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カラダの関係は、お試し期間後に。
(※♡)カラダの関係
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デザイン部のオフィスの扉を3回ノックしてから、ゆっくりと中を覗いてみる。
「桐矢……いる…?」
そーっと中に足を踏み入れると、ギィッとイスの回る音がしてそちらに振り向いた。
「……何?話って」
「俺、まだ仕事残ってるんだけど」
デスクの上のパソコンを操作しながら、葵は綾乃を振り返ることもなく無機質な返事を返す。
「あ、あの…」
綾乃がおずおずと切り出そうとしたその時、背後の扉の外から急に男性社員から声をかけられてビクッと体を震わせた。
「…あれ?桐矢くん、まだいたの?さっき仕事のメドがついたからって帰る準備してたんじゃ…?」
「だぁぁっ!!実はまだ他の仕事が残ってたの思い出したんだって!!」
とんでもない秘密をバラされた葵は、またもやボロが出てしまうのだ。
「もしかして…咲子から聞いて、帰らないで私が来るの待っててくれたの?」
ぐっ…と照れ臭そうに口を紡ぐ葵。
「ど、どうだっていいだろ…もうそんなの」
「…で、なんなんだよ」
「俺ってば、今超忙しいんだけど!」
そう言ってキーボードをカタカタと忙(せわ)しなく打ち続けるものの、肝心のディスプレイはログイン画面のまま。
「桐矢…それ、ログイン画面から進んでないけど…(笑)」
「はっ…!」
そして我に返って1つ大きなため息をつくと、葵はやっと体ごと綾乃の方に向き直った。
「…あーもう、なんなの?」
「こないだのキスのことなら…気にしなくていいから」
「あ……そのことじゃないの」
「…じゃあ何?」
やはり綾乃が口ごもってしまうと、しばらく待ってから葵は退屈そうにイスの背もたれに腕枕をしてもたれかかった。
「今夜も御曹司くんとデートだったんだろ?」
「イチャコラしてきましたーってか?」
「そんでもって求婚されて、晴れて玉の輿でーす!……みたいな?(笑)」
「それも…違う」
「私…彼とは寝てなかったから」
それを聞いた葵は、ムクッと上体を起こすのだった。
「…ふぅん」
「その証拠にね、妊娠しましたーって嘘ついて試してみたら見事に逃げられちゃった(笑)」
「だからね…サヨナラしてあげたの」
どんどん、退屈そうだった葵の目に光が戻っていくのを感じた綾乃。
「…なんで?お前、今回は本気だって言ってなかったっけ?」
「ふふっ、実はね…『お試し期間』に合格した、たった一人のイイ男が現れたの」
予想外の情報を耳にした葵は、眉をひそめてまたため息をついた。
「なんだそれ……お前も忙しい奴だな…」
「まぁまぁ、聞いてよ」
「その彼はね、そのまんまの私のことをよく知っていてくれて…口は悪くて、イヤな奴なのに誰よりも優しくて…」
「私の味方してくれて、私がピンチだって知った時も一人で助けに来てくれたの」
「それも、自分の仕事ほっぽってまでね!」
ただ一点を見つめて黙っているだけだった葵が、何かに気づいたように綾乃を見上げた。
「それでね、私がバカみたいに他の男とデートして失敗しても…呆れるどころかずっと好きでいてくれた」
「ほーんと、いけ好かない性悪男のはずだったんだけどなぁ!」
「気がついたら私、そいつのことで頭がいっぱいになってた」
そう言って葵の目をまっすぐ見つめて、綾乃は笑った。
「…ねぇ、もう試す価値もないぐらいにイイ男だと思わない?」
呆然としていた葵が、その口を開く。
「あ、綾乃……それって…」
まだ半信半疑だった葵は、突然の綾乃からのキスによってその言葉の先を見失ってしまった…。
二度目の、柔らかな唇の感触。
そして、唇と唇が離れた先にある目を丸くした葵の顔を見るや否や、綾乃は言った。
