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カラダの関係は、これからもずっと♡
(※♡)幸せの足音
しおりを挟む「ば、バカッ!まだ話は終わってないでしょぉ?!」
「青春の思い出話の1つや2つくらい、教えてくれたっていいじゃないっ」
押し倒されたソファーの上。
キスの合間にジタバタ暴れる綾乃の両手首をグッと掴んだ葵の口元が、耳元へとやって来て囁いた。
「…秘密は秘密にしておくからこそ魔力があるんですよ、お嬢様」
「な、なに、それ…」
「相手の何もかも知ってしまっては逆につまらなくなることもある……私はそう言ってるんです」
カプッと耳の軟骨部を甘噛みされ、低く甘い声と重なってジンジンしたものがカラダの芯から広がっていく。
「わかりましたか?お嬢様…」
少し威圧感すらある低い声と一緒に耳たぶを唇にゆっくり吸われる音がダイレクトに鼓膜を刺激する。
「あ…っ!や、やだぁ…!」
「1つだけ言える確かなことなら…あるよ」
「えっ?何?それって…」
「……俺のカラダとセックスは、これからもずっとお前だけのものだってこと」
──ごまかされているのかもしれない。
まっすぐに突き刺すその目も、髪から香る匂いも、耳元で誘われる甘い声も、その唇から発せられる言葉も…そのすべてが、秘密に近づかせないために計算し尽くされているとすら思える。
しかし、それでも…
もうそんなことなどどうでもよくなるぐらいに、感覚的にこの男に欲情してしまうのだ。
──そして
「あ…ん、ダメ、もう…!」
愛撫されすぎて硬くなった乳首を口に含まれ、中で動く舌に舐め回されている今はもう、その刺激に反応するだけのカラダと化してしまった。
「…もう我慢できませんか?」
「うん…して、もっと…!」
「何をすればいいのか、言ってもらわないとわからないじゃないですか…お嬢様」
おそらくわかっているはずなのに、意地悪な目で見上げられながらチロチロと乳首を舌先で転がされる。
「だ、だから……もっと気持ちいいこと…だってば…っ」
「……じゃあ、ご自分で“もっと気持ち良くなれる場所”を私に見せて下さい」
「……へ?」
白い執事は胸元でニヤリと口元に微笑みを浮かべて言った。
「お嬢様には少しばかり“お仕置き”が必要だと言ったでしょう?」
「お嬢様の躾も執事の私の役目なんですから♡」
「な、なによ躾って…(笑)」
「あれっ、じゃあもうここで終わりですか?」
「…いいんですよ?私は仕事に戻るだけですから♡」
…と言いつつ、摘んだ指の間で一方の乳首をクリクリ弄びながら、口では音を立ててもう一方の乳首を何度も吸い上げる。
そのズルい矛盾っぷりは、不思議にも葵の思い通りに綾乃の逃げ場を無くしていくのだ。
「あっ、あぁ……んっ」
両胸を同時に攻められる刺激が電流のように全身を駆け巡り、一層ジンジンする場所に触れられたい欲で頭の中が埋め尽くされていった。
「……わ、わかったから…っ」
「だからもう焦らしちゃやだ…!」
──言われるがままに自ら履いていたルームウェアと下着を脱ぎ捨て、その腰を落とした先は…
ソファーに仰向けになって、頭の後ろで両手を組んだ彼の顔の上だった。
「やだ、見ないでよ…っ!」
「跨っといてそれはないだろー?(笑)」
とても直視できそうにない下界では、満足そうな彼が恥ずかしい所とこちらの顔を見比べては笑う。
……ドスケベ極まりない。
「ご自分の手で拡げてもっとよく見せて下さい、お嬢様」
「え…?!」
「…できるだろ?気持ち良くなりたいんだったらさ」
自信と余裕たっぷりの、その微笑みが小僧たらしい。
しかし、それよりも気持ちよくしてもらえることへの期待と興奮が上回っているのを自覚した瞬間、綾乃はおずおずと自らの手をそこに忍ばせた。
「……恥ずかしい?」
「は、恥ずかしいに…決まってるじゃないっ…」
「その顔すっげぇ可愛いよ」
