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カラダの関係は、ほどほどにね。

嫉妬深すぎる彼

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真昼間のオフィス内で仕事も忘れて抱き合い、キスに夢中の男女が二人。

「ん…っダメだってば葵、誰か来ちゃったらどうすんの…!」

「お前が他の男と楽しそうにしゃべってんのが悪いのっ」

さてさて、ご覧の通り、IT企業に勤めるOLの藤崎綾乃ふじさきあやのと…
同社勤務のデザイナーで超イケメンモテ男の桐矢葵きりやあおいの二人は現在、周りには内緒で超甘々オフィス恋愛中。

犬猿の仲だった二人が付き合うようになって3ヶ月ほどが過ぎた現在、ラブラブのわりには社内ではいまだに秘密の関係。
その理由は、後ほど明らかになるのである。

「楽しそうって…仕事の話してただけだってば(笑)」

「お前はそうでも、アイツはそれだけじゃないかもしれないだろ?」

明らかに拗ねている葵のことを、綾乃はいつもこうして諭すのだ。

「そんなことないって!もしかして…葵、ヤキモチ妬いてるの?(笑)」

「……俺がぁ?そんなわけないだろ、俺はアイツが職場に私情を持ち込んでることに対してだな…っゴニョゴニョ」

「じゃあ、職場で私とこんなイケナイことしてる葵は“私情”じゃないの?」

ごもっともな意見を突きつけられた葵が一瞬口を紡いで、不機嫌そうに綾乃のすぐ後ろの壁に手をついた。

「…俺とお前は別っ。これ以上言うってんなら、その生意気なクチ塞いでやるから」

──こんなにも至近距離に追い詰められてその綺麗な顔で迫られると、いよいよ綾乃はキスを拒めない。
この男は、自分の魅力というものを自分でわかっているのだ。
それは魅惑的な顔と、声と、仕草や佇まいまですべてが計算されているんじゃないか…と、疑ってしまうほどに。
そして、そんな男が女を虜にする要因の1つは…セックス。

「あっ……もう、バカ…ここは仮眠室じゃないのよ?」

首筋を小さく吸われながら、その手には制服の上から胸を揉み上げられる。

「今したいんだよ……お前だってそれは同じだろ?」
「…抵抗しないのがその証拠」

悔しいけど、反論できるすべはない。
結局、いつもこんなふうに誘われては押し切られて…の繰り返し。
そして、綾乃のスカートの中にスルリと手が入ってきた瞬間、扉の向こうから人の足音が近づいてくるのに気がついた。

「……ヤバッ!葵、ほら早く離れてっ!」

瞬時に乱れた髪と服装を整える綾乃に突き放されて、葵は口をとんがらせるのだった。

ガチャッ。

「……あれ?桐矢くんに藤崎さん…会議室なんかで何してんの?」

入室して二人を見るなりキョトンとする男性社員。

咄嗟に机に置いてある資料の束を手に取ると、綾乃は冷や汗をかきながら笑顔を作る。

「あ、あの…午後の会議の資料を準備しておくように部長に頼まれたので…そ、その…ちょうど休憩中だった桐矢くんに手伝ってもらってたっていうか…っ(笑)」

苦し紛れの嘘の言い訳を男性社員が聞き流してくれたおかげでホッとしたその時、男性社員は綾乃に近寄って声をかけるのだった。

「ところで藤崎さん、今日も可愛いねー!」

「…え?(笑)いえ、そんなことは……(…ヤバ)」

おそるおそる、壁にもたれて腕を組む葵の方に目をやると案の定、怖い顔でこちらをジトーッと見つめていた…。

そんな殺気に気づいて振り返った男性社員は、その不機嫌そうな顔に恐れをなしてそそくさと退室するのだった。

「…もう、そんなに機嫌悪くならなくってもいいでしょー?!あの人だって悪気も何もないんだからっ!」

「わ、わかってるよ…そんなのっ」
「でも……イヤなんだよっ、お前が他の男からあんなふうに話しかけられるのがっ…」

どんなに魅力的な男でも、好きな女が関わればこうも嫉妬深くなってしまうものだろうか。
しかし、そんな葵の性格にも慣れている綾乃にとっては“いつものこと”でしかない。
そんな綾乃にも、1つの疑問を葵にぶつける理由はあった。

「…ねぇ、そんなにも私に男の人と関わってほしくないんだったら、私たちのこと公(おおやけ)にすればいいんじゃないの?」
「そしたら晴れて公認カップルになれて、私が他の人から言い寄られる心配もなくなるでしょ?」