「こーゆーことだから。」
「…わかった?」
瞬きすることを忘れてしまった葵のその顔を見ているうちに、一気に照れ臭さが綾乃を襲ってきた。
そして、またもやごまかすように早口で喋り出す。
「あんたってば、こんな強がってるだけの性悪女のことがバカみたいに好きなんだもん、ほんとバカよね!」
「あんたみたいなバカにはね、私みたいなバカな女がお似合いなのよっ!」
そう言っては腰に手を当ててふんぞり返る綾乃を見上げて、葵が小さくつぶやいた。
「……だから何?」
「………え?」
「好きって言えよ」
その突き刺すような視線が、綾乃の勢いを奪い去ってしまった。
「あっ……わ、私」
「私……あんたのことが、す──」
その途中でイスから立ち上がった葵に腕を引っ張られ、腰を引き寄せて強く抱きしめられた。
お互いの心臓の鼓動が大きくなって、重なり合ったような気がした。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…と、目眩がするような高鳴りと、体温の上昇。
そんな沈黙を破って、先に言葉を発したのは葵の方だった。
「……バカ」
「お前が他の男と二人きりでいるって考えただけで気が狂いそうだったんだからな…!」
「だ、だって…あんたの気持ち、知らなかったから──」
「もうどこにも行かせない」
───その言葉を最後に、何度も見つめ合っては交わすキスだけが二人を支配した。
「んっ…!」
だんだんと激しくなるキスの中、立っていられないほど力が抜けてしまいそうな腰は、葵に追い詰められた背後のデスクの端にお尻を乗っからせる形で支えることができた。
そしてピクッと反応を見せた綾乃が、葵の唇をかき分けてやっとその声を上げる。
「ば、バカッ…どこ触ってんのよ…っ!」
大きな掌が服の上から胸を掴んでぎこちなく動き、耳元で囁く低く甘い声が自制心を掻き乱していく。
「…俺のことここまで待たせたお前が悪いっ」
「ここでその責任、取ってもらうから」
軽く歯の間に耳の軟骨部を挟まれた刺激に反応しているうちに、空いていた手がスカートの隙間から太腿を滑る感覚が頭の中から「抵抗」という術を取っ払っていった。
「だ、ダメ…だってば…っ」
「ここ、オフィスなんだからっ…!」
頭の中で『こう言うべきだ』という定義でしかない言葉だけが出て行くが、カラダは全身で葵からの愛撫を欲している。
「……ダメ、もう離してやんない」
そう言った後すぐ、葵は突如として綾乃の体をヒョイッと担ぎ上げた。
「えっ?!あっ…ちょっと、何すんのっ?!」
そしてその体を降ろしてもらえた場所は、オフィスの一角にある四畳半ほどの狭い仮眠室だった。
仕事柄夜遅くまで残る社員にだけ個人用ベッドが用意されており、そこへ横たわらせた綾乃の上に葵は当然のように覆い被さってくるのだ。
「……怖い?」
そう優しく頬を撫でて見つめられて、しばらくしてから綾乃は小さく首を横に振った。
「ううん…どうして?」
「だって…エッチしたら今までの関係も全部変わっちゃうだろ?もう戻れなくなるけど……いい?」
打診しているふうに見せかけて、その手は綾乃のブラウスのボタンを1つずつ外し始めていた。
「…いいよ、桐矢…」
「私も…桐矢としたくてたまらないから…っ」
───本当は、ずっと前からそう思っていたのかもしれない。
意地悪で、事あるごとに綾乃をからかってばかりの葵のことが小僧たらしいと思う反面、その全身から溢れ出す色香と異性としての魅力には気づいていたから。
そして今…耳元で名前を呼ぶその声、動きに合わせて流れる髪から香る匂い、素肌の上を滑る手、見つめられると囚われて逃れることなどできない突き刺すような眼差し…そのすべてを、カラダ全部で感じている。
「あっ…んん…っ!」
一糸纏わぬ胸を揉みしだかれ、もう一方では熱い舌が硬く立ち上がった乳首を愛撫する。
