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カラダの関係は、お試し期間後に。
期待と苛立ち
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バーテンくん騒動から数日が過ぎた頃。
オフィスにて。
パソコンのキーボードをカタカタと叩く綾乃のスカートのポケット内でスマホが震えた。
離れたデスクで仕事をしているお局様の方をチラリと横目で確認してから、コッソリとデスクの下の手元でスマホを操作してみる。
「(…ん?バーテンくんからメッセージが来てる)」
もう二度と会う気もない異性からのメッセージに喜ぶわけもないが、とりあえず内容を確認してみる。
『綾乃ちゃん、こないだはいきなりあんなことしてごめん。悪かったと思ってるよ。綾乃ちゃんの初めての男になれなくてちょっと残念だったけど(笑)』
「(…絶対悪いと思ってないでしょ、コイツ 笑)」
『それにしても、彼氏がいるなら最初から言ってくれればよかったのに~。』
「(彼氏って……そっか、桐矢のこと私の彼氏だと思っちゃったのか)」
「(……って!あんな奴が彼氏なわけないでしょ!!…あんな奴が……っ)」
『店から出て行く時にすれ違いざま、笑顔で強烈な殺気がこもった目で睨まれたし、甘いマスクのわりにはドS臭が半端ない彼氏だね!(笑)』
『じゃ、もし彼氏に飽きたらいつでも連絡してね♡』
バーテンくんからのメッセージを最後まで読み終えてから、綾乃は少し考えた。
葵が、バーテンくんに明らかな敵意を示していたこと。
仕事を放ってまで一人で助けに来てくれたこと。
そして、そのことを必死でごまかそうとして、しどろもどろになっていた葵の態度。
───アイツ、まさか、私のこと……
そんな想いが、頭の中をザワつかせる。
いつも顔を合わせるたびに意地悪なことばかり言ってからかう彼。
───それならどうして、私にだけあんなに意地悪なの?
モヤモヤと煙のようなものが頭を埋め尽くし、綾乃は席を立ってトイレへと向かうのだった。
トイレへ向かう廊下の途中、談話室の前を通った時に話し声が聞こえて立ち止まる。
なんとなく扉の隙間から中を覗いてみると、葵とその取り巻きの女性社員たちの姿が目に入った。
「ねぇ桐矢くん、最近ちょっと藤崎さんと仲良すぎない?社内でも“付き合ってるんじゃないか”って噂になってるんだけど、そんなの嘘だよね?!」
自分の名前が出たことで、綾乃はギクッとする。
それと同時に、葵がそれにどう答えるのかを待っている自分がいた。
──ドキドキドキドキ…
「え、俺が藤崎さんと?そんなわけないじゃーん、あんな性悪女となんて!(笑)」
「(な、なんですってぇ?!あンのヤロォ~ッ…!!)」
葵のその言葉で安心した女性社員は、一層馴れ馴れしく話しかける。
「…よかったぁ!私たち、桐矢くんが心配だったの!」
「俺が心配って…なんで?」
「ほら、藤崎さんっていろんな男に手を出して良いように振り回して遊んでるって噂でしょ?だから、もし桐矢くんが被害に遭ってたらって思うと…っ」
自分の悪い噂が出回っていることに少し胸がチクンと痛む。
男に手は出してはいないものの、『良いように振り回して遊んでいる』というのは完全に否定できないからだ。
そして、そんな話を葵が耳にしてしまったことも、綾乃の胸を締めつけていくのだった。
自分に対していつも意地悪な彼だけに、もしかしたらその悪い噂にも共感し兼ねない…そんな不安がよぎった綾乃が、そっと扉から離れようとした時だった。
「…ええ、そうなの?おっかしいなぁ…そんな噂、聞いたこともないけど」
「でも、よく肝に銘じておくよ!ありがとね!」
そう言って女性社員たちにニコニコ愛想を振りまく葵だったが、すぐに態度を変える。