ニコニコしながらご機嫌取りのように振る舞う綾乃に対して、葵はさらに口をとんがらせた。

「ぜってーやだ。」

「な、なんでよっ?!」

「だって、そんなの周りが知ったら絶対ゴチャゴチャ詮索してくるに決まってるだろ?」
「俺……冷やかされたりするのってどうしても苦手なんだよ…っ」

つまりは、『あれもダメ、これもダメ』ということだ。

「わ、ワガママねっ…!」

「ワガママで結構っ!それに、俺とお前が付き合ってることなんて知ったらヤバイ人間もいるだろ?」
「たとえば、お局様とか(笑)」

「お局様」とは、綾乃と同じ部署でお局的存在の女性のことであり、要約すると“葵のために生きていると言っても過言ではない人”である。

「た、確かに…(笑)そういえばこないだも『社員旅行シリーズ』の葵の写真アルバムが完成したって大喜びしてたし…」

「ああ……旅行中も散々カメラ片手に追いかけ回されたからな…俺…」

そんな他愛もない話をしていると、またもや誰かが会議室の扉をノックした。

コンコン、ガチャッ

「…あ、桐矢くーん♡こんなとこにいたのぉ?部長が探してたよー?」

こうして葵のことを見つけるなり猫撫で声で話しかける女子社員に、今度は綾乃がムッとするのだ。
しかし、そんなことにも気づいているのか気づいていないのか、葵はいつもの超クリアーな爽やかスマイルで応える。

「あっ、ごめんごめん!ありがと、すぐ行くよっ!」
「じゃ、!後のことは任せたから!」

そして、そんな二重人格ともいえる葵に綾乃はいつもモヤッとするのである。
でも…。

「……さっきの続きは仕事が終わってから…な♡」

すれ違いざまに小声でそんなことを言われてしまうと、ついつい許してしまう。

「………バカ」

一人、取り残された部屋で綾乃はボソッと文句を言うしかなかったのだった───。

そんなある日の朝の出来事。
綾乃が出社してデスクに座った頃、営業部の薄良うすら部長(通称ウスラハゲ部長)がある人物を引き連れてオフィスへと入ってきた。
そして、その人物を目にした男性社員たちは一斉にヒソヒソと仲間同士で耳打ちをし始める。

「おはようみんな、今朝は新しく入った新入社員をご紹介しまーす!」
「…じゃ、鈴宮さんよろしく!」

ウスラハゲ部長に促されておずおずと前に出たその儚げな女性は、緊張しながらも頭を下げる。

「あ、あの、今春から入社しました!鈴宮光里すずみやひかりと申しますっ……よろしくお願いします」

そして顔を上げた光里を一目見て、綾乃は心の中で本音をつぶやいてしまう。

「(へぇ……これはこれは、なかなか可愛いわね…私の次に)」

それもそのはず、色白に栗色のウエーブヘア、クリッとした大きな瞳が光里の『ザ・男ウケNo.1』という称号のふさわしさを物語っているからだ。

「鈴宮さん、すごく若いね!ハタチぐらい?!」

男性社員のそんな馴れ馴れしい絡みにも、光里は嫌な顔1つせず笑顔で答える。

「いえ、今年で22になります♡」

フワフワしたその笑顔に一瞬でハートを撃ち抜かれた社員はひたすら鼻の下を伸ばしている。

「(ふぅん…私と葵よりも1つ年下かぁ…。それにしても見るからに小悪魔って感じだな…笑)」

決して他人のことを小悪魔呼ばわりできるとは思えない綾乃がボーッと光里の姿を眺めていると、営業部の扉から入ってきた葵に視線を移した。

「はよざいまーす」

呑気にアクビをしながら挨拶する葵に、男性社員が小声で話しかける。

「…おい桐矢、新入社員のあの子…めっちゃ可愛くない?」

「……えぇ?」

示された通りに光里の方を振り向いた葵がピクッと反応するのを綾乃は見逃さなかった。

「(…ふん、どうせちょっと可愛いとか思ったんじゃないの?!)」

そんな少しの嫉妬心は、次に出た葵の言葉でそれどころではなくなってしまうのだった。

「……あれ?もしかして……光里?」

まだ名前も聞かされていないはずの葵が、呼び捨てで口にした女の名前。
そして、それに反応した光里はまるで感動の再会を喜ぶかのようにパァッと明るくなるのだ。

「あっ……葵くん…?!」

───どういうこと?

まったく意味がわからないまま困惑するしかない中、当然そんな二人のことを怪しんだウスラハゲ部長が問いかけた。

「…あれ、キミたち知り合い?」

ハッとした葵が、その質問にも曖昧な答えを返すのだ。

「い、いやまぁ…なんというか……」

そう言ってはぐらかしながらチラッとこちらを横目で見た葵の不審な態度に綾乃はますます困惑し、我慢できずに光里へ直接確認した。

「…桐矢くんとお知り合いなんですか?」

突然声をかけられた光里は一瞬戸惑いを見せたのち、その顔を赤らめて…

「…えっ?……はい、まぁ…♡」

…なんて答えてみせたのだ。

「(…ちょっと!なんで顔赤らめてんの?!)」

デスクを叩いて立ち上がりたい気分に駆られるが、そこはグッと堪える。
そんな綾乃の気持ちは誰にも知るよしもなく、社員たちによって話は勝手に進んでいき…

「ねぇ…桐矢くんと鈴宮さんってもしかして…付き合ってるとか?」

その疑惑だけは完全否定せずにいられない綾乃は、ついに本当にデスクを叩いて立ち上がってしまうのだった。

「違うっ!付き合ってなんかない!!」

突然の出来事に社員たちが一斉に綾乃を振り返り、葵ですら冷や汗をかく始末となった。

「い、いや、その……な、何でもありませぇん…っ」

そう言って我に返り、引きつり笑いを浮かべて座り直す綾乃のことを、光里は…

目を細め、指を咥えて静かに見つめるのだった───。




































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