「お前…ずっと制服の下にこんなエロいカラダ隠してたんだ?」
「……もっと早くこうしたかった」
何度も小さく乳首を吸われるたびにカラダは敏感に反応し、さらに荒くなる吐息と一緒に足が落ち着きなく動き出す。
「あ……っダメ…それ…っ」
「…もうガマンできない?」
「早く触ってほしくて…」
毛布の中をくぐる手が指先で膝を割り、とっくに潤っていたそこに触れてクチュクチュと音を出し始める。
「ああっ…あ……!」
「なにこれ?なんでもうこんなになっちゃってんの?」
ニヤリと口角を上げた葵だったが、その表情は次第に興奮を隠せなくなっていく。
「…なぁ、もっとお前のその声…聴かせて?」
「気持ちよくさせてあげるから」
熱い吐息と唇が体中を這って、やがては広げられた両脚の間で太腿の内側にいくつもキスをされ、これから何をされるのか想像しただけで綾乃の吐息はますます荒くなっていく。
「や、やだ……桐矢、そこ…!」
グッと押し広げられて露出したその濡れた谷間をなぞり始めた舌が、ピチャピチャと卑猥な水音を立てる。
「あぁあ…っあん…!」
「はぁ、あ……っいやぁ……っ!」
「……舐められるのが好きなの?」
「わ、わかんないよ……初めてされるし…っ」
「じゃあイッたことも…ない?」
「……う、うん」
「そっか、じゃあ…俺がお前のこと初めてイかせてあげる」
絶頂という感覚がいまだにわからないだけに、これから体感するかもしれないその期待と興奮は大きいのだ。
葵の性経験がどれほどのものなのかは計り知れないが、その口を使って内ヒダからクリトリスを刺激された瞬間に悟ることとなる。
“おそらく人並み以上には経験があるのだろう”…と。
『チュプ…ピチャッピチャッピチャ…ッ』
音を立てていやらしく動く舌が、羞恥心を超えて今まで感じたこともないような心地よさを誘う。
「は…あっ…あぁぁっ…やだぁ…!」
「桐矢ぁ…!そこ、そんなにしたら…!」
「…気持ちいいなら、ちゃんとそう言わなくちゃわかんないだろ?」
「あ……あっん!き、気持ち…いい…!」
「んじゃあ、もっと舐めてあげる♡」
そして、クリトリスを強弱をつけて小刻みに舐めたり吸ったりされているうちに、だんだんと両脚のつま先がジンと熱くなり始めた。
「あ、熱いよ…っそこも…足も…全部っ…!」
しかし葵の口から返ってくるのは言葉ではなく、おかしくなってしまいそうなほどの愛撫の音だけだ。
そして、自分の意思とは関係なく少し浮いていた腰をやんわりと掴んで押さえつけられた瞬間に、昇ぼりつめた得体の知れない何かが脳内で痺れて弾け飛び、それはカラダをビクンビクンと波打たせるのだった。
「んあ…あ、あ、あ、あぁぁあ…っ!!」
訳もわからないまま脱力して吐く息をただ荒げていると、プチュッと音を立ててクリトリスを吸い上げた葵が自分のズボンのベルトに手を掛け始めた。
「ごめん、舐めてるだけでもうガマンできないから……入れていい?」
はち切れそうなほどに股間部が膨らんだズボンを脱ぎ捨て、頭から乱暴にシャツを脱ぐ合間にその程よく引き締まった上半身が露わになる。
女性なら誰もが魅了されてしまいそうなそのセックスアピールに目を奪われているうちに、葵は綾乃の愛液と唾液にまみれた秘所に硬くそそり立ったペニスの先端を押しつけた。
そしてそれはヌプン、と中を滑るように入ってくる。
「はあぁっ…ん…!」
早く迎え入れたくてたまらなかったその中を、硬いペニスが貪欲さを主張しながら侵入してくる。
「キツイな……でも、すっげぇあったかい」
上に被さってきた葵の素肌が綾乃と重なり、体温が混ざり合う。
「…ほら、全部入ったよ」
そう言ってキスをしながら、緩やかに腰を動かし始めるとベッドが小さく揺れ始めた。
「んふ…っ!んあぁ…っ!!」
「気持ちいい?綾乃…っ」
「うん…うん…!」