愛液でヌルヌルになった秘部で指が滑ってしまいながらも人差し指と中指を立てて、彼が見ている前で指を広げてその泉の入り口を拡げてしまった。
「……こ、これで…いい?」
「うん…でもその前に自分でいじってみてよ」
「ちゃんと見ててあげるからさ」
「ええっ?!」
「…じゃなきゃ舐めてあげないし、挿入れてあげない♡」
眉の上がった意地悪そうな上目遣いで見上げられ、普段なら言い返せるはずの言葉が1つも頭の中に浮かんではこなかった。
なぜなら自分が上になり、ましてや相手に跨っているという優位な状況のはずなのに、下から送られてくる値踏みするような彼の視線にどうしようもなく感じてしまうからだ。
そして、そんな自分の指が秘部をまさぐり始めるのにそう時間はかからなかった。
くちゅ、くちゅくちゅ…
「はあ、あ…っ!」
羞恥心とは真逆に動きだしてしまう指と、それに反応して漏れる声。
視られているというだけで、こんなにもカラダが敏感に反応してしまうとは。
「…もっと自分で気持ちよくなれるようにやってみて」
「う、うん…っ」
左手の指で拡げて露出した、一番敏感な突起を右手の人差し指の指先でつついた。
「ん、ふ……あっ…!」
十分すぎるほど濡れてヌルヌルになった小さな突起を指先で下から撫で上げていると、下からまるで彼にそこを舐められているような錯覚に陥ってしまう。
「また濡れてきた…」
「……気持ちいいの?」
痛いほど感じる視線の中、彼の声色にも明らかな興奮が混じっているのを感じる。
「うん、気持ち…いい…」
「葵に視られて私っ…こんなに感じちゃうなんて…!」
“なんてイヤラシイ女なんだろう”
そう思えば思うほど、自分自身が嫌になってくる。
彼氏の目の前で、言いなりになって公開オナニーなんてしているのだから。
けれども、それは本来の自分を彼に引き出されてしまったに過ぎないのかもしれない。
卑猥な水音を立てる指の動きは止まらず、やがてそれを眺めているだけの葵にも我慢の限界はやって来た。
「…そのまま続けて」
「イクまで手伝ってあげるから」
クリトリスをいじる指の下で彼の柔らかい舌が膣口に触れて卑猥な水音を立て始めたと同時に、耐え難い快感でカラダが反り返った。
ちゅる、ピチャピチャ…
「いや…あっ!だめ、だめ…!!」
秘部を拡げてさらけ出した指に直接彼の熱い息が当たって、余計にそこを舐められていることへの昂りが増していき、愛液はますます溢れ出すばかり。
「…ほら、ちゃんといじんなきゃ……いつまでたってもイけないだろ…」
後ろからは彼の両手にお尻を掴まれて揉みしだかれ、ジュルジュルと美味しそうに愛液を舐め啜られる真上で再びクリトリスに指を強く擦り付けると、瞬く間に絶頂は押し寄せてきた。
「だめ…こんなのっ…!」
「こんなのもうっイッちゃうぅッ!!」
ビクンビクンと大きくカラダを仰反らせ、達している姿を見上げられて一気に羞恥心に襲われた。
「自分でいじってイッちゃうなんて、最高にエッチで可愛いよ…綾乃」
「おかげでもう勃ちすぎて…圧迫されて痛くなってきちゃった(笑)」
「あ…っ」
跨ったまま彼の下半身を振り返ると、キツそうなズボンの股間部で山が出来ていた。
「(すご…あんなに勃っちゃって、葵…もう我慢の限界なんだろうな)」
“気持ちよくさせてあげたい”、そう強く感じてスルリとそこへ手を伸ばした。
「さっきのお返しに葵にも…口でしてあげる」
上体を起こした彼のズボンのベルトに手を掛けて、シュルシュルとほどいていく。
「いいよ、して…綾乃」
「俺だけ“食後のデザート”楽しんでちゃ悪いし?(笑)」
そう言って笑う彼の下着の上から硬くなったものに手を触れて、綾乃はなんの気無しに言った。
「うん…だからこの“甘いキャンディー”は私が食べちゃう♡」
──それは、葵がピクッと反応を見せた瞬間だった。
瞬間的に、脳裏に蘇る“ある女”の影。
“あなたの甘いキャンディーが大好きなの…”