「でもさ、アイツって…みんなが思ってるほど悪い女なんかじゃないよ?」
「(………え?)」
「アイツ、見た目もあんなだし、確かに強かな所もあるから誤解されやすいんだけど……本当はさ、人一倍臆病で擦れてなくて、一生懸命で…」
「不器用なのを必死に隠して取り繕って、強がってるだけなんだ」
「だから…アイツのこと、あまり悪く言わないでやってくれないかな?」
───衝撃的だった。
「(うそ…かばってくれた…?)」
「(桐矢……私のこと、そんなふうに思ってくれてたの?)」
途端に、さっきまで考えていた『葵が自分を好き』だという疑惑が膨らんでくる。
そして、そのことに対する気持ちの昂り。
それは自分の意思に関係なく、心の中を満たしていく。
しかし、それは数秒後に打ち砕かれることとなる。
そう、葵の言葉によって。
「まぁー、俺はあんなガサツで気の強いタイプの女はパスだけどねー!(笑)」
「…恋愛対象外って感じ?(笑)」
葵からのその言葉を聞いた女性社員たちは、綾乃のことを悪く言うのをやめた。
それでも、グサリと刺さった太いトゲは綾乃から抜け落ちることはなかった。
「(アイツのこと、見直しかけた私がバカだった!!)」
トイレに向かって廊下を突き進むその足音が、綾乃の心中を物語っている。
「(…なによ、女の子の前だからっていい気になっちゃって!あの女ったらし猫かぶり野郎!!)」
イライラとは違う、小さな感情を無理やり押し込むように怒りが沸き上がってきたその時、また綾乃のスマホがメッセージの受信を知らせるのだ。
それは、『大手企業のイケメン“御曹司くん”』からのメッセージ。
「(ああ…そういえばまだいたんだっけ、御曹司くんが)」
苛立ちを抑えきれないまま、メッセージを確認してみる。
『綾乃ちゃん、今夜会えないかな?実は、夜景が一望できるラウンジ席をとってあるんだ。もちろん、キミと素敵なひと時を分かち合うためだよ。ぜひ、来て欲しい。』
ギュッと握りしめた拳を胸にあてて、綾乃は決意する。
───恋愛対象外で結構!私には、超一流の男との大恋愛が待ってるんだから!!
オフィスにて。
パソコンのキーボードをカタカタと叩く綾乃のスカートのポケット内でスマホが震えた。
離れたデスクで仕事をしているお局様の方をチラリと横目で確認してから、コッソリとデスクの下の手元でスマホを操作してみる。
「(…ん?バーテンくんからメッセージが来てる)」
もう二度と会う気もない異性からのメッセージに喜ぶわけもないが、とりあえず内容を確認してみる。
『綾乃ちゃん、こないだはいきなりあんなことしてごめん。悪かったと思ってるよ。綾乃ちゃんの初めての男になれなくてちょっと残念だったけど(笑)』
「(…絶対悪いと思ってないでしょ、コイツ 笑)」
『それにしても、彼氏がいるなら最初から言ってくれればよかったのに~。』
「(彼氏って……そっか、桐矢のこと私の彼氏だと思っちゃったのか)」
「(……って!あんな奴が彼氏なわけないでしょ!!…あんな奴が……っ)」
『店から出て行く時にすれ違いざま、笑顔で強烈な殺気がこもった目で睨まれたし、甘いマスクのわりにはドS臭が半端ない彼氏だね!(笑)』
『じゃ、もし彼氏に飽きたらいつでも連絡してね♡』
バーテンくんからのメッセージを最後まで読み終えてから、綾乃は少し考えた。
葵が、バーテンくんに明らかな敵意を示していたこと。
仕事を放ってまで一人で助けに来てくれたこと。
そして、そのことを必死でごまかそうとして、しどろもどろになっていた葵の態度。
───アイツ、まさか、私のこと……
そんな想いが、頭の中をザワつかせる。
いつも顔を合わせるたびに意地悪なことばかり言ってからかう彼。
───それならどうして、私にだけあんなに意地悪なの?