愛液を含んだ結合部の音は、やがて葵が激しく腰を打ちつけることで肌と肌がぶつかり合う音へと変わっていく。
「あぁぁぁあ…っダメぇぇ!」
奥まで届く力強い肉の塊が、その快感を貪るように突き続ける。
「ヤバ…ッ奥まですんごい入るっ…!」
「お前の中、マジでたまんない…っ!」
吐息混じりの艶かしいその声が、綾乃の性的興奮をさらに上昇させていく。
「……好きだよ、綾乃…っ」
「入社してきた3年前から、ずっと…俺、お前のことだけ見てきたんだ」
「だから……気持ち、いい…っ!!」
汗ばむ2つのカラダは、ただお互いを求め合うためだけにそこに存在していた…。
「私もっ…好きっ!桐矢ぁ…!」
「『桐矢』じゃないだろ?……『葵』って呼べよ」
「あっ……アオ…イッ…!!」
綾乃の両腰を掴み、パチュパチュと音を立てて激しく腰を振っていた葵の表情も、やがては余裕をなくして性的快楽に歪み、そのピークを迎えた。
「ぁ…っ!悪い、もう…イきそうかも」
「来て…葵ぃ…!!」
「んっ…あ、あ……イクッ…イク……!!」
そして名前を呼ばれたことで拍車がかかり、より一層強く速く綾乃の中を擦るペニスがビクッと一度痙攣したかと思えば素早く外に出され、先端から溢れだす白濁した精液が綾乃の下腹部へと勢いよく飛び散った───。
───仮眠室のベッドの上。
裸のまま抱き合う二人に、時間など存在しない。
「…綾乃、こっち向いて?」
「ん?」
呼ばれたままに顔を上げると、満足そうに微笑む彼がいた。
「お前ってさ、俺のこといつ試してたの?」
「試すって…何が?」
「だって、俺って『お試し期間』に合格したたった一人の男なんだろ?だからカラダの関係にもなったんじゃないの?」
「………それは秘密♡」
「え、なんでだよ?」
「だって……」
『恋人以上へのお試し期間』は、これから先もずーっとあなただけに続いていくから』────。
「桐矢……いる…?」
そーっと中に足を踏み入れると、ギィッとイスの回る音がしてそちらに振り向いた。
「……何?話って」
「俺、まだ仕事残ってるんだけど」
デスクの上のパソコンを操作しながら、葵は綾乃を振り返ることもなく無機質な返事を返す。
「あ、あの…」
綾乃がおずおずと切り出そうとしたその時、背後の扉の外から急に男性社員から声をかけられてビクッと体を震わせた。
「…あれ?桐矢くん、まだいたの?さっき仕事のメドがついたからって帰る準備してたんじゃ…?」
「だぁぁっ!!実はまだ他の仕事が残ってたの思い出したんだって!!」
とんでもない秘密をバラされた葵は、またもやボロが出てしまうのだ。
「もしかして…咲子から聞いて、帰らないで私が来るの待っててくれたの?」
ぐっ…と照れ臭そうに口を紡ぐ葵。
「ど、どうだっていいだろ…もうそんなの」
「…で、なんなんだよ」
「俺ってば、今超忙しいんだけど!」
そう言ってキーボードをカタカタと忙(せわ)しなく打ち続けるものの、肝心のディスプレイはログイン画面のまま。
「桐矢…それ、ログイン画面から進んでないけど…(笑)」
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そして我に返って1つ大きなため息をつくと、葵はやっと体ごと綾乃の方に向き直った。
「…あーもう、なんなの?」
「こないだのキスのことなら…気にしなくていいから」
「あ……そのことじゃないの」
「…じゃあ何?」
やはり綾乃が口ごもってしまうと、しばらく待ってから葵は退屈そうにイスの背もたれに腕枕をしてもたれかかった。
「今夜も御曹司くんとデートだったんだろ?」
「イチャコラしてきましたーってか?」
「そんでもって求婚されて、晴れて玉の輿でーす!……みたいな?(笑)」
「それも…違う」
「私…彼とは寝てなかったから」
それを聞いた葵は、ムクッと上体を起こすのだった。
「…ふぅん」