その艶かしい声と、抗えない快楽に深い渦の中へと堕とされたまだ幼さの残るカラダ。
長い間蓋をしていたはずの記憶は、その表情に焦りを与えて言葉を奪っていった…。
「……葵?」
ふと見上げた綾乃と視線が合い、葵はサッとその目を逸らした。
「あ…っ」
「ご、ごめん…やっぱ今日はいいや」
「……え?なんで?」
そして、解せないといった面持ちの綾乃に、葵はしばらく間を置いてからいつものように笑ってみせるのだ。
「今夜は攻められるより、攻めたい気分だから…かな」
今度は逆転して綾乃に馬乗りになった葵が燕尾服のジャケットを脱ごうとしたその時、綾乃がそれを止めた。
「…あ!待って、脱がないでっ!」
「…え?」
「あ……だって、せっかく執事のコスプレしてるんだしっ、その……(笑)」
思わず手を止めてしまったことに自分で恥ずかしくなり、濁してしまった。
“その格好が似合ってて素敵だから、このままでして欲しい”…とは、とても恥ずかしくて言えないからだ。
しかし、それが逆に彼を楽しませる結果になってしまうとは…予想だにしない綾乃。
「へぇ…そんなに“執事ごっこ”がお気に召してしまいましたか、お嬢様…」
「仕方ないですね、それじゃあこのまま……」
「私がメチャメチャに犯して差し上げます♡」
ネクタイだけ緩めた彼が覆い被さり、深いキスをしながらゴソゴソと見えない所でズボンのファスナーを下げる。
まさに“ヤル気満々”という感じだ。
そんな彼の勢いに押されながらも、つられて高まる興奮度。
もはや、もう止めることなどできない。
「挿入れますよ、お嬢様…」
耳元で低く囁かれた瞬間…ズプ、と音を立てて硬い棒の先が中を滑りながら侵入してきた。
「ああ、はぁ…!すごく硬い…!」
「こんなにもすんなりと全部咥え込むなんて…」
「お嬢様のオマンコは本当にド淫乱…ですね…!」
そんなことをまるで下品さのカケラもない甘い声で囁かれたもんだから、もうこれ以上、我慢なんてできない。
「執事…さん、早く…っ!」
「“早く”……なんですか?」
「早く…動かして…っ」
「私の中、執事さんので奥までっ──」
ぬぷ、ずぷっズププッ
そして一気に中で動き始めた彼の欲望の塊が、なんとも言えない幸福感と心地良い緊張を全身に広げていく。
「あ、ああ……んっきもち、い…!」
「その気持ちよさそうな声、エロくて好きですよ…」
「もっと聴かせて下さい…っ」
体を横に傾けた状態で片脚を持ち上げられ、周りにぶつかるものがなくなった秘部を集中的に奥まで突かれ始めた。
ただひたすらに彼の肉棒が膣内で愛液と混ざり合い、激しく擦られるイヤラシイ水音が更にお互いの興奮を誘う。
ニチュ、ぷちゅっぷちゅっぷちゅっ…
「あぁ〰︎っ!すごいの、奥まで……来てるのぉ!」
「中…トロットロですっげぇイイよ、綾乃…っ」
「……“綾乃”?」
「……あ。」
ついつい“執事の自分”を忘れてしまった葵。
そのことを綾乃に突っ込まれてピタリと動きを止めると、面白くなさそうに口を尖らせた。
「…よく考えたらこんな“執事ごっこ”なんかしたって、得すんのはお前だけだよなー?」
「えっ、な、なんで?」
「執事なんてもう辞ーめたっ!」
あっけらかんとそう言い放ち、燕尾服のジャケットを乱雑に脱ぎ始め、片側だけオールバックにまとめていた髪をグシャグシャに崩してしまった。
「ああっ?!せっかく似合ってたのになんでっ?!」
つい名残惜しさを口にしてしまう綾乃の目の前でネクタイをシュルシュルとほどき、ベストを脱ぎ捨てワイシャツのボタンを次々に外し始めた彼。
「“執事ごっこ”はもうおしまい」
そう言って裸になった彼の、均等の取れた骨格と引き締まった腹筋に目を奪われているうちに腰に腕を回され、起こされた。
「もう執事の真似事してる余裕なんてないんだよっ」
「だから…こっから先は俺の好きにやらせろ♡」
手取り足取り、ソファーの背もたれに手をついたまま四つん這いにさせられ…
ズプン!
