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カラダの関係は、ほどほどにね。
負の感情
しおりを挟む──その日の午後の会社内。
葵がオフィスで仕事中なのを確認した綾乃は、急いで中庭へと向かった。
「ごめん、鈴宮さん!会社の外に呼び出したうえに遅くなっちゃって!」
待ち人の元へと駆け寄ると、そこには息を切らせる様子を冷めた目で見つめる女の姿があった。
「…いえ、いいんです。私の方からお誘いしたので」
「とりあえず、歩きながら話そう?」
作り笑いをした綾乃が促すと、コクンと頷いて光里はその歩幅に合わせた。
「あの……私と葵のこと、だよね?」
話す前からわかっていたことを訊いてみるが、光里が返答することはない。
「ごめんなさい、今まで黙ってて…。あなたの気持ちを先に知ってしまった以上、言い出し辛かったの」
「…そうだったんですか」
「私なら大丈夫ですから、気にしないで下さい」
言葉の意味とは裏腹に抑揚のないその声に、少しの焦りを感じてしまう。
しかし、綾乃には綾乃の伝えたい思いがあった。
「あ、あのね…鈴宮さん」
「…はい?」
「葵ってね、あなたが言ってた通り、確かに嫉妬深いところもあるかもしれない…」
「だから、あなたがそれを重荷に感じてたのも、なんとなくわかっちゃうの」
一歩先を歩く光里は、否定も肯定もしない。
「…でもね、葵ってあんなふうに見えて本当は恋愛に対しては臆病で、不器用なんだと思うんだ」
「だから私は…嫉妬深さも葵の愛情表現だと思ってる」
「………。」
その後ろ姿からは、心なしか無言の圧を感じる。
しかし、綾乃には光里に言っておかなければいけないことがあるのだ。
それは…
「……そういう葵の性格に耐えられなくて別れた鈴宮さんが、もし仮に葵とヨリを戻したとしても…また鈴宮さんがしんどくなっちゃったら、意味ないんじゃないかな…?」
「……だ、だからね──」
詰まりそうな言葉を吐き出そうとしたその時、前を歩く光里が足を止めて振り返った。
「だからなんなんですか?」
時が止まったように、お互いの視線だけがぶつかり合う。
「……え?」
目の前に立つ光里の目つきはとても同一人物とは思えないほど不穏なものへと変わり、その口元は言葉を失った綾乃を見てフフッと口角を上げるのだった。
そしてまた、いつもの口調で話し始めるその言葉は怖いほど冷静に、綾乃を追い詰めんとばかりに並べられていく。
「藤崎さん…なんか、勘違いしてません?」
「私……葵くんのこと諦めるなんて…」
「一言も言ってないじゃないですか(笑)」
そう告げると、光里はまた、フワッしたあの笑顔を見せた。
しかし、綾乃が受けたその衝撃はそんな笑顔1つでかき消されるようなものではない。
「…どういう意味?」
視線の先で不敵に笑う女を、まっすぐに見つめた。
「そのまんまの意味ですよ?」
「私、今でも葵くんのこと、好きですから!」
そう言って向けられた目は、明らかに『敵意』だった。
「す、鈴宮さん…!」
「昨夜の飲み会の後…二人でお楽しみだったみたいですね」
ここでいう“お楽しみ”とは、昨夜と同じ服装で出社した二人を見て想像したことに過ぎない。
「そ、それがなんなの?!」
カップルならばどこで泊まって何をしようが、どんなセックスをしようが二人だけの自由な世界。
そう、“カップル”なら──。
「ふふ、懐かしいなぁ…」
「ねぇ、藤崎さん…」
「葵くんって……エッチうまいですよね」
一瞬、息をするのを忘れた。
「私ね、エッチに関してはわりと淡白な方であまり長くしたくないんですけど…葵くんとは、なんだかずっとしていたいぐらいだったんですよね」
「あのトロけちゃうようなキスも大好きだし…」
「……彼、私の胸の形が綺麗だって褒めてくれたこともあるんですよ」
──今まで想像してしまいそうになって、必死で押し込めていたものがだんだん形になっていくのがわかると同時に、唇が震えだす。
「舐められて、指でされちゃうと私もう我慢できなくなっちゃって…っ」
「それでシーツをビショビショに濡らしちゃったりすること、何度もあったなぁ」
そう言って照れ臭そうに目を泳がせる光里は、まだその言葉を止めようとはしない。
なぜ、そんな他人の過去ごときがここまで簡単に想像できてしまうのだろうか。
「それにね、彼…口でしてあげるとすぐイッちゃうんですよね…」
「でもね、1回出した後の方がすっごく元気になっちゃうのー♡」
「……やめて」
「そこから…何時間もいろんな体位で激しく攻められちゃって、私…何回イッちゃったかわからないんです」
「お願い…!」
グッと握りしめた拳は、密かに震えていた。
「あ、そうだ…今でも彼、してますか?」
「バックでしてる時に、耳元で甘~い声で言葉攻め♡」
「あれ、すっごくゾクゾクしちゃったんです、私っ♡」
気づけば綾乃は叫んでいた。
「もうやめてよ!!!」
しばらくの沈黙の後、光里はプッと口元を緩めて吹き出した。
「もしかして…今も彼の愛し方って、私の時と“同じ”なんですか?(笑)」
それは、まぎれもない事実となって、どこまでも自分の頭の中を納得させてしまう魔法のようだった。
──彼が自分だけのものであると、強く信じたかった。
──彼の顔も、体も、声も、唇も指も…愛し方も。
「こんなことして…!一体私に何が言いたいの?!」
綾乃のそんな叫びに、光里は静かに微笑んで言った。
「教えてあげてるんですよ…」
「あなたは所詮、私の“二番煎じ”なんだってこと。」
冷たい風が、綾乃の髪を吹き上げて
去っていった───。
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