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カラダの関係は、しばらくおあずけ。

(※♡)愛の行方は、前途多難のようです。

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ついさっきまでは、発熱のせいで心もカラダも弱って甘い声を漏らす葵のことを見下ろしていたシーツの上。

そして今、肌と肌が重なり合うカラダの上でその彼が自分を見下ろしている。
やっぱり、こっちの関係性の方がたまらなくドキドキしてしまう。
いつもの獲物を見るような眼差しから、“これから何をされるんだろう”という漠然とした好奇心と興奮を全身で浴びているような気分だ。

「い、言っとくけど…さっきまでは私があんたのこと攻めてたんだからねっ!」

せめてもの強がりで言ってみた。
すると葵は鼻で笑いながら…

「あんなの、攻めてるうちに入んないよ…」
「“攻める”っていうのはさ、そうだな、たとえば……」

そう言いながら葵が目を向けたのは、ベッドの枕元の壁にハンガーで掛けられたワイシャツだった。

「…せめてこれぐらいはしなきゃな」

そして手を伸ばして首元に巻かれたネイビーのネクタイを手に取ると、シュルッと引き抜いてみせた。

「ね、ネクタイなんか…どうするのっ?」
「(ま、まさか、首絞めプレイでもするつもり?!)」
「(いくらSだからって、それは道を極めすぎてる…!)」

ネクタイを両手に持って横に伸ばし、にじり寄る葵。

「ま、待って葵っ…私、まだっ…まだ死にたくない…っ!」

「…ばか、こうするんだよっ」

シュルンとネクタイを巻き付けられたのは、首ではなくて目の周りだった。
一瞬で視界が真っ暗になり、何も見えなくなる。

「うそっ?!目隠し?!」
「やだ、これじゃ何も見えないじゃなっ──」

思いがけずに唇にキスをされて、体がビクッと揺れ動いた。
まさか、キス1つでここまでビックリしてしまうとは。
何も見えないのだから、当然といえば当然なのだが。

「……ドキドキする?」

「う……うん」

どこからどんな目で見つめられているのかさえわからないまま、今度は両手首を掴まれて頭の上へと縛り上げられる。

「あっ!待って、お願い…!」

視界は奪われていても、自分のあられもない姿を見て彼がいやらしく笑っているのだけは想像がついた。
なにせ、脇の下も裸の胸も無防備極まりないのだから。

「ね、ねぇ…せめて何するかだけ先に言ってくれてもいいんじゃないのっ?!」

「そんなの、目隠ししてる意味なんかないだろー?」

その瞬間、唐突に脇の下をペロンと舐め上げられて体中に電気が走った。

「っひゃあん!」

まるでアニメに出てくる萌えキャラが風にスカートを巻き上げられた時のような声が出てしまった…。
そして、それにクスッと笑った彼が、同じ場所に口元を押しつけて舌を這わせ始める。

「いっ…いやあ…あっ…!」
「そんなとこ、舐めないでよっ…!」

言葉とは裏腹に、体はピクピクと素直に反応を示していた。
くすぐったいけど……恥ずかしいほどに気持ちいい。
羞恥心に押し潰されそうになっている最中、また唐突に、その手に胸を揉み上げられて…

「んあっ…!」

「次はどこ舐められちゃうんだろうって考えてる?」

脇の下を舐められたせいでゾクゾクし、それにつられて硬く勃ってしまった乳首を親指と人差し指に挟んでクリクリと弄ばれる。

「あんっ、やだぁ…っ!」

「…“やだ”?」
「こんなに乳首勃起させといて、何が“やだ”なの?」

羞恥心というものは、なぜここまで興奮を掻き立てられてしまうのだろうか。
彼の言葉にすらいちいち感じてしまい、いよいよそれは認めざるを得ない状況にまで追い詰められていくのだ。

「じ、焦らしちゃ…やだっ…!」

視界も両手の自由も奪われてすべてを解放してしまった無防備なカラダが求めるものは、彼からの愛撫だけ。
そしてそれを察した彼の舌が乳首に触れ、プルプルと転がされるとどうしようもない恥ずかしさがまたカラダを感じさせる。

「はぁ、あ…っ!」

プチュッと吸い上げられた乳首がますます立ち上がってしまっているのは、視界を塞がれていてもなんとなくわかってしまう。

「いつもより感じやすいな…」
「お前はやっぱ、こうして俺に焦らされながら攻められる方が好きなんだってこと…これでよくわかっただろ?」
「そんでもって、俺もこっちの方が好き…っ」

