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49話 安里翔
しおりを挟む魔王はアリシアとイワンは足手纏いになるからと言い同行を拒んだが、二人は一緒に行くと言って聞かなかった。
そこで、アリシアがこれまでに習得した魔法を幾つか挙げると、魔王はその力を認めざるを得なかった。
イワンも何か認めて貰おうと、必死に草の見分け方の豆知識を披露したが、魔王の関心を引くまでには及ばなかった。
魔王は俺達をこれから共に戦う仲間として認めてくれたのか、この世界の様々な知識を惜しみなく教えてくれた。
イワンとアリシアはこの機に乗じて、今まで疑問に思っていた事を立て続けに質問した。
最初に質問したのはイワンだった。
「なぁ魔王!どうしても教えて欲しんだが、世界で一番大きな山は何て山だ?そして、その山に初めて登った登山家の名前は何なんだ?昔からずっと気になってたんだから隠さずに教えてくれよー。」
「イワン!そんな下らない事聞いてどうすんのよ!それよりも魔王!一番美味しいスイーツのお店は何処の何てお店なの?」
「ちょっと待て!イワン、アリシア!それより今はもっと大事な聞くべき事があるだろう!」
二人は暫く考えたが、自分達の質問以上に大事な事など何一つ思い当たらない様子だった。
「先ずは、これから向かうヴァリア城の事を聞くべきだろう!魔王、あの立派な城は築何年なんだ?」
「おい翔!よくも俺達を馬鹿ににてくれたな!それこそどうだって良い事だろ!」
イワンはそう言って俺を小突いた。
しかし、魔王は俺の質問の中に何かを感じ、深く考えている様子だった。
「そうか!ヴァリア城の建築様式!私がこの世界に飛ばされる直前に居た城と全く同じだ!
だとすると、私の居た世界の人間がこの世界に伝えたのか?それとも、この世界の人間が私の居た世界に伝えたのか?一体何の為に?」
「!!!・・・そうか!」
「何か閃いたのか魔王?だったら俺達にも分かる様に説明してくれ。」
「いいだろう。先ずは、私が暮らしていた世界の話から始めさせてくれ。
君達は今の私の姿からは想像出来ないだろうが、この世界に来るまでの私は一介の配管工だったのだ。
私は王国の城下町に暮らしていたのだ。
王国の中心には城が在り、そこには、国王とお妃、そしてお二人の一人娘であられる、若くてお美しい姫様が居られた。
ある日、二階のバルコニーから、集まった民衆に向かって微笑み掛ける姫様に、当時の私は一目で心を奪われた。
姫様はそのお美しい容姿だけに留まらず、清らかな心を持っておられたので、国民の誰しもが姫様を敬愛していた。
ただ聡明なだけで無く、無邪気な一面もおありで、不思議な事象や現象に大変興味を示され、教師を質問攻めにして困らせたり。
またある時は、民の暮らしを経験したいと言い残し、勝手に城を抜け出し、城下町の子供に交じって遊んでいたと聞き及んでいる。
私はそんな無邪気で誰からも愛される一国の姫様に、あなた様を敬愛する男がここにも一人居ると言う事だけでも知って欲しかった。
そう思う反面、その様な贅沢な夢など、持つだけ馬鹿げているとさえ思う私も居た。
だから私は、姫様が幸せに過ごすそのお姿を遠くから見守る事が出来る。ただそれだけで十分だ。それ以上は望んではいけないと自分に言い聞かせた。
しかし、そんな日々は脆くも崩れ去った。
不変であると思っていた王国の平和は、只の幻想に過ぎなかったのだと思い知らされたのだ。
突然、他国からの侵略者が現れ、姫様を誘拐して行ったのだ。
私の居た国では過去の歴史を紐解いてみても、他国からの侵略を受けた事が無く、内乱が起こった事さえも無かった。