「その証拠にね、妊娠しましたーって嘘ついて試してみたら見事に逃げられちゃった(笑)」
「だからね…サヨナラしてあげたの」
どんどん、退屈そうだった葵の目に光が戻っていくのを感じた綾乃。
「…なんで?お前、今回は本気だって言ってなかったっけ?」
「ふふっ、実はね…『お試し期間』に合格した、たった一人のイイ男が現れたの」
予想外の情報を耳にした葵は、眉をひそめてまたため息をついた。
「なんだそれ……お前も忙しい奴だな…」
「まぁまぁ、聞いてよ」
「その彼はね、そのまんまの私のことをよく知っていてくれて…口は悪くて、イヤな奴なのに誰よりも優しくて…」
「私の味方してくれて、私がピンチだって知った時も一人で助けに来てくれたの」
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ただ一点を見つめて黙っているだけだった葵が、何かに気づいたように綾乃を見上げた。
「それでね、私がバカみたいに他の男とデートして失敗しても…呆れるどころかずっと好きでいてくれた」
「ほーんと、いけ好かない性悪男のはずだったんだけどなぁ!」
「気がついたら私、そいつのことで頭がいっぱいになってた」
そう言って葵の目をまっすぐ見つめて、綾乃は笑った。
「…ねぇ、もう試す価値もないぐらいにイイ男だと思わない?」
呆然としていた葵が、その口を開く。
「あ、綾乃……それって…」
まだ半信半疑だった葵は、突然の綾乃からのキスによってその言葉の先を見失ってしまった…。
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そして、唇と唇が離れた先にある目を丸くした葵の顔を見るや否や、綾乃は言った。
「こーゆーことだから。」
「…わかった?」
瞬きすることを忘れてしまった葵のその顔を見ているうちに、一気に照れ臭さが綾乃を襲ってきた。
そして、またもやごまかすように早口で喋り出す。
「あんたってば、こんな強がってるだけの性悪女のことがバカみたいに好きなんだもん、ほんとバカよね!」
「あんたみたいなバカにはね、私みたいなバカな女がお似合いなのよっ!」
そう言っては腰に手を当ててふんぞり返る綾乃を見上げて、葵が小さくつぶやいた。
「……だから何?」
「………え?」
「好きって言えよ」
その突き刺すような視線が、綾乃の勢いを奪い去ってしまった。
「あっ……わ、私」
「私……あんたのことが、す──」
その途中でイスから立ち上がった葵に腕を引っ張られ、腰を引き寄せて強く抱きしめられた。
お互いの心臓の鼓動が大きくなって、重なり合ったような気がした。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…と、目眩がするような高鳴りと、体温の上昇。
そんな沈黙を破って、先に言葉を発したのは葵の方だった。
「……バカ」
「お前が他の男と二人きりでいるって考えただけで気が狂いそうだったんだからな…!」
「だ、だって…あんたの気持ち、知らなかったから──」
「もうどこにも行かせない」
───その言葉を最後に、何度も見つめ合っては交わすキスだけが二人を支配した。
「んっ…!」
だんだんと激しくなるキスの中、立っていられないほど力が抜けてしまいそうな腰は、葵に追い詰められた背後のデスクの端にお尻を乗っからせる形で支えることができた。
そしてピクッと反応を見せた綾乃が、葵の唇をかき分けてやっとその声を上げる。
「ば、バカッ…どこ触ってんのよ…っ!」
大きな掌が服の上から胸を掴んでぎこちなく動き、耳元で囁く低く甘い声が自制心を掻き乱していく。
「…俺のことここまで待たせたお前が悪いっ」
「ここでその責任、取ってもらうから」
軽く歯の間に耳の軟骨部を挟まれた刺激に反応しているうちに、空いていた手がスカートの隙間から太腿を滑る感覚が頭の中から「抵抗」という術を取っ払っていった。