耳元で囁かれて、本来の自分の性質に嫌でも気付かされる。

「もっと気持ちいいことして欲しい?」
「素直に言ったら、してあげる♡」

耳たぶを甘噛みされて、もう本音をごまかすことなどできるわけもなかった。

「もっとして、葵…っ」
「お願い、私…もう我慢なんてできないの…!」

耳元にかかる熱い息が遠ざかり、真っ暗な視界の中で彼の気配だけを感じる。
少しの不安と増幅していく興奮に支配されているだけのカラダは、その両脚をグイと押し広げられてもすんなりと受け入れてしまった。

「ほんと、よっぽど我慢できなかったみたいだな」
「…まだいじってもないのに、いやらしい汁が垂れてるよ?」

それは、さっき葵のことを攻めていた最中からずっとだった。
そして、何も見えなくても一番恥ずかしい所を見られている視線だけは痛いほど感じてしまう。

「舐めて欲しいなら、もっと脚開かなきゃダメだろ?」

太ももの裏側をつうっと伝う唇と舌がだんだんと下へと下がってくる。
そして、言われるがままに自らグッとM字に脚を広げてしまう自分が、いかにそこを舐められたくてたまらないのかを証明しているようで恥ずかしい。
しかし、そんな羞恥心などもうどうでもいいほどに…

「だめ、早くっ──」

太ももを這ってきた舌先が横から陰毛をなぞり、すでに愛液まみれの溝の中へと潜り、そこをなぞる淫らな音と同時にビクビクとカラダが痙攣を起こしていく。

ぷちゅ、ぴちゃぴちゃぴちゃ……

「あ、ああんんん……っ!」

快楽の渦に堕ちていくのは一瞬だった。
視力を奪われたカラダはその快楽をより敏感に脳に伝え、頭の中がその刺激で満たされて思考能力すらかき消していく。
そして、いやらしい水音に混じって、興奮した彼の声が耳元に届く。

「…好きなだけ気持ちよくなって……好きなだけイッちゃえばいい」
「さっきの仕返しに……ふやけるぐらい…たっぷり舐めてやるから…」

熱くなった秘部はその愛撫に応えるようにヒクヒクと痙攣を起こしていた。

「んふ、きもち…い、葵…っ」
「あ…ん、もっと、もっとして…っ!」

思わず漏れてしまった素直な感情が、それを耳にした彼の愛撫を一層激しいものへと変えていった。

チュ、じゅるる、ぺちゃぺちゃ…

「ああ…っはぁ、あ…!」

どんどん溢れ出す愛液を膣口から啜りながら、クリトリスにかけて生暖かい舌が何度も上下に這い回る。
もう、何も考えることなどできない。

「ん、ん…また出てきた」
「いやらしい汁、全部ちょうだい綾乃…」

グッと両方の太ももに指を立てた彼が貪り尽くすようにヒダの内側に吸い付き、その中を小刻みに動く舌にほじくられると脚がガクガクと意思に関係なく、震え始めた。

ちゅぷっクチュクチュクチュ…

「ひ、あ、ああん!だめ、それ、だめぇ!」

ジュワッと溢れ出した水分がまた舐められる水音を強調し、シーツに垂れ落ちる前に彼の舌にすくわれていく。

こんなことをもう何度繰り返しただろうか。
もはや敏感になりすぎて肥大したクリトリスを何度も舐められては吸われて、頭もカラダもおかしくなりそうだ。

「クリもぉだめ…!らめ、いく、イクイク…またイクッ!!」

もう何度目かわからない絶頂を迎えてもなおビクンビクンと浮く腰。
ハァハァと激しいままの呼吸は、喉をカラカラに乾かしてしまった。

「もぉ許して、葵…っ!これ以上イッたらもう…おかしくなる…!!」

愛液と唾液でグショグショになってしまった秘部から舌が離れて、ただただヒクヒクと小さな痙攣と痺れを起こし続けるそこに、硬いモノの先端がプチュッと音を立てて触れた。

「仕方ないな…じゃあナカはこっちでイかせてあげる」
「俺もまたギンギンになっちゃったし…」

ずぷんっ

「あぁああっ!!」

一気に中を滑って入ってきた太くて長い肉の塊は、微塵も躊躇うことなく強く奥まで貫いた。

ぬぷぷ、じゅぶ…

「っあ…!すご、奥まで来てるの、葵の…!」

「まだ入れたばっかなのに…すっげぇ気持ちいい、綾乃…っ」

“もう我慢できない”と言わんばかりに葵が腰を動かし始めると、肌同士がぶつかる音に混じって愛液と唾液で濡れた結合部全体がネチャネチャと粘っこい音を出す。

パチュッパチュッパチュッパチュッ!
「あ、あぅ、う、ぅひっ!」

打ちつけられる衝撃に合わせるように、だらしない声が喉の奥から押し出されてしまう。
それは綾乃だけでなく、見えない視界の中で呼吸を乱す彼も…

「あ、気持ち、いい…!」
ナカで、溶けちゃいそうなくらいっ」

次第に速さを増していく性器同士の交わりは、男と女に本能的な快楽を与えては止まることを知らずに暴走するのみ。

「ごめん…やっぱ、お前の顔見ながらしたい」

途中で彼の手に目を塞がれていたままのネクタイをずらして頭から取り払われ、薄暗い視界の中でお互いの視線が交わった。
やっと見えた彼の顔は、ただひたすらにセックスの快感に歪む表情そのもの。
何度も目にしてきたその顔も、目隠しをされてからしばらくして見てみるとなんだか久しくて愛おしさすら感じる。

