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カラダの関係は、ほどほどにね。

信じたくなんてない

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──その日の午後のオフィス内。

カタカタカタカタ…

その指はパソコンのキーボードを打ち鳴らし、その目はディスプレイを流れていく文字列を追う。

しかし、その頭の中には…内容など、1つも入ってはこない。


『私、今でも葵くんのこと、好きですから!』


「(……そんなこと、とっくにわかってた)」
「(だから私は、あなたのことがずっと…気になってたの)」
「(誰もが“可愛い”と思うような、魅力的なあなたのことを……)」
「(私に対するのと同じように、葵が嫉妬心を燃やしたっていうあなたのことを)」



『葵くんって……エッチうまいですよね』


「(……どうしてあなたがそう思うの?)」
「(……ああ、葵と何度もエッチしたからだったね)」
「(……元カノだもん、知ってて当然だもんね)」


“葵”がするセックスは

自分だけのものじゃなかった──。


思考力が頭の中から消えてしまえばいいのに。
何も考えず、ただ目の前にある幸せだけを見つめていられたら、どれほど楽だろう。

そう、だからもう何も考えなくていい。
何も……。


カタカタと打ちつけるキーボードの音が不快な音となって鼓膜を叩く。
ディスプレイを流れる意味不明な文字列は、見ているだけで目眩がしそうだ。


「……あら?なに、この書類」
「…ちょっと!藤崎さん!!」

ツカツカとこちらのデスクに詰め寄るお局様から名前を呼ばれ、ハッ…と意識を取り戻す。

「あ…はいっ!」

「この売上報告書、作成したのってあーたよねっ?!」

「そ、そうですけど…」

「誤字脱字だらけじゃないのっ!!」

バン!…とデスクに書類を叩きつけられ、周りの社員たちからも一斉に注目を浴びる。

「あっ…!」

「いい加減な仕事はしないでちょうだい!!」

お局様の怒鳴り声が、惨めな自分をさらに責めたてる。

「す、すみません…すぐにやり直しますから…!」

慌ててパソコンに向き直った時、お局様が綾乃を見下ろしてつぶやく。

「ふん、まったく………男にウツツ抜かしてるからこんなミスするんじゃなくって?」

「……っ」

「だいたいからっ、あの桐矢くんとあなたなんかがどうして…ブツブツ…」

「(……そうだね、どうして…私、なんだろう)」

自分のデスクへと戻ろうとするお局様の背後で、綾乃は席を立ち上がる。

「そうかも…しれませんね」

「……え?」

「すみません、私……私っ…!」

「…あっ!ちょっとあーた、どこ行く気?!」


目に涙を浮かべてオフィスを飛び出していく綾乃を遠目から見ては、光里はクスッと密かに笑うのだった。


──ちょうどその頃、仕事の合間にひと休憩入れようと葵はオフィスを出た。
そして廊下に設置された自販機の前に立ち、ポケットの中の財布を探っていた時、突き当たりの廊下を走り去る人影を見かけてその手が止まる。

「…あれ?今のって……」

目の端で捉えた人影を追いかけて、その腕を掴んだ。

「おいっ!綾乃!」

足を止めて振り返った綾乃の顔は、涙で濡れていた。

「あ…!」

腕を掴まれたまま葵の顔を見るや否や、綾乃は目を逸らした。

「…なんで泣いてんの?」

「な、何でもない……ほっといて!」

「はぁ?!ほっとけるわけが──」

「私がバカだから……バカだから、恋も仕事も中途半端でっ…!」

話がまったく見えない葵は、しばらくその顔を見つめる。

「……何言ってんの?」
「ちゃんとわかるように話せよっ」

「私は……光里ちゃんの“二番煎じ”…」

「え?」

一度口から溢れ出たものは、もう留めてはおけない。

「葵……私にする時みたいに、あの子のことも抱いてたんだね」
「何度も、何度も…あの子が尽き果てるまで、何度も…!」

掴んだ腕が、かすかに震えている。

「……光里ちゃんが言ったの?」

その質問に、綾乃は否定も肯定もせず、口を紡いだ。
その代わり、次に出たのはただ、震えた声だけだった。

「私…葵のこと、好きだよ」
「好きだから、信用もしてる…」

「………。」

「でもね、好きだから……辛いの…っ!!」

「綾乃…」

葵の顔も直視できない綾乃は、腕を掴まれたままその背中を向けて言った。

「ごめん…今日はもう…何もまともにできそうにない……」
「こっちから連絡するまで、待ってて欲しいの」

その後頭部だけをしばらく見つめて、葵は

「………わかった」

そうつぶやいて腕を掴んだ力を緩めると、綾乃はスルリと抜けて行った───。




























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