「だ、ダメ…だってば…っ」
「ここ、オフィスなんだからっ…!」
頭の中で『こう言うべきだ』という定義でしかない言葉だけが出て行くが、カラダは全身で葵からの愛撫を欲している。
「……ダメ、もう離してやんない」
そう言った後すぐ、葵は突如として綾乃の体をヒョイッと担ぎ上げた。
「えっ?!あっ…ちょっと、何すんのっ?!」
そしてその体を降ろしてもらえた場所は、オフィスの一角にある四畳半ほどの狭い仮眠室だった。
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「……怖い?」
そう優しく頬を撫でて見つめられて、しばらくしてから綾乃は小さく首を横に振った。
「ううん…どうして?」
「だって…エッチしたら今までの関係も全部変わっちゃうだろ?もう戻れなくなるけど……いい?」
打診しているふうに見せかけて、その手は綾乃のブラウスのボタンを1つずつ外し始めていた。
「…いいよ、桐矢…」
「私も…桐矢としたくてたまらないから…っ」
───本当は、ずっと前からそう思っていたのかもしれない。
意地悪で、事あるごとに綾乃をからかってばかりの葵のことが小僧たらしいと思う反面、その全身から溢れ出す色香と異性としての魅力には気づいていたから。
そして今…耳元で名前を呼ぶその声、動きに合わせて流れる髪から香る匂い、素肌の上を滑る手、見つめられると囚われて逃れることなどできない突き刺すような眼差し…そのすべてを、カラダ全部で感じている。
「あっ…んん…っ!」
一糸纏わぬ胸を揉みしだかれ、もう一方では熱い舌が硬く立ち上がった乳首を愛撫する。
「お前…ずっと制服の下にこんなエロいカラダ隠してたんだ?」
「……もっと早くこうしたかった」
何度も小さく乳首を吸われるたびにカラダは敏感に反応し、さらに荒くなる吐息と一緒に足が落ち着きなく動き出す。
「あ……っダメ…それ…っ」
「…もうガマンできない?」
「早く触ってほしくて…」
毛布の中をくぐる手が指先で膝を割り、とっくに潤っていたそこに触れてクチュクチュと音を出し始める。
「ああっ…あ……!」
「なにこれ?なんでもうこんなになっちゃってんの?」
ニヤリと口角を上げた葵だったが、その表情は次第に興奮を隠せなくなっていく。
「…なぁ、もっとお前のその声…聴かせて?」
「気持ちよくさせてあげるから」
熱い吐息と唇が体中を這って、やがては広げられた両脚の間で太腿の内側にいくつもキスをされ、これから何をされるのか想像しただけで綾乃の吐息はますます荒くなっていく。
「や、やだ……桐矢、そこ…!」
グッと押し広げられて露出したその濡れた谷間をなぞり始めた舌が、ピチャピチャと卑猥な水音を立てる。
「あぁあ…っあん…!」
「はぁ、あ……っいやぁ……っ!」
「……舐められるのが好きなの?」
「わ、わかんないよ……初めてされるし…っ」
「じゃあイッたことも…ない?」
「……う、うん」
「そっか、じゃあ…俺がお前のこと初めてイかせてあげる」
絶頂という感覚がいまだにわからないだけに、これから体感するかもしれないその期待と興奮は大きいのだ。
葵の性経験がどれほどのものなのかは計り知れないが、その口を使って内ヒダからクリトリスを刺激された瞬間に悟ることとなる。
“おそらく人並み以上には経験があるのだろう”…と。
『チュプ…ピチャッピチャッピチャ…ッ』
音を立てていやらしく動く舌が、羞恥心を超えて今まで感じたこともないような心地よさを誘う。
「は…あっ…あぁぁっ…やだぁ…!」
「桐矢ぁ…!そこ、そんなにしたら…!」
「…気持ちいいなら、ちゃんとそう言わなくちゃわかんないだろ?」
「あ……あっん!き、気持ち…いい…!」
「んじゃあ、もっと舐めてあげる♡」