「……大好き、葵」

気がつけば、彼の頬にそっと手を添えてそんなことを呟いていた。
激しさを増していく一方の中、お互いへの想いを口にすることで二人のたかぶりはピークへと達するのだ。

「じゃあ、俺は…」
「愛してる、綾乃……ずっと俺のそばにいて欲しい…っ!」

熱い口付けと一緒に、昇り詰める2つのカラダ。
ギュッと指を絡めて握りしめられたその左手薬指には、世界にたった1つの婚約指輪が光っている。
そして、ほとんど同時に迎えた絶頂はこれまで以上に長く続き、心地よい疲労感をもたらしてくれた───。


事を終えた後、ベッドに寝転んだまま綾乃は、手のひらをかざして指輪をいろんな角度から眺めては楽しんでいた。

「…ねぇ、この指輪ほんとにサイズピッタリだよね」
「葵、私の指のサイズ…知ってたの?」

隣で同じく腕枕をする彼に質問する。

「ああ、それはお前がヨダレ垂らして爆睡してる間に測ったんだよ」

「…えっ、どうやって?」

「細い糸を指に巻きつけて、先の細いペンとか鉛筆とかで印を付けるんだ」

「そうだったの…いつの間に(笑)」
「(私が寝てる間に起きてたことがあるんだ、葵)」
「(ど、どうしよ…私って寝相も最悪だし、よく考えたら絶対蹴ったりして夜中も起こしちゃってるよね?!)」
「(料理も下手なうえに寝相まで最悪なオンナって…イイトコなしじゃないのっ…!)」

…なんてモヤモヤとしていたかと思えば、見つめられている視線に気がついて彼を振り返った。

「ん…?どしたの?」

キョトンとする綾乃に、葵は少し照れ臭そうに言った。

「……ずっとここにいてくれない?」

「え……?」

まさかの言葉に、頭の処理が追いつかない。
そんな呆然とした綾乃をまっすぐに見つめて、葵は続ける。

「料理が下手でも、寝相が悪すぎでも、何でもいいんだ…」
「すぐムキになって怒るし、思い込みも激しくて勝手に暴走する悪いクセも……なぜか全部、飽きないんだよな」
「だから、お前が帰りを待っててくれるってだけで俺…仕事にも張り合いができると思う」

言っているニュアンスと彼のその表情で、なんとなく感じた。
そう、“ようやく言ってもらえる時が来た”…と。

「それって……一緒に住むってこと…?!」

「うん」
「それで…さ、今はまだ俺も独立したとこで安定してないんだけど…」
「この先仕事が軌道に乗って、仕事量も収入も安定したら、さ……その…っ」

言葉に詰まる彼の落ち着きがない態度だけで、何を言おうとしているのかはお見通しだった。

「お、俺と……」

“結婚して欲しい”という、ハッキリとした言葉を期待して、ドキンドキンと心臓が脈打ち始めたその瞬間……

──ブーッ、ブーッ、ブーッ

突如としてバイブ音を鳴り響かせる葵のスマホによって、その先のセリフは不発弾となって埋もれてしまうのだった…。

「………電話だよ…葵…」

ゲンナリとした綾乃に促された葵は、頭を抱えて大きなため息を1つ。
そしてスマホを手に取り、ベッドから降りるとパンツ1枚の立ち姿でコホンと1つ咳払いをしてからスマホを耳に当てた。

「あ、もしもし、シモダさんですか?」
「出るのが遅れてすみません、別件で立て込んでたものですから…」

「(し、“シモダさん”っ…?!)」
「(“ウエダさん”の次は“シモダさん”の登場ってわけねっ!)」
「(その次は“ナカダさん”でも出てくるのかしらねぇ…笑)」

そして、淡々とした口調で彼はまるで別人のように振る舞い始めるのだ。

「…ええ、ご依頼の件でしたら、納期よりも一週間ほど早く仕上がりそうです」
「……えっ?リピーター契約をしていただけるんですか?!ありがとうございます!!」

なんだか、仕事という面ではすごくいい話のようだ。

「……はい、ぜひじっくりお話を進めさせて下さい!」
「……えっ、シモダさんの行きつけのラウンジで、ですか?」

「(まーた誘われてるな、コイツ)」

綾乃からの冷ややかな視線を背中に浴びながら、葵はフゥ、と小さくため息混じりに電話の向こうやと囁きかけた。

「ダメですよ、ラウンジなんて…」
「あなたとお酒なんてご一緒してしまったら、真面目に仕事の話だけで終われるような自信…僕にはありませんから」
「………ええ、お仕事で大いに貢献できるようになってから改めて…ぜひ、お願いします」