軍隊に於いては、長い安寧の日々に慣れ過ぎていた為に、誰一人として戦い方を知らなかった。
王国は三日も待たずして、侵略者の手によって陥落した。
命辛々生き伸びる事が出来た私は、何よりも姫様の身を案じた。
そして私はたった一人、侵略者の城へ姫様を救出すべく向かったのだ。
私は他人より秀でている物はたった一つだけしか無かった。
この能力に関しては話が逸れるから、今は置いておこう。
そして苦難の末に、運も味方して、私は無事に姫様が幽閉されている部屋の前まで辿り着く事が出来た。
この時の私は、これまではどんなに手を伸ばしても届かない存在であった姫様に手の届く所まで来ている。その感動に全身が大きく震えていた。
部屋の扉を開けた時、姫様は幽閉されてから一睡もしていなかった様子で、民の身を案じ、涙に暮れていた。
私は姫様の傍らに歩み寄り、姫様が攫われてからの王国の顛末を包み隠さずお話した。
姫様は静かに話を聞き終えると、私の胸の中で嗚咽交じりに泣きながら、何も出来なかった自らを責め、民への謝罪を何度も何度も繰り返していた。
それから時間は掛かったが、私達は生き残った国民皆と協力し、王国を奪還する事に成功した。
そして、私達の暮らしは元通りに戻った。
ある日、姫様は以前の様に、城の二階のバルコニーから眼下の民衆に向かって微笑んだ。
しかし、その行動はこれまでとは少し違っていた。
姫様は群衆の中から私を探して、そして、私に優しい微笑みを向けてくれたのだ。私も群衆を搔き分け、下から姫様を見上げて微笑み返した。
それは、決して叶う筈が無いと思っていた、馬鹿げた夢が叶った瞬間だった。
姫様はそれからも数回、何者かによって攫われた。しかし、その度に私はどんな事があっても必ず姫様を見つけ出し、その身をお救いした。
その日も私は姫様が攫われた城への潜入を果たしていた。
姫様が幽閉された部屋の前に辿り着いた時、周囲が眩い光に包まれた。
その眩しさに目を開けてられず思わず私は目を閉じた。
次に目を開けた時には、そこには辺り一面、初めて見る未知の世界が広がっていたのだ・・・」
そこで、アリシアがこれまでに習得した魔法を幾つか挙げると、魔王はその力を認めざるを得なかった。
イワンも何か認めて貰おうと、必死に草の見分け方の豆知識を披露したが、魔王の関心を引くまでには及ばなかった。
魔王は俺達をこれから共に戦う仲間として認めてくれたのか、この世界の様々な知識を惜しみなく教えてくれた。
イワンとアリシアはこの機に乗じて、今まで疑問に思っていた事を立て続けに質問した。
最初に質問したのはイワンだった。
「なぁ魔王!どうしても教えて欲しんだが、世界で一番大きな山は何て山だ?そして、その山に初めて登った登山家の名前は何なんだ?昔からずっと気になってたんだから隠さずに教えてくれよー。」
「イワン!そんな下らない事聞いてどうすんのよ!それよりも魔王!一番美味しいスイーツのお店は何処の何てお店なの?」
「ちょっと待て!イワン、アリシア!それより今はもっと大事な聞くべき事があるだろう!」
二人は暫く考えたが、自分達の質問以上に大事な事など何一つ思い当たらない様子だった。
「先ずは、これから向かうヴァリア城の事を聞くべきだろう!魔王、あの立派な城は築何年なんだ?」
「おい翔!よくも俺達を馬鹿ににてくれたな!それこそどうだって良い事だろ!」
イワンはそう言って俺を小突いた。
しかし、魔王は俺の質問の中に何かを感じ、深く考えている様子だった。
「そうか!ヴァリア城の建築様式!私がこの世界に飛ばされる直前に居た城と全く同じだ!
