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カラダの関係は、ほどほどにね。

交差する想い

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そして、数日後の夜。

会社近辺の居酒屋で、光里の歓迎会という名の飲み会が行われるのだった。

「それでは、新入社員の鈴宮さんの歓迎と親睦を兼ねまして……カンパーーイ!!」

ウスラハゲ部長の掛け声で、座敷内に集まった社員たちが一斉に盛り上がった。

そして、起立した光里が全員の前で軽くスピーチを始める。

「あ、あの…私のためにこんな歓迎会まで開いていただいて、本当にありがとうございます…っ」
「ふつつか者ですが…皆さん、これからもどうぞよろしくお願いしますねっ♡」

相変わらずフワフワしたその可愛らしさに、男性社員たちは揃いも揃って鼻の下を伸ばす。

「いいねいいねー!」
「可愛いよ光里ちゃーん!!」

そんなバカげた歓声の中、綾乃は心中複雑なままただ、うなだれているのだった。
そんな時、他部署代表として参加した咲子がビールジョッキを片手に擦り寄ってくる。

「ちょっと綾乃ー、あんた何腐ってンのぉ?」

「だって…彼女のことは職場の先輩としては歓迎してるんだけど…っ」

そうつぶやく綾乃を、咲子はまた慰めにかかる。

「…わかってるってぇ」
「ほら、そんなあんたのために他部署の私が無理言って参加させてもらったんだからっ、今は何も考えずにとりあえず飲めっ!」

そう言ってテーブルにビールジョッキを置く咲子だが、綾乃はビールの泡立ちをただ見つめるのみ。

「咲子っ…あんたがいなかったら、私…平常心保ててなかったかも…」

「だろうね(笑)」

「“葵の彼女は私でーす!”……って、堂々と言えたら楽なんだろうなぁ…」

そうぼやきながら離れた席に座る葵の方に目をやるが、それに気づいた葵はふっと視線をはずすのだった。

「まぁまぁ、話は私が聞いてあげるからとにかく飲んで忘れろっ」

「ありがと、咲子」
「でも私、こんな沈んだ気持ちでお酒なんて…」

その時、葵の元へと近づく人影に気づいてそちらを見る。

「葵くん」

後ろから葵に声をかけるのは、『元カノ』の光里だ。

「……何?」

「隣…座ってもいいかな…?」

控えめかつ可愛らしく尋ねる光里のことを邪険にもできない葵は、綾乃の方をチラ見して気まずそうに目を泳がせながら答えた。

「…い、いいけど」

「本当っ?嬉しい♡」

そんな二人のやり取りを直視していた綾乃は目つきを変え、隣席の咲子に言った。

「…咲子、そのビールよこしなっ!」

「……え?」

そして咲子からビールをふんだくった綾乃は、喉を鳴らして一気にそれを飲み干すのだ。

「ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ…」
「……プッハァーーッ!!」
「……ゲフゥ!」

それをそばで驚愕の眼差しで見つめる咲子。

「い、一気飲み…しかもゲップ付き…(笑)」

しかし、ビールを一杯たいらげたところで目の前の惨劇が止まるはずはない。

「葵くん、サラダ食べる?」
「私、取ってあげるね♡」

「え?いいよ、俺は別に…」

「ほら、遠慮しないで?たくさんあるんだから♡」

「あ…そう?(笑)じゃ、じゃあ…もらうよ…(笑)」

『取り分け女子』の光里は戸惑って返事に困る葵を無視して、ズイズイと距離を縮めていく。
そして、そんな二人をすでにわった目で見つめる綾乃は、大きな声を上げた。

「店員さーん、ビールピッチャーでよろしく!!」

さすがのそんな暴挙に咲子も止めに入るはめとなるのだった。

「ちょ、ちょっと綾乃っ!飲み過ぎなんじゃないの?!」

「いーの!あんなモン見せつけられちゃ、飲まずにいられるかってのっ!」

「はいはい、とことん付き合ってやるから(笑)」

ぐいぐいビールを流し込みながら、綾乃はモヤモヤとした思いを頭の中で巡らせていた。

「(もちろん、葵のことは信じてるよ…でも、こうして二人のことを見てると……元恋人同士だと思うと…)」
「(当然、付き合ってた頃はキスしたり、エッチもしたり…そういうこと、してたんでしょ?)」