「(まさか、ほんとに行く気じゃないでしょうねぇ?)」

面と向かって問い質したいことを、心の中でつぶやく。
そうこうしているうちに通話を終えた彼が、クルリと振り返っては青ざめた。
そう、綾乃のジトーッとした怖い顔が待ち構えていたからだ。

「…あんた、今のが“経営学を勉強した結果”なわけっ…?!」

「け、経営学の一環…ってとこかなっ?“俺流”のっ…!(笑)」

しどろもどろになる葵をさらに追い詰める綾乃。

「あんたねぇ、それってホストでいう“色営業”ってヤツなんだからねっ?!わかってるの?!」

「“枕営業”じゃないだけマシだろー?!」
「誘われても結局は回避しながらうまくやってるんだしっ…」

「そういう問題じゃないのっ!」
「…まさかあんた、そんなセコイ手使って顧客ゲットしてるんじゃないでしょうねぇ?!」

「い、いや…まぁ……だいたいの女重役相手にはちょっと甘い言葉は使っちゃったけど…」

「まだ他にいるのぉ?!」

「し、仕方ないだろっ、今は1件でも多く大手の企業からの仕事が欲しいんだから…っ」

そして、ついつい感極まって言ってはいけないことを口にしてしまった。

「なによ…あんた、一千万もお金貯め込んでるくせにっ!」
「たっぷり備えがあるのにそこまでする必要なんて───ハッ!」

気づいて口を押さえた時には時すでに遅し、怪訝な顔をした葵の方が綾乃に迫った。

「一千万って…」
「どーしてそのこと、綾乃が知ってるのかなぁ~?」

少し楽しそうに見える彼がニヤニヤと悪い顔をしながら近寄ってくる。

「え、えっと……あのっ…!」

後退りしてベッドに尻もちをついた綾乃は、アッサリとその罪を告白してしまうのだった。

「……ごめん!葵っ!」
「前に部屋を掃除しようと探索してた時に、偶然預金通帳見つけちゃって…」

「…で、ついつい中身を見ちゃって、俺が“ママ活”なんかして儲けてるだなんて勝手に思い込んで暴走しちゃったわけだぁ?」

ずばり図星を突かれて、何も言い返せない。
これでは怒らせても仕方ない…そう覚悟を決めた綾乃だったが、意外にも葵が怒るどころか声を出して笑い出したことに目を丸くするのだった。

「…怒らないの?」

「怒るもなにも、お前らしくて笑っちゃった!(笑)」
「あれはさ、俺が学生の頃に親から仕送られてずっと使わずにいた金と…就職してからのボーナスなんかが積もり積もっただけの金なんだ」

「なんだ…そうだったのぉ?」

「…ま、それももうほとんどアテにできなくなりそうだけど」

「…なんで?」

「そりゃあ、俺がその指輪についた宝石に妥協できなかったのと、あとはこの先の仕事と……」
「お前と一緒に幸せになるための軍資金ってとこかな」

「あ、葵っ…!」

一千万円の謎が解けた安堵と、自分との将来を考えてくれていることを改めて実感した綾乃は、思わずそのまま抱きつきたい衝動に駆られた。

そうとは知らず、葵は…

「まぁ大丈夫だって、“ウエダさん”も“シモダさん”も“ナカダさん”も、みんな俺のためならいくらでも“色”つけて報酬支払うって約束してくれてるからさっ♡」
「食事デート1回につき2万円、買い物デート1回につき5万円、まぁ絶対ないけど一夜を共にしたら多分すっごい“色”つけてくれること間違いなしだからっ───」

意気揚々と振り返ると、静寂の中…
目に光を失った綾乃が、ユラリとそこに佇んでいた…。

「ねぇ…それ……“ママ活”とどこが違うのか…」
「説明、してくれない……?」

あまりの気迫に、たじろぐ葵。

「い、今のはもちろん冗談でっ…!」
「ちゃんと仕事の価値で稼いでみせますからっ…お、落ち着けよ、なっ?!」

「…ふんっ!この悪徳業者!」
「…訴えられちゃっても知らないからっ!」

言い訳に苦しむ彼のそばで、ひっそりと綾乃は左手薬指に光る指輪をそっと指で撫でるのでした───。
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