロンの“子育て中の女性”に向けた広告。
ピンクベージュが基調となったシンプルなデザインの中にはエステの施術を受ける女性の写真の他、サロンのサービスやその料金が記載されている。

そして、チラシ上部に掲げられたキャッチコピーを理恵子は心の中で今一度読み返すのだ。

“生まれ変わろう、真っ新まっさらな私へ。”

メッセージ性が込められているのはそんな文章だけではなく、子育て中の女性に向けたお得なキャンペーンの紹介と共に掲載された、小さな挿し絵だった。

ツールを使って手描き風に描かれた、昔の自分そっくりな女性とその隣で笑うツインテールの少女の顔。
そう、それは教師をしていた頃の自分に何もかもそっくりな女性の、ポップで明るい笑顔。

──たった1枚のチラシに込められたデザイナーの想い。

それはただ単に依頼者の要望に応えただけでなく、その魂まで突き動かした。

もう何度見つめたかわからないチラシを尚も見つめ、理恵子は小さくため息をつく。

「教え子にあんな仕打ちをした私に“もう一度教師をやれ”、だなんてねっ…」
「そのあなたに言われちゃったんじゃ、私が強く生まれ変わる以外に返せるものなんて…何もないわ」

そんな呟きは、母子がこれから向かう“夢の国”への楽しみへと消えていく。

「ねぇねぇママ、アメリカのプリンセスに本当に会えるの?!」
「“シンデレラ”もいるんだよね?!」

「もちろん、会えるわよっ」

「あ…でも、アメリカ語が話せないと“シンデレラ”とお話できないよ!ママぁ」

「…大丈夫よ」
「だってママは、英語の先生なんだものっ!」

何にも邪魔されない、真っ新まっさらな母は娘にとびっきりの笑顔を向けた───。
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