一気に後ろから突き上げられた。
パンパンパンパンパンパン!
「あ、はあっあ、だめぇぇっ!!」
「こっちの方が好きなくせに…!」
“執事”の皮を脱いだ彼は、まさに脱皮した後のようにスッキリとして野生化してしまったようだ。
もちろん彼の言う通り、演技をして楽しませてくれるプレイも一興だが、やっぱり自分の欲望のままに貪りつかれるこっちの方が本能的に感じてしまう。
そして、そんな性質は何も綾乃だけではなかった。
「あ、ダメだ……我慢しすぎてたせいで…」
「ごめん、もう保たない…かも…っ!」
お尻をグッと掴む彼の下半身の動きがますます激しくなり、射精の瞬間が近いことを察した。
「出してっ、私の中に…」
「葵の、いっぱい中に出して欲しいの…!!」
「…受け止めてくれる?」
「俺の……全部っ…!」
──“なにもかも全部、受け止めてあげる”。
欲望の塊を意のままに撒き散らす葵に対して向けられる感情は、それだけだった。
汗ばんだままの体は、ソファーの上で重なり合っていた。
激しく愛し合った後の、お互いが脱力しきったこの余韻もまたたまらなく心地いい。
「……こうして思いっきり二人でエッチできるのも今しかない…のかもな」
「……えっ?」
頭上でボソッと呟く葵を、綾乃は彼の胸元から顔を上げて見上げた。
「来月には夫婦になって、そのうち子供ができたら…さすがにコスプレエッチなんてできないだろ?(笑)」
「もちろん妊娠中だって、お前の体に無理させることはできないんだし」
ここで唐突に出てきた“子供”、“妊娠”というワードに、綾乃はピクッと目を見開いて体を起こすのだった。
「そ、それって……葵、子供が欲しいの…?!」
「う、うん…まぁ一応っ…」
「俺だってもう、父親になっててもおかしくない年齢なんだし…さ」
照れ臭そうに耳の裏を指で触る彼を見て、改めて綾乃は湧き上がる喜びを露わにした。
「嬉しい…!」
「…あ、葵って今が一番仕事が忙しくて大変な時期でしょ?」
「だから…まだ子供のことなんて考えられないと思って、なかなか言い出せなかったの…っ!」
彼も同じ想いでいてくれたことに安堵すると同時に、今まで遠い存在でしかなかった“葵との子供”という大きな夢は、嘘みたいに近くに感じた。
「…そうだと思ってた(笑)」
「お前ってワガママで口うるさいくせに、そういうのだけは変に気を遣って我慢しちゃうトコがあるからなー」
そりゃあ、当然である。
毎日一緒に生活している中で葵がどれだけ仕事にストイックに打ち込んでいるのかは、時折デスクに肘をつき、行き詰まって思い悩む横顔を見てきた綾乃が一番よくわかっていたから。
しかし、そんな綾乃の気持ちを知ってか知らずか、彼は…
「でもまぁ…心配いらないって」
「俺さ、一番近くにお前がいて…」
「そのお前との間に可愛い宝物がいたら、それ以上の幸せなんて何もないんだ」
想像以上の言葉を返してくれるのだ。
「本当に…?!」
「うん、だから…」
「…もう一回“中出し”してもいいっ?♡」
「………。」
ニッコリ微笑む絶倫男に、綾乃はため息混じりで言った。
「……それはいいけど、残念ながら妊娠の可能性は限りなくゼロに近いかもねっ」
「え、なんで?」
「私、あと数日で次の生理が来るの」
「毎月28日周期でキッチリ来るから排卵の時期はもう過ぎてるし……また次に期待するしかないわねっ♡」
「…なーんだ、じゃあ仕方ないな」
諦めて頭の後ろに両手を組む葵の顔を見つめているうちに、頭の中で小さな子供を抱く彼の笑顔が浮かび上がってくる。
そして、その光景を笑って見守っている自分の姿も…。
「…ありがとう、葵」
「私、大して何も支えてやれてないかもしれないけど……頑張るから」
「だから…家族を作って、もっと幸せになろう?」
これ以上、彼から返ってくる言葉はなかった。
その代わりに返ってきたのは、頬を撫でる大きくて暖かい手のひらと、優しい口付けだけ。
こんなにも満ち足りた心とカラダは、怖いくらいに自分を幸せにしてくれる。
そう、怖いくらいに───。
──それから数日後。
綾乃が出社した後、葵はデスクトップパソコンに向かって朝から仕事に没頭していた。