一旦考え始めると、それは妄想へと変わっていく。

「(…ああっ!ダメダメ!考えるな考えるなっ!!)」

一人で頭をブンブン振っているそんな綾乃の耳に、光里に話しかける男性社員たちの声が入ってきた。

「光里ちゃーん、桐矢にだけズルいなー!」
「俺たちにも取り分けてよー♡」

ピクッと顔を上げてそちらを確認。

「(おっ、いいぞいいぞ!邪魔してしまえーーっ!!)」

そんな期待をしてみたものの、思わぬ邪魔が入った光里は…
「チッ」と、人知れず舌打ちを打つのだった。

「(今あの子…舌打ちしなかった?笑)」

一瞬顔つきが変わった光里だが、何事もなかったかのようにニコッと微笑んで男性社員たちに愛想を振り撒き始めた。

「やだ、私ったら気が利かなくってごめんなさーい♡」
「…はいっ、皆さんの分も入れておきますからね♡」

そして、そんな名演技にことごとく男たちはデレデレとアホづらをさらけ出して浮かれているのだ。
そう、葵を除いては。
そんな葵にも、次の刺客たちが放たれる…。

「あっ、ねぇ、桐矢くん…私もお隣いいかな?」
「わ、私…前からずっと桐矢くんと話したいと思ってたんだぁ」

「……え(笑)」

光里が少し離れた一瞬の隙に、女子社員が葵の隣へと滑り込む。

そして

「それなら私もー♡」
「ええ?!私もだしぃ!」
「私も私もー!♡」

女子社員から受付嬢、果ては女子社員の格好をしたオッサンまでもが葵のことを取り囲んだ。

「い、いや…あの…じゃ、みんな…で?(笑)」

そのど真ん中で冷や汗状態のまま動けない葵。

「…あー、腹減ったしなんか食ーべよっと!」

そう言ってごまかすようにメニュー表を開く葵のことを見つめる光里。

「(なにあれ……気づけば私と咲子以外の女子ほとんどが葵のこと囲んでるし…ハーレムかよ)」

これではいちいち真剣に嫉妬などしていられない。
とうとうその馬鹿らしさにホッとしたのも束の間、黙って見ていた光里が鶴の一声を発する。

「あっ、鳥のつくねがあるよ、葵くんっ」
「葵くん、昔から鳥のつくねが大好きだもんね♡」

綾乃と葵を含めた座敷内が、しん…と静まり返った瞬間だった。

「え、なに…どういうこと?今の…」
「昔からって…鈴宮さん、最近入ってきたばかりなのに…」

というふうにポツポツと声が上がってきた頃、光里はハッとして恥じらいながらその口を手で押さえるのだ。

「あっ…私ってば、うっかり口が…!」
「ごめんねっ、葵くん♡」

そして呆然としている葵の元へ、それを聞いていたウスラハゲ部長が近づいて問いただす。

「鈴宮さん、キミ……桐矢くんと付き合ってるのかい?!」

これにはさすがの綾乃と葵も、聞き流せるわけがない。

「おいおい桐矢くん、こんなに可愛い彼女がいたならどうして言ってくれないんだよー!(笑)」

そんな部長の言葉をキッカケに、男どもから次々にヤジが飛び出す。

「そーだそーだ!ちょっとイケメンだからって気取ってんじゃねぇよ!」
「くそぅ、イケメンが憎たらしい…!」

その様子をご満悦そうに眺めては口元が緩む光里。

「…はぁっ?!ちょ、ちょっと待って──」

と、葵が弁解を試みようとしたした瞬間に、フワフワと笑う光里がそれを遮る。

「うふふ、誤解ですよぉ皆さん!」
「私は葵くんの、“元彼女”なだけですから♡」

場の流れとはいえ、堂々とその事実をバラされてしまった葵は「めんどくさ…」とだけつぶやいてうなだれるのだった。
もはや、光里が意図した結果…ともいえるだろう。

そして…

「あ、でもぉ…もしかしたら、元サヤになっちゃう可能性はあるかもしれませんけどねっ!♡」
「…ねっ、葵くん♡」

輪の外から様子を伺っていた綾乃だったが、光里のその言葉で顔面蒼白となる。

「(も、元サヤだとぉぉお?!)」

当然、ザワつく社員たち。

「(さすがにこれはマズイな…)」

綾乃を見つめてそう考えた葵は、それとなくコソッと光里に話しかける。

「いや、あのさ、光里……俺って実は───」

“彼女いるんだよね”と伝えようとしたその時、綾乃の方へとフラつきながら向かう男を目撃した葵はピクッとそちらに反応を見せるのだった。

「やぁ、綾乃ちゃん!」

「…あら、あなたは確か、元キープくん(仮名)じゃないの」

そして、そんな元キープくんと綾乃の方を凝視する葵の横顔を見つめる光里。
元キープくんは綾乃の隣に腰を据えると、馴れ馴れしく絡み始める。

「最近連絡くれないから寂しいなー!もしかして、彼氏でもできたのかい?」

そう尋ねられた綾乃は、一瞬チラッと葵を一目見て…

「さぁ~?どうなのかしらねぇ~?私にもサーッパリわからないわぁ!(笑)」

…と、わざとらしく葵へと当てつけるのであった。
当然口元を引きつらせた葵は、あからさまにイライラし始める。
そして、そんな葵の横顔に光里は投げかけるのだ。

「葵くん…どうしたの?」

「……別にっ!」

とだけ、ぶっきらぼうに答える葵に光里は少し驚いたように、俯く。
今の葵には、綾乃と元キープくんの姿しか目には入っていない。
それを隣で見つめる光里にも、その意味はひしひしと伝わってきたのだ。

「なんだ、彼氏いないんだったら俺とまたデートしようよ綾乃ちゃあん」

「元キープくん……あなた、酔ってるわよね(笑)」

より一層イライラが募る葵。
そして、酩酊めいてい状態の元キープくんはますます図に乗って、酒に酔っているのをいいことに綾乃の肩に手を回した。

その時だった。


「……おい!そこの元キープ野郎!!」
「馴れ馴れしく触んじゃねえっ!!」


突如として席を立ち、怒鳴り声を張り上げた葵に周囲は驚き、再び沈黙の時が訪れた…。
それは綾乃と光里も同じく、まるで『信じられないもの』を見たとでもいうふうに。

そして葵は脇目も降らず、あろうことかズカズカと綾乃の元へ向かい、目を丸くした元キープくんを押しのけて綾乃の肩に手を置き、言い放った。


「コイツ、俺のだから。」


──静まり返る座敷内。

──ポカンと開いた口が閉まらない綾乃。

──眉をひそめて見つめる光里。

──なぜか密かにガッツポーズをきめる咲子。

交差する想いは、まだまだ始まったばかりだ───。















































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