そして、クリトリスを強弱をつけて小刻みに舐めたり吸ったりされているうちに、だんだんと両脚のつま先がジンと熱くなり始めた。
「あ、熱いよ…っそこも…足も…全部っ…!」
しかし葵の口から返ってくるのは言葉ではなく、おかしくなってしまいそうなほどの愛撫の音だけだ。
そして、自分の意思とは関係なく少し浮いていた腰をやんわりと掴んで押さえつけられた瞬間に、昇ぼりつめた得体の知れない何かが脳内で痺れて弾け飛び、それはカラダをビクンビクンと波打たせるのだった。
「んあ…あ、あ、あ、あぁぁあ…っ!!」
訳もわからないまま脱力して吐く息をただ荒げていると、プチュッと音を立ててクリトリスを吸い上げた葵が自分のズボンのベルトに手を掛け始めた。
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女性なら誰もが魅了されてしまいそうなそのセックスアピールに目を奪われているうちに、葵は綾乃の愛液と唾液にまみれた秘所に硬くそそり立ったペニスの先端を押しつけた。
そしてそれはヌプン、と中を滑るように入ってくる。
「はあぁっ…ん…!」
早く迎え入れたくてたまらなかったその中を、硬いペニスが貪欲さを主張しながら侵入してくる。
「キツイな……でも、すっげぇあったかい」
上に被さってきた葵の素肌が綾乃と重なり、体温が混ざり合う。
「…ほら、全部入ったよ」
そう言ってキスをしながら、緩やかに腰を動かし始めるとベッドが小さく揺れ始めた。
「んふ…っ!んあぁ…っ!!」
「気持ちいい?綾乃…っ」
「うん…うん…!」
愛液を含んだ結合部の音は、やがて葵が激しく腰を打ちつけることで肌と肌がぶつかり合う音へと変わっていく。
「あぁぁぁあ…っダメぇぇ!」
奥まで届く力強い肉の塊が、その快感を貪るように突き続ける。
「ヤバ…ッ奥まですんごい入るっ…!」
「お前の中、マジでたまんない…っ!」
吐息混じりの艶かしいその声が、綾乃の性的興奮をさらに上昇させていく。
「……好きだよ、綾乃…っ」
「入社してきた3年前から、ずっと…俺、お前のことだけ見てきたんだ」
「だから……気持ち、いい…っ!!」
汗ばむ2つのカラダは、ただお互いを求め合うためだけにそこに存在していた…。
「私もっ…好きっ!桐矢ぁ…!」
「『桐矢』じゃないだろ?……『葵』って呼べよ」
「あっ……アオ…イッ…!!」
綾乃の両腰を掴み、パチュパチュと音を立てて激しく腰を振っていた葵の表情も、やがては余裕をなくして性的快楽に歪み、そのピークを迎えた。
「ぁ…っ!悪い、もう…イきそうかも」
「来て…葵ぃ…!!」
「んっ…あ、あ……イクッ…イク……!!」
そして名前を呼ばれたことで拍車がかかり、より一層強く速く綾乃の中を擦るペニスがビクッと一度痙攣したかと思えば素早く外に出され、先端から溢れだす白濁した精液が綾乃の下腹部へと勢いよく飛び散った───。
───仮眠室のベッドの上。
裸のまま抱き合う二人に、時間など存在しない。
「…綾乃、こっち向いて?」
「ん?」
呼ばれたままに顔を上げると、満足そうに微笑む彼がいた。
「お前ってさ、俺のこといつ試してたの?」
「試すって…何が?」
「だって、俺って『お試し期間』に合格したたった一人の男なんだろ?だからカラダの関係にもなったんじゃないの?」
「………それは秘密♡」
「え、なんでだよ?」
「だって……」
『恋人以上へのお試し期間』は、これから先もずーっとあなただけに続いていくから』────。
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2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
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