「(……もう昼、か)」
壁掛け時計に目をやると、いつの間にかもう午後12時を回っていた。
そしてイスの背もたれにもたれて大きな伸びを1つしたその時、デスクの端に置いていたスマホが着信を知らせた。
液晶を確認してみると、知らない番号からの電話。
「(新規のお客さんかな)」
軽く咳払いをしてから着信を取り、スマホを耳にあてた。
「はいもしもし、桐矢葵でございますが」
そのままイスから立ち上がり、キッチンに向かう。
そして食器棚からマグカップを1つ手に取った時、電話の向こうからは女性の声が返ってくるのだった。
「あの…」
「桐矢葵さん、ですか…?」
「……ええ、そうですが」
「お仕事に関するお問い合わせですか?」
肩と耳元の間でスマホを挟んで会話しながら、マグカップの中のドリップコーヒーのバッグにケトルから熱湯を注ぐ。
「はい、わたくし、エステサロンを複数店経営している代表取締役の者なんですけど」
「実は、会社のWEBサイトの運営や宣伝を任せていた社員が急に退職してしまいまして…」
「それで、新しく継続的にお任せできる方を探していた時に桐矢さんのお噂を耳にして、ぜひお話をお聞かせ願えないかと、お電話させて頂きました」
なんだか、妙に聞き覚えのあるような声だった。
感覚的にそう感じたが、今は新しい仕事を獲得することを頭が優先する。
「噂っていうのは…?」
「桐矢さん、つい最近アニメ制作会社からの依頼を受けませんでした?」
「…えっ?」
「はい、確かにお引き受けして先日完了しましたけど……なぜです?」
「…あ、ごめんなさい」
「実はそちらの依頼主の方が元々、私のサロンの常連様でして…」
「私が親から会社を継いだばかりでエステの施術をしていた頃に知り合って、それ以来の仲なんです」
それは、顧客から自分の評判が広まっているという嬉しい情報だった。
「彼女、桐矢さんが手掛けたWEBサイトのおかげで格段に集客率が上がったってすごく喜んでて、“クリエイティブな仕事なら絶対に彼がオススメ!”…ってゴリ押しされちゃいまして(笑)」
「そうだったんですか…!」
自分への高い評価を人づてに耳にする時ほど、仕事冥利に尽きることはない。
報われる時が来るからこそ、日々努力ができるのだ。
そして当然、葵は嬉々としてそれに応えようとした。
「こちらと致しましても大変光栄です」
「ぜひ僕の詳しい経歴やポートフォリオなどもご参考にして頂きたいと思いますので、一度個人サイトをご覧になって頂けませんか?」
「こちらからURLも送らせてもらいますので、まずはご検討を──」
そんな建設的な提案は、途中で女からの強い主張によって遮られる。
「いいえ、私はもうあなたに決めましたから」
「……え?」
「今週中に、一度お会いできませんか?」
「その場で直接、桐矢さんの経歴について…詳しくお話をお伺いしたいんです」
「それは構いませんが……」
なぜだかわからないが、背筋が一瞬ヒンヤリとしたような気がした。
会ってはいけないような……そんな匂いを本能的に感じた、というべきか。
返答に戸惑っていると、さらに女は滑らかな口調で言った。
「もちろん、あなたに見合った報酬はこの私が保証しますから」
“自分の能力に見合った報酬”…それは、更なる自分への対価を知り、今後への自信に繋げるチャンス。
しばらく考えた後、意思を固めた葵は応えた。
「…わかりました、ぜひお願いします」
「あの、お名前とご連絡先をお伺いしてもよろしいですか?」
足早にデスクに戻り、メモ用紙を片手にペンを取ったその時、電話の向こうで女は名乗った。
「あら失礼、申し遅れました」
「わたくし、株式会社“fine”の代表取締役社長…」
「西谷理恵子…と申します」
──ペンを持つ手が、ピクリと動いた。
「(西谷……理恵子…?!)」
それは、よく知っている名前だった。
電話が切れた後も、葵は少しの間スマホを耳にあてたままだった。
まだ未熟だった頃の記憶は今、その蓋をこじ開けられつつあったのだ───。
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