モヤモヤと煙のようなものが頭を埋め尽くし、綾乃は席を立ってトイレへと向かうのだった。
トイレへ向かう廊下の途中、談話室の前を通った時に話し声が聞こえて立ち止まる。
なんとなく扉の隙間から中を覗いてみると、葵とその取り巻きの女性社員たちの姿が目に入った。
「ねぇ桐矢くん、最近ちょっと藤崎さんと仲良すぎない?社内でも“付き合ってるんじゃないか”って噂になってるんだけど、そんなの嘘だよね?!」
自分の名前が出たことで、綾乃はギクッとする。
それと同時に、葵がそれにどう答えるのかを待っている自分がいた。
──ドキドキドキドキ…
「え、俺が藤崎さんと?そんなわけないじゃーん、あんな性悪女となんて!(笑)」
「(な、なんですってぇ?!あンのヤロォ~ッ…!!)」
葵のその言葉で安心した女性社員は、一層馴れ馴れしく話しかける。
「…よかったぁ!私たち、桐矢くんが心配だったの!」
「俺が心配って…なんで?」
「ほら、藤崎さんっていろんな男に手を出して良いように振り回して遊んでるって噂でしょ?だから、もし桐矢くんが被害に遭ってたらって思うと…っ」
自分の悪い噂が出回っていることに少し胸がチクンと痛む。
男に手は出してはいないものの、『良いように振り回して遊んでいる』というのは完全に否定できないからだ。
そして、そんな話を葵が耳にしてしまったことも、綾乃の胸を締めつけていくのだった。
自分に対していつも意地悪な彼だけに、もしかしたらその悪い噂にも共感し兼ねない…そんな不安がよぎった綾乃が、そっと扉から離れようとした時だった。
「…ええ、そうなの?おっかしいなぁ…そんな噂、聞いたこともないけど」
「でも、よく肝に銘じておくよ!ありがとね!」
そう言って女性社員たちにニコニコ愛想を振りまく葵だったが、すぐに態度を変える。
「でもさ、アイツって…みんなが思ってるほど悪い女なんかじゃないよ?」
「(………え?)」
「アイツ、見た目もあんなだし、確かに強かな所もあるから誤解されやすいんだけど……本当はさ、人一倍臆病で擦れてなくて、一生懸命で…」
「不器用なのを必死に隠して取り繕って、強がってるだけなんだ」
「だから…アイツのこと、あまり悪く言わないでやってくれないかな?」
───衝撃的だった。
「(うそ…かばってくれた…?)」
「(桐矢……私のこと、そんなふうに思ってくれてたの?)」
途端に、さっきまで考えていた『葵が自分を好き』だという疑惑が膨らんでくる。
そして、そのことに対する気持ちの昂り。
それは自分の意思に関係なく、心の中を満たしていく。
しかし、それは数秒後に打ち砕かれることとなる。
そう、葵の言葉によって。
「まぁー、俺はあんなガサツで気の強いタイプの女はパスだけどねー!(笑)」
「…恋愛対象外って感じ?(笑)」
葵からのその言葉を聞いた女性社員たちは、綾乃のことを悪く言うのをやめた。
それでも、グサリと刺さった太いトゲは綾乃から抜け落ちることはなかった。
「(アイツのこと、見直しかけた私がバカだった!!)」
トイレに向かって廊下を突き進むその足音が、綾乃の心中を物語っている。
「(…なによ、女の子の前だからっていい気になっちゃって!あの女ったらし猫かぶり野郎!!)」
イライラとは違う、小さな感情を無理やり押し込むように怒りが沸き上がってきたその時、また綾乃のスマホがメッセージの受信を知らせるのだ。
それは、『大手企業のイケメン“御曹司くん”』からのメッセージ。
「(ああ…そういえばまだいたんだっけ、御曹司くんが)」
苛立ちを抑えきれないまま、メッセージを確認してみる。
『綾乃ちゃん、今夜会えないかな?実は、夜景が一望できるラウンジ席をとってあるんだ。もちろん、キミと素敵なひと時を分かち合うためだよ。ぜひ、来て欲しい。』
ギュッと握りしめた拳を胸にあてて、綾乃は決意する。
───恋愛対象外で結構!私には、超一流の男との大恋愛が待ってるんだから!!
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