だとすると、私の居た世界の人間がこの世界に伝えたのか?それとも、この世界の人間が私の居た世界に伝えたのか?一体何の為に?」
「!!!・・・そうか!」
「何か閃いたのか魔王?だったら俺達にも分かる様に説明してくれ。」
「いいだろう。先ずは、私が暮らしていた世界の話から始めさせてくれ。
君達は今の私の姿からは想像出来ないだろうが、この世界に来るまでの私は一介の配管工だったのだ。
私は王国の城下町に暮らしていたのだ。
王国の中心には城が在り、そこには、国王とお妃、そしてお二人の一人娘であられる、若くてお美しい姫様が居られた。
ある日、二階のバルコニーから、集まった民衆に向かって微笑み掛ける姫様に、当時の私は一目で心を奪われた。
姫様はそのお美しい容姿だけに留まらず、清らかな心を持っておられたので、国民の誰しもが姫様を敬愛していた。
ただ聡明なだけで無く、無邪気な一面もおありで、不思議な事象や現象に大変興味を示され、教師を質問攻めにして困らせたり。
またある時は、民の暮らしを経験したいと言い残し、勝手に城を抜け出し、城下町の子供に交じって遊んでいたと聞き及んでいる。
私はそんな無邪気で誰からも愛される一国の姫様に、あなた様を敬愛する男がここにも一人居ると言う事だけでも知って欲しかった。
そう思う反面、その様な贅沢な夢など、持つだけ馬鹿げているとさえ思う私も居た。
だから私は、姫様が幸せに過ごすそのお姿を遠くから見守る事が出来る。ただそれだけで十分だ。それ以上は望んではいけないと自分に言い聞かせた。
しかし、そんな日々は脆くも崩れ去った。
不変であると思っていた王国の平和は、只の幻想に過ぎなかったのだと思い知らされたのだ。
突然、他国からの侵略者が現れ、姫様を誘拐して行ったのだ。
私の居た国では過去の歴史を紐解いてみても、他国からの侵略を受けた事が無く、内乱が起こった事さえも無かった。
軍隊に於いては、長い安寧の日々に慣れ過ぎていた為に、誰一人として戦い方を知らなかった。
王国は三日も待たずして、侵略者の手によって陥落した。
命辛々生き伸びる事が出来た私は、何よりも姫様の身を案じた。
そして私はたった一人、侵略者の城へ姫様を救出すべく向かったのだ。
私は他人より秀でている物はたった一つだけしか無かった。
この能力に関しては話が逸れるから、今は置いておこう。
そして苦難の末に、運も味方して、私は無事に姫様が幽閉されている部屋の前まで辿り着く事が出来た。
この時の私は、これまではどんなに手を伸ばしても届かない存在であった姫様に手の届く所まで来ている。その感動に全身が大きく震えていた。
部屋の扉を開けた時、姫様は幽閉されてから一睡もしていなかった様子で、民の身を案じ、涙に暮れていた。
私は姫様の傍らに歩み寄り、姫様が攫われてからの王国の顛末を包み隠さずお話した。
姫様は静かに話を聞き終えると、私の胸の中で嗚咽交じりに泣きながら、何も出来なかった自らを責め、民への謝罪を何度も何度も繰り返していた。
それから時間は掛かったが、私達は生き残った国民皆と協力し、王国を奪還する事に成功した。
そして、私達の暮らしは元通りに戻った。
ある日、姫様は以前の様に、城の二階のバルコニーから眼下の民衆に向かって微笑んだ。
しかし、その行動はこれまでとは少し違っていた。
姫様は群衆の中から私を探して、そして、私に優しい微笑みを向けてくれたのだ。私も群衆を搔き分け、下から姫様を見上げて微笑み返した。
それは、決して叶う筈が無いと思っていた、馬鹿げた夢が叶った瞬間だった。
姫様はそれからも数回、何者かによって攫われた。しかし、その度に私はどんな事があっても必ず姫様を見つけ出し、その身をお救いした。
その日も私は姫様が攫われた城への潜入を果たしていた。
姫様が幽閉された部屋の前に辿り着いた時、周囲が眩い光に包まれた。
その眩しさに目を開けてられず思わず私は目を閉じた。
次に目を開けた時には、そこには辺り一面、初めて見る未知の世界が広がっていたのだ・・・」
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