17 / 45
カラダの関係は、ほどほどにね。
信じたくなんてない
しおりを挟む──その日の午後のオフィス内。
カタカタカタカタ…
その指はパソコンのキーボードを打ち鳴らし、その目はディスプレイを流れていく文字列を追う。
しかし、その頭の中には…内容など、1つも入ってはこない。
『私、今でも葵くんのこと、好きですから!』
「(……そんなこと、とっくにわかってた)」
「(だから私は、あなたのことがずっと…気になってたの)」
「(誰もが“可愛い”と思うような、魅力的なあなたのことを……)」
「(私に対するのと同じように、葵が嫉妬心を燃やしたっていうあなたのことを)」
『葵くんって……エッチうまいですよね』
「(……どうしてあなたがそう思うの?)」
「(……ああ、葵と何度もエッチしたからだったね)」
「(……元カノだもん、知ってて当然だもんね)」
“葵”がするセックスは
自分だけのものじゃなかった──。
思考力が頭の中から消えてしまえばいいのに。
何も考えず、ただ目の前にある幸せだけを見つめていられたら、どれほど楽だろう。
そう、だからもう何も考えなくていい。
何も……。
カタカタと打ちつけるキーボードの音が不快な音となって鼓膜を叩く。
ディスプレイを流れる意味不明な文字列は、見ているだけで目眩がしそうだ。
「……あら?なに、この書類」
「…ちょっと!藤崎さん!!」
ツカツカとこちらのデスクに詰め寄るお局様から名前を呼ばれ、ハッ…と意識を取り戻す。
「あ…はいっ!」
「この売上報告書、作成したのってあーたよねっ?!」
「そ、そうですけど…」
「誤字脱字だらけじゃないのっ!!」
バン!…とデスクに書類を叩きつけられ、周りの社員たちからも一斉に注目を浴びる。
「あっ…!」
「いい加減な仕事はしないでちょうだい!!」
お局様の怒鳴り声が、惨めな自分をさらに責めたてる。
「す、すみません…すぐにやり直しますから…!」
慌ててパソコンに向き直った時、お局様が綾乃を見下ろしてつぶやく。
「ふん、まったく………男にウツツ抜かしてるからこんなミスするんじゃなくって?」
「……っ」
「だいたいからっ、あの桐矢くんとあなたなんかがどうして…ブツブツ…」
「(……そうだね、どうして…私、なんだろう)」
自分のデスクへと戻ろうとするお局様の背後で、綾乃は席を立ち上がる。
「そうかも…しれませんね」
「……え?」
「すみません、私……私っ…!」
「…あっ!ちょっとあーた、どこ行く気?!」
目に涙を浮かべてオフィスを飛び出していく綾乃を遠目から見ては、光里はクスッと密かに笑うのだった。
──ちょうどその頃、仕事の合間にひと休憩入れようと葵はオフィスを出た。
そして廊下に設置された自販機の前に立ち、ポケットの中の財布を探っていた時、突き当たりの廊下を走り去る人影を見かけてその手が止まる。
「…あれ?今のって……」
目の端で捉えた人影を追いかけて、その腕を掴んだ。
「おいっ!綾乃!」
足を止めて振り返った綾乃の顔は、涙で濡れていた。
「あ…!」
腕を掴まれたまま葵の顔を見るや否や、綾乃は目を逸らした。
「…なんで泣いてんの?」
「な、何でもない……ほっといて!」
「はぁ?!ほっとけるわけが──」
「私がバカだから……バカだから、恋も仕事も中途半端でっ…!」
話がまったく見えない葵は、しばらくその顔を見つめる。
「……何言ってんの?」
「ちゃんとわかるように話せよっ」
「私は……光里ちゃんの“二番煎じ”…」
「え?」
一度口から溢れ出たものは、もう留めてはおけない。
「葵……私にする時みたいに、あの子のことも抱いてたんだね」
「何度も、何度も…あの子が尽き果てるまで、何度も…!」
掴んだ腕が、かすかに震えている。
「……光里ちゃんが言ったの?」
その質問に、綾乃は否定も肯定もせず、口を紡いだ。
その代わり、次に出たのはただ、震えた声だけだった。
「私…葵のこと、好きだよ」
「好きだから、信用もしてる…」
「………。」
「でもね、好きだから……辛いの…っ!!」
「綾乃…」
葵の顔も直視できない綾乃は、腕を掴まれたままその背中を向けて言った。
「ごめん…今日はもう…何もまともにできそうにない……」
「こっちから連絡するまで、待ってて欲しいの」
その後頭部だけをしばらく見つめて、葵は
「………わかった」
そうつぶやいて腕を掴んだ力を緩めると、綾乃はスルリと抜けて行った